The 55th big machine club

2008.07.26-27 第55回でっかいもん倶楽部 in 三重

〜慣らし運転ツーリング〜

 

俺は慣らし運転が嫌いだ。

ぶん回せないし、1000kmも気を使って走ってると変な癖がついてしまいそうで嫌なのだ。なので、嫌なことは一気に終わらせてしまおう。さらに、嫌なことには好きなことをセットにして、つらさをごまかしてしまおう。つわけで週末、ダチのおーがの家にゆくと決める。

三重にあるおーがの家までは、だいたい400km強。

往復すれば一瞬で慣らし運転が終わる計算だ。土曜の仕事がハネたのが午後1:00。一度家に帰ると、帰っただけで汗だくになる。Tシャツとジーパンでさえこの状態なのに、サマージャケットとひざのプロテクタをつけたら、確実に熱射病になれるだろう。

こりゃ厳しそうだとゲッソリしながら、午後2:00ころだったか? 家をあとにする。

今回は、この手ごろなシートバッグに着替えを詰めて走る。

 

柏から常磐道に乗り、首都高へ入る。

タコメータ上限が6000rpmだから、だいたい150くれぇまでか。

首都高あたりだと、150も出てれば結構バンクしてコーナリングできるから、面白いと言えば面白い。『おー今、ブレーキぜんぜん使わないで走ってる。rakみてぇ』わめきながら走り、『ってことはあいつ、あのペースでもこのくらい余裕があるのか』と、軽く凹んでみたり。

一時間くらいで首都高も脱出し、東名に乗ったらまずは海老名へ。

この段階で、サマージャケットは汗びっしょり。ガードをつけた脚も汗だく。

 

さて、ここからは150巡航のつらい旅が始まるのだが、ただ走ってるとホントにしんどいので、とにかく加減速しないと言うルールを決める。クルマの流れの先を読んで、アクセル一定、ブレーキを使わずに走り抜けるのだ。どうしてもって時はエンブレで減速する。

前傾姿勢のハヤブサやR1000の場合、どうしてもだんだん視線が下がり気味になってしまうので、それを矯正するためにもいい練習になるだろう。とにかく、よどみなく走ることを心がけて、淡々と距離を稼ぐ。面白いって程でもないが、ただ漠然と走るよりは良かった。

R1が一台、えらいのんびり走ってて、GO!!!君のR1と似たような色だったので

「おっめ、その単車。ホントはアホほど速いんだぞ」

とかメットの中で突っ込みつつ、由比の海を眺めて走れば、あっという間に牧之原。

つーかとにかく、停まると暑い。

 

浜名湖を抜けながらVTXを押したことを思い出したり、ここらでマルとやりあったっけと思い出に浸りながら走る。とにかく6000rpm、とにかく150は精神衛生上よくない。時々飛んでくクソ速いクルマに中指立てながら、『てっめ、慣らし終わったら見てろよ』と負け惜しみ。

「豊田で検札があるから、あそこでフラとおーがに連絡入れよう」

中部に住む俺の兄弟、V-MAXジャンキーのフラナガンには、今回の三重行きを伝えてあった。するとバカだけにバカらしく『俺も行きますよ。ミチル君にも声かけてみます』との返事。なので、どっかでフラと待ち合わせて、一緒におーがの家に行こうぜという話になっていた。

ところが。

あのさ、豊田の検札、いつの間になくなったの?

このまえ来たときとイメージが違うなぁなんてのん気に走ってたら、緑カンバンに『伊勢湾岸道路』書いてあり、分かれ道になってる。おや? と思いながらそっちへ向かうと、いつの間にか伊勢湾岸に入っていた。びっくりして、慌てて刈谷のSAに入り、おーがとフラに電話。

刈谷SA。夜見ると、観覧車がすげぇキレイなんだけど、昼間はどうってことない。

 

『到着時間は、8:00か9:00ころかなぁ』なんて調子のいいこと言ってて、5:45じゃ早すぎる。向こうの準備もあるだろうと、まずは今夜の宿の主、おーがに電話して、早く着いた旨を伝える。正確に言うとヤツに酒を冷やす時間を与える。どーよこの気遣い(欲望です)。

