The 33rd big machine club

2007年11月21日

33rd Crazy marmalade でっかいもん倶楽部 in 茨城〜栃木 ラン・マル・ラン

 

電話をとる前から、相手はわかっていた。

水曜の正午近く。バリバリ仕事中の俺に電話してくるやつなど、そうはいない。

もちろん、栃木が生んだ最変態単車乗り、マルに決まってる。

 

そして用件もほぼ見当が付く

走りに行く時間が出来たのだろう。

ならば『ランツァで茨城の林道』は中止だ。

 

「おぅ、かみ。今日、どこ行くん?」

「決めてねー。どこ行く? 筑波か?」

「筑波じゃなくて、違うところ走りてぇ。ビーフラインはよ?」

「お、いいね。んじゃ、ビーフにしよう」

 

てなわけで、「ビーフラインのスタート、国道50号から県道一号線に入ったあたりで待ち合わせ」と言う話に決まり、電話を切る。切った途端、俺は整骨院のウラに行って、こ ないだ買ったばかりのレンチを取り出し、ハヤブサの車高を上げた。

緩んでたミラーも閉めこんで、準備は完了だ。

 

午後1時10分ころ、仕事終わりと同時にマルへ連絡を入れ、ウキウキと出発。

県道8号船取線を北上し国道6号に出る。

思ったより車が多いので、ちょっと焦った。

「こりゃ、二時間じゃ行かないかなぁ」と思いつつすり抜けし、霞ヶ浦あたりで給油がてらスタンドのおじさんに、笠間へ行く道を聞く。その説明どおり、恋瀬橋を越えた辺りで355号に乗って笠間へ向かい、50号にぶつかったところで、左へちょっと行くと 。

フルーツライン出口のコンビニに、朋友マルがいた。

「おー! マルぞー、悪りぃ。下道(の混み具合を)なめてた」

「俺はとりあえず飯を食う」

会話が成り立ってないのは、マルのセリフの前に(ああ、そう。ま、そんなことはどうでもいい。そんなことより腹が減ったから、)という言葉が省略されているからだ。さすがに長い付き合いなので、俺とマルのふたりしかいないときは、こんな感じの省略が多い会話になる。

 

ここで一服したあとビーフラインへ向かうわけだが。

あまりに近くに出すぎたせいで、どっちへ行くンだかわからなくなってしまった。

俺の脳内地図はおおざっぱすぎるようだ(大雑把にも機能してません)。

 

携帯で地図や助手席ナビを見たり、はてはコンビニで笠間の地図まで買って調べたがわからん。

「かみ、その地図は世界で一番使えないんだぞ」

「余計なこと言うな、クソマル。だいたい、なんで俺を頼ってるんだよ、てめーは。この間まで、方向音痴だって馬鹿にしてたくせに」

などとじゃれあいつつ。

「それじゃぁ、もし間違ってたら、そのまま地図に載ってるダムの方へ行ってみようという」

代替案込みの修正案が出たので、俺とマルは50号を東へ向かって走りだした。

代替案があるだけ、少しだけ、成長のあとが見えるね。

 

 

走り出して程なく、県道1号の看板が見える。ビーフラインの入り口だ。

よかったと喜びながら、ふたりでビーフラインを走り始める。

一本道のところはマルを先に出して後追い、分かれ道とか、曲がるところがあるときは、俺が前になって走る。ビーフラインはマルの好きな中高速コーナーが結構あるから、喜ぶだろうと思ってたら。マルのヤツは案の定、最初の信号で停まったとき

「うん、いい道だ」

と喜んでた。

 

初見なので、あまりキチガイじみたスピードは出さないマルの後ろで。

俺も速度よりコントロールに気をつけながら走る。

長い付き合いの間、マルのケツばかり見てたからだろう。

一緒に走っていると、肩の力が抜けて、気分よく走れる。

 

同時に、自分の走り方を思い出す。

 

『ああ、この間の首都高は、視線が甘かったんだなぁ』とか、『風返しでうまく走れなかったのは、この感覚でSDRを走らせたからかなぁ』とか、反省点が見えてくるのも、なんだか楽しい。次の動きが予測できる、長年の相方とランデブーしながら、俺はいろんなことを思って走った。

