The 103rd big machine club

ゴールド・エクスペリエンス

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2011.05.04 第103回でっかいもん倶楽部 in 高野龍神スカイライン

Twist and Shout (ツイストアンドシャウト)〜

 

楽しかった琵琶湖に別れを告げて。

ムラタを先頭に、俺とタカシの三人は走りだした。街中をすいすいと走りぬけ、大津から名神高速に乗ってアクセルを開ける。ムラタはR1000で、タカシはR750。だが、俺はユリシーズ。気遣ってくれてるのか、速度は160〜180スピード(1/2時速)くれぇのもんだった。

クルマの列を縫いながら、三台並んですっ飛んでいると……

ムラタのサイドバッグがパカっと開いて、ナニかが光った。

キラッ!

(あんだ?)

思った瞬間、しゅぽっ! と音まで聞こえそうなイキオイで。

カラの500mlペットボトルが飛んできた。

「うぉ!」

反射的にペットボトルを避け、そのままムラタを追う。前に出てウインカーを出し、先導しながらゆっくりと路肩に入って単車を停めた。ヘルメットの中で「なんだ?」つー顔をしているムラタは放っといて、俺はタカシに近寄ってゆき、大声を上げる。

 

「タカシ見たか? こいつホント非道いだろう? まさかのミサイル攻撃だぜ?」

「あはははっ、見ました! かみさん、よく、避けましたねぇ」

「???」

不思議そうな顔をしているムラタ。

「おめ、なにミサイル攻撃してんだよ。俺を殺す気なんだな。よ〜くわかった」

「は???」

サイドバッグを指差しながら、俺はにやりと笑って言った。

「バッグのフタが開いて、ペットボトルが飛んできたぞ」

「マ、マジで? ありゃあ、すみません」

アタマを掻くムラタを見て、俺とタカシは大笑い。

 

しばらく笑ってからまた走りだし、桂川パーキングで休憩しつつフラナガンを待つ。

ミサイル発射装置つきGSX−R1000<K5>。

この位置から見たときの、K5K6のカッコよさは異常。正直、「手放すんじゃなかったかな?」と、ちょこっと後悔する時もある。『ドノーマルであんま距離走ってない中古』とかあったら、もっかい手ぇ出しちゃいそうなイキオイだ。

いや、そんな金ないけど。

 

タカシもいい笑顔で笑ってる。

荷物満載ですっ飛ばすのは初めてだろうが、危なげない走りは見てて怖さがない。

ストイックな男だから、あっという間に速くなるだろうね。

前から奥へ、ケーゴ、ユリシーズ、ナナハン。あと、知らない人の1400GTR。

こうやって並べると、ユリは圧倒的に弱そう。

ま、そこがいいんだけど。

 

コーヒー飲んで一服してると、がろんがろんと下品な音を撒き散らしながら、

フラ&赤マックス登場。

一旦帰ったから、ニューマックスで来るのかと思ったら、そっちは相変わらず走れないんだそうだ。今回はタイアがないつったかな? とにかく、ヤツがニューマックスを買ってからこっち、まともに走ってるのをロクに見たことがない。

「そろそろ手放して、赤マックスのカスタム資金にしちゃえよ」

などと、いつもの暴言を吐きながら、フラと合流してしばらくしゃべる。

 

ちょっと暑いけど、そのぶん路面温度が高いから、ガシガシやるにはいい日だ。

さて、それじゃあ久しぶりにやろうか、フラ&ムラタ。あと、高速で『のんびりじゃなく』走るのは初めてのタカシ。つわけで、こんだフラの先導で高速を南下し、岸和田を目指す。フラ公の赤マックスは、V−MAXとしてはかなり高次元な足回りを作ってるので、高速もやれる子だ。

なので、ついていくにはこっちも気合が居る。

ばるばるげぼげぼと爆音を響かせながら赤マックスが加速し、それをムラタがスボゥと気持ちいいヨシムラ音で追う。こちらも負けじとアクセルを開けると、ノーマルマフラーの大人しい音とは裏腹に、ユリシーズは小気味よい加速を見せてフラとムラタに続く。

後ろのタカシは余裕でついてくる。

ま、ヤツの速度域じゃないから、当たり前といえば当たり前なんだが。

 