「あ、おーが? 俺さ、今、刈谷に居るんだけど」

「ちょ、近っ。んじゃ、ウチのそばのインター出たら電話くれ」

「了解ー!」

続いて、待ち合わせるはずのフラにも電話。

「おー、フラ。俺さぁ、もう刈谷に来ちゃったよ」

「早っ! 何やってんすか。んじゃ、今から向かいます。7:00にはならんと思います」

「わーった、んじゃインター出たところで」

タバコを一本吸い、出発した。伊勢湾岸に出てしばらく順調に走ってると、さすがに最近は目ざとくなった、つーかこの速度だから気づいたんだが、覆面が走ってるのを発見。当然、アクセルを開けてホーミングし、ピタリと後ろにつける。シールドを開けてウインク。

すると覆面、見る見る速度を上げる。

もちろん赤灯もつけてないし、サイレンも鳴らしてない。つまり緊急車両ではないわけだ。なのに覆面、すんげぇいいペースでガンガン走ってゆく。面白くなってきて俺もくっついて走った。すると俺のR1000のメータ読みで、かるく140オーバーをマーク。

合法スリップストリーム。

 

そんなことしてたら、あっという間に出口に着いた。

んで、おーがに電話したら『フラと合流したら電話しれ』つーんで、しばらくここでフラを待つ。ところがいくら日陰になってるとは言え、さっきまでアホみたいな太陽に照らされ続けたアスファルトだ。試しに地べたに座ってみると、軽く悲しくなるくらい蓄熱してる。

こんなフライパンの上では待ってられないと、近くのコンビニへ。

コンビニでジュースを買ってグビグビと呑みながら、軽く熱射病チックな自分に気づく。

フラにコンビニへ移動した旨をメールしたら、さて、このクソ暑い中、どうやって時間をつぶそうか。そうだ、おーがに連絡して、ここに来させよう。さてメールして、と。お、メールが返ってきた。どれどれ、何分くらいで来てくれるかなー? えーなになに…… 『遠いやん』

うっせーボケ! 遠いってナンじゃ! 俺は400km彼方から来とるんじゃ!

薄情モノは放って置くことにする。

んで仕方なく、灼熱の三重くんだりまで来た俺は、哀しい時間つぶしの作業に入る。

ステッカはがし。二秒で飽きた。軽く自閉しかけた。

待っても待っても、フラが来ない。『もしかしたら、ヤロウ、捕まってキップ切られてるんじゃねーか?』とかなり楽しい妄想が湧いてきたので、もしキップ切られてたら、俺を待たせたことは許してやろうと決心する、心の広いかみさん(それを心が広いとは言いません)。

結局、ダチにメールしたり、タバコ吸ったり、小説の概要を考えたりして待ってると、1時間以上待った7:30ころ、バカで役立たずのフラ公から、のこのこメール。『かみさん、もしかして、インターを出た反対車線にあるサークルKですか?』野郎、行き過ぎやがったな。

案の定、行き過ぎたようなので、そこで待ってろと電話して、R1000にまたがる。

5kmほど走った先で、フラがショボンと待ってたので、開口一番、もっとも大切なことを聞く。

「キップは? フラ、キップ切られたんだべ?」

きょとんとしたあと、『いや、切られてませんけど』と答えるフラ。そうなればもう用はないので、んじゃ、おーがの家に行くからついてこいと言い放ち、R1000のアクセルを開けた。おーがは最近引っ越したので、まず、前の家に行ってから、迎えに来るおーがを待つ。

そこまでの下道を、フラを従えた俺は、ご機嫌にすっ飛ばした。

 

言っても150出るなら、街中では充分だ。5〜6000rpmあたりから、そこそこトルクが出てくるので、追い越しやすり抜けにも支障はない。通勤でだいぶん慣れてるので、扱いにも違和感はない。おし、こいつの速さを慣らしなりだがフラに教えてやろうと、少し飛ばす。

R1000の軽い車体とクイックなハンドリングは、街で振り回すにも強力な武器だ。

信号で停まるたびに『動きが軽いですね〜』と感嘆の声をあげるフラナガン。こっちはこっちで、多少は遅れるものの、それなりについてくるフラのV-MAXに『相変わらず、足の出来はピカイチだなぁ』と驚嘆する。や、もちろんV-MAXはエンジンがいいんだけど。

