The 67th big machine club

2008.11.22 第67回でっかいもん倶楽部 in 山口

〜急襲の愉悦〜

 

コトの発端は、かれこれ一ヶ月ほど前、10月22日だった。

マルと赤城で走ってハヤブサぶっ壊してきたその晩に「走りに行きてぇなぁ」とかちょっとアレなことをほざきつつカレンダーを眺めていると、どうやら11月は連休が 二回ある。最初の連休はすでになっこのラストツーリングに決まっていたが、二回目は今のところ予定がない。

その上、ほんの一週間くらい前に、デコ歓迎の超宴会をやったばかりだ。山口だの名古屋だのあっちこっちからバカがやってきて、めちゃめちゃ楽しい時間をすごした記憶が、俺のテンションをあげる。今夏は一回しかロングツーリングに出れなかったのを思い出し、ロング魂にも火がつく。

「試しに、山口まで行ってみっか」

口に出した瞬間、それは決定事項になった。

 

つわけで山口と言えば宿泊場所はドルフィーの家に決まってるんだが、やつは時間の不規則な仕事をしてるから、今すぐ電話しても捕まらない可能性が高い。しかし盛り上がった俺のテンションは 冷静にメールで知らせるなんてのを拒む。「いいや、電話しちまえ」と思った瞬間、天啓。

「イキナリ顔出して、ビックリさせるとかどうよ?」

いったん携帯をつかんだ手をおろし、その思い付きにニヤリとほくそ笑む。間違いなく、その方が面白くなるに決まってる。そうと決まれば、ドルの予定や家の状況を知る必要がある。なにをおいても、現地に強力なスパイが必要だ。

となればその候補は自動的にデコかゆっちょむなのだが、デコひとりで何人も騙すってのも、もともと予定の合いづらい連中な分だけ、負担になりそうだ。増してやゆっちょむをや。それに900kmの彼方の話だから、突発事態のとき、柔軟に対処できる現地スタッフは多い方がいい。

それならいっそ、驚かすのはドルフィーとJちゃんだけにして、デコとゆっちょむは共犯者にしてやろう。

考えただけでワクワクしてきた俺は、早速デコに連絡を取った。

 

着々と予定は進行し、俺の山口行きを知ってる連中にはサイトやmixiでその件について触れないよう、釘を刺しておく。こうして水面下で予定を進めていた11月19日、よしなしが家に遊びに来た。事情を知らない よしなしは「週末、どこに行くんです?」と呑気に聞いてくる。

「実はよ、山口に行こうと思ってるんだよ。ドルとJちゃんには言ってないんだけどな。向こうでデコとゆっちょむが俺の共犯者になってるから、イキナリ顔出してサプライズしてやるんだ」

「ちょ、なにそのオモシロ企画! いいなぁ、行きたいなぁ」

「んじゃ、来いよ」

「いやぁ、金ないし。予定は今のところないんだけど……」

「つーか、よく聞けよ? ドルの家に突然行くんだが、ドルはその日、夜勤で居ないんだ。土曜日だから、俺が出発するのは午後から。当然、到着は夜中になる。そこで、夜中にデコと合流して、適当なところにテント張って宴会やるんだよ。んで、アサイチにドルん家へ行くと」

「うわ、やべぇ。すげぇオモシロそう。つーか、絶対面白い」

「決まってるだろ! いやまてよ? どうせだからドル家の庭に勝手に入り込んで、勝手にテント張って宴会やっちまうか? 仕事から帰ってきたドルが、ふと家を見る。すると自宅の庭にテントが張ってあるんだぜ? これ、ぜってーオモシロイべ? あ、決めた。それにしよう」

