The 61st big machine club

2008.09.24 第61回でっかいもん倶楽部 in 霧降高原

〜アニバーサリー・ディ〜

 

今日は午後から、朋友マルとの霧降高原ツーリングだ。

「マルよぉ。俺、今年いっぱいくらいでR1000手放すぞ」

「おめぇが『今年いっぱい』言ってるつーと、長いことないな。んじゃ、早いトコ走っとくか」

などと、マルの分際で失礼なセリフを吐きやがったので、叩き潰してやることにする。

マルいわく「こんだスカスカじゃなくて峠峠(やまやま)ツーリングだ」とのことで、東北道の矢板から県道30号を北上し、ワインディングの県道56号を走りぬけて日塩もみじラインから霧降高原道路を走る、 『高速から低速まで何でもアリのワインディング尽くし』コースだ。

と、そういえばmoto君から「イチローをよろしくお願いします」と頼まれていたことを思い出した。

よろしくお願いされた以上、ヨロシクしてやろうじゃないか。んで、『俺に出来るよろしく』と言えば単車で走ることと、一緒に酒を飲むことくらいなので、それじゃイチローにも声をかけよう。つーかこないだmoto君ちで会った時に、そんな話をしたような気がするぞ?

てなわけでイチローにメールして参加を取り付ける。

 

さて、24日は半日仕事の水曜日。

仕事がハネて午後一時、マルにメールしてから走り出す。整骨院から直接なので、下道を走って三郷から外環に乗ろうと考えたのが、軽く失敗。混んでる下道に苦戦しつつ、どうにかこうにか外環に乗ったら、すでに一時半。約束は二時半なので、少しすっ飛ばそう。

つってもR1000で高速を飛ばすのが、わりと苦手な俺。

クイックと言うか(俺にとっては)神経質なハンドリングは、三車線使ってガンガンすり抜けるような時は楽しくていいんだが、淡々とただまっすぐに距離をすっ飛ばすと、この単車はやけに疲れる。かと言ってガンガン走って『向こうに着いてヘロヘロ』じゃ、マルを叩きのめすことが出来ない。

「高速はやっぱり、ハヤブサが最高だなぁ」

と思いながら、わりと苦行チックにひたすら北上。

それでも途中途中でぶん回したり、とにかくアベレージを上げようと走ったのが効いたようで、上河内SAに2時15分ころ到着する。すでにマルバードとイチローR1が停まっていたので、PAのなかを探して歩く。うどんを食ってるマルとイチローの姿を見つけ、寄って行ってちょろっとしゃべる。

俺も昼を食ってなかったので、一緒に肉まんを喰い、さて、それじゃあ行こうか。

 

上河内から矢板の出口まで約5kmの短い間に、まずは一発目。マルのブラックバードが唸るのを聞いて、俺も一速からアクセル全開。見る見る上がる車速にビビリつつ「5kmだ5km」と言い聞かせながらタンクに伏せる。一瞬にして250を越え、それでもマルは伸びてゆく。

二台並んだまま、280くらい(マル計測)で駆け抜ければ、あっという間に矢板の出口だ。

「このくらい短い距離なら、高速走行できるんだけどなぁ」

と、オノレのヘタレっぷりを棚に上げてぶつぶつ言いながら、マルの後ろについて県道を北上する。しばらくクルマと一緒にのろのろ走り、軽くクールダウン。やがて県道56号を左に折れたら、そこからすでに道がくねり始めている。そのまま走ってゆくうちに、道が登り始めた。

同時に道幅が狭くなり、路面が荒れてくる。

「ずいぶんタフな道を選びやがったな、マルのヤロウ」

マルの後ろについて走っていると相変わらず、でかいブラックバードをタイトなコーナーで薄気味悪いくらい曲げてゆく。「ブラックバードがこんな曲ってる絵って、改めて見ると気持ち悪いなぁ」と思いつつ、時々、後ろのイチローをミラーで確認しながら、俺は 『昨晩のこと』を思い出していた。

 

正直、昨日の晩はちょっとドキドキしていた。

「R1000で引き離されたらどうしよう。もう、あきらめてV-MAXでも乗るか」

そのくらいR1000は乗りやすく速い。これで置いて行かれるとしたら、それは100%俺の腕が悪いのだ。この世にこれ以上曲るバイクはないと言ってもいいだろう、スーパースポーツに乗って、メガツアラーのマルに離されたら、精神的ダメージは今までの比じゃない。