やがて旧おーが邸の前に到着し、おーがに電話を入れてからフラと一服する。

「くそー! 慣らし中にどっかでぶち抜いて『GSXに勝った』って言おうと思ってたのに」

「フラ、いいか? 俺はな、もはやおまえの手の届かない領域まで行ってしまったんだよ」

正確には俺が行ったわけじゃなくてR1000がすげぇだけなんだが。そんな風にバカ話をしてると、やがてストトトトッとエンジン音が聞こえ、おーががモンキーでやってくる。R1000を見るなり『うっわ、小っせっ!』言うので、『乗った感じは400ccみてぇだぞ』と答える。

つーか、そんなことより暑くて死にそうだ。

酒と水風呂が、今の俺に最も必要なのだ。

 

新しいおーが宅へ到着し、ヤツの嫁さんにして俺の愛人『飼い主様』と、愛息にして俺の愛人『UKT』、それに最近家族に加わった愛娘『NNK』のお出迎えを受ける。家の前、『え?そこに置くのか?』的な場所へR1000とV-MAXを停めたら、とりあえず飼い主ちゃん、風呂。

汗臭いヤロウふたりは新居にズカズカ乗り込む。

俺はすかさず、水浴びさせろと騒いで、タオルと着替えを受け取ると、マッハで風呂場へ。シャワーで水を浴びて火照った身体を冷やしたら、おーがの甚平に着替えて、さあ、酒もってこい! フラが風呂から上がるまでなんて、待ってられるかボケ!とわめく。

つっても、久しぶりのおーがとの再会だ。

色々喋ってビールを開けるのを忘れてるうちに、フラも風呂から上がってくる。『あれ? 待っててくれたんですか?』待ってるかアホタレ。いいから早く呑むぞ! ゲラゲラ笑い、大騒ぎしながら、太陽に焼かれてた干物かみさんと愉快な仲間たちは、ようやく乾杯。

アホづら、おーが。

呑んだくれて話をしてるときに、おーがが『かみ、モザイク入れるな、めんどくせぇ』とめんどくせぇのはおまえじゃなくて俺なんだが的アタマの悪いセリフを吐き、それを聞いたフラ公も『あ、それじゃ俺も。モザイクかかってると、なんか負けた気がする』とかキチガイ発言。

なので、このレポからおーがとフラ公はモザイクなしの、映倫不許可モードで行く。

 

風呂から上がって、俺と同じくおーがの甚平を着てるフラナガン。

 

おーがの愛息UKTは、俺に異常になついている。

この日も俺の顔を見るなり、膝の上に上がってこようとしたのだが、ご存知のように子供の体温は高い。風呂から上がったばかりなのに、生きたカイロなんて抱いてたくない。それを見越したおーがが『UKT、かみはまだ暑いから、しばらく膝の上に乗ったらあかん』。

んで、しばらく呑んだくれてると、UKTはおーがに向かって

「もう、かみの膝にすわっていい?」

さすがに負けたので、好きにさせる。するとUKTは俺のひざに座って、顔を触ったり話しかけてくる。なにこのおさわりパブ的な状況におーが、『UKT、おまえ、ほんっとかみ好きやなぁ』と苦笑。ゴーストライダーを二時間通して見続ける5歳は、単車乗りが大好きなのだ。

 

やがて飼い主ちゃんが、ハマグリ汁とハマグリの炊き込みご飯、それにドテ煮を出してくれた。ロケーション的に期待通りの、有名な桑名のハマグリだ。まずいわけがない。むしろ喰っちゃったらしばらく他のハマグリが喰えなくなるつーくらいの絶品だった。

ドテ煮は濃厚な出汁が効いてて、味噌の甘さが気にならないくらい旨い。

俺は関東人なので『お、コレ旨いなぁ』くらいの反応だったが、おーがとフラナガンのダメダメ名古屋人たちは、ものすげぇイキオイで『うめぇ! マジでうめぇ! ヤバイぞこれ』つって騒いでた。なんでおーがまで騒いでるかつーと、いつもよりずっと旨かったらしい。

どうやらネットでレシピを調べたようで、飼い主ちゃんは『インターネットの勝利やな』とか、『今までの人生でありえなくらい、大量に味噌入れたわ』とか、この嫁にしてこのダンナあり的に、残念なヒトっぷりを余すところなく発揮してた。さすが俺の愛人。

 