「ぎゃはははははっ! やっべー! 行きてぇ!」

「とりあえずデコに電話だな」

そのままデコに、よしなしの勧誘を任せる。

言ってもよしなしはバカだ。最初の数分こそ多少しぶってたものの、段々、その気になってきている。むしろサンドバッグ状態で撃たれまくってフラフラだ。そこで俺が「んじゃよ、ガソリン代、俺が出してやるよ。俺が誘ったからな」とトドメの一撃をくれ、最後に残った理性の糸を断ち切る。

よしなし、陥落。

行くと決まったら、よしなしのノリもさらにヒートアップ。バカみたいに大騒ぎして、ゆっちょむやmioちゃんにも電話し、電話し損なってmoto君にかけちゃったりしてた。 しかも、次の日「22日に子供関連の予定が入った」つーから「無理すんな」って返したら、しばらくして

「午後から新幹線で行く

とか言ってんだから、こいつのバカもいい加減手に負えない。

とにかく、こうして今回のサプライズ企画の詳細が決まった。

 

そして当日、11月22日を迎える。

土曜日の半日仕事を終えたら、一度家に戻って、用意しておいた荷物を積む。

午後二時、俺は意気揚々と柏を出発した。

新兵器ETC(今時そんなこと言ってるヒトはいません)のお陰で、気持ちよく常磐道に乗ると、そのまま首都高へ向かう。まだそれほど混んでないC1を、軽くスポーツ走行しながら抜けて、渋谷線へ。東名に乗るか乗らないうちに、渋滞が始まった。

「あぁ、そうか。今日は連休の初日じゃねーか」

日本で一番事故の多い高速道路だけに、気持ちを引き締めなおした俺は、「長い道行きだからのんびり行く」と言う中途半端な当初の予定を変更して『わりと気合アベレージ』で走り出した。平たく言うと、ソコソコ流れ出したところで派手なクルマに突っつかれて、出さざるを得なかった。

 

それにしても、毎度のことながら高速道路に乗った瞬間、この単車がハイスピードツアラーなんだってコトをイヤってほど再確認させられる。特に中間加速のぶっとさはハンパじゃない。100からでも200からでも、どの速度域からでも一瞬で250オーバーを取り出せる。

足は微妙。この速度域だとちょっと動きすぎるかも。お山との兼ね合いを見ながら、ちっとダンピングいじってみよう。あと、ハブダンパーがヘタってるくさいので、これも要チェックだ。うん、この辺は完全に自分用の備忘録だ。ウインドプロテクションはさすが。よすぎてスピード感がなくなるほど。

高速移動するには、これ以上のマシンはないと断言しちゃうね、俺は。

 

三時過ぎに富士川で給油&一服。

風は強いが、振られないから怖くない。ただ、めちゃめちゃ寒い。この上暗くなったらイヤでも巡航速度は落ちるだろうし、明るいうちに行けるだけ行こうとすっ飛ばした甲斐あって、四時四十分には伊勢湾岸の刈谷SAに到着し、ここでちょっと休憩。

刈谷サービスエリア。 デコとの合流の兼ね合いで、マメに『今ここメール』をしてたから、レポを書くときに時間がわかって便利だ 。これからもツーリングのときは、マメにメールすることにしよう。マルとかに、嫌がらせで。

刈谷でトイレ休憩しながら三重のダチおーがにメールを入れて「素通りですかそうですか」とツッコまれる。いや、さすがにおまえの家に寄ってったら、今晩中に山口は無理だよ。とりあえずかみ家→おーが家(近くのインター)間の最速記録を樹立したが、しかし、先はまだ長い。

 

新名神に向かって伊勢湾岸を走りだすと、連休初日って言うのもあるんだろうけど、いつもすいてる伊勢湾岸が珍しく混んでいる。新名神が定着して、交通量が増えたってのもあるのかな? 120くらいで流れているし、道幅が広くてすり抜けやすいので、ストレスなく距離を稼げる。

が、それはそれ。

バトるでもなく、ひとり延々と高速道路を走るのは、四時間を過ぎるとさすがに飽きてくる。途中で遊んでくれるクルマもなく、ましてや単車なんてほとんど見ないし、いても遊んでくれない。時間に追われてないなら、景色を眺めたり寄り道したりするんだが、今日はそうも行かない。