そんな風に気合を入れて走り出したのだが……それは杞憂だった。

マルが『かなり本気で攻めている』ことは、長年一緒に走ってる俺にはわかる。もちろん、この先の領域もあるにはあるが、それは完全にマージンを削っての短期決戦だ。峠と峠をつなぐ長丁場のライディングとしては、ほぼ最高速のマルだと思われる。

そう。そんな風に状況を分析できるほど、俺には余裕があったのだ。もちろんタイトでタフなコースだから、これはカンペキにマシンの性能。R1000の旋回性能のおかげなんだが、それでもなんでも、とにかく『本気のマルにベタづけして、眺める余裕さえある』という事実。

ちょっと、鳥肌が立った。

 

そのうち、ちらほらと『イケそうなタイミング』が見えてくる。うん、今、このタイミングで入れば、それほど危険もなく抜けるな。勘違いじゃないな? よし、もう一回、様子を見よう。うん、やっぱりそうだ。イケるぞ、これ。よっしゃ、次のタイミングで、せーのっ!

あっさりとマルの前に出た

10年以上一緒に走ってきて、初めてマルを抜いた。それがマシンの性能だろうがなんだろうが、俺にとっては大事件だ。いや、大事件のはずだった。だが、実際に抜いてみると、それほどの感慨がないことに気づく。それはそうだ。これは『俺の腕や努力の結果じゃない』のだから。

感激するには、俺の心は正直すぎたようだ(そんなカッコいいものじゃありません)。

 

とは言え、抜いた事実は事実。マルゾーをからかうには充分すぎるネタだ。

うきうきしながらマルを従え、次のコーナーへ突っ込んでゆく。おっと、いきなりひどい道じゃないか。あぶねぇあぶねぇ、ここですっ転んだら、せっかくマルをブチ抜いた記念日が台無しになっちまうぞ。俺は深呼吸をふたつして、一度心を落ち着けると、改めてR1000のアクセルを開ける。

ひとつコーナーを抜けるたびに、ブラックバードのライトが遠ざかってゆく。

コレは、アレだ。

ただ『抜いただけ』じゃない。

俺の大好きなあの状況だ。

圧勝。

あぁ、エクスタシーさえ感じるほどの、このあまりに甘美な響き。

俺はこの瞬間のために、十年以上マルの背中を拝んでいたと言っても過言じゃないかもしれない。それが性能差だろうが、反則だろうが、そんなことは俺自身が充分に理解している。頼むから静かにしてくれ。今はこの濃厚な蜜の中に身をひたす喜びを感じさせてくれ。

 

『性能差で上回っただけという虚しさ』

『マルを抜き、前を走っている喜び』

二つの相反する思いがアタマと身体を駆け巡り、なんだか複雑な気持ちで走る。それでもまぁ、とりあえずマルの前を走れるというのは、しかも後ろからぶち抜いて前を走れると言うのは、やはりうれしい訳で。最終的には「とりあえずマルを抜け たことを素直に喜ぼう」と決める。

一つ目の山を降り、橋の上でマルとイチローを待っていると、やがて二人がやってきた。

そのままマル先頭でもう一度走り出す。さぁ、行くぞ。さっきのがブラフじゃないことを、もう一度マルに示すのだ。山を登りながらマルの後ろにベタ付けし、機会をうかがう。R1000のコーナリング性能に、震えがくるほどの喜びを感じながら、虎視眈々とマルの隙を狙う。

よし、ここだ!

並んで入り、立ち上がりで外側(反対車線)から抜き去る。

そのまま短い直線で差を開き、次のコーナーへ飛び込んでゆく。しばらくミラーも見ないですっ飛ばし、いくつかコーナーを抜けたところでようやくミラーを見ると、マルの姿は消えていた。とりあえず、R1000が速いことはマルも充分わかっただろうと、峠の途中、広くなった駐車場にノーズを入れる。

後ろから来たマルとイチローも、そのまま単車を停める。

ヘルメットを取ったマルは、悔しいような呆れたような複雑な顔で俺を見て、ふっと苦笑い。

俺は、マルに向かってにやりと笑いかけた。

「マシンの差が、ありすぎるな」

という俺の言葉に、マルは笑いながら、

「いや、それでも負けは負けだ」

この瞬間、初めて背筋に震えが来た。もちろん、とぼけて何でもない顔をしてたけど。

 

しばらくダベってから、マルにR1000を勧めてみる。うなずいたマルがR1000にまたがり、「なんだこれ」と苦笑して走り出した後ろ姿を見送ると、イチローとふたりでしゃべりながらマルを待つ。