と。

久しぶりに走るフラは速く、上手くなっていた。

いや、初めて会ったころから比べたら、ここんとこずいぶん速くなってたんだが、こっちが反則みたいな単車に乗ってたので、イマイチ実感できてなかったと言うのが正解だろうか。かつて、すり抜けが苦手だったとは思えないほど、スムーズにクルマを抜いてゆくと思ったら……

三車線の全部を使って踊り始めた。

前走車が迷わないよう、マメにウインカーを出しながら、右に左にひらひらと走る様は、フラのクセにかっこいい。嬉しくなった俺は、ラインをずらして交錯するようにランデブー。かつて、ハンドルにしがみつき前傾しながらクルマを縫っていた、あのころの姿はもう無く。

この速度域でも、きちんとリアに乗ってるのがわかる。

「そうそう、マックスはそれが大事なんだよな」

キレのいい走りを見つつ、ヘルメットの中でニヤニヤしながら、「まっすぐ全開加速されたらアレだが、こうしてひらひら走ってくれるなら、ユリシーズだって捨てたもんじゃないんだぜ?」とつぶやいて、フラのラインを予測しながら、自分のラインを設定してゆく。

ケーロクでやってたお陰で、この速度域なら、そのくらいの精神的余裕はある。

当然、ムラタやタカシはぜんぜん楽勝だから、時々前に出たりしながらも、基本的には俺とフラの踊りに付き合ってくれる。トップエンド200くらいの速度域で踊りながら、俺と、そしておそらくはフラのヤツも、至福の時間をすごしていた。

 

楽しい時間はあっという間に終わり、気づけば岸和田に到着。

ここから貝塚で降りて下道を走り、竜神スカイラインを目指す。

 

「タカシ、退屈だったべ?」

「そんなこと無いっすよ。っていうか荷物がジャマですねぇ」

「なはは、それは確かに」

当初の予定では、ムラタの友人宅に荷物を預けて、身軽になって走るつもりだった。しかし、その友人と連絡がつかなかったので、「それじゃあ、このまま走ろう」となったのだ。フラだけは、ひとり荷物が少ないが、峠ではV−MAXがイチバンしんどいはずなので、ちょうどいいハンデだ。

「ハンデ足りないっすよ」

知ったことか。

 

降りて裏道を走り出してしばらくすると、ちょっとタカシが遅れだした。

そりゃそうだ。

ムラタのバカはいつもどおり、何も考えずにガンガンすり抜けてゆくのだが、ブラインドが多くて道幅の狭い、この手のタフな道を初見で抜けていくには、それなりの経験値が要る。タカシは某所こそ走ってるものの、峠やそれに類する下道を走った経験が少ないのだ。

信号待ちで停まった時ムラタに、「タカシが来れないから、ちょっと抑えて」と頼んだ。

すると律儀なムラタは、そこから一切イかなくなる。

「なはは、そこまで完全にクルマの後ろじゃなくてもいいのに」

 

そんな感じでのんびり走ってると、俺らの後ろを走ってた、XJRのお兄ちゃん。どうやらシビれがキレたようで、クルマが少なくなり、前方の視界が開けたとたん、フル加速して抜いてゆく。当然、次の瞬間には、脊髄反射でムラタが突っかける。

「ぎゃははは、やっぱガマンできないか」

XJRを直線でゴボウ抜きにしたムラタの後ろから、俺も続いてユリシーズを並べる。刺したと言うには少し手前、直線の終盤くらいで前に出ると、ブレーキをナメてそのまま突っ込む。ユリシーズと言うよりはケーロクに近い走り方だ。

引きずったブレーキでフロントをボトムさせたまま、きついRの右コーナーをトレース。

減速帯の凹凸をコツコツ拾いながらもユリシーズ、いや、この場合XB12Ssの足は、なんとか破綻することなく出口を向き、フロントフォークが伸び始める。間髪いれずにアクセルオン。トルクフルなエンジンに蹴飛ばされて、リアタイアが車体を前へ前へ押し出してくれる。

ひとコーナーでXJRを消すと、俺は、そのままムラタの背中を追った。

 

追うのはいいが、引きずられて同じに走っちゃいけない。

さっきはやれたけど、基本的にアレはビューエルの走りじゃないのだ。速度がそこまで出てない上にキャスターが立ってるから、なんとか真似事みたいなコトは出来たが、少なくとも俺が気持ちいいと感じるユリシーズの走り方ではない。リアステアこそ、コイツの真骨頂。

