The 112th big machine club
2012.03.31 第112回でっかいもん倶楽部 in 角渕 ―花も嵐も―
「さすがに先生でも、この週末はおとなしくしてるんだろう?」 オンボロ診察室で、おばあさんが言った。 「いや、キャンプに行くよ」 俺のセリフにおばあさんは目をむいて驚くと、次の瞬間、けたたましく笑い出した。彼女はどうやらジョークだと思ったようだ。だが、俺は本当にキャンプへゆく。天気予報では午後から暴風雨だと騒いでるのは知っているが、行かざるを得ない。 なぜならeisukeさんが、すでにエンカイの準備を始めているからだ。 <アサイチでミクシィにあがってた、eisukeさんの写真>
今日の宴会は、バイク事故で骨折したeisukeさんの『快気祝い』を兼ねている。 ずっと参加できなかった彼のために、多少の困難は無視しても、ぜひやりたい。 なにより、暴風雨に野宴というのが、『トラブルの予感』たっぷりで面白そうだ。 朝イチバンで荷物を積み込んだ俺の単車も、心なしか楽しそうである。 ちなみに荷台の白い箱は、購入代行を頼まれたマルのテント。 嫁さんの追及をかわすため、世のお父さん達は苦労してるのだ。
仕事がハネた午後1:30ころ、着替えてオモテにでると。 すでにポツポツきている。 防水のECWCS(戦闘服)とカッパの下をはいた俺は、単車にまたがって走り出した。 当初は野田まで走って、群馬へまっすぐ向かう国道へ乗る予定だった。だが土曜の午後の16号は、そんなに甘くない。荷物満載ですり抜けるのに疲れた俺は、予定変更、柏インターから高速に乗って群馬県を目指す。
常磐道、外環道、関越道と順調に歩を進めていると、高坂手前10kmあたりで。 ざぁーっ! バケツをひっくり返したような雨が降り出す。 「痛てぇ! 雨が痛てぇ!」 ほんの数日前、『気まぐれにカウルを外した自分』を、心から殴りつけてやりたい。 周りのクルマの速度が落ち、巻き上げる水しぶきで視界がかすむ。横を走るトラックのぶつけてくる、巨大な質量を持った空気が、たびたび車体をゆらす。そのたびに声にならない悲鳴を上げ、左手でヘルメットのシールドをぬぐって視界を保つ。 高坂SAに到着したときには、精も魂も尽き果てていた。 横なぐりに吹き付ける雨にさらされながら、アサルトリュックだけ外して喫煙所へ。 窓や扉が開け放たれていた喫煙所には、いいだけ雨が吹き込んでいる。 とりあえず、窓や扉を閉めて一服。すっかり冷えてぶるぶる震え、カチカチを歯を鳴らしながら、凍える手でリュックを開け、インナーダウンジャケットや必要なものを取り出す。ダウンを着込んで、少し寒さが和らぎ、ほっとため息をついたのもつかの間。 俺は新たな悲鳴を上げることになった。 「ケータイ、死んでる」 名古屋で買ったIS11SHには、防水のボの字もない。なのでECWCSの防水ポケットに仕舞ってたのだが、暴風雨の名にふさわしい強雨は、ポケットのフラップを押し上げて入り込んできたようだ。何をしても、ウンともスンとも言わない電話に見切りを付け。 とりあえず出発できるようになるまで休憩。
30分ほど待っただろうか、雨脚が弱まってきた。 チャンスだとばかりに服を着込んだ俺は、高坂を出て走り出す。雨は少し弱まっているものの、風は相変わらず強い。このまま高速を走るのはシンドいので、本庄児玉で降りて下道を走る。国道17号線に乗ってしばらく走っていると、目的地へつながる県道が見えた。 県道40号を曲がって走るうち、ようやく雨が上がる。
美しい空や山々の景色を眺めてると、すさんでた心が洗われるようだ。 途中のスタンドでガソリンを入れ、コンビニで酒とタバコを買いながら道を聞く。 そこからほんのちょっと戻ったところが、目的のキャンプ場だった。
単車を停めていると、よしなしとeisukeさん、popoさんが姿を見せた。 「すっごい降ってましたねぇ」 「や、おらぁ死ぬかと思ったよ。よしなし知ってるか? 雨の日はバイク乗っちゃダメだ」 「ぎゃははははっ!」
バカ話しながらキャンプ場へ入り、荷物を降ろしてテントを引っ張り出す。 すでに到着していたマルに、手伝ってもらいながらテントを組んでいると。 テントが風で飛ばされた。 太陽は顔を見せてくれたが、風は一向におさまらないようだ。 青いシートが掛かってるのは、ろろちゃんのBMW。 夜勤明けでやってきたからだろう、ろろちゃんはテントの中でまだ寝ている。 俺はといえば、テントの設営を終えたところで、ケータイの養生だ。 つっても天日に干して、あとは運を天に任せるだけ(それを養生とは言いません)。
