The 109th big machine club

2011.11.12-13 第109回でっかいもん倶楽部 in 大郷戸

―煙か酒か食い物(後編)―

 

それなりに、自分の泥酔具合を感じたのか。

はたまた、ただ酒に飽きただけか。

ロロが「コーヒーを飲もう」と言い出した。「持ってきてない」と答えると、「大丈夫、ボクが持ってきてるから」と笑ったロロは、スティックタイプのコーヒーパウダーを取り出す。(まさかドラッグじゃねぇだろうな?)といぶかしみながらも、俺とヨシナシはそれをありがたく受け取った。

ヨシナシは空き缶を切って水を入れ、火にくべてお湯を沸かしだす。

そして俺は、パウダーと水をシェラカップに入れて、

直接加熱。粉が溶け残ってる事実から判るように、もちろん、混ぜてさえいない

酔っ払った俺は、自分のシェラカップをもっと火に近づけようとして、焚き木を動かした。その瞬間、反対側に置いてあったヨシナシの、お湯を沸かしていた空き缶が、盛大にぶっ倒れる。それを見てロロが、すかさず大声を上げて笑った。

「ヨシナシ先生のお湯、すっかりこぼれちゃったじゃん。ひどいなぁ」

「空き缶なんか使ってる方が悪いんだ!」

「オーノー! もう一回沸かしなおしデース!」

やかましいったらない。

ロロはガスコンロで湯を沸かし、一足先にコーヒーを作り終えている。そしてヤツはこともあろうに、出来たコーヒーを持参の保温カップに入れて、飲み口のついたフタをした。熱いのが苦手な猫舌のオカマちゃんのクセに、泥酔して状況判断が出来ないのだ。

「いやいや、それぜってー熱いから。すすれないんだぞ?」

「大丈夫に決まってるだろう。キミみたいなオカマちゃんじゃないんだよ、ボクは」

と胸を張りながら、コーヒーをヒトクチ呑んだ瞬間。

 

「うわっちゃい! あっちゅい! クチビル火傷したぁ! 舌も火傷しちゃったぁ!」

 

やはり、オカマちゃんはロロの方だった。

俺とヨシナシが大爆笑する中、「あっちゅい、あっちゅい」と大騒ぎしている。俺の脳内には、カルチャークラブの名曲『カーマカメレオン』のワンフレーズが、延々と回り続けていた。ボーイジョージの妖艶な声を脳内再生しながら笑ってると。

ようやく危機を脱したロロは、

すっかり男性ホルモンが抜けてしまっていた。

 

しかし、笑ってる俺の方も、すでにいいだけ出来上がっている。

そう……そろそろ『やらかす』時間帯だ。

「寒いから、テントの中に固形燃料を入れておけば暖まるんじゃね?」

思いついた俺は、迷うことなく固形燃料をテント内に入れる。テントといっても屋根だけで、下は地面むき出しだと言う状況が、「なんとなく大丈夫」的なイメージを加速させたコトは否めない。「やめとけ死ぬぞ」と言う、ヨシナシやロロの忠告に、「下はスキマだらけだから平気だ」と笑顔で応え。

しばらくは焚き火を囲んでしゃべっていたのだが。

「う〜む、どうもアレだけじゃ暖まらない気がする」

酔ったドタマは更にエスカレート。

今度は焚き火台を、真っ赤に焼けた炭火ごとテントへぶち込む。どう考えても、練炭自殺イーシャンテンなのだが、どうやらこの時の俺は、テントの下にあるスキマに絶大な信頼を置いていたようだ。行きがけの駄賃に炭火の上へ、『焚き木を一本放り込ん』だら、テントのジッパーを閉め。

舞台は整った。

 

意気揚々と引き上げ、またも焚き火を囲んで二人としゃべる。

と、何分ぐらい経ったころだろうか。

ヨシナシが大笑いしながら大声を上げた。

「ははははっ! カミ、ルック! ユーのテント、燃えてますヨ!」

なにをう! と叫んで振り向くと、テントからは白い煙がモクモクと上がっている。まあ、中で焚き木を燃してるんだから、当たり前っちゃ当たり前の話なんだが。あわててテントへ近寄り、ジッパーを開けた瞬間、中から吹き出した煙で目の前が真っ白になる。