今日のためにおーがは、近所に『今日はバカが来るのでうるさかったらごめんなさい』と、やり手の政治家みたいな根回しをしてくれた上に、窓を閉め切ってシャッターまで下ろす念の入れよう。おかげで心置きなく大騒ぎできた。イチバンうるさかったの、おーがだけど。

酔っ払ったおーがは、マルに何度もメールや電話を入れるのだが、一向に連絡がつかない。今回の慣らしツーリングの目的の半分は、ヤツにR1000を自慢することが目的だったのに、肝心のあいつが来ないんじゃ話にならない。さすがマル、ピンポイントで使えない。

なんてマルの悪口を言いながら、ガンガン呑んでガンガン騒ぐ。

呑んで、喰って、騒いで。

やがて、さすがに疲れが出て眠くなってきたので、それを潮に就寝する。

超、シアワセそうな俺の寝姿。基本的に、うつぶせ寝。

 

朝、なにやらもぞもぞとヒトの気配で目を覚ますと。

UKTが朝から大好きなかみを起こしに来た。さすがにコレは文句言えない。

 

フラも死人のような顔で起きてくる。呑みすぎだ、おめ。ま、俺もな。

 

飼い主ちゃんの運転で、コンビニへ朝飯を買いに。

ちなみに俺は、おろしそばとペペロンチーノとノリ弁を買った。うん、さすがに調子に乗りすぎたっぽくて、ノリ弁は喰えなかった。UKTも俺に釣られて、いつものキャパを軽く凌駕する量の朝飯を食ってた。おーがはもともと、フラは二日酔いで、朝飯を喰わない。

UKTの後ろで、飼い主ちゃんはアイス食ってる。今日も暑いねぇ。

 

ミチル君から電話が来たのを機に、ようやく重い腰を上げる。

本当はアサイチから起きて鈴鹿峠を走った後、ミチル君と合流しようか的な企画も出てたのだが、企画会議が昨日の晩だったので、ベロベロに酔っ払った俺たちは明日の自分を信じすぎたようだ。当然のごとく、いっそ華麗に起きたら10:00だったよ。

おーが一家に『またな』と挨拶したら、フラの先導で高速入り口を目指す。

本当は、オイル交換をしてから走ろうと思ってた。

だが、さすがにこの時間じゃその暇もない。ミチル君を待たせるにも程があるって話なので、俺とフラは二日酔いの頭を抱えながら、高速の入り口へ向かう。東名阪から名古屋道を抜けて東名に。豊田ジャンクションを左に折れたらちょろっと走ってすぐに豊田松平インターを降り、国道301をフラにくっついてすっ飛ばす。

 

フラのすり抜けはスムーズで、しかし、行かないと決めてる車の間とかは行かない。

俺とは違ったタイミングだけど安心してついていける。

ちなみに俺は、車の間を行くことが多い。車ってのは並んでるときに車線変更することはないから、どっちかが前後してるときよりも併走の方が抜きやすいと感じるからだ。フラは追越する車が完全に抜けてから、車線変更しないのを見計らって行く感じ。

前の車の車線変更に気をつければ、この方が抜くスペースは広い。

ま、完全に好みの問題だけど。

 

30分ほど走ったら、道の駅『つくで手作り村』に到着、そこで休憩。

ミチル君と待ち合わせてる場所なのだが、とにかく、ここに来るまでの間に俺とフラは、暑さと二日酔いのコンボでかなりヤラれ気味だった。ヤロウふたり暑苦しい顔を見合わせては『暑ちぃなぁ』『暑いっスねぇ』とげっそり。熱中症だか二日酔いだか、頭が痛くなってくる。

 

やがて、ミチル君がやってきた。

久しぶりーと挨拶したあと、ミチル君とフラ公が飯を食うというので、俺はその辺をぶらぶらしながら写真を撮ったりする。

だが、あまりの暑さにそれもすぐ飽きて、ミチル君とフラの居る食堂へ。冷房の効いた店内で身体を冷まし、気合と準備が整ったら、さぁ、出発しよう。

 

道の駅を出てすぐのところに、本宮山(ほんぐうざん)へ向かう『本宮山スカイライン』の入り口がある。フラを先頭に俺、ミチル君の順番で、まずはゆっくり登って行く。道はあまり広くないけど、もともと有料道路だっただけに、路面自体はわりと綺麗だ。