今回はeisukeさんの快気祝い……なのだが。 当然のことながら、いちばん張り切ってるのは本人。朝イチから大テントを張り、モツ煮にいたっては前の晩から仕込んでいる。他にも大量の食材を買い込んであり、正直、全部食べ切れるかも怪しいほどの量だ。それをミクシィで見た俺達は、全員一致で食材を持ってこなかった。 結局、eisukeさんの快気祝いなのに、eisukeさんの振る舞い宴会という始末。 「いいのかなぁ……まあ、本人がニコニコだからいいか」 と笑ってると、ろろちゃんも起きてきた。
ひと通り準備が整ったところで、好き勝手に酒盃をあけていると。 「こんにちは〜」 見たことのない女性がやってきた。 eisukeさんの友人である、たむちさん。モツ煮を食べにやってきたと笑いながら、野菜を差し入れてくれたので、早速、ありがたくいただく。歳くったからか、ここんとこ野菜がやけに美味く感じる俺には、とっても嬉しい差し入れだった。 eisukeさんが、たむちさんに皆を紹介したところで、酒宴はまったりと続く。 と。 インチキロシア人みたいな帽子をかぶったeisukeさん。 いきなりデカい箱を持ってきて開き始めた。なんだろうとながめていると。 バカでかいビザだった。それを炭火で焼きながら、上からバーナーであぶってる。 ヒトコト言わせてもらえば、それはピザの作り方じゃねーですよ。
たむちさんは、eisukeさんのご近所さん。 俺(千葉)、マル(栃木)、ろろちゃん(埼玉)、よしなし&POPOさん(茨城)と、それぞれの家が別々の県だったので、「eisukeさんは群馬の代表なんですからね? あんまむちゃくちゃしてると、群馬県民に怒られますよ?」とからかってると、たむちさんが笑いながら。 「これが群馬の代表? 違いますよ!」 と力強く否定したので、みんなで大笑い。 ま、群馬県民つーか、ロシアンマフィアだけどね、見た目は。
マル、POPOさん、よしなしも、もちろん、それぞれ好き勝手。
eisukeさんのモツ煮に舌鼓を打つろろちゃん。 まる一日ほど煮込んだモツは、すべての具材が柔らかくて、とんでもなく美味かった。 つーか同じようなニット帽をかぶってるのに、eisukeさんはロシアンマフィアにしか見えないし、ろろちゃんはどう見てもテロリスト。なんだかとっても不思議だね(不思議も何も、あなたのさじ加減ひとつです)。
陽はゆっくりと傾いてゆき、宴(うたげ)もゆっくりと……はすすまない。 普段でさえ『田舎のおばあちゃん』並に、次々と食材を引っ張り出すeisukeさんが、今日は久々の山賊宴会で全力疾走してるのだ。モツ煮やピザのあとには、30センチ以上はありそうなベーコンのカタマリを引っ張り出してくると、ザクザク切って炭火の上に並べてゆく。 一辺が450mmある焚き火台と比べれば、その大きさがわかるだろう。 「eisukeさん、時間はたっぷりあるんだし、のんびりやりましょうよ」 「うん、そうだね。あ、ベーコンはもう一本あるよ? 出そうか?」 いいからヒトの話しを聞け。
雨は上がっても、風は強く、しかも冷たい。 俺とマルは、「寒い寒い」と騒ぎながら、段ボールや焚き木の束を使って風よけを作り、さらにeisukeさんのグリルを借りて、暖を取るための焚き火をはじめた。景気よく炎が上がると、冷えていた身体が一気に温まってゆき、酔いも心地よく回る。 ちなみにグリルの下には、日本酒の五合ビンが、二本ならんでビンごと熱燗されてる。 「うおーあったけぇ。やっぱ焚き火だな」 一気に元気になった俺は、調子に乗ってガンガン酒盃を干してゆく。みんなもそれぞれ、喰ったり飲んだり騒いだり笑ったり、いつものように好き勝手。 やがて用事のあるたむちさんが撤収。また宴会やる時は遊びに来てね。
残った山賊どもで、酒を呑みながら大騒ぎ。 キャンプ場にはボーイスカウトらしき連中がたくさん居たんだが、そのうちの数人が軍服を着ていて、それが気になってしょうがない。俺と同じACU迷彩もいれば、別種の迷彩服を着こんだヤツもいて、テントには国旗まで掲揚している。 「あれ、ホントにボーイスカウト? 軍人じゃねーの?」 などとバカ言いながら飲んでいると、eisukeさんが携帯を取り出した。
「mioちゃんにスカイプしようって言われてたんだ」
いつの間にかTV電話さえあたりまえになってるんだなぁと感慨にふけってると、やがてmioちゃんと電話が繋がった。eisukeさんがしばらく話してから、こっちへ電話を貸してくれたのだが、画面で見るmioちゃんの様子が、なにやらとんでもなくおかしい。 「かみさん、呑んでます?」 「つーかよ、おめ、なんでそんなにデコが光ってるの?」 まあ、光の加減なんだが、あまりにテラテラと光ってる様子がおかしくて、皆で大笑いしながら電話を回してゆく。TV電話で顔を見ながらしゃべれて、しかも通話料が無料だってんだから、まったく時代ってのは流れてる。ガキのころの俺に言っても信じないだろうなぁ。 つーかムラタにもスカイプ入れろつってんのに、なかなか入れないんだよなぁ。 コレ読んでたら、とっとと導入しれ。 よく見えないけどTV電話のmioちゃんと、すでに酔っ払ってるよしなし。 ちなみに髪の毛を伸ばしたよしなしは、マルや俺、ろろちゃんに、「髪の長いよしなしなんて、よしなしじゃない」だの、「税務署員みてぇ」だの、「大江千里」だの、好き放題の暴言を吐かれてた。ま、寒い時期は髪の毛伸ばしたくなるんだけどね、実際。