半日で大阪まで来たのにまだ半分だ。「山口、実は遠くねぇ?」今更つぶやきつつ、そろそろコトの重大さに気づき始めるかみさん。その上、 大阪付近でつかまった渋滞が、さらに焦りを生む。 「んだよ、大阪っ!」とアサッテな文句を盛大に垂れ流しながら、大阪をすり抜けて神戸へ。

西宮あたりのパーキングだと思う。このあたりからクルマが徐々に減ってくる。ほっと一息ついた俺は、アクセルを開けて山陽自動車道に入った。道は暗いし結構いい曲率で曲ってるから、速度自体は東名や伊勢湾岸ほど出せないが、渋滞で溜まったストレス解消にはなる。

見たことない赤いスポーツカーが遊んでくれたので、やりあってる内にいつの間にか岡山を越える。広島あたりはとんでもなく寒いが、ここらまで来ると「あと少し」的な気持ちになるから、それほどしんどくない。 少しっても、このあたりでまだ200km弱くらい残ってるんだけど。

も少し走って、尾道の手前あたり、福山サービスエリアに入った。

すると新幹線で来たよしなしは、広島ですでにデコと合流したらしく、ビールとお好み焼き、そして満面の笑みを写メで送ってきやがる。どうやら、俺がまだちんたら 大阪あたりを走ってると思ってんだろう。「今、福山サービスエリアについた」と送ってやると、デコから電話がかかってきた。

「もう、福山なんですか?」

「うん、福山。一服したら、一気にドル家まで行く」

「ちょ、それじゃこっちも急いで出発します」

どうやら間に合いそうなのがうれしかった俺は、上機嫌で福山サービスエリアに居たハーレィ乗りと歓談する。岩国在住の彼は、千葉からと聞いて目を剥いていた。そこで、「これからダチの新築の家の庭に、本人が仕事で居ないうちに勝手にテントを張って、宴会やるんだ よ」つーと、大爆笑。

「いやぁ、そりゃぁ絶対に面白いわ」

と気に入ってくれたので、「一緒に行かない?」と誘ってみたが断られた。でも、別れ際まで

「そこに、まるっきり知らん今日会ったばかりのヤツ(彼自身のこと)がいたら、面白いじゃろうなぁ」

と残念がってたから、もし、いつか会う機会があったら、旨い酒が呑めそうだ。

 

ハーレィ君と別れた俺は、給油して走りだす。 ここからドルフィーのところまでは100km強くらいだから、もう、目と鼻の先だ。暗い山陽自動車道を最後っ屁とばかりにすっ飛ばし、降りてからも迷うことなく、無事、ドルの家に到着したのが10時ころだったか。

寒空の元、デコとよしなしをしばらく待ったが、来そうもないのでいったん家を離れる。

近所の本屋で立ち読みが出来ないことを嘆いていると、やがてデコから電話が入った。

つわけで近くのセブンイレブンに集合する。

 

バカふたり。

 

コンビニでビールと水を買い込み、デコがつまみ系を買ったら、レッツ、ヒトんちキャンピンッ!

 

当初の予定では庭にテントを張ってやろうとしていたのだが、ドルが帰ってきたとき丸見えになる庭よりも、裏にある造成地の方がいいんじゃないかと言う話が出た。酔っ払えば絶対騒ぐし、その時に庭だと、家で寝ているはずのJちゃんを起こしてしまう可能性がある。

なので、単車を隣の造成地へ移動し、 作業開始。

 

どいつもこいつも、驚くほど手際よく準備を進めてゆく。

 

すると、連絡してたゆっちょむもやってきた。

 

こういうバカ企画になればなるほど目を輝かすこの残念な青年は、しっかりJちゃんへのお土産やワインを抱えてやってくると、ニコニコしながらテントを取り出している。バカだねぇ。

