The 111th big machine club

2011.12.17 第111回でっかいもん倶楽部 in 大郷戸

―冷凍庫から愛をこめて―

 

仕事がハネた段階で、午後1:30。

帰って荷物を積み、2:00すぎに走り出した。一年でいちばん、太陽の寿命がみじかい季節だ。なるべくなら、陽のあるうちに到着したい。みっちり混んでる16号に出た瞬間、一瞬だけ迷ったあと、俺は国道6号を北上する道を選んだ。

混んでる柏インターをさけて、矢田部から高速に乗ろう。

ウラ道の県道19号は、相変わらずガラガラで走りやすい。

荷物をたっぷり積んだ12Xは、いつもよりネッチリした動きで、反応もワンテンポ遅い。ひらひらしたハンドリングがスポイルされ、あやつる意味での楽しさがいくぶん殺(そ)がれている。なので気持を切り替え、走りよりもキャンプの楽しさを考えながら、矢田部から高速へ。

風の強い常磐道から、いくらかマシな北関東道を抜けて、国道50号。

いつものスーパーで酒と食い物を買い込んで、一気に大郷戸ダムを目指す。

 

ダムに到着すると、POPOさんとよしなしは、すでにテントを張り終えている。

ふたりとも、買ったばかりのワンタッチテントだ。

「ういーっす!」と声をかける俺には目もくれず、ふたりはそのまま近づいてくると。

よし 「ビューエルあったけー! BMWよりあったけー!」

ぽぽ 「今日は寒いねー! 体が冷え切っちゃったよ」

色々とツッコミたいところだが、まずは俺の単車から離れろおまえら。

 

12Xのエンジンをストーブ代わりにしてるふたりを尻目に、テント設営してるろろちゃんにアイサツ。

かみ 「ろろちゃんも、今、来たばっかりなんだ?」

ろろ 「大変だよかみさん。ボクの大事なタマゴが割れちゃったよ」

かみ 「……もしかして……生卵もってきたの?」

ろろ 「リアボックスの中が、卵白まみれだよ〜」

それは自業自得だよろろちゃん。

 

好き勝手やってる連中は放っておいて、俺はとっととテント設営を終わらせる。

それから、晩飯の準備だ。

俺のキッチンは、固形燃料とガソリンストーブの、ツーバーナーシステム。

そして、『今回デビューの新兵器』が、右のヤカン。

ま、新兵器もクソも、100均で売ってた昔ながらの『アルミきゅうす』なんだが、とりあえず直火にかけて400mlくらいのお湯が沸かせることは、事前に実験してある。形がアレだから、収納こそ専用品に一歩ゆずるけど、コスパと軽さは最強だ。

あと、『乱暴に使っていい』っぷりも。

 

料理の準備をしていると、みるみる暗くなり、しんしんと冷えてくる。

かみ 「しっかし、寒いねぇ。もう息が白いよ」

ろろ 「もう、気温は0℃に近いからねぇ。今日は−4℃くらいまでいくらしいよ」

ま、それをわかってて野宴なんかしてるモノズキなんだし、文句は言えないけどね。

さすがに寒いので、早速、焚き火を起こす。

俺はワイルドターキーのボトルを出し、やる気マンマンで封を切った。

 

と、ろろちゃんが、今回の新兵器を引っ張り出してくる。

SOTOのレギュレータ・ガスランタン。

家庭用ガスでマントルを燃やす、マイクロレギュレータを内蔵したタフなガスランタンだ。

ろろ 「この上のところで、料理も出来るんだよ」

や、出来るかも知んねーけど、やめた方がいいよ。

 

と、POPOさんとよしなしが、焚き火のそばに寄ってくる。

それを見たろろちゃんが、笑いながら、

ろろ 「なんだいキミたちは、寄り添っちゃって。ホモなのかい?」

ろろちゃんの暴言にも耳を貸さず、ひたすら寄り添って暖をとるふたり。

よほど寒かったのだろう。もしくは離れたくなかったのだろう。

 

俺の方はといえば、単車で走ってるよりは暖かいので、まるっきし平気。

火には寄らず、早々に料理を始める。

毎度おなじみ、鶏肉のソテー。今回は『わさび塩』で味付けする、わさび風味だ。

 

ろろちゃんは、ランタンと同じSOTOのレギュレータストーブで料理。

レシピはビーフステーキ。

 

よしなしはいつもの冷凍鍋で、POPOさんはキムチ鍋だったかな?