長い直線も、アホな速度は出さない。

なんとなく暗黙の了解で、ふたりとも80%程度の走りで、心地よくビーフラインを駆け抜ける。

いや、マルはもしかしたら60%くれぇか知んないけど。

 

両脇の紅葉を眺める余裕さえある、穏やかでスムーズな走りだ。

しっかし、マルは走ってるときだけはすげぇな。

ツラが不細工なのに、なんでフォームは綺麗なんだろう。

 

国道118号線にぶつかったところで、マルに振り向いて言う。

「この先は、あんまり覚えてない」

するとマルゾー、しばらく考えてから、なにやらコースを決めたらしく、先に立って走り出した。

 

あまりに混んだ時以外は車をパスすることもせず、のんびりとしたペースで118号を北上する。

やがてコンビニに入って、単車を停めた。

「こっから袋田の滝を見て、そのあと、氏家の方に抜ける道を走ろう」

帰ってからふたりで検証したところでは、マルはこの段階で道を勘違いしていたようだ。

本当は手前の県道29号を折れて、烏山から氏家へ抜ける道を通るつもりだったらしい。だが、マルの中で、その道と袋田から馬頭へ向かう国道461が、ごっちゃになってたみたい。 もちろん、俺の方は地図を持ってきてない段階で、なんのこっちゃわからんので、素直に従う。

 

それにしても、日が短くなった。

 

いや、この二枚は、上の写真を加工して雰囲気を出したんだけど。

でも、実際、感覚的にはこんなカンジで、見る見る日が傾いてゆく。

それでも、このあとの道を具体的に想像できない俺は、ウキウキわくわくで、マルゾーと一緒に走る。

正直、袋田の滝よりワインディングのほうが楽しみ。

 

んで、袋田の滝へ付いてみると、どこもカシコも有料駐車場で、単車を停めるところがない。

ぐるっとひと回りしたところで、マルの横に単車を停めた俺は、ヤツの『どーする? 帰ぇるべか?』というセリフに大きくうなずき、『ワインディング、日が暮れる前に行こうよ』とがっつく。

童貞の初体験並みのがっつきっぷり。

 

結局、袋田の滝はスルーして461に乗った俺たちは、西を目指してひた走る。

確かに道はそこそこツイストしているが、いかんせん、車が多い。

そのうち、馬頭の手前あたりで間違いに気づいたマルは『悪りぃ、道一本南だったみてぇだ』とわびる。

だが、マルが待たなくていいくらいは、背中に食いついていけるのが嬉しい俺さま。

「いや、いいよ別に」と、寛容なもんだ。

 

午後6時になったあたりで『宇都宮まで30km』の看板が出る。

この段階で、マルの狙いは完璧に読めていた。

だまくらかして遠回りさせ、俺をアホほど走らせようというのだろう。だが、メガツアラー二台並べて走る楽しさに、いつまでも走っていたい気分の俺にとっては、むしろ大歓迎の企(たくら)みなわけで。294号にぶつかって、

「これ、左に行けば帰れるぞ?」

と言われたときも、アッサリうなずいただけで、そのまま直進する。

 

氏家あたりのコンビニに入って、トイレ休憩。

タバコを吸いながらマルのヤツが、嬉しそうにつぶやく。

「やっぱブラバの横はハヤブサが絵になるな」

( こいつ、よっぽど俺がクルーザ乗ってるのが気に入らなかったんだなぁ)

と心の中で苦笑しながら、しばらくバカ話に花を咲かせる。

 

そのうち、俺は大事なことを思い出した。

ハヤブサの光軸は、シャコタン状態に合わせてあるので、このままだと暗い道を走れない。

なのでマルに例のレンチを見せびらかしながら(カケラも羨ましがってなかったけど)車高調整。

5分かそこらで無事、シャコタンになったら、もう一服して、帰ろうかマルちゃん。

 

「おめ、ガスはよ?」

「途中で入れる」

 

走り出してしばらく行くと、スタンドがあったので、給油。

気づかないで行っちゃったマルも、途中で待ってた。

合流して走り出したら、徳次郎を左折。

そのまま走れば東北道、宇都宮インターの入り口だ。

 