いくつかコーナーを継いだところで、なんとかムラタに追いつく。

さすがにGSX−R相手はしんどい。

が、その何倍も楽しい。

 

途中のコンビニで、昼飯を食う。

どいつもこいつも単車に乗ってれば幸せな連中だから、飯なんか喰えればいいのだ。

ここで俺は、大切なことを思い出した。

昨日、琵琶湖に向かう高速で、フレームカバーが外れたんだっけ。んじゃ、かっこ悪いけどコンビニでガムテープを買って補修してやろう……って、ここガムテ売ってないじゃん。仕方ないので、テキトーに買ったパンを食ってから、向かいのスーパーマーケットへ。

歩かないかみが、がんばって歩いた。

文具スペースの狭さに嫌な予感がよぎるが、店の人に聞いてなんとかガムテをゲット。

ビシッと補修して、後顧の憂いが無くなったガムテビューエル。ガムシーズ。

「やっべぇよ、フラちゃん。ガムテには負けらんねーぞ」

「はははっ!」

ムラタの突っ込みに、フラとタカシが笑う。

走ったあとのこんな時間。楽しくて仕方ない。

 

ガムテパワーでフレームカバーの心配も無くなり、ムラタについて裏道をひた走る。

ここが竜神前の、最後の休憩ポイント。

あとはひたすら曲がり道だ。もっとも、本来なら高野山に登る道ってのは常に渋滞してるので、そこで体力を使ってしまうんだが、今回はムラタが地元の竜神マニアに裏道を教わってきてたので、いちばん混む場所を迂回できるのがありがたい。

やっぱ地元が居ると強ぇね。

フラはたぶん、てめぇの残り少ないリアタイアが気になってンだろう。ムラタは俺と同じだから、楽しい連中と曲がり道を走ってるだけで、笑顔の絶えることが無い。タカシはこの段階で、細々した下道にちょっとお疲れ気味。まあ、普段すっ飛ばしてる場所とは、すべてが違うからね。

つわけで一服したり、俺はココでウコンのドリンクを飲んだりして、各自体調を整えたら。

さーて、それじゃあ行きますか。

なお、こっから竜神の途中まで、写真は無いのでよろしく。

 

途中まではいつものコースで走り、やがてムラタがわき道へ入る。

これが高野山の渋滞を迂回する裏ルートか。確かにムラタが言ってた通り、せまっくるしい上にツイスティで、オマケに道もかなり荒れている。昨日さんざん走ったのと似たような、和歌山らしい舗装林道は、ムラタやタカシには鬱陶しいだけだが、俺とフラは大好物。

「なはは。こらぁ、なかなかタフな道だなぁ」

などと笑いながら、砂の浮いた狭い道をムラタに率いられて走ってゆく。こういうところはリア乗りしてグリップを過信するわけには行かないので、思い切ってオフロード車のごとく前乗りし、ケツが振れても気にしない方向で走る。

時々、内脚を振り出して、モタードチックに走ってみたり。

「にゃはははっ、楽しいじゃないの」

笑いながら周りを見てみれば、ムラタはさすがにちょっと鬱陶しそうな感じだが、震えるミラーに写るフラ公は嬉々として走ってるのがよくわかる。「アイツホント、バカだよなぁ」と嬉しくなりながら、たまにタカシの所在も確認。時々離れたりしながらも、何とかついてきている。

タカシもいい経験をしただろう。

ま、しなくていい経験じゃねーのか? って話は置いとけ。

 

せまっくるしいウラ道を抜け、さすがに高野のあたりはバカっ混み。

ビタッと動かないバスやマイカーの横を、時々ハマりながらも、何とかすり抜けてゆく。

やがて、観光ポイントを抜けて、『竜神』の文字が看板に出る。

そして、

 

道が開けた。

 

「さあ、久しぶりの竜神だ。こっからが本番だぞ!」

気合を入れて、リア寄りに座りなおす。シートの上で何度か跳ねて、リアサスが動くのを確認していると、ムラタの速度が上がりはじめた。「お、きたな。んじゃこっちも行くぞ!」メットの中でシャウトした俺は、目の前に広がるツイスティロードへ向かって飛び込んだ。

GSX−Rはすーっと減速すると、外から内へすすすっと寝てゆく。

こちらはワンテンポ早くブレーキをかけ、リリースと同時にカットイン。一気に寝かそうとすると、その前にもう出口を向いてるので、リアに座ってトラクションをかけながらアクセルオン。リアサスが目いっぱい潰れ、フロントの接地感が怪しくなる。

