The 101st big machine club

2011.01.23 第101回でっかいもん倶楽部 in 筑波

―氷の微笑(ニヤニヤ)―

 

「筑波あたりなら走れんべ。んで、あとはビーフラインを行けるトコまで行こう」

前日の宴会で、そんな風に話していた翌朝。

目覚ましより早く起きてベッドを出ると、mioちゃんとたかしはすでに起きていた。そのまま三人、身支度をして俺の家を出る。もっとも、mioちゃんはこのまま家に帰って、家族サービスをしなくちゃならないので、走りに出るのは俺とたかしのふたりだ。

「二日酔いって言うか、まだ酔っ払ってるくらい酒臭いから、気をつけて」

ナオミの言葉に、「応っ!」と答えてユリシーズを駐輪場から引っ張り出す。

と、mioちゃんが一度積んだ荷物を降ろし始めた。

「あんだ、どした?」

「エンジンがかかりません」

そりゃ大変じゃねーかと近づくと、mioちゃん、バッグからバッテリーを取り出した。オマケにシート下からはジャンプコードが出てくる。スペアバッテリーを並列につないでセルを長めに回せば、機嫌の悪いロケットスリーが、ズボゥ! と、シブシブ目を覚ました。

「ぎゃははははっ! ナニ持ち歩いてんだよ」

俺の突っ込みに、mioちゃんがニッカリ笑ったところで。

暖気の済んだ俺とたかしは、ヤツに別れを告げて走り出す。

 

たかしは某所にも、ちょいちょい出かけて練習してる。

それに兄貴とも走ってるわけだし、今さら俺が心配する必要はないだろう。そう思って、二日酔いと格闘しながらすり抜けてゆくと、やはり問題なく付いてくる。すり抜け120スピード、ちょっと開けたらトップエンド140〜150スピードくらいで、流してゆくのが気持ちいい。

が、一点だけ問題があった。

「うわ、失敗した! クソ寒みぃ! たかしに騙された!」

騙すも何も、レザー上下からブーツまでペアスロープで揃えたたかしに影響されて、自分で勝手に久々の革ジャンを引っ張り出してきた俺が悪いんだが。それでも下道をそんなペースで走ってるから、寒くてどうしようもないってほどじゃない。怪我の功名。

水戸街道から県道19号を折れ、いつもの下道ぐねぐねで筑波山へ。

このルートは信号のつながりが悪く、ちょいちょい信号待ちで停まることになるのだが、それが逆にドタマの温度を下げ、タイアの温度を上げるのに役立つ。ひらひら抜けながらミラーを見ると、たかしのライトが写っていて嬉しくなり、二日酔いも徐々に治まってきた。

「寒いけど、やっぱツーリングは楽しいな」

 

と。

「あれぇ? 新しい道が出来てる!」

408号と125号のT字路が、いつの間にか交差点になっていた。新しい道の方には『筑波山』の看板も出てるし、方向的にもこっちから行ければショートカットになるはずだ。数秒だけ迷ったが、せっかくなので新しい道を走ってみることにした。俺は知らない道が好きなのだ。

とは言ってももちろん、それほど複雑になるわけじゃなく。

むしろ今までよりあっさり、筑波山の麓に到着。

ショートカットしたので、こないだしんごと停まったイレブンには入れなかったから、かつてSDRで走ってたころによく寄ってたコンビニに入って、ココでいったん休憩。これは疲れ云々よりも俺のゲンかつぎつーか、筑波で転ばないための儀式に近い。

時刻は朝の九時。

風は冷たく、身体もさすがに冷えて震えている。暖かい紅茶を買って、たかしと一緒に単車の前で休憩しながら、これからのルートを説明。ま、ルートつってもこのまま上がって、風返しを走って、パープルを走って、そのまま北へ向かうってだけの話なんだけど。

タイアの話をしながら休憩したら、おし、走りだそうか。

 