そのままテントを横へ転がして、中の煙を逃がした。

「かみさん、ちょっと聞きたいんだけど、キミは何で大丈夫だと思ったんだい?」

呆れ顔で問うロロに肩をすくめて見せると、焚き火台と固形燃料を移動させ、改めてテントを設営し直した。たっぷりと残った煙の、ムッとする匂いに顔をしかめ、「うげぇ、ケム臭せぇ! つーかビニール臭せぇ。どっか焦げてねぇか?」と叫んでも、ふたりは答えずに笑うばかり。

冷酷な男たちである。

 

スモークドテント騒動もひと段落し、ちょっと小用を足しに焚き火を離れる。

そして戻ってくると、

月がいつの間にか、野営地の真上に移動していた。

「ああ、いいなぁ」

宴を離れたところから見るこんな光景が、俺はたまらなく好きだ。

焚き火のそばに戻って、「月がすげぇな」とつぶやき、みんなで夜空を眺める。すると誰ともなく、月の写真を撮り始めた。言っても全員、持ってるカメラはコンデジだから、夜の月なんてそれほど綺麗に撮れるわけじゃない。実は、撮れる画の質なんてそれほど重要じゃないのだ。

『美しいと思ったものを、みなでわいわい言いながら撮る』

そんな、単純だけど本質的な作業が、ただ楽しいのである。「上手く撮れた」「こっちはダメだ」と、そんな言葉で笑いあいながら、ボウズ頭のオッサンが三人、闇夜に輝く銀板を眺めて無心にシャッターを切る。ただそれだけのことが、なにやら実に楽しいのだ。

うろこのような、不思議な形の雲。

 

雲に囲まれた月。

 

そんな風にして楽しい夜を過ごし、日付の変わるころ、三人とも寝袋へもぐりこんだ。

静けさを取り戻した晩秋の山に、しんしんと冷気が染み渡ってゆく。

 

 

明けて翌朝。

ばるばるばるっと言うエンジン音と共に、ヨシナシの笑い声が木霊(こだま)していた。

「誰か来たんだな?」と起き上がってテントを出ると。

今回は参加できなかったミスターPOPOが、買ったばかりのWR250で顔を出した。

 

まだ、ビタイチ片付いてない昨夜の宴会跡地に、小さなイスを持ってきて腰掛けたミスターPOPOと、コーヒーを飲みながらバカ話をして笑う。が、その合間合間にミスターPOPOが、ゴホゴホと苦しそうなセキをするので、どうしたんだろうと思ってると。

風邪ひいて、昨日は寝てたんだよね。まだ治ってないのかなぁ」

イエス。それは間違いなく、治ってない。

 

そんな風邪ひきミスターPOPOは、ロロのナイフに興味を示す。

いずれヨシナシとやるはずの、『茨城最強決定戦』において使うつもりだろうか。

ヨシナシとミスターPOPOの間に、背筋の寒くなるような緊張が走る。

そんな一触即発ムードの中、空気を読めないロロが、「探検しよう」と歩き出した。

ただでさえ『かみは歩かない』上に、二日酔いでデッド・オア・アライブな俺も、仕方なく続く。

 

ヘリポートがあったが、かなり小さめだった。

これじゃあ、クラッチワイアが切れたとしても、ヘリで運んでもらうわけにはゆかないだろう。

次回はココへ、テントを張ってやろうか。

 

丘陵の最上部あたりに、東屋があった。

この下にある東屋とは違って、かなりきれいに整備されている。

ジャンキーのロロは、こんなところでもナイフを抜いて、振り回していた。

ドラッグが切れかけると、あたり構わずナイフを振り回すのは、やつの悪いクセだ。おかげでそこら中に、『やたら美しい切断面の枯れ枝』が量産されてゆく。それにしても、よく切れるナイフだ。正直、欲しいと思わなかったわけではない。

つーか欲しい。

 