時々コツンと当たる感触があるのは、サスの底付きと言うより、フェンダーがぶつかってるのだろう。

もっとリアサスのストロークがある設定で作られた車体だから仕方ない。あんまり激しく飛び込むと、ストロークが足りなくて飛ぶかも知れん。圧側の減衰をもちっと上げてやればよかった。つっても荷物降ろすのはメンドウだし、今からサスセットてのもなぁ。

ま、不満や不安ではなく、事実として、ストロークが足りないことをわかってれば充分だろう。

上からスカっとバンクするんじゃなく、シートに沿って重心を真横に移動するイメージで。目の前に設定した『心の重心』が必要なところまでコーナーの内側に移動したら、その時にはもうバンキングは終わってるので、あとはアクセルを開けるだけ。

エキサイティングな走りじゃないけど、コレだとリアサスが激しく縮まない。

まあ、大丈夫。こんでいけるべ。

 

やがて『タイアの喰い』や『サスの動き』から、も少しイケそうな余白が見えてきた。

そこを、あくまで余裕を持って、怖くないように詰めてゆく。ブレーキはもう少し突っ込めるけど、これ以上だと立ち上がりでシンドそうだ。もちっと脱出重視で、バンクさせないで曲がれないかな。ああ、そうか。重心だ。重心をもう少し大きく、スムーズに移動させるんだ。

ほら見ろ、さっきより早くアクセルを開けられる。

だんだんとムラタに張り付く時間が長くなって来たぞ、と思ってたら、他に走ってた二台の単車を抜いたあたりで、ムラタが「先に行け!」と合図を出した。なので、ムラタとその他二台を引き連れて、俺が前に出る。

さて、ココからが第二章だと、気合を入れなおした。

実は走り方の違うR1000に前を走られるよりも、自分でリズムを作った方が、楽しく速く、安全に乗れる気がしてた。しかしムラタを抜くとなれば、かなり無理をすることになる。直線で及ばない分、突っ込みで頭を取るしかないからだ。

なので、前に出れたのは、こっちとしてもありがたい展開だった。

先頭に立ち、好きなように走れることで、俺のテンションは更に上がる。

「ひゃっはー! 行くぞ、ムラタ! すっ飛ばそうぜ!」

俺はまた、ヘルメットの中でシャウトした。

 

次の工事信号で捕まった時、ムラタが大声で叫ぶ。

「ぎゃははは! なんだよー! かっこいー!」

ムラタから送られた最大級の賛辞に、だらしない顔でニヤニヤ。そりゃ俺らレヴェルじゃ、所詮どんぐりなんだろうが、それでもこうやって気の合うダチと、速いだ遅いだやってられるってのは、実に楽しく幸せなことだと思う。俺が単車に乗る、大きな理由のひとつだ。

他の二台はとっくに見えなくなり、代わりに時々、フラの赤マックスがチラチラしてる。

「なはは、やるじゃんフラ公。ホントあいつはもう、『V−MAX使い』と呼んでいいな」

俺とムラタが前後に並んで走り、少し離れてフラ公がその後を追う。さすがにタカシは、見えなくなったが、それも仕方ないだろう。アイツはまだ、峠を走るのが二回目くらいのハズ。簡単についてこられちゃ、「俺の二十五年は何だったんだ」って哀しくなるだろう?

「しっかし、この単車はホント、怖くねぇなぁ」

俺は感心しながら、ひらひらとユリシーズを舞わせる。

時々、他の単車が居るけど、彼我の速度差が読めるので問題ない。怖い思いをさせないように抜き去り、一発目のコーナリングで引き離す。『長い直線でゴボウ抜き』さえなければ、こいつは峠ならSSとだってやれる一線級のマシンなんだ。

例え勘違いだとしても、そう思わせてくれる愛機に、俺は誇らしい気持を持つ。

 

路面温度は高く、グリップは最高。

低速から高速コーナーまで、節操のないレイアウトの道。

気持ちよく、楽しく。

ただそれだけを。

 

護摩山タワーが見えてきた。

駐車場に入ってゆくと、さすが連休中だけあって、結構な混み具合だ。

あいてる駐車場に停めて単車を降りた瞬間、ガクンと疲れが出た。

「なはは、楽しくて気づかなかったけど、結構、疲れてんだなぁ」

タバコに火をつけて、単車の前に座り込む。

夏のごとく照りつける太陽が、まぶしくて気持いい。いや、ちょっと暑いかな。

 