 

住宅地に突然わき出たキャンプサイト。

 

「帰ってきて、家の裏にテント四張りとか、ビックリするべな」

とワクワクしながら笑いあった俺たちは、

ここで最初の乾杯をする。

 

正直、ビールなんか飲んだら死んじゃうんじゃねーのってくらい寒かったのだが、そこは選ばれたダメ人間たち。多少の防寒をしたあとは、『酒であっためる』と言う、なんら根本的な解決になってないセリフとともに、ビールを干す。もちろん、超冷えた。

デコが持ってきたバーボンと芋焼酎をカパカパ呑(や)りながら、めっちゃめちゃ寒い晩秋、いや、初冬の屋外でバカ話をして笑いあう。8時間ぶっ通しで走り続けた疲れなど、この笑顔と笑い声 、美味い酒と楽しい話の前では、一瞬でぶっ飛んでしまう。

「ドルさん、これに参加できないのは可哀想だなぁ」

ヒトとして可哀想なのは、断然、おまえらの方だけどな。

 

ま、住宅地とは言え近所とは距離もあるし、唯一近い隣家にはまだ人が入ってないって話だから、多少騒いでも問題ない。つーか、一番近いドルの嫁Jちゃんが気づかないんだから、問題ないだろうと、呑んで、喰って、騒いで。あっという間にいい時間になってしまう。

寒さに耐え切れなくなったデコとゆっちょむがテントに入り込んだのを機に、

俺はコンビニへ行って弁当を買ってきた。

んで「あったかいメシを喰えば寒さなんぞ……」わめきながらバクつこうとした瞬間、

思いっきり手を滑らせて弁当はフォーリンダウン・オンザグラウンド。

三秒ルールで食ってみたらジャリって、むしろ砂利って言ったので、泣く泣くあきらめ、

代わりにストーブで湯を沸かしてカップラーメンを作る。

よしなしは、この一連の流れを見ながら、ずーっと大爆笑してた。

ま、ギャラリーが居たから元は取れたな(その考え方はやめましょう)。

 

腹がいっぱいになったら眠くなるという、動物として正しいシステムが起動するかみさん。コーヒーを入れて飲んだ後は、結局そのまま寝てしまった。こうして、最初の楽しみである『ヒトんちの庭に勝手にテント、本人つまはじき宴会』は 冬の透明な寒さの中、穏やかに幕となった。

おやすみなさい。

あけて次の日の朝。

テントの中で二日酔いに苦しんでいると、表にゆっちょむの声がする。

 

さらに女性の声も混じっているので、どうやらJちゃんが仕事に行くのだなと、

テントから顔だけ出して挨拶。

Jちゃんは、家の前に並んだ不審なテントを見て、当然のごとく夫のドルフィーに電話したらしい。そこで「こりゃいかん」と立ち上がったゆっちょむが、Jちゃんに向かって人差し指を立てて「しー」っとやると、うなずいた彼女は電話に出たドルに「ごめん、間違えた。なんでもない」と苦しい言い訳。

「おまえ、俺に隠し事でもあるのか」となにその超能力的に感づいたドルは不機嫌だったらしいのだが、それでも「ははぁ、デコさんとゆっちょむがナニゴトかやらかしたな」と見当をつけたそうだ。

ここまで、あとで聞いた伝聞。

 

とりあえず、俺がいればJちゃんの機嫌を心配することはないし(彼女は俺の治療のファンなのだ)、ドルだってまさか俺が千葉から来てるとは思わないだろうから、ビックリして機嫌もよくなるに違いない。なのでドルの機嫌なぞ放っておいて、寒さに震えながらドル家に上がりこむ。

 

「好きにやっててください」と言う、ドル家の真の実力者Jちゃんの、出かける間際の言葉に従って、勝手気ままにやらせてもらうとしようか。

コーヒーメーカからコーヒーを飲み、それが旨かったので、もう一回作ってみたり。

 