上に駐車場があるとのことなので、そこを目指して走っていたのだが。

ここらでもう、俺の心は折れ気味になってきた。とにかく回したくて仕方ないのである。いや、R1000のトルクだと6000も回ってれば充分気持ちよく走れるし、アクセルオンでリアが沈むとまでは行かなくても、トラクションをかけて曲がることも、そこそこだけど出来る。

ところが、その出来のよさが逆に、俺を責め苛むのである。

もっと高回転で突っ込んで、アクセルオンで曲げてやったら、ハヤブサと比べてどのくらい曲がるんだろう。いや、今の段階でハヤブサとは比べられないくらい軽くてひらひら走るんだが、本領を発揮したらどのくらい行けるのか、とにかく行きたくて行きたくて仕方ない。

だが、ここで切れたら我慢した意味がなくなってしまうと、泣く泣くアクセルを緩める。

もっとも、それでも軽くて曲がるから、短い直線でフラの前に出たあとは、上のギアをつかって低回転でアクセルを開けつつ、フラのV-MAXをミラーから消すことができた。もちろん、これはもう腕もクソもない。単純にマシンの旋回性能と軽さのオカゲだ。

ブラインドコーナーが多いので、安全マージンを充分に取って走ったのだが、もう少し見晴らしがよければ、どこまで寝かせられるかやってみても面白かっただろうね(意味がない上に危険です)いいんだよ、好きなんだから(それを思考停止と言います)。

 

6000以下でだらーっと走りつつ、ダラダラ寝かせてみたり、カクンと曲げてみたりして遊びながら、本宮山を登ってるとやがて道が下り始める。おや、どうやら頂上を過ぎてしまったようだと、駐車スペースで広くなった場所でUターン。R1000を停めてふたりを待つ。

一分ほどすると、エンジン音が聞こえてきた。

結構差がついたなぁとニヤついていると、フラ公の赤いV-MAX、続いてミチル君のM109Rがやってくる。フラに聞いてみると、やはり行き過ぎていたようだ。ま、『行き過ぎはかみのデフォルト』なので、フラもミチル君も今さら驚かない。学習したね、君たちも。

 

そのまま木陰に入って、タバコを吸いながら休憩を入れ、くっちゃべる。

いきなりガリガリやってたミチル君は興奮気味だが、回せないストレスで元気のない俺と、慣らしなのに置いていかれたフラナガン(重要)はちょっとローテンション。単車を眺めながら話して、それじゃあ、いったん頂上の駐車場に行こうかと、すぐまた走り出す。

 

駐車場の入り口あたりで、ミチル君がセンターを割り、キャッツアイに乗り上げたので、後ろの俺は一瞬ビックリした。どうやら暑さが相当こたえているようだ。細いからねぇ。俺たちの肉を少し分けてやりたいよ。つーかフラはどうでもいいから俺の肉を持ってってくれよ。

頂上の駐車場は晴れていればかなりの展望なのだそうだが、雲が多かったのと、それ以前に俺が景色なんてビタイチ気にしてなかったので、展望の印象はない。とにかく暑くて、ミチル君やフラ公だけじゃなく、他から走りに来てた連中も、結構ぐったり来てたようだ。カリカリ走ってるヤツはほとんどいない。

ここでまた話をしたり、単車を眺めたりしてすごす。

 

確かに暑いけど、山の上だけに風が吹くと涼しい。いや、それでもぼーっとなるくらい暑いんだが、相対的に涼しく感じるのだ。これで木陰かなんかに居れば、そよそよ吹く風に昼寝くらいは出来ちゃいそうなイキオイ。やっぱり、暑いときは山だね。

しばらく話して、それじゃ、ひとっ走り行ってみようか。

気合は乗ってるものの暑さで集中力のなくなってきたミチル君が『僕はマイペースで走ります』言うので、俺、フラ公の順番で先に出る。とは言え重量級のV-MAXとR1000、しかも下りじゃ差がありすぎる。流すのに毛が生えた程度で走ってても差は開いてゆく。

こりゃ、逆に慣らしで来てよかったかも。

ホント、重量ってのは単車にとってものすごく重要な要素なんだね。

すげぇ今さらの感はあるけど、本気で実感したよ。

 

