The 106th big machine club
2011.07.10 第106回でっかいもん倶楽部 in 群馬つまごい 〜そこに居る〜
でっかいもん倶楽部と言うのは、もともと、マルとふたりで走る時のレポートだった。 VTX対ニンジャ、ロケットスリー対ブラックバードなんて感じで走った時のコトを、そん時にいなかったダチや、誰より『未来の俺のために』書き残していたのだ。それが、だんだん色んなヒトと走る機会が多くなって、気づいたら普通(?)のツーレポになってた。 そんな、でっかいもん倶楽部の原点、マルと久しぶりにツーリングだ。 なのに前日、いいだけ呑んだくれてたわけだが、それはさておき。
午前7時、ケータイの着信音にたたき起こされる。 「うぁ、あい、おう、もひもひ」 「げはは、予想通り死んでるな。おめ、何時に寝たんだ?」 「あう……に、二時かな」 「ひのふの、なんだ五時間は寝てるじゃねぇか。んじゃ、あとでな」 しかたなく、クソ重たいアタマを枕からひっぺがし、のろのろと準備を始める。
昨日の晩、元気いっぱいに用意してあった着替えが腹立たしい。
もそもそと服を着込んでオモテに出ると、晴れ上がった青空も腹立たしい。
午前7時30分 ―千葉県・柏― ポイント・オブ・ノーリターン。 またがるだけでオエっとなるその表情は、神にでも縋(すが)りかねないサマだっただろう。 そうさ、俺は気も狂わんばかりに二日酔いだったのさ。
キリンごっこを終えて、12Xを走らせる。 朝の国道は、思ったよりクルマの量が多かった。ハンドリングが軽く、ハンドル位置も近くなった12Xは、ひらひらと楽しげに16号を抜けてゆく。もっとも乗っかってる方は、そうもゆかない。加減速のたびに「おえっぷ」と嘔吐(えず)きながら、愛機を走らせる。 柏インターから高速に乗ると、とたんにスクリーンを外した効果が(悪い方に)出た。 「うぉ、風圧ジャマくせぇ!」 120スピード(=1/2時速)から先、今まで何でもなかった領域で、すでに上体を押し返す風圧が鬱陶しい。ハンドルがノーマルライクなままだから、上半身の起きが強く、余計に感じるんだろう。だが、伏せると今度は、内臓が圧迫されて気持ち悪い。つーか下向けない。 かみさん、八方塞(ふさ)がり。 そんでも140〜160スピードでクルマを縫いつつ、駒寄を目指して走る。やがて、外環を抜けて関越に乗ったころには、どうにか気分もマシになってきた。もっとも俺の場合、走ってると平気になっちゃう部分はあるから、アテにはなんないけど。 ハーレィ軍団やツーリングライダーを避けながら、どうやら駒寄に到着。
「う〜、単車降りるとダメだ……やっぱ……」
気持ち悪りぃ!! (判りづらいです)
日陰にはハーレィ軍団がいたので、出口近くに単車を停める。 トイレに向かいながら携帯を開くと、マルゾーからメール。内容はヒトコト、「わり、遅れる」オンリー。「ヤロー、ヒトを7時に起こしといて、てめぇは遅れようってか。完全、ぶっ飛ばすリストだな」と毒づきながらトイレを済まし、ヤツの所業をミクシィで公開。 それから荷物やメットを持って日陰に移動し、そこでのんびりとマルを待つ。
やがて、ガロガロやかましい排気音とともに。
マルがやってくる。 「てっめ、おせーっつの!」 「わりわり。かみさん、おコーヒーでもいかがです?」 「あーいただこうか」 マルの買ってきたコーヒを飲みながら、相変わらずバカ話。 「いや、出掛けに実家へ寄ったら、オヤジが『目が回る』言い出しやがってさ」 「あんだ、そんじゃしょーがねーや。んで、とーちゃん大丈夫なんけ?」 マルの親父さんは、お母さんが亡くなってから一人暮らしなので、マルが様子を見に行ってる。元気だとは言え、さすがにお歳だから心配だ。もっとも、目が回ったのは昨晩のことらしいので、まあ、いますぐどうこうと言う感じではないらしい。ま、だからヤツもツーリング来たんだけど。 「つーか、かみ。見ろよコレ」