「くっそー、ビューエル速えぇ!」

「なはは。なあムラタ。おめ、正直ユリシーズじゃ勝負にならねぇと思ってたべ?」

「や、そんなことないけど、でも、すんげぇ曲がるねぇ」

「やれる子だろう? なあ、フラ公?」

「めっちゃやれる子ですよ。って言うかリアサス底付きしてませんでした?」

「っぽい感じにはなってたかな。まあ、元々長いサスを履いてた車体だから」

「いや、フラちゃん違うよ。アレは絶対、乗り手がキチガイなんだ」

何より嬉しい、ホメ言葉だ。

全員、割とすっからかんだったようで、いつものテンション高い感じではなく、よく言えば穏やかな、悪く言えば疲れ切ったオッサン的な低い調子で、そんなことを話してると、タカシが追いついてきた。みんなそろったところで、しばらくだべりながら一服つける。

心地よい疲労感に包まれながら、単車の話、乗り方の話、バカ話。

 

「む……おまえらすまん。俺は今、屁をした」

「ぎゃははは、なんだかみさんかよ! なんか臭せぇと思ったんだ、なあフラちゃん」

「大人しいと思ったら」

「あはははっ!」

「ったく、気持ちよく走ってきて、すげぇいい天気で気分爽快なのに、だいなしだよ!」

「出るもんは仕方ないだろう」

半笑いのムラタに怒られつつ、まったく反省の色がない41歳。

 

バカ話してグダグダしたら、さて、それじゃあそろそろお開きにしようか。

ムラタは来た道を戻って自宅へ帰り、タカシは今晩中に関東へ帰る予定。俺とフラは特に予定もない風まかせ。なので、ココでムラタと別れて、俺とフラは三重のおーがの家へ。タカシはその途中まで一緒に、と決まった。

「んじゃなムラタ。また走ろうぜ」

ひょいと手を上げて走り出す。

ま、こんな気楽な感じもまた、俺らっぽくていい……ん、なんかフラ公が叫んでる。

「かみさん! かみさん! スタンド! スタンド出てますよ!」

無論、スタープラチナではない。

危うくまた、ネタを作るところだった。

 

ムラタと別れて三人、龍神を南へ下ってゆく。

龍のしっぽから国道424を南下して、高速に乗って帰る算段だ。

「つーかフラ公よぉ、こっちの方におめーと来ると、嫌な思い出が浮かんで来るんだが」

「ああ、例の酷道ですか。あれはキツかったですねぇ」

「タカシいいか、この男だけは絶対信じるなよ」

「あははは!」

国道425は竜神のしっぽ辺りを南西から東へ抜ける道なのだが、日本三大『酷』道と言われるほどの難所だ。狭い上にアップダウンが激しく、オマケに全線ほとんどブラインドコーナー。砂に落ち葉に山汁に、およそ速度を出せない要素のすべてがそろってる。

荒道が嫌いじゃない俺とフラをして、「二度と走りたくない」と言わせる道だ。

「今回は地図があるから大丈夫だとは思うが、しかし、フラが先導じゃなぁ」

「なに言ってるんすか。さすがに判ってますよ。まかしてください」

てなわけで走り出した……のだが。

竜神を降り切ったあたりで、フラが突然、左折する。いや、左折自体は間違ってないのだが、もう少し先だったような気がする。とは言え、アレだけ自信満々に走ってくんだから、まあワケもわからず走ってるんじゃなかろうと、俺とタカシも素直についていった。

と。

まあ、確かにここいらの道は、やたら広いか、こんな道かのどっちかだからなぁ。

 

タカシも恐る恐るついてくる。

クソ狭い舗装林道を走るうちに、なんだか嫌な予感がどんどん膨らんでくる。やがてそれは、ある場所に来て一気に現実となった。おそらく、フラも同じタイミングで気づいたのだろう。単車を路肩に寄せて止めると、俺を振り向いて叫んだ。

「すんません! 間違いました!」

おーわかってる。間違ってるよ。俺、この場所知ってるもん。酷道425の入り口だもん。

 