頑張って走ってる、ほかのR1000と途中ですれ違う。

こいつと絡まなくて本当に良かった。慣らしが最悪のカタチで終わっちゃうところだったよ、と胸をなでおろし、下りの途中からは完全にソロツーリング状態。アクセル開けられない分、速度を殺さずスムーズに下ってゆく練習をする。何一つ強引なことをしなくても、R1000は見た方向にくいっと曲がっていってくれるので、楽だしソコソコ気持ちいい。

操ってる感が少ない気もするが、ま、それも今日まで。全開で回せるようになれば、きっとまるっきり別の顔を見せてくれるだろう予感に、ワクワクしながら駆け下る。下でT字路にぶつかったら、Uターンして今度は登り。登ってく途中でフラやミチル君とすれ違う。

破綻どころか『あ、ヤバ、あぶねー!』程度の波風さえなく淡々と、しかしエンジン音に比べればずいぶんとハイペースで山を登るR1000&完全に乗っかってるだけの俺。しっかし、時代は流れてるねぇ。こりゃ、反則だ言われても文句言えないや、ホント。

 

危なげなく、何事もなく、普通に駐車場へ到着。ここでまた炎天下の中、しばらく話し込む。

しかし、俺は今日中に柏に帰らなければならないから、そうそうゆっくりもしてられない。するとフラとミチル君から、このあと山を反対に下り、そのまま高速の入り口まで道案内してくれると言うありがたい申し出。もちろん、二つ返事で乗っかることにする。

浜松付近まで出られるなら、かなり距離も稼げるし、精神的にもずいぶん楽だ。

さてそれじゃぁと反対側を下り始めたのだが、こちら側は路面がずいぶんと荒れている。もしかしたら県境か何かで管轄が違うのかな? などと考えながらフラのケツにくっついて下り、スタンドで給油をしてから、下道を浜松へむかって走りだす。

街中で道が混んでる所もフラがサクサク抜けてゆくので、いいペースで距離を稼げる。もちろん、一番最後からついてくるミチル君は少々大変なのだが、そこは鬼トルクを誇る大排気量パワークルーザ。アクセル一発で巨体をよじらせながら、頑張ってついてくる。

こいつもいい加減、バカだよなぁ。俺やとろさんが降りちゃったから、M109R乗りの中じゃカンペキに異端児になっちまうのに、まだバンク角がとか、タイアがとか、旋回性がとか、アホなこと言ってるんだから。と、俺はミラーに写るバカの姿に、思わずにやりとしてしまう。

 

山を下ったらやはり気温が上がってきた。信号待ちどころか、走って風を受けてても暑い。

なので、途中、コンビニで飲み物を飲んで休憩。

ここでフラとV-MAX談義をしたり、ミチル君とM109R談義。ふたりにR1000を跨がせて洗脳を試みるも、マシンへの愛着が強く、ハメるまでには至らなかった。ま、フラはも少し突っついてやれば、セカンドで買うかもしれ……や、さすがに無理か。新しいV-MAX、高いし。

マルやmoto君、NEKOさんやpoitaさんの話にも至り。

なかでもpoitaさんはフラのお気に入りで『いずれpoitaさんと会って話したいんですよ』と言ってるほどだ。今回のGSX1400と言うpoitaさんのマシン選択についても、『俺もV-MAXじゃなかったら、アレを選んでたと思うんですよね』と顔を輝かせる。キチガイ沙汰だ。

つわけでフラ公は、いずれpoitaさんにひねってもらうことにしよう。シクヨロ。

 

ここから2〜30km走れば、さぁ、浜松西インターが見えてきた。

インターを入ってすぐの駐車スペース入り、最後のダベリングタイム。

またの再開を約束し、フラとミチル君に見送られながら、俺は東名を走りだした。相変わらずの150巡航なのだが、ここまで頑張って峠でも我慢したのに、今さらバカ開けはしたくない。つまり追いかけっことかしたくない。なので、覆面に注意してまったりと走る。

6速でするするダラダラ走り、気づけば富士川。

富士川で給油と一服をしながら携帯を開いてみる。

と、おーがから『マルが20分ほど前にうちを出たで。ヤツは中央道経由で帰るらしい』とメールが来てる。マルにメールすると『渋滞を避けて中央道から長野道へ入って上信越、関越から外環で東北道で行く。ワインディングもあるし』とか、相も変わらぬキチガイっぷり。

結局、最後まで会えなかったなと思いつつ、ふたりにメールを返して富士川を出発。

 