「あ、シンプソンじゃねーか。でもよ、メリケンのメットはアタマ痛くなんじゃね?」 「それがよ、最近のはそーでもねーんだよ」 「どれどれ……デカっ! あんだこれ、でか過ぎねぇ?」 「だから、痛くなんねーようにデカいの買ったら、最近のは対策済みだったんだ」 ま、マルらしいっちゃ、マルらしい。
地図を開いてルートをざっと確認したら、クソ暑い中を走りだす。 マルがメータの確認をしたいとか何とかで、最初の1キロくらいを100巡航で走ったあと、150スピードくらいでひらひら走る。「スクリーンのあるなしで、快適な速度が20〜30は変わって来るんだなァ」と今さらのことを確認しながら、伊香保で降りて、国道17号〜県道33号。 まずは榛名湖までの前哨戦、上毛三山パノラマ街道だ。 伊香保を抜けたあたりから始まる、5キロくらいの軽いワインディングを駆けてゆく。ケーロクの時にはほとんど差がなかったから、まあ、いきなり置いていかれることもないだろうと、二日酔いを抱えつつ軽い気持で走り出したら…… 「あっれ、マルのヤロウ速くなってやがる」 登りの直線で離されると、その差を喰うのがシンドい。 「明らかに低中速コーナーの処理が滑らかになってる。練習しやがったな」 クルマに引っかかったマルに追いつき、もう一回、離されかけたところで峠が終わった。
そのまま榛名湖畔を走って、裏榛名との別れ道で一服。
「あんだ、やっぱ登りはパワー差が出んのか?」 「直線はちとシンドいかな」 「マシンの差だな。それとも二日酔いだからか?」 くそう、ブラバをケーロクで喰った時、マシンの差だと言われたマルの気持がわかった。 「おめ、速くなってんじゃねーか。練習すんじゃねーよ!」 「がはは、一万キロ乗って、やっと曲げられるようになった」 マルが速くて、俺が追いつこうとガンバる。ある意味、でっかいもん倶楽部の正しいカタチに戻ったわけだが、もちろん違いもある。マルがどう思おうと、俺の中では(峠に関する限り)マシンの差はないと思ってるのだ。つまり、離されるとクルーザでやってた頃の何倍も悔しい。 「よーし、見てろよ、マルめ。裏榛名でリベンジだ」 メットの中でそうつぶやいた時には、二日酔いなんぞ榛名山の向こうまで飛び去っていた。
榛名湖からアプローチすると、裏榛名は全線、ほぼ下りになる。 ツーリングライダーを避けながら、狭い道を曲がってゆくと、広い裏榛名へ出た。すると道のアチコチに濡れてる場所がある。ツーリングタイアを履いている俺には朗報だ。放っておいても前輪荷重になる下りを、リアを意識しながら曲げてゆく。 思ったとおり、下りなら、まったく問題ない。 気合を入れなおしたこと、下りでパワー差が出づらいこと、フルドライじゃないこと。いくつかの要素が重なったので、今度は充分についてゆける。マルがツーリングライダーに引っかかったスキを突いて、大外から前に出た。もっとも、それまでの走りで、マルもヒャクパーじゃないことは判ってた。 なのでこちらも余裕を残し、気持ちよく裏榛名を下りきる。 下りきったところでマルと先頭を交代し、そのまま国道145へ。
途中のコンビニへ休憩に入った。
断片的な雲の切れっぱしが浮かぶ空を、「暑ちぃなぁ」と見上げながらメットを取ると。 「かみ、たーのしーなー!」 「ああ、楽しいなぁ」 確かに楽しいのだが、しかし、単車を降りた瞬間から襲ってくる吐き気。 「うー、ぎぼじわる」 「けっけっけ、バカだね相変わらず」 とやりあいながら、コンビニでジュースと塩飴を買う。しかし、昨今の節電ブームの影響でコンビニの中もあまり涼しくない。だったらハンパに蒸す店内より、外で焼かれよう。真上からの太陽に逃げる場所もなく、俺とマルは単車の横で駄弁った。 「速さ的には同じくらい、気合乗ってる方が前に出れる感じだな。いいバランスなんじゃね?」 「おめーがよ、ビューエルすげぇすげぇ言うから、もっと、とんでもなく速いのかと思ったぞ」 「どあほう。このエンジンで、このガラで、そんでもケーロクとやれんだぞ。すげぇだろうが」 「俺よ、この『へんな顔の単車』に突っつかれたらヤだなと思って、寝れなかったんだぞ」 「なにをう! ちょうカッコイイだろうが!」 夏の青空の下、てめぇの好きな単車に乗って、ダチとの追いかけっこやバカ話。 何年も繰り返し、一度も飽きることの無い、ステキな時間。