「おっめ、俺、ここ、思いっきり知ってるぞ!」

「ですよねー、俺も思い出しました」

「ふざけろ、ぜってー行かねぇからな。戻るぞ、フラ公!」

「もちろんです。俺もここは絶対、走りたくないです」

「な、タカシ。この男だけは、ホント信用ならねぇんだ」

「はははっ、そんなにひどい道なんですか?」

「アレはもう、道じゃねぇよ」

それでも、さすがに景色だけは最高なので、一服つけながら少しダベる。

 

「あー、そういやムラタに試乗させるの忘れてたなぁ。フラ、またがってみっか?」

「お、コレはいいですね。マックスから乗っても違和感がない」

足つきも、まぁまぁだろ?」

「ま、ちょっと高いですけど、このくらいなら」

「あの曲がりを知っちゃうと、車高落とす気になれなくてなぁ。タカシもまたがってみな」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

なにその脚。

俺とフラの、「足つきまぁまぁ」とか、「ちょっと高いですけど」ってセリフが切なすぎる。

 

「なんだよ、ベタ付きじゃねーか!」

「うわぁ、タカシくん、脚長いなぁ。つーか身体も細っ!」

「タカシ、その脚を少しだけ分けてくれないだろうか」

「いえ、いや、あははは」

チビで短足のオッサンふたりにイジメられて、タカシは苦笑するしかない。

 

バカやって笑ったら、来た道を戻るのだが。

まずは、さっきの写真をもう一度見て欲しい。

この道を帰るということは、帰りは谷側を通ることになるわけで。

これがもう、見た目以上にめちゃくちゃ怖い。

場所によってはもっと狭いから、左に曲がってるときは身体の下がガケだったりするのだ。だったら、もちっと大人しく走りゃいいんだが、俺とフラはこの道が嫌いなので、気持ちとしては一刻も早く抜けたいのである。ケモチックな気分で、なんとか酷道を脱出。

 

国道が425、371と二重表記になるルートを走ってゆく。

ココは比較的、快走路だった。先導のフラはタイアの残りがないので、妙なカウンターアクションをしながら、120上限くらいの比較的のんびりペース。もっとも、こっちもスッカラカンなので、このくらいのペースがちょうど楽でいい。

「こらいいや。もう疲れちゃったし、のんびりフラの後ろを走ろう」

なんて感じで気を抜いて走ってると。

ばしゅん!

一台のネイキッドが、片手を挙げながら追い抜いてゆく。すると、その後から数台の、これもネイキッドやモタードなんかが、ばすばす抜いてゆく。走りに迷いがないところ見ると、地元だろうか。インを刺されたフラが、大人しく道を譲っていた。

んじゃ俺も、追っかけなくていいや。

ヘタレモードでちんたら走ってると、すぐ先の道の駅だかで、彼らはみんなUターンしてた。なるほど、龍神だけじゃなくこの辺も、それっぽいのが居るのか。まあ、確かに広くて走りやすい、気持ちのいい道だしなぁ。と思いながら、地元ライダー(推定)を抜いて、こちらはそのまま先へ進む。

なんたって、まだまだ先は長いのだ。

 

やがて国道424にぶつかった。

左へ行けば当初の予定どおり、『みなべ』から阪和道に乗れる。ところが、その交差点の正面に、高速表示のミドリ看板が立っていた。「なんだ、こっちからでも高速に乗れるんじゃん」と思ってると、フラも同じことを考えたようだ。

「かみさん、まっすぐ行っても高速ですね。まっすぐ行ってみます?」

「ほだな。んじゃ、まっすぐ行くべか」

お気楽に取ったルートが、実はなかなかの遠回りだった。しかも、工事信号が多く、車線規制が多いためにやたらと混んでて、途中まではカンペキに失敗。俺もフラもタカシも、うんざりしながら走りぬけ、最後の方はすり抜けする気力さえ湧かなかった。

やがてクルマの数が減ってきて、ちょいちょいすり抜けしていると。

フラが急に単車を停めた。

「どした?」

「写真撮りましょう、写真!」

確かに美しい風景だったので、実は俺もクビに下げたカメラを引っ張り出しかけたのだが、擦りぬけと渋滞で疲れてたので、「まあ、いいか」とやめたトコだったのだ。なにやら今日は、ムダにフラ公とシンクロするなぁ。これが可愛い女の子だったら大歓迎なんだけどなぁ。

ともあれ、停まって写真を撮ろうか。

たぶん、椿山ダムじゃないかと思う。定かではない。

 

翡翠(ひすい)のような水の色と、山々の碧(みどり)が美しい。

 