魚介のダシがしっかり出てて、とても美味しいし、なにより身体が温まる。

「やっぱし、冬は汁物だねぇ」と思ってたら、ふいに思いついた。今日は朝のコーヒーだけじゃなく、コンソメスープも持ってきてるんだった。それじゃ、鶏肉をコンソメスープで煮込んでやろう。つわけで俺のレシピは急遽、チキンコンソメスープになった。

鶏肉を生から煮込んだので、灰汁(あく)とりが大変だった。

次回は焼いてから煮込むことにしよう。

味は……スープがインスタントだから、そんなに変じゃなかったけど、ちっと薄かったかな。

 

ろろちゃんは、割れたタマゴをつかって目玉焼きを作ってた。

持ってきた塩が、収納してた袋の中に散乱してて、その袋を逆さにして振ったもんだから、『悪魔的な塩味』になってたけど、そう言うのも含めてキャンプの料理は美味いね。塩を落とした部分をヒトクチもらったけど、やっぱり塩が落としきれてなくて、ものすげぇ高血圧な味になってた。

アレを3日つづけて喰ったら、絶っ対、すぐ死ぬ。

 

飯も喰い終わったところで、本格的に呑み始め。

今日はバーボンのお湯割りと、梅酒のお湯割り。

寒かったので、梅酒のお湯割りはすぐにソールドアウト。POPOさんやよしなしも、「次は梅酒を持ってこようかなぁ」つってた。なんだかんだ、寒いときは甘い酒が美味いようだ。俺も次回は、ウイスキーに入れる蜂蜜のボトルでも持ってこようと、密かに決心したり。

そしてますますメタボリック。

 

よし 「あぁ! クーラボックスの上がもう凍ってる!」

ちょっとでも火から遠い場所にある水分や、結露しやすいものにはすべて、霜が降りてキラキラ光ってる。俺はあわてて、近くにあったバッグや小物を引き寄せ、なるべく火に当たるようにして養生した。すると、よしなし先生がおもむろに、焚き火へマキをくべ始める。

「まだ寒いのかな?」と思ってると……

 

ケツを暖め始めた。準備運動だろうか(やめましょう)。

そのマヌケな姿に爆笑しながら、「おめ、コーモンが乾いてベンピになるぞ」とからかう。

ちなみに、よしなしの目の前でコンロにかかってるのは、ひたすら煮込まれたモツ煮うどん。「よし、煮込みすぎだろ。も、いいかげん溶けてんじゃねーの?」つって笑ったが、彼はそれでも頑としてゆずらず、延々とうどんを煮込み続けていた。

モツ煮かうどんで、アタったことでもあるんだろう。知らんけど。

 

ろろ 「今、何度くらいあるんだろう?」

つぶやきながら、ケータイを取り出したろろちゃんが、温度計を起動させる。ポケットから出された直後は高い温度を示していた温度計を見ていたろろちゃん、驚いたというより呆れた顔で、温度計の表示を読み上げてゆく。

ろろ 「うわぁ、みるみる下がってく……2℃……1℃……0℃……まだ止まらないよー!」

要するに我々は、『冷凍庫の中で宴会をしている』のだ。

ろろ 「ダメだ、寒い! 秘密兵器を出そう!」

言いながら引っ張り出したのは。

エマージェンシーブラケット。

非常時に使う、金や銀が蒸着された、薄いシートだ。

俺も夏のツーリングで野宿してるとき、山間部が急に冷え込んだ際に使ったことがある。ものすげぇ薄くて軽いので、持った感じは頼りないのだが、実はコレ、かなりやれる子なのだ。それを腰の周りから背中にかけて巻いたろろちゃん、「おぉ、背中からの風が気にならなくなった!」大喜び。

ろろ 「かみさんも、巻いてみなよ」

かみ 「どれどれ……おぉ! これはすごいね。確実に体感温度が違う」

ろろ 「薄いのに、すごいよねー♪」

買い込んだアイテムが、実際のキャンプで役立つと、実に嬉しいものだ。ロクに期待してなかったモノが、思いの外に使えたりすると、ここちよい満足感で満たされる。今回でいえば、ろろちゃんのシートや、俺の100均ヤカンなんかが、その幸福感を味あわせてくれた。

ま、『誰かのアイテムが役立ってると、それを欲しくなっちゃう』のは困るンだけど。

 