とりあえず草津の方に抜けんべと、国道145を走り出す。 すると、さすがにこの辺は混んでいた。観光地への道だし、バスが走ってるし、ヌキどころも少ないから仕方ないのだが。ようやくバスやマイカーを抜いて前に出ると、T字路の信号に捕まった。草津へ向かう国道292号の出発点だ。 もひとつ先にも292号があり、当初は、そっちへ行くつもりだったのだが。 「かみよう、どっち行く?」 「この道、混んでるしなぁ。んじゃ、こっち行くべ」 つわけで、あっさりと前言を翻した我々は、右折して手前の292へ入った。 とたん、道が狭くぐねぐねになり、路面も荒れてくる。 「ぎゃはは! こらぁ俺に有利なルートだねぇ」 荒れた路面にヘルメットの中で笑いながら、俺と12Xはひらひらと山を登る。 ところが。 こんな道は苦手なはずのマルゾーも、ケーロクをだいぶん手なづけたという自信からだろうか、さほど苦もなく登ってきた。「あんだマルちゃん、荒れたトコ全然イケるようになっちゃったじゃん。つまんねーなぁ」と唇を尖らせてアサッテな文句を言うかみさん。 だが、股下のドコドコ言う音と、後ろの官能的な四発サウンドを聞くと、その口元も緩む。 狭く荒れたワインディングを、アメリカと日本、大雑把な機械と精密機械、空冷と水冷、Vツインと四発、マッサージ器とモーター、低回転型と高回転型、ほとんど全てが相反する二台のバイクが、並んでひらひら舞いながら駆け抜けてゆく。 なにやら、とんでもなく楽しい。 タイアのエッジを削りながら登ってゆくうち、
道の駅『六合(くに)』へ到着した。
「お、六合じゃん。ここ、前にpoitaさんやeisukeさんたちと来たことあるよ」 「俺、ウンコしてくる」 相変わらずのクソ暑さにゲンナリしながら、単車の前で一服。 すると、トイレから帰ってきたマルが、にやりと笑ってヒトコト。 「かみ、俺さ、タバコやめたんだぞ」 「ああ、ビンボーだもんな」 「うるせぇ、そーじゃねーよ。こないだインフル罹患(かか)ったべな。あん時からやめてんだ」 「俺は負けない。ぜってーやめない」 キャスタもやめたつってたし、こうなると逆に、何が何でもやめたくなくなるね。そういえば、昨日の宴会で、しんごのヤツは、「みんながやめたら吸おうと思うんです。一箱千円になったら」つってた。単車乗りってのは、天邪鬼が多いね。
「ところでかみ。この先、ドコいく?」 「この天気なら、志賀草津道路なんかめちゃくちゃキレイなんだが……混んでるだろうなぁ」 「混んでるのはダメだ」 「あ、そうだ。前に走った時、面白れぇ広域農道があったんだよ。あっこならゼッテー空いてる」 「んじゃ、そこ行くべ」 つわけで、行き先は『つまごいパノラマライン』になる。 地図で行き方を確認したら、俺が先に立って六合を出発した。
六合からグネグネの狭いワインディングを、まずは草津に向けて走る。 だが、道を間違えちゃアレだし、生活道路みたいな場所もあるから、そんなに飛ばさない。多少、マルゾーがストレス溜めたって、どうせパノラマラインに行ってから放し飼いにすれば、アホな犬みたく駆け回って、あっという間にゴキゲンになるだろうから、問題ないのだ。 草津の街中に入って、ちょっと道を間違えたが、なんとかリルートして無事パノラマラインへ。 しばらく景色を見ながらのんびり走ってると、後ろのバカが焦れてきたようだ。目の前がドカンと開けて長い直線になったところで、ガマンできずにすっ飛んでゆく。長い下りから、そのまま真っ直ぐ登ってゆく底のところで、マルのリアサスがフルボトム。 「あ、そうだ。あそこ、おっかねぇんだっけ。気をつけよう」 人のフリ見てわがフリ直し。 マルを追いかけずに気持ちよく走ってると、前のクルマが道を譲ってくれた。 ありがとうと片手を上げて前に出ると、右に左にワインディングを楽しむ。思い切ってすっ飛ばしてみたり、逆にのんびり走ったりしてると、離合ポイントだろうか、ちょっとしたスペースがあったので、そこで止まって写真を撮った。