チケットを取って、単車を端に寄せ、最後の一服。

ここで写真を撮ってたら、マルが俺を撮ってくれると言う。

「そりゃ助かるわ。自分の写真が少なくて、いつもさびしいから」

カメラを渡してポーズをとると、マルゾー。

なにも言わずにシャッターを押して、撮れた写真を確認したあと、にっこり笑って『よし』

それが、下の写真だ。

 

ちっともイクナイよ、マルちゃん。

ナニがどう転んだら『よし』なの? 半目じゃん俺。

 

んで、てめぇはオスマシしてやんの。

キタネェぞ、この着膨れ大魔神(ヒトのコト言えません)

 

「かみよぉ、俺、栃木インターで降りるかしんねー」

「あーよ。つーか俺、寒みぃから飛ばさねーぞ?」

「ウソツキ」

「どっちが」

 

そんでも鳥目のマルと寒さに震えてる俺の、ダメ人間ふたり。

東北道を180〜200スピード(1スピード=0.5km/h)ぐらいのペースで、ぶっ飛ばすと言うより滑るようにスムーズに走る。いや、スムーズだろうがナンだろうが、寒いもんは寒いんだけど、マルとこうして高速を走るのは、なにやらやけに気持ちいい。

前が開けてマルがガバっと開けても、今までみたいに遅れることはない。

 

暗いしそこそこ混んでるので、イケそうな時も三車線使って抜いたりはせず。

ひたすら二台、縦に並んでランデブー

闇の中に光る、テールライトの群れ。

寄ってくる四輪もスムーズにかわし、ガキがじゃれあいながら走るように、光の渦へ飛び込んでゆく。

 

おっと、赤灯だ。

 

思うより先に、マルがするっとパンダの後ろへ。

「同じこと考えてやがる」

と苦笑しながら、俺もその後ろへ。左に寄ったマルの横へ、車体三分の一ほど入れて、ふたり並んでパンダのテールを照らしながら、100スピード巡航。やがてパンダが左へどくと、その横を 100巡航のままゆっくりと抜く。

パンダが左へ抜けて見えなくなたっところで、じわじわと速度を上げるマル。

徐々に速度が上がり、でも、栃木インターはもうスグだし、風もずいぶん強い。

示し合わせたように、160前後で巡航しながら、車の列を縫って踊る。

 

へへっ、気持ちいいや。

 

 

栃木インターが見えたところで、マルが速度を落とした。

俺はハヤブサをその横へ並べる。

出口の分岐で、マルがホーン。俺は左手を上げて、そのまま加速してゆく。

 

第33回 crazy marmalade でっかいもん倶楽部は、こうして初冬の寒風の中に終わった。

再会の約束も、今日のねぎらいも要らない。

俺もマルも、時間があれば、ただ走る。

 

単車乗りの言葉は、排気音と単車が切る風の音、そして、道の上で共有した時間。

 

それだけでいいんだ。

 

 

なんてカッコよく終わりたいところなんだが。

そのあと電話で、キッチリ次に行くコースを決めてたりして。

 

「かみ、日塩から霧降、さらにワインディングをつないでってコースはどうよ?」

「お、いいねぇ。つーか今、地図みてるんだけど、その最後のところ面白そうだ」

「あんまり綺麗な道じゃねぇんだけどな。そんうちヒマになったら行くべよ」

「おう。あ、その前に一回、俺、独りで行ってみるわ」

 

電話越しに聞こえるダチの声をツマミに、酒盃を傾ける。

 

「今日、本当に走ろうと思ってた道も、面白いんだぞ? 地図見てみ」

「え〜と……お、こりゃいいねぇ。こっち先に行こうかな。近いし」

「でもよ、おめ、結局、俺の策略に乗って、バカみてぇに走ったな」

「あーよ。かえって地図見た瞬間、どっと疲れたぞ。でも、面白かったからいいや」

 

ふと、一瞬の間が空いたあと。

朋友は、鼻で笑いながら嬉しそうに言った。

 

「バカだなぁ」

「バカだねぇ、お互い」

 

バカだから、懲りもせずに、また走るんだよ。

 

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