さすがにこの道は観光地へ直結するので、マイカーやバスが多い。それをパスしながらミラーでたかしの走りを見つつ、のんびりペースでゆっくりと上がってゆく。タイトなコーナーで遅れがちになる姿に、「ははん、せまっ苦しいところは苦手だな、アイツ」とメットの中でニヤリ。

もっとも、道のコンディションもあまりよくないんだが。

神社を抜けると、観光のクルマが一気に減る。なので気をつけてペースを作りながら、徐々に速度を上げてゆく。すると、陽の当たらない斜面にきたところで、道の色が嫌な感じに黒くなっていた。「こりゃ、もしかして凍ってるかな?」と思いながら、地面に足を出してみる。

するとひどく滑るほどではないから、どうやら溶けて濡れてるだけのようだ。

立ち上がりでアクセルを開けると、ぬぬっ、ぬぬっ、っとリアタイアがすべる。凍った時みたいに、いきなし『ちゅん!』っとは行かないから、気をつけながら走れば大丈夫だろう。そう思いながら、たかしは大丈夫かなとミラーを見てみると、まさに神タイミングでたかしのRが踊っていた。

「うわ、あぶねぇ!」

一瞬、ヒヤっとするが、なんとか立て直したので、ほっと一息。

そのあとも無理についてこようとしないので、安心して登りだす。

 

風返しの休憩所でいったん単車を停め。

「ぎゃはははっ! たかし、カンペキに踊ってたなぁ」

「一瞬、やったと思いました。転ぶの覚悟しましたよ」

「どうやら風返しもアレっぽいけど、とりあえず一往復、行くだけ行ってみよう」

二台連なって、そのまま風返しの下りへ。

路面は真っ黒いが、乾いてるところを選んでやれば、フロントがすべるまでは行かない。なのでいつもの半分、50パーくれぇで流しながら下る。さすがにさっき踊ってるたかしは、も少し慎重に下ってるようで、すぐにミラーから見えなくなった。なので直線でアクセルを緩めて待つ。

Uターンポイントが濡れていたので、も少しだけ先へ行って、駐車スペースのあたりでUターン。

せまっ苦しい濡れた峠道を、こんだえっちらおっちら登ってゆく。陽の当たる部分で、ちょこっとアクセルを開け目にした以外は、基本、ノートラクションのんびり走行しつつ、風返しを登りきった足で、そのままパープルへ入って……ゆけない。

思いっクソ、通行止めだった。

「あちゃ、通行止めか。パープルで凍ってたら確実に飛ぶだろうし、無理してもしょうがねーな」

つわけで、そろそろとUターンしてみると。

残雪が思いっきり凍ってる。

「やっぱ降ったあとしばらくは、走れるもんじゃねーな。この分じゃ、ビーフもダメかなぁ」

がっかりしながら、たかしとふたり、来た道を引き返す。下りなのでクルマがいてもパスはせず、のんびりと流しながら下りきったところで単車を停めた。そこで次のルートを考える。とは言え、そこはかみさん41歳。基本スタンスはいつもと同じバカモード

『行けるトコまで行ってから考えよう』と思考停止して国道へ。

 

県道14号を北上していると、風が更に冷たくなってくる。

「そりゃそうだよなぁ。北に向かおうってんだから」

茨城の寒風に体温と水分を持って行かれつつ、クルマをパスしたり、場所によってはクルマと一緒に走ったりしながら、淡々と北へ。ミラーのたかしが楽しそうに走ってるのを見て元気付けられつつ、国道50号にぶつかったら東へ向かう。

するとツーリングライダーらしき集団を、ちらほら見るようになった。

コンビニに集まってるクルーザやネイキッドは、きっと海の方にでも向かうんだろう。魚を食って帰ってくるには、まあ、いい天気だしね。俺らは曲がりたいから海へは行かないけどね。つーか、行っても凍ってて、あんま曲がれなかったんだけどね。