朝風呂は貰うわ、朝飯代わりにお菓子喰ってるヤツがいるわ、ひどいもんだ。

ちなみに左のデコは、二日酔いの頭痛に苦しんでいる。

 

俺はおとなしく風呂に入り、上がるなりコンビにまで出向き、朝飯を買ってきてぱくついてた。そろそろ帰ってくるだろうドルフィーを脅かす準備にかからなくてはならないのだが、昨日の酒が残ってて、どいつもこいつもダラダラしてる。

すると、表に出てたよしなしが、家に駆け込んできてわめいた。

「ごめん! ドルさんに見られちゃった!」

「ちょ、おまえ、だいなしじゃねーか!」

早めに帰宅したドルフィーに、よりによって一番見られちゃいけないよしなし(単車がないから、隠れてれば来てる事が判らなかった)が見つかってしまった、という体たらく。本来なら 俺に驚いたドルが一息ついたところで、隠れてたよしなしが出てくるという、ダブルインパクトだったのに。

これからよしなしはハンドルネームを改め、『だいなし』と呼ぶことにしよう。

 

ともかく、見つかっちゃったものはしょうがないので、家に入ってくるドルをみんなで激写。

ついでに、TVの徳光さんにも目線入れてみた。意味はない。

 

風呂に入ってたゆっちょむが出てきて、みなの爆笑をかっさらう。

 

ま、ダブルインパクトは無理だったが、サプライズはおおむね成功だ。山口まで走った甲斐があったぜと、かるく満足しきった俺たちのケツを、こんどはドルが叩く。サプライズで満足したまま、走らないで宴会やりそうな雰囲気だったからね。気持ちはわかる。

ズボンを半分脱いでるのは、インナーの性能がよすぎて室内だと暑いから。別にかわいそうな子ではないので、同情は無用だ。寄付や支援はいつでも受け付ける。

 

と、携帯で誰かと話してたドルが

「かみさん、朝、コンビニでオッチーと会ったそうじゃないですか」

「なに??? いや? 会ってないぞ」

「ハヤブサがあるし、やたら似た人がいるから目を合わせてみたけど、シカトだったって言ってます」

「それじゃダメだ。名前呼ばにゃ。朝の俺の寝ぼけっぷりをナメんな」

てな話から、

「そうだ、かみさん。ツーリング行く前に、オッチーが友達と借りてる家に行きましょう。バイク整備小屋になってるんですけど、そこで捕まえればオッチーもツーリングに行くと思うんで」

そんな企画は当然、大賛成だ。

 

それからテントの撤収作業を行い、夜露に濡れたフライやテントを干してから、出発する。

よしなしは最初、「ドルのアドレスで走れば」なんて言われてたのだが、結局、ドルマルキューのケツに乗っていくことにしたようだ。昨日デコマルキューのケツに乗って走ってるってのに、ちっとも懲りてない相変わらずバカな男だ。むしろ、ハヤブサの後ろに乗ればいいじゃないか。

「絶っっっ対、ヤだっ!」

なにゆえそんな力強く。

 

新しい世界の扉を開いてやろうと言う俺の親切な申し出を無碍(むげ)に断ったよしなしを、ドルマルキューのケツにのせ、オッチーが友達と借りていると言う家へ向かって 、みなで走り出す。天気は驚くほどいいし、昨日がウソみたいに暖かい。まさに絶好のツーリング日和だ。

30分も走ったか走らないうちに、オッチー小屋へ到着。

 

小屋つーかでかい平屋。

 

オンボロだけど、俺の心をくすぐるアイテムぞろい。

 

ちょ、頼むから俺に塗らせてくれ!