すると、ゴロゴロと雷が鳴り出し、薄暗い中、突然稲光がさす。

ポツポツと振って来るがすぐにやむので、止まるタイミングもなく、そのまま走る。もっとも雨は困るが涼しくなってきたのは助かる。空が泣き出す前に少しでも距離を縮めよう。やがて渋滞のケツが見えてきた。先を読み、充分注意しながら、すり抜け大会の始まりだ。

ビッグスクータ、ハーレィ、オフロード、GL、色んな単車が前をふさぐたびに、かわさなければならない。道を譲ってくれる単車が居れば手を上げて挨拶し、なかなか譲ってくれないときは、ペースが速ければ先導に利用して、遅ければレーンチェンジをして抜き去る。

職人が作業をこなすように、あせらず、あわてず、黙々と安全確認し、淡々と作業を続けると、やがていつの間にか道が流れ始めた。ところどころぬれたツイスティな東名を、クルマを縫って駆け抜け、雨が降り出す前に、ようやく東京インターに到着。

都心環状線を抜け、6号三郷線に乗ったあたりで、ついに空が泣き出した。

土砂降りだ。

「土砂降りの雨が〜♪ 通り過ぎ〜るぅころ〜にはぁ♪」

歌いながら走り、柏インターを降りるころには、今さらカッパもクソもない状況。

クルマやトラックの跳ね上げる水しぶきに視界を奪われながら、もう一息だと気持ちを引き締める。すると、16号が結構な渋滞をしていた。『まぁ、これだけ土砂降りなら渋滞もするだろうよ』と、視界の悪さに辟易しながらすり抜けていると、急に前が開ける

なんだ? と思ってよく見てみると、どうやら左車線が水没し、それを嫌った車が右車線に合流しているために、この渋滞が起こっているようだ。言ってもどっかの田舎道じゃなく、ここは天下の16号線。左が水没して見えたって、腰まで浸かるほど低いわけじゃない。

「どいつもこいつも根性ねぇなぁ。そんなに深いわけじゃないんだし、水たまりの親分みたいなもんだろうよ。気合で駆け抜けろってんだ。どーれ、ここはひとつ俺様が、男の走りってヤツを見せてやろうじゃねーか。見てろよ、腰ヌケどもが」

脳内でつぶやきつつ、ガラガラの左車線、水たまりの中を進んでゆくR1000と俺。

ほらみろ、大して深くもないじゃ……ざっぱぁ!

 

想像して欲しい。

バイクで走っていたら、突然、目の前に水の壁が津波のごとく立ち上がる様を。

足首まで完全に水没し、進もうとアクセルを開けると、そのイキオイとカウルの形状とでほぼ垂直に跳ね上げられた水が壁となって目の前をふさぐ。アクセルを開けると、R1000がものすごい抵抗の中を進んでゆくのが体感できる。さすがにかみさん、軽くパニック。

「ヤバイ、かろうじてテールランプが見えるけど、これじゃぁ距離がイッコもつかめない。このまま行ったらカマ掘る! ヤバイヤバイ……って、ああ。減速すりゃいいじゃん。アホか」

気づくまでに、軽く一秒はかかった。

時速10kmくらいまで車速を落とすと、どうやら水の壁がなくなり、かろうじて前が見える。

それでも水しぶきが盛大に上がり、右に並んでる車にガンガンと泥水をお見舞いしてゆく。水にハンドルを取られ、それでもなんとか車線を変更し、ゆっくりと右車線に移動して、ようやく人心地。なんとか水没停止は免(まぬが)れたと、ほっと安堵のため息をつく。

ガケ落ち、首都高に続いて、またも巨大な武勲を立ててしまうところだった。

水没をかわして家に着いたところで、本日のCrazy marmalade でっかいもん倶楽部は、かろうじて無事に終了。慣らし運転のつらさも、フラやミチル君との楽しい走りも、すべて台無しになるところだった。とりあえず、みんなも水没には気をつけて。ホント、くれぐれも。

あと、何が悲しいって水没することそのものよりも、『水没したところで単車を停めて、衝撃の写真を撮ってこなかった』ことを、一日たった今でも後悔してる、自分の体質が一番悲しかったりするのである。あの時の俺に、もう少し勇気があればっ!(水没廃車です)。

 

とりあえず慣らし運転は終わり。

明日から、ガンガン走るよー!

水たまり以外。

 

index

inserted by FC2 system