 

50号を、路肩や反対車線まで使ってガシガシ抜けてゆけば、やがて看板に県道1号の文字。

「おーし、ビーフラインだ。ドコまで行けるかなぁ」

ワクワクしながら右へ折れてビーフラインを走り出す。

どうやら路面は濡れてないし、これならちったぁ曲がり道を堪能できるか……

見えた瞬間、ボッキリと心の折れる音がした。

 

停まってヘルメットを取り、たかしとふたり顔を見合わせて苦笑。

「も、けーるか? すっかりココロ折れちゃったよ」

「ははは、そっすね」

「下道チンタラも鬱陶しいな。高速で帰ろう」

「はい」

つわけでここから南へ下って50号に出ると、あとは一気に友部インターまで。

 

友部で高速に乗り、チケットを仕舞いながら、たかしを振り返る。

「先に行っちゃっていいからな?」

「あははっ、いや、行かないですよ」

高速を走りだすと、思いの外、風の抵抗が強い。160スピードくらいなら、後ろのたかしには気持ちのいいペースだろうが、カウルのないこっちはカンペキに筋トレだ。ユリシーズの大きなスクリーンを懐かしく思い出しながら、首の筋肉で踏ん張って、風に頭突きを食らわし続ける。

「クルーザでマルとやってたときは、こんなん、日常茶飯事だったなぁ」

と思い出しつつも、それはもはや過去の話。ハヤブサ以降のマシンで甘やかされ続けた、今の俺にとっては、かなり苦痛を伴うしんどい作業だ。常磐道に入ったところで早くも 、チカラ尽きて減速し始めたら、そのままヨロヨロと。

友部の次くらいのPAに避難した。

またも紅茶を飲みながら、たかしと単車を眺めつつバカ話をする。もったいないから、ここから首都高なりどこかに走り行こうかってのも、一瞬だけ考えたのだが、寒さと連続通行止めで心を折られた俺は、まるっきりやる気ナシ男くん。

「帰って暖かい物を食おう」

「そうですね。それなら俺、かみさん家で『シャカリキ』読みますよ」

「そんな感じだな。つーかたかし、ホント先に行っちゃっていいからな?」

「いや、俺は兄貴たちとは違いますからね。行きませんよ」

笑って答えるたかしに、それならひとつテストを仕掛けてやろう。

 

走り出して本線と合流したら、そのまま走行車線を120スピードで巡航してみる。

こんな速度の巡航は、こっちにとってはイチバン楽な走り方だが、SSのたかしにはちょっとかったるいはずだ。そう思ってニヤニヤしながらミラーを眺め、「行くかなー? 行くんだろうなー」と後ろの様子を伺っていると。

フォーン!

「ほーらみろ、行きやがった!」

流し始めてものの30秒か一分もしないうちに、たかしのRがすっ飛んでゆく。メットの中で、ゲラッゲラ笑いながら、冷たく透明な冬の大気を切り裂いてゆく、たかしの後ろ姿を見送ったところで。本日のCrazy Marmaladeでっかいもん倶楽部は、事故もトラブルもなく、無事に終了。

のんびりと巡航して柏インターを降り、16号をすっ飛ばしてる間もニヤニヤしながら。

俺は先行するたかしを追いかけた。

 

ワインディングらしいワインディングは走れなかったし、時間もすごく短かったが。

それでも、弟のように思ってるたかしと、初めてのツーリングが出来たことは、うれしかったし、すごく楽しかった。くねくねしたトコはまだまだ苦手のようだが、高速コーナーの開けっぷりは気持ちいいし、無理をしない慎重な走り方は安心して見ていられたよ。

来月一杯くらいまでは、道のコンディションもイマイチだろうけど。

暖かくなって曲がり道が走れるようになったら、また、たかしと走りに行きたいね。

 

でも、高速はもう、一緒に走ってやんないっ!\(T皿T)/

 

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