 

CBRを手放してハーレィを買ったオッチーは、今日はKさんと一緒にセカンドバイクの電装を6Vから12Vに変更しようとして、詳しいKさんに「このパーツじゃ無理」言われたところだった。つことは時間が空いたわけだ。それじゃKさん、オッチー ! 一緒に走ろうぜ。

「 30分くらいで用事を済ませ、V-MAXに乗り換えてくる」

というKさんがいったん帰り、オッチーはハーレイの修理。その間手持ち無沙汰の俺たちは、ハヤブサの試乗会を開いた。ターゲットはもちろん、ゆっちょむとドルだ。ゆっちょはZZR1200に乗ってるし、ドルもR1000のK3に乗ってた。 そう、土壌は出来ているのだ。

あとはハヤブサに乗っけちまえば、どっちかは墜ちるだろうと予想しつつ、まずはゆっちょむ。

帰ってくるなり、目ん玉キラキラさせながら「すっげぇ、いい!」を連発。そのあとは他のバカ話をしててもハヤブサをチラ見してたり、ハヤブサの話ばかりする。「そろそろ結婚するつってるんだし、これが最後チャンスなんじゃねーの? 」と、鬼どもがアオる。

と。

なにやらもうひとりそわそわしてる男がいる。無論、ドルフィーだ。

「行ってきまーす」

走り出すなり軽くフロントを浮かせながら、最初のコーナーに消えてゆくドル。あとで聞いたら、この一発目のコーナーですでに「ひゃっほー!」とか叫んでたらしい。ま、こっちはマルキュー下取りに出せばどうにでもなるだろうから、もしかしたら購入が早いのはドルの方かもしれないね。

そんなことやってると、やがてどよどよと聴きなれた排気音がする。

KさんがV-MAXに乗って帰ってきたのだ。ほぼノーマルのその姿に、感慨深い思いを抱く俺。なんたって、かつては「V-MAX以外には興味がない」とまで俺に言わしめた名車だ。フラナガンのは、 足の出来とかむちゃくちゃいいけど、いじりすぎ。V-MAX乗りは、最後にノーマルへ戻るのだ。

今となっては大きくも速くもなく、それでも未だに人を狂わせる魅力を持った、ヤマハの最高傑作(俺的に)を前にすこし話をしたら、それじゃぁ走り出そうか。ドル&よしなしを先頭に、この間は雨で攻められなかったここいらのワインディング好きの聖地、羅漢へ向かって出発。

 

ちょっと走り出したとたん、幹線道路の国道二号線さえすぐに気持ちよくうねり始めるんだから、山口ってのは曲り道好きにはたまらない場所だ。いや、曲がり好きじゃなくても景色もいいし、温泉はあるし、もっとツーリングスポットとして取り上げられてもいいような気がする。

並んで走りながら、ついでに写真を撮ってみた。

ゆっちょむ&ZZR1200。

 

Kさん&V-MAX。

 

オッチー&ダイナ……かな? わからん。

 

デコマルキューR。

 

ドルマルキューR、ウィズよしなし。

 

んで、ゆっちょと写真を取り合ったりバカやりながら走る。

 

紅葉は、もう少し先の方が良いのかな?

 

美しい景色の中を、気持ちよく走る。

途中のコンビニで休憩しつつ、この先のプランを練るドルフィー。

 

なかなか壮観だね。

 

しばらく駄弁るうち、気温も暑いくらいになってきた。

俺は待ちきれずに「早く行こうぜ。曲ろうぜ」と大騒ぎし、みなも苦笑しながら出発。

見覚えのある道を進むうちに、停まったドルが俺を振り返って

「ここからしばらく一本道なんで、突き当りで待っとってください」

ドルがそれを言い切る前に、俺はうなずいてダッシュ。

 

クルーザ組は、のんびりと景色を満喫。

 

「あ、ここ知ってる。前に来たとき、ゆっちょと単車を取り替えて走ったワインディングじゃん」

と思い出しながら、ハヤブサの速度を段々と上げてゆく。

 