まだ宵の口といった時間だが、山はすっかり真っ暗。

だが、焚き火の周りは暖かくて、楽しい笑い声に満ちている。

 

かみ 「ちょ! ろろちゃん! 水が凍ってるよ!」

ろろちゃんのウォーターバッグの水が、すっかり凍り始めてる。

あらためて、自分たちが『冷凍庫の中で酒を呑んでる』のだということを、つくづく実感。だからかどうかはわからんが、この晩はいくら呑んでも酔っ払わなかった。いや、皮膚の感覚なんかは酔ってることを示してんだが、あまりの寒さにアタマがシャッキリしちゃって、酔った感じがないのだ。

たったひとりを除いて。

 

ろろちゃんといえば、映画好きで有名だ。

あの映画は見たか、この映画は面白い、なんて話をしてると、POPOさんが「どんな映画がすきなの?」と聞くので、それぞれ好みの映画のタイトルや、傾向について話した。んで、ろろちゃんが、「お涙ちょうだい的な作品が嫌い」つー意見を言った。

するとPOPOさんが、「俺もああいうのダメなんだよねぇ」と同意した……と思ったのだが。

次のヒトコトで、三人とも目が点になってしまう。

ぽぽ 「ああいうの、すぐ泣いちゃうんだよー!」

みんなしばらくキョトンとした後、ろろちゃんが恐る恐る、「そ、それはもしかして……嫌いって意味のダメじゃなくて、スキってこと?」と聞いてみると、POPOさんはニコニコしながらうなずいて、「そう、ダメなの。泣いちゃうんだ」と答えた。

「ぎゃはははっ! 好きなんじゃん!」

全員から突っ込み。

そしてこのへんから、俺とろろちゃん、よしなしの三人は気づき始めた。

POPOさんの様子が限りなくおかしいことに。

いつもの、あの穏やかな口調のまま、しかし、こちらの言うコトは一切、POPOさんに届かない。おそらくこういうことが言いたいんだろうなと考えて、「これこれこう言うコトですか?」と誘導しても、まったく関係ない答えが返ってくる。そしてそれを、延々と繰り返す。

その姿に爆笑しながら、俺は、ろろちゃんやよしなしに向かって言った。

「ああ、なるほど。普段、俺がどんだけメンドくさいかよくわかった」

ふたりが笑うも、POPOさんはお構いなしのマイペース。

 

ろろ 「POPOさんのイチバン泣いた映画は?」

ぽぽ 「えーあい、かな」

一同 「えぇ? あの『AI』のこと? 泣けねぇ! 泣くトコないよ、POPOさん!」

ぽぽ 「そんなことないよぉ、ブルーフェアリーがさぁ……」

ろろ 「ほかには?」

ぽぽ 「……う〜んと……楢山節考?」

ろろ 「それ、今、チャンネルNEKOでやってるってだけじゃん!」

絶好調のPOPOさんに、全員で大笑い。

ぽぽ 「ヤマハのあのバイクいいよねぇ。出たら欲しいなぁ」

よし 「こないだWRを買ったばっかじゃないですか。まだ買うつもりですか?」

ぽぽ 「だって、WRはもう買ったじゃん。バイクってさ、買うのがイチバン楽しいんだよ」

かみ 「その考えには賛成できん。走るのがイチバン!」

ろろ 「いや、それは正しいよ。ボクは今、毎日、中古バイクのサイト見てる」

そんな流れからろろちゃんが、CB1100F欲しいとか話してると。

POPOさん、ゆらゆら揺れながら、「えーあのバイクは……」とダメ出しをする。んで、話をくわしく聞くと、どうやら新しいCB1100と間違ってるようだ。それを指摘すると、しばらくはまたゆらゆらしてるんだが、思い出したように、「えーあのバイクは」と、同じ話。

最後の方は、俺もろろちゃんもよしなしも、ゲラッゲラ笑いながら、

「ぎゃはははっ! なに言ってんだあんた!」

ツッコミ放題に突っ込んでた。でも、POPOさんはニコニコゆらゆら。

腹筋が筋肉痛になりそうなほど、めちゃくちゃ笑った。

 

いくら呑んでも、泥酔するほど酔わない(POPOさん以外は)。

やがて誰ともなく、お茶やコーヒーを飲み始める。

俺はガソリンストーブを点火(つけ)るのがメンドーだったので、

ヤカンごと焚き火にくべて、お湯を沸かしてみた。

 