悔しがるmioちゃんをツマミに、ゲラッゲラ笑って呑んだくれてると。 「ういーっす!」 ユウヒがやってきた。 もちろんみんな大喜びで迎え入れる。 そしてTV電話の向こうのmioちゃんへ、「おう、mioちゃん。ユウヒが来たから、もはやキサマに用はない。切るぞ、じゃあな」と、さんざん弄りまわした挙句にひどい仕打ちで電話を切った。でもmioちゃん。言わせてもらえれば、近いのに来ない君が悪いんだよ。 反省したまえ。
ユウヒを加えて、プロトン(集団)の熱はさらにヒートアップ。 呑んで喰って笑って、大騒ぎ。 寒いことは寒いんだけど、それも焚き火のそばにいれば全然平気だ。 火を囲んで呑みながらしゃべる。こんなに楽しいこと、なかなかあるもんじゃない。
ユウヒとろろちゃんの天才ふたり。 彼らの淡々とした語り口のジョークには、気を抜くと簡単に腹筋を崩壊させられる。
楽しい話と酒でゴキゲンになっちゃった、かみさん42歳。 まさに絶好調。 「かみさん、焚き木はもう、そのへんでいいよー」 「おっさん、燃やしすぎ! 誰か止めろ!」 「あーきーもちーなー! 登っちゃおっかなー!」 「こら、酔っ払ってんのにアブネーっつの!」 なんとかと煙は高いところが好き。
一方、われらがキャンプリーダーPOPOさんも、最近のデフォルトで泥酔。 そのリーダーを、ろろちゃんあたりがニヤニヤしながらからかう。 俺はさすがにこのあたりでスイッチが切れたので、あんま覚えてないけど、最終的にはPOPOさん、なんか色んなことをしゃべらされていたような気がする。まあ、聞いてるほうも酔っ払ってるから、きっと覚えてないだろうけど。もしくは後々、地味に脅迫されるかもね。 それはそれで面白そうだね(明日はわが身です)。
やがて、昼間の嵐の疲れや花粉症の影響か、さすがに起きてられなくなった俺は、テントにもぐりこんだ。たぶんこのへんでみな、それぞれテントに入ったり、呑んでないヤツは帰ったり、眠くないやつは焚き火をながめて飲んだりと、相変わらずそれぞれ好き勝手にやっただろう。 この好き勝手さ加減が、山賊宴会のいちばんすばらしいところだ。 宴の夜は、こうして更けていった。
朝、目を覚ますと。 二日酔いはないが、花粉で呼吸が苦しい。 トイレに起き、eisukeさんやろろちゃんに朝の挨拶をしたら、テントに戻って自作のアルコールストーブで湯を沸かす。ふたつ作って持ってきたのだが、ひとつは使いづらく、ひとつはかなり良かった。なので、使いやすい方をベースに、また新しいのを作る予定。 しばらくテントの中で暖をとっていると、呼吸が楽になってきた。
テントから這い出して、焚き火をしてるろろちゃんの横へ座る。 取り留めのないことを話しながら、ゆっくりとタバコを一服。 「腹が減ったから、何か買ってこよう。ろろちゃんもなんか要るかい?」 リクエストを聞いてビューエルにまたがり朝の買い出しへ。数キロ先のコンビニで、弁当だの味噌汁だのを買い込んで戻ってくると、よしなしが起きだしていた。なので味噌汁はよしなしにあげて、俺とろろちゃんは弁当をほおばる。 朝ののんびりした空気の中、三人でバカ話しながらまったり。 eisukeさんはアサイチでいったん家に戻り、町内会の仕事をして戻ってくるという話だったのだが、俺は今日、色々と忙しいので、ひと足先に帰る準備をはじめる。テントを干しながら荷物を片付け、バッグに詰め込んでゆく。 それを見たろろちゃんやよしなしも、帰り支度を始めた。 ちなみに泥酔してたリーダーは、後ろのテントで夢の中。
帰り支度が整って、荷物をビューエルに積み込んだところで。 本日のCrazy Marmaladeでっかいもん倶楽部は、つつがなく終了。ふたりに片手を挙げてアイサツしたら、猛烈な勢いで俺の目や鼻を侵食する花粉と戦いながら、ゆっくりと走り出す。楽しい連中との楽しい宴会を思い出しつつ、俺は単車のフロントを柏へ向けた。
山賊どもとのこんな時間があるから、俺は日々、がんばれる。 そしてそれは、連中もきっと同じだと信じる。 だから山賊宴会の後の言葉は、「ありがとう」じゃないような気がするんだよね。
てなわけで。
「またやろうぜ!」
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