引っ張ってみたり、逆に少し早目にシフトしてみたりして、スピードに乗る走り方を模索。や、まぁ模索ってほどでもなく、旧ブサとR1000で学んだり身についたことを思い出す感じかな。そうして走ってみると、改めてR1000ってのは軽くて速くて曲る単車だったなぁと実感したり。

そら、余計なこと考えないでハヤブサを曲げるぞ。

重たい車体をやや過剰なくらいキッチリ減速させて進入。逆らわず穏やかに寝かしてコーナリング。アクセルオンで旋回から立ち上がり。すべての操作をR1000の倍くらい慎重に、作業の速さよりも滑らかさを優先して操りながら走る。

「そうそう、こいつは重たいんだ。手拍子で突っ込んだら刺さるぞ」

慣れてきたところで段々、ブレーキを厳しくし、バンキングを早める。SSに比べるとすっと穏やかな、タイア、サス、エンジンからのフィードバックに耳を澄ませ、破綻寸前とまでは攻め込んでないけど、かなり攻め込めるようになってくる。すげぇ楽しいんだが、SSよりも数段疲れる。当たり前だけど。

「でも、R1000で一気に山口まで来たら、疲れきっちゃって、今日、動けないはずだからな」

誰に言うでもなく言い訳がましいセリフを吐いてみたり。そう、誰でもない、自分に言い聞かせてるんだけどね。K9とかうっかり買っちゃわないように。ランツァ入れたら三台になっちゃうし、さすがに置き場所がない。むしろ置けるなら速攻で買っ……いや、なんでもないよ。

 

適当に走って、途中で停まってみなを待つ。

ゆっちょむがやってきたので二人でしゃべっていると、クルーザ組が追いついてきた。先に行ってもらってから、ほどなくして追いかける。追いついてしばらく一緒に走り、また前に出てすっ飛ばすのを繰り返してるうちに、左に曲って郵便局が見えたところで、ドルが「行け」と手を振る。

道の駅スパ羅漢までのワインディングが始まった。

 

実際に聖地と呼ばれているのは道の駅を越えた山の上側なのだが、そこに至るまでの道も、なかなかのワインディング。もっとも、俺の山口のイメージで言えば狭くて荒れた道と言いたい けれども。関東にもありそうな勾配と道幅の、普通の峠道である。

さて登りながら曲ろうと勢い込んで走り出したのだが、残念なことに季節は紅葉の時期。温泉と紅葉のあるところ、観光客あり、だ。短い直線でクルマをかわしつつ、それでも気持ちよく晴れ上がった天気のお陰か、タイアのグリップもいい。グっと路面を喰ってグイグイ曲ってくれる。

なんて楽しんで走ってると、

あっという間に道の駅についた。

 

どうやらすでに、ひと雪あったらしい。ブラインドコーナーにあったら、ちんこ縮むね。

 

一服してるとオッチーが「ここから先が、広くて気持ちいいんですよ」と教えてくれる。

そう聞いたら黙ってられないかみさん。

ドルが「かみさん、走りに行かないんですか?」と聞いたときにはすでにハヤブサに向かって歩き出しながら「行く」と短く応えてヘルメットをかぶっていた。 一台NSRが上がっていくのを見ながら準備をして、ゆっくりとノーズを峠に向ける。

走り出して最初の左コーナーを立ち上がりながら、アクセルを大きくかけてゆく。トルクキングなエンジンが、実測260kgの車体を見る見る速度に乗せてゆく。すぐに次のコーナーが迫ってくるので、二本掛けしたブレーキで速度を殺しつつ思い切って車体を寝かす。

登りでリアがしっかり沈むのでアクセルを開けていくことが出来る。ま、登りは誰でもやれるって話だけど。オッチーが言ったとおり下の道よりも綺麗で走りやすい。観光のクルマを抜くのがちょっとかったるいけど、アップダウンもあるしタフな部分もある。バリエーションに富んでて面白い。

ステキなワインディング。

先に