100円ヤカンだから出来る、アグレッシブな湯沸し方法。

 

焚き火を眺めながらまったりするのは、とても気持ちのいい時間だ。

残りのマキのハンパ分を、一気に燃やして最後のかがり火。

 

こうして写真に撮ってみると、とても泥酔してる風には見えないPOPOさん。

もっとも、こんな距離でボンヤリしてるから、ズボンはいいだけ焦げてたけど。

 

空を見上げると、ようやく月が顔を見せている。

「おお、月だ。キレイだなぁ」なんて誰かがつぶやき、それがまたPOPOスイッチを入れた。

ぽぽ 「あぁ! 月が三つあるよ! 大変だ!」

みんな大笑いして、また空を見上げる。

山賊宴会の時、いつも星空や月を見ながら「せっかくだから、この姿を写真に収めたいなぁ」と思っていたので、今回、俺は小型の三脚を持ってきていた。それを使って月の姿を写真に撮ろうと、相変わらず「月が三つ!」と騒いでる声をバックに、カメラをセット。

夜景モードにして、いざシャッターを押した瞬間、だれかがこちらへヘッドラップを向けた。

かみ 「あー! なんだよー! 明かりが入っちゃったじゃん!」

手前の草をヘッドランプが照らしてる。ま、コレはこれでいいような気もするけど。

「今度は照らすなよ」と釘を刺してから、もう一度、撮影した。

大きいサイズだとも、少しきれいに見えるんだけどな。

でも、今まで撮ったなかではイチバン上手くいったので、かみさん大満足。

次回もやってみよう。

 

そうこうしてるうち、焚き火がすっかり熾になった。

しばらくみんなでそれを眺めながら、穏やかに談笑し、やがてそれぞれの寝床へ散ってゆく。

POPOさん台風が吹き荒れた夜も、ようやく落ち着きを取り戻し、静かに更けていった。

 

 

明けて翌朝。

テントの中で目を覚ますと、クルマが走ってゆく音が聞こえる。

「ああ、よしなしは今日、なんか予定があるって言ってたっけ」と思い出して得心すると、そのままシュラフにもぐりこんで二度寝。やがてすっかり明るくなってから、もそもそと起きてテントを出た。テントの外で大きく伸びをしてから、振り返って見ると。

テントの外壁が、すっかり凍っている。

 

あたり一面、霜が降りて寒々しいが、しかし、清清(すがすが)しい。

焚き木を組んで、朝用の焚き火を起こそうとしていると、ろろちゃんやPOPOさんも起きてきた。

POPOさんはともかく、俺とろろちゃんは特に二日酔いもなく。

昨日の晩、なんだかんだ、ボトル一本を空けてしまった俺としては、なんだか逆に落ち着かないくらいだ。いやまあ、二日酔いなんて、無きゃ無い方がありがたいけどさ、もちろん。つーか最近はすっかり酒が弱くなって、ボトルなんて空けられなかったのに、おそるべし氷点下の山賊宴会。

毎回ボトル一本開けてたら、確実にカラダ壊すね。

 

ふと足元を見ると、大活躍した100均ヤカンが、ひっそりと佇(たたず)んでる。

たったひと晩で、まるっきし歴戦の勇者のような姿。

これからもハードな宴会が続くと思うけど、よろしく頼むぜ相棒!(たぶん嫌がってます)

 

さすがにPOPOさんは若干、二日酔い気味のようだ。

コット(キャンプベッド)を出して眠るPOPOさんと、それを見守るろろちゃん。

 

ちょこっと片付けちゃ、タバコに火をつけたり、焚き火に当たったりしながら、のんびりと片付け。

やがて、全部の荷物を積み終わったら。

本日のCrazy Marmaladeでっかいもん倶楽部は、ここで解散。

氷点下を、4℃も5℃も下回るような厳しい寒さの中、腹筋がちぎれるほど笑って笑って笑い倒した、今年の締めにふさわしい、実に楽しい野宴だった。ろろちゃんの言った、「一日で終わっちゃうのがもったいないね」ってセリフが、すべてをあらわしてるだろう。

今回これなかったヒトも、今まで二の足を踏んでいたヒトも。

次回はぜひ、一緒に呑んだくれよう!

春といわず、冬のうちにでも、ね(`▽´)b

 

 

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