こっちは美しい風景を撮る、ちっとも美しくないオトコ。

 

スタイルのいいヤツは、テキトーなポーズでも絵になるからいいね。

 

motoのXRを山の中で見たときも思ったけど、緑の中の赤って映えるよね。

単純に反対色だってだけなのかな。

 

景色を眺めたあとは、またのんびりと走り出す。

それにしても、この道は工事が多かった。三月の施工予定が震災で延びたのかなぁ。こっちのヒトもずいぶん、東北に借り出されたみたいだし。

やがて、ようやくのコトながら、インターの文字が見えてくる。

有田インターから阪和道に乗って、あとは三重までぶっ飛ばすだけだ。

 

とは言え、みんなだいぶんクタクタだ。

俺が途中で100巡航になって離脱したり、離脱した俺をPA付近で待ってた二人を、今度は逆に抜いちゃったりと、グダグダな感じのまま走りぬけ。阪和道と近畿道の間っこくれぇんとこだったか。どっかそこいらの料金所あたりで最後のダベリング。

一服つけながら待っていると。

 

ETCがないので高速券を取ったタカシがやってくる。

ここでフラがタカシに帰るルートを教え、気をつけて帰れよと話す。タカシはこのまま関東まで帰るのだから、三重までの俺たちとは残りの距離が違う。先の長さを思ってるのだろう、ちょっと元気のないタカシと、お別れの挨拶をしたら。

俺とフラナガンのダメダメ兄弟は、一路おーがの自宅に向けて走り出した。

 

西名阪に乗り、さてチンタラ行こうかと思ってると。

アタマの悪い弟は、タイアないくせにアクセルを開ける。あーも、めんどくせぇ。なんでそうおめーはバカなんだよ。こっちは疲れてるって言ってんだろ。フツーに流れに乗って走ればばばばばばばっ! あークソやかましい、このヤロウ! と、結局、俺もアクセルを開けるハメになる。

まったく、フラという男は度し難い。

 

西名阪を降り、名阪国道に入っても、バカはやっぱりバカのまま。

「ま、追われたらフラを犠牲にして逃げよう。どうせガソリンはこっちのが持つんだし」

前向きで、さらにネタとしても面白そうな結論が出たので、すっ飛ばすフラに乗っかって、こちらもクルマを縫ってゆく。つっても150〜160スピード上限の、気持ちいいくらいの速度だ。そのくらいで流すと名阪国道の(西からだと)前半は、とても楽しい。

時々からんでくるクルマや単車を撃墜しながら、フラとふたりランデブー……ってなんかヤダ。

そうこうするうち、なにやら名阪国道が混んできた。

「ありゃぁ渋滞かよ。すり抜けメンドウだなぁ」

なんて思ってると、どうも聞きたくないサイレンが聞こえてくる。

ただし、前の方からだ。

「なんだ?」

不審に思いながらすり抜けてゆくと。

スピーカーで一般車を蹴散らしながら、ワンボックスの白黒が激走していた。

「事故かなんかだろうか」

思ってると、ものすごくナチュラルに、フラが白黒の後ろへ陣取った

「まあ、最高速を超えてるわけじゃないし、後ろに付いて走っても悪いことはなかろう」

つわけで今度は、フラ&三重県警とランデブー走行。

なんかもっとヤダ。

ずいぶんと先導してもらい、案の定、事故現場に出た。

そこからも、ひたすら渋滞だったが、フラが先導して道を作ってくれたので、俺は楽に走ることができた。東名阪に乗り、こちらも渋滞を駆け抜けて、四日市で降りる。おーが家に向かってる途中、飛び出してきたクルマと接触しそうになり、フラが華麗なダンスを見せたところで。

本日のCrazyMarmaladeでっかいもん倶楽部は、何とか無事に終了。

高速ダンスに舗装林道、スカイライン、そしてロングワインディング。色んな要素がたくさん詰まった、実に楽しいツーリングだった。前日の大宴会が、俺の単車に乗る理由のひとつだとしたら、今日の走りで味わえたものこそが、もうひとつの大きな、そして大切な理由だ。

それこそ、コレを書いてる今すでに、走り出したくて仕方なくなるほどの。

 

ムラタ、フラ、タカシ、みんなありがとう。

むちゃくちゃ楽しい走りだったよ。

また近いうち、曲がった道を走り倒そうぜ!

 

六日目、七日目に続く

 

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