晴天、絶景、曲り道。 今、俺の欲しいすべてが、ここにある。 カメラを仕舞って走りだし、また楽しく曲がってると、向こうからマルがやってきた。(ははん、コケたと思ったんだな)と笑って、「写真撮ってたんだよ。コケてねーよ」とメット越しに怒鳴ると、「コケたとは思ってねーよ! 壊れたと思ったんだ!」などと、余計なことを言って笑いやがる。 フン、俺のビューエルは、もう二度と壊れないのだ。 たぶん。
途中に『眺めのいい橋』があるのはわかってたので、そこまで俺が先になって走る。
橋に到着して単車を停め、一服しながら景色を眺める。
緑のグラデーションは、まさに夏の風景。 前回来た2008年の秋よりも、緑が濃くて深い。 写真では伝わらないだろうけど、
吸い込まれそうな高さから眺める景色は、相変わらず息を呑む。 「気持ちいいなぁ。やっぱ楽しいな、マル」 「ああ、気持ちいい。でもよ、こういうときはタバコ吸わないと手持ち無沙汰だな」 「でも吸わねぇんだろ、ビンボーだから」 「うるせぇ、タバコくらい買えるわ!」 追いかけっこしたり、まったり走ったり。いろんな走り方をしながら、こうして、マルと単車に乗れてる。コレは実際、本当に幸せなことなんだと思う。俺は何度も死にかけたし、マルも結婚したり子供が出来たりで、乗れなくなるかもしれない時があった。 それでも俺達は、今、生きて単車に乗れている。 そのことに感謝したいと、この歳になって、素直に思うようになった。
「さーて、そんじゃ行くべよ、マルちゃん」 「おー!」 走り出してすぐ、目の前がぱぁっと開ける。
キャベツ畑は、三年前と変わらず、そこにあった。 「あん時は、ケーナナだったんだよな。それから新ブサに乗って、そのあとケーロク。途中にフューリィをからめて、今はビューエルか。ま、しばらくはビューエルに乗るだろうけど、これから先、今度はナニに乗ってココを走るんだろうな、俺」 などと、ガラにもなく思いながら、単車を停めて写真を撮る。
向こうでは、今度はすっ飛ばさないで、同じように単車を停めたマルが、写真を撮っていた。 とは言え、感傷に浸ってばっかりてのもガラじゃない。 せっかく曲がった道があるんだし、やっぱりマルと走るなら、ガシガシやらなくちゃ。つわけで、残りのパノラマラインを走り出す。曲がったところはガンガン、まっすぐのところはホドホドに。単車を左右に寝かしこみ、出口が見えたらアクセルオン。 ブレーキをナメながらぎゅーんと曲がりこみ、ぐいぐいと立ち上がってゆくケーロク。 ブレーキリリースと同時にカットイン。くるっと回ってドカドカっと立ち上がる12X。 それぞれの走り、それぞれの気持ちよさ。
パノラマラインの途中、曲がりがゆるくなるところで休憩。
缶コーヒーを飲みながら、真っ黒な雲の切れ間から見える、青空と白い雲に目をやる。
この写真だとイッコもわかんねーけど、雲がやけに立体的でキレイだった。
トラックや農耕車を眺めつつ、乾いたのどを潤す。 「お、マル。あのトラック、エンストしたぞ。俺、トラックのエンストって初めて見たかも」 「ずいぶん、積んでンだろうなぁ。全然、前に進まねぇじゃん」 なんでもない会話をしながら、空を眺めてコーヒーを飲む。 それからまた、曲がり道に向かって走り出した。この道を走ったことのある俺が先頭なんだが、如何(いかん)せん、それも三年前の話。気持ちよくすっ飛ばして走ってるうちに、気づいたらバラキ湖あたりで道に迷うのまで、前回と同じ。しかも、今回はリカバリがテキトーだ。 「だいたい、この辺を入るんだったはずなんだよなぁ」 と走ってたら、またもグネグネ楽しいので、そのままいけるところまで行ってしまう。 「あれぇ、おかしいなぁ。マルちゃん、俺、こんなトコ見たときないよ。ここ、スキー場だねぇ」 「ああ、間違いなくスキー場だな。見りゃわかる。んで、どーすんだ?」 「最悪、来た道もどりゃ帰れるんだし、とりあえず行けるところまで行ってみよう」 「あーそーだろうよ。そう言うと思ったよ」 つわけでスキー場の入り口を入り、そのままちょこっと登ってゆくと。
スキー場の駐車場らしき場所に出た。