狂ったようにナイフを振り回すロロから視線をそらすと、美しい光景が目に飛び込んできた。

「おぉ、キレイだな。これで本格的に紅葉したら、さぞ綺麗だろうなぁ」

思わず声を上げる俺に、うなずくヨシナシとミスターPOPO。もちろん、クレイジーロロは、「風景なんぞ興味ねぇぜ」と、一心不乱にナイフを振り回している。放っておいたら、我々にも襲い掛かってきそうだったので、ヨシナシが羽交い絞めにして押さえ込んだ。

 

暴れるロロを連れて、野営場所へ戻る途中、あまり綺麗じゃない方の東屋付近で、

湧水ポイントを見つけた。

滾々(こんこん)と湧き出る湧水を眺めながら、他愛ない話をして笑いあう。

 

野営場所へ戻ったところで、ヨシナシが、ミスターPOPOのWRにまたがった。

「足つきが悪いですねぇ」

などと、彼の愛機WRをディスって、ミスターPOPOを挑発するヨシナシ。だがミスターはそれに乗らず、「俺も足つきツンツンだよ」と余裕の返事をしていた。お互い、『茨城最強』を自負してるふたりだけに、なんとも言えないピリピリした雰囲気だ。

ふたりの殺気にアテられて、俺は思わず冷や汗を流す。

 

そうこうするうち太陽が高くなり、テントやモータサイクルも乾いてきた。

なので、みなそれぞれ撤収し、荷物をまとめる。

時刻はすでに昼近く。

オートモビルで参加したヨシナシが、皆のゴミを持って帰ってくれる。

ロロの捨てたドラッグの容器などがあるので、ウカツに捨てるわけにはゆかないのだ。

すべての撤収作業が終わり、野営地は来たときと同じ状態に戻った。

最後に全員が集まり、のんびりとだべったら。

本日のCrazy Marmaladeでっかいもん倶楽部は、秘境、大郷戸ダム探検は無事に終了だ。

毎度のコトながら、みんな楽しい時間をありがとう!

 

俺はみなに別れを告げると、ユリシーズに乗って走り出す。

走り出してしばらくしてから、『そうだ、ワインディングロードを探さなきゃ』と思い出して、

途中の分かれ道を入って橋の上に出る。そこで地図を見ながら場所を確認していると、

 

ミスターPOPOが、片手を挙げて走り去っていった。

そしてほどなく、ヨシナシも通りがかる。

ふたりは同じ方向へ向かったので、これから場所を変えて戦うのかもしれない。

俺は先へ進み、ワインディングの入り口を探した。しかし、ゆっくり走りながら丹念に探しても、入り口が見つからない。「なるほど、幻なのはワインディングの方だったか」と納得しつつ走り、ついには、元いた野営地まで戻ってしまった。

そこで、まだ出発してないロロの姿を見つけ、

「ヘイ、ロロ! こっちの道は水溜りが少ないから、チキンなオマエにはお似合いだぜ」

と挑発する。

もっともロロはすでに禁断症状で、脂汗をかきながら震えていたから、聞こえてなかったかもな。

戻りながら、もう一度ワインディングを探すが、やはり見つからない。

「ふん、それならそれで構わん。紅葉ツーリングに行こう」

そう嘯(うそぶ)いて走り出す。と、今度は国道を埋め尽くした、紅葉見物にゆくと思しきオートモビルの渋滞が、俺の心を叩き折る。胃のむかつきや頭痛と相まって、俺の気分は急速にしぼんだ。しかし、それでもユリシーズに乗って走っているだけで、楽しいことは変わらない。

俺は目的地を設定するのをやめて、茨城の曲がり道をただ、思うままに走った。

ちょっと山に入れば、曲がり道は幾らでもある。

思いつきでアチコチ寄りながら、

時々、路肩に止まってサスのセットを変えたり、楽しくひとり遊び。

落ち葉の浮いた狭いツイストから、高速コーナーまで色々と堪能したら、

最後は慣れた道を通って、フリーウェイに乗った。

家に帰って、ドロだらけのユリシーズを眺め。

楽しかった野宴を思い出して、ニヤリとひとり笑う。

 

そんな週末の話は、これでおしまいだ。

最後まで付き合ってくれて、サンキュな?

 

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