もちろん、話すことは単車の乗り方だ。

ああでもないこうでもないとしゃべっていたら、マルが帰ってきた。

「すんげぇ曲がるな、コレ」

「な? 性能差が半端じゃないだろ? これなら負けた気がしないんじゃねーか?」

「イイワケはしねーよ」

「イチローも乗って来いよ」

帰ってきたイチローは「同じSSでも、全然違うんですねぇ」と感心してた。

ここでマルがイチローに、ライディングレッスンをしたり。

俺はタバコを吸いながら、満足感に包まれて、その様子を眺めていた。

 

三人で地べたに座り込んでくっちゃべる。

「やっぱり、峠はいいなぁ、かみ」

「そだな。帰ってきたって気がするよ」

「イチロー、クルマが居なくて楽しいだろ?」

「はい、楽しいです。ついて行けないですけど」

「関係ねーよ、楽しきゃ良いんだ」

 

ふもとでは暑いくらいだった天気が、少し肌寒くなってきている。

「この先ですぐ、日塩もみじラインにつながるからよ」

「わーった」

「はい、わかりました」

三人並んで走り出す。もみじラインはすぐに現れた。料金は反対の霧降側で払うとのことで、無人の料金所を抜けて、一気にアクセルを開ける。マル、俺、イチローの順番で走り出し、軽く秋めいてきたもみじラインの最初のコーナーへ飛び込んでゆく。

さっきの県道56号ほどせまっ苦しいわけじゃないが、高速コーナーってほどのカーブは幾つもない、わりと北関東らしい峠道のもみじラインでも、やはりマシンのアドバンテージが大きいようだ。ケツについて走ってると、タイトなコーナーやギャップに乗ったときに、マルの車体の下から火花が散る。

「おー、マフラー擦ってやがる。マルちゃんも好きだねぇ」

うれしくて、ヘルメットの中でにやけてしまう。

ブラバがイチバン苦労するタイトなコーナで一気にベタ付けし、立ち上がりの短い直線で前に出る。もはや抜かす喜びはない。だが、今まで離されてばかりだったマルと、ずっと一緒に走れるってのが、とにかくうれしい。さんざ拝まされた背中の分、今日は俺が背中を拝ませてやるぜ。

 

日塩もみじラインを降りてしばらく行ったところで、マルがUターンして停まった。

「かみ、地図見せろ」

どうやら曲がるところを少しだけ行き過ぎたようなので、戻る前にちょっと一服する。

マルちゃんさぁ、下半身を革パンツでプロテクトするのは良いとして、『上半身がオフロードジャージ』ってのはどうなんだ? しかも「それどこのスーパーシェルパ?」みたいな、微妙な色合いと絵柄のジャージってのは。ま、『ある意味似合ってる』から良いか。

 

気合のバンクで今日も新しい傷が増えてる、気の毒なブラックバード。

 

俺もミシュランマンを消すくらい気合入れてみた。

単純に勾配がキツイからバンク角が増えるだけなんだけどね。

 

ここから霧降までの道が、マルいわく「結構荒れてる」って話だったんだけど、情報が古かったようで、走ってみたら『結構な快走路』になっていた。ここではマルの後ろについて、軽く流す感じで走る。時々イチローをはさんだりして楽しく走ってるうちに、霧降高原の駐車場についた。

他に来てたツーリングライダーを横目に

「ソフトクリーム食おうぜー!」

マルが大騒ぎしながら歩いてゆく。が、ソフトクリームは売り切れ。

しかたなくジュースを飲みながら、しばらくくっちゃべる。時々ゆるりとほほをなでる風も、ずいぶんと涼しくなってきた。「もう、夏も終わりだなぁ」と思いながら、マルやイチローとバカ話をする。ワインディングで熱くなったアタマと身体が、気持ちよく冷えてゆく。マルが笑い、イチローが笑い、俺も笑う。

どれだけ走っても、どれだけ経験しても、ツーリングってのは楽しくて気持ちよくて、最高だ。

「さて、それじゃ、最後くらいはもうちっとマシなところを見せるか」

マルの言葉で立ち上がり、単車にまたがって霧降高原道路を走り始めた。

 

今日走る中では、イチバンの高速ワインディングになるだろう霧降高原道路の北面を、三台はインラインフォーの心地よいサウンドを響かせて登ってゆく。最初の深めのコーナーで、マルの背中がゆらり揺れた。「ほらきた」と、俺もすかさずケツをずらしてブレーキング。

え? リーンウィズはどうしたって?