ムダにだだっ広い。なんか雰囲気があったので、写真を撮ってみた。 「なはは、こらぁ面白いじゃない」 「知らねぇよ。つーかハラ減ったぞ、かみ」 「そんじゃ、どっかで飯を食おう。今、地図を出すよ。えーと……どれどれ……今ドコだ?」 「クソかみ。てめぇ、いいから地図をよこせ。えーと……どれどれ……北はこっちか」 「俺、コンパス持ってるぞ。ほら、見てみろ……っておめ、北はあっちじゃねぇか!」 ふたりでバカやりながら、結局、「下ってテキトーに走り、市街地でメシ」という、地図もコンパスも関係ないじゃん的な結論が出たので、とっとと来た道を戻る。しばらく戻ってると、どうやら見たことのある分岐に出っくわした。 「あーそうだそうだ。こっち行くんだ。やっと思い出した」 つわけで、ようやくリルート。 ま、こんなのも楽しい。
残りのパノラマラインも走りきって、無事、国道へ出た。 朝からロクに休憩もしないで、ひたすら走り倒してたのだから当たり前だが、俺のポンコツ右足はズキズキと鈍い痛みを訴えてるし、「あん? 俺は全然、まだまだ走れるぜ」とか言ってるマルゾーも、目の下が落ち窪んできてる。お互い年取ったねぇ、マルちゃん。 国道を西行し、途中、うっかり菅平を抜けて小布施方面へ行きそうになりつつ。 県道4号で南下し、東部湯の丸から上信越自動車道。 サービスエリアでメシを喰った。
『ソバイロイロ』だったか、そんな名前のソバ。島根の割子三段を思い出した。 こうして腰を落ち着けると、太陽にあぶられたオッサンらしく、身体が「だるい」と悲鳴を上げ始める。なので、あとはこのままのんびり帰ろうと決める。もう20年からの付き合いだから、お互い1mgの神経も使わず、のんびりと飯を食いつつバカ話をした。 喰い終わってもしばらく話し、そんじゃ、渋滞する前に帰ろうか。 立ち上がって愛機の前にゆき、「んじゃ、流れ解散で」「おう」いつもの終わり方。マルはタイアがもったいないから。俺は、せっかくだから燃費走行でドコまでいけるか。お互いそれぞれの理由で、100から120巡航で、上信越から関越を延々と走る。 関越と北関東道の分岐、互いに手を上げて別れたところで。 本日のでっかいもん倶楽部は、無事に終了。
走って、笑って、気持ちのいい時間だった。 ちなみに燃費走行は、ワンタンクで300近くまで行った。
女の子にモテると思って乗り始めた単車は、やがて乗ることそのものが目的になった。 速くなりたいと思った。 そして、マルと言う男に出会った。マルより速く走ることを目標にしながら、でも、それより一緒に走ること自体が楽しくなってくる。引き離されれば悔しいけど、それは、心の底から悔しいと言うより、マルと走る楽しさの付属品みたいなものだ。 俺はマルとともに、『バイク乗り』になった。
佐藤信哉や『キリン』にかぶれたり、その反対に「これじゃダメだ」とオリジナリティを求めたり。 いつしか単車は、速く走る道具から、生活スタイルの象徴になっていった。マイノリティであることが怖くなくなり、それどころか逆に誇りとなってきた。「やめろ」「降りろ」と言われることに、反発するのさえ飽きて無視するようになる。干渉を嫌って人を遠ざけ、交友関係は狭まり。 気づけば、マルだけがそこに居た。
やがてインターネットを知り、走りを記録するようになる。 バカをして死に掛けたりしながら、また、色んな人と出会う。しかし、今度の出会いは、今までとは違った。「俺はバカなんだ」と口にする理由が、『人を遠ざけて干渉させないため』から、『似たようなバカを探すため』へとシフトしてゆく。新しく会えた連中は、実に気持ちよかった。 気持ちのいい連中と、気持ちのいい時間をすごすようになり。 そして、マルはやっぱり、そこに居た。
これからも俺は、走ったり笑ったりしてるだろう。 そして、その時に何がどうであろうと、きっと、そこにマルが居るだろう。 きっと、マルが俺の近くに居るうちは、俺の道は間違ってないんだろう。
帰ってきて水風呂に浸かりながら、俺はそんな風に思った。
マル、また走りに行こうぜ。
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