や、さすがにこの手のハイスピードワインディングで、しかもマル相手にリーンウィズは厳しいよ。

案の定、マシンの差の出にくいこういう場所では、追い越すことは出来ない。それどころか、気を抜いたら置いていかれそうだ。それでも今までと違って、コーナーいくつかで消されるなんてこともなく、ケツについたまま走ることが出来る。「R1000って、ホントすげぇな」と、思わずため息。

イチローはとっくに、ミラーの点だ。

上の駐車場で、また少し休憩。

そのあいだにマルがもう一度、今度は『イチバン本領が発揮できる場所』でR1000の試乗に出た。俺とイチローはお留守番しながら話をする。いや、ブラックバードには乗らないよ、マルちゃん。それ、でかくって重くっておっかないんだもん。転ばしても良いなら乗るけど。

 

下ってゆくマルの『とても人の単車に乗ってるとは思えない、様子のおかしい排気音』に苦笑しながら、ふと思い出してmoto君に「今、イチローと霧降高原走ってるよ」とメールを入れる。なんつーか、『息子を預かった親戚みたいな心境』ってヤツだ。

やがて登ってきたマルは、そのまま俺らの前を越えて向こうへ下ってゆく。

「あいつ、帰る気ないのかなぁ」

と呆れてると、ほどほどでUターンしてきたのだろう、ほどなく戻ってきた。

「どーよ、マル? いいべ? 楽しいべ?」

「すんげぇ、面白れぇ」

まるっきり、おもちゃを渡されたガキの顔だ。

初めて見たときは、さんざん「おもちゃっぽい」だの「ガンダムかよ」だの言ってたくせに、56号で試乗したときは、「速い」「軽い」「乗りやすい」と評価を上げ、霧降を走ってくるなり「めちゃめちゃ面白れぇ」「もう少し慣れたら、かなりいける」と高評価になってきたマルのR1000観は、最終的に

「やべぇよ、かみ。俺もコレ欲しい」

という最高の評価になった。なんだか自分がほめられたようで、ちょっとうれしかった。

 

「あんだか、手放すの惜しくなってきたな。二台体制でいくかなぁ」

「あん? でもこれrakに売るんだろ」

「まーな。俺は二台あっても乗らないだろうし、おめぇのためだけに取っとくのも癪だしな」

「つーかこんなのrakが乗ったら、手がつけられねぇだろ」

「はははっ! 確かに。つーかフェザーの段階で、俺らにはすでに手がつけられなかったじゃんよ」

 

バカ話は尽きることがないが、太陽の方はそうも行かない。それに、マルが帰るのは田沼あたりだからそうでもないが、俺は柏、イチローに至っては柏からさらに100kmほどあるのだ。

「イチローがイチバンしんどいな。どうする? いっそ俺んちに泊まって明日仕事に行くか?」

「はい、是非!」

にゃははは。おめーも、たいがいバカだなぁ。

 

霧降を降り、日光インター手前のスタンドで給油したら、日光宇都宮道路へ。

 

ジャンクションで東北自動車道に乗り継いだら、PAで最後のダベリング。

 

心地よい疲れが、三人を包む。

「歳くって目が見づらくなってきた」だのジジむさい話で熱くなり、「また走ろう」と笑いあったところで、本日のcrazy marmaladeでっかいもん倶楽部は、荒れてせまっ苦しいタフな峠から、ガバ開けできる高速峠まで、半日にしては充分すぎるほどワインディングを走り倒し、その終焉を向かえた。

俺は、今日という日を忘れない。

生まれて初めてマルをコテンパンにぶち抜いた、この記念すべき日を。

 

とは言え、コレはあくまでマシンの性能差だ。

聖書にある有名な言葉「性能差だけで勝てると思うなよっ!」の暗示するとおり、本当の意味でマルを抜いたとは言いがたい。通りすがりの誰かなら、その『マシンの選択も含めて』結果こそすべてだろう。だが、俺とマルの付き合いは長く、そしてこれからも走ってゆく。

だからこそ俺自身、この結果に100%満足はしていないし、マルもそうだろう。

いや、だからって『同じマシンを買ってイコールコンディションで』とか、そういう話をしてるんじゃない。

たとえば俺がハヤブサに乗り換えたとき、あるいはマルがZZRなりを買ったとき、そのたびにこんな風にやりあい、「勝った」「負けた」と笑いあう。長いサイクルの中での、ホンキなんだけどホンキじゃない勝った負けた。命がけにならないマージンを取りながらの、そう、『試合』みたいな走り。

そんな単車との、あるいはダチとの付き合いを、ゲラゲラ笑ってしてゆけたら、最高だなって思う。

 

俺は家に帰り着いて、こんな楽しい時間を過ごせたことを感謝しながら。

イチローと一緒に、杯をかたむけた。

 

 

でもま、それはそれとして、とりあえず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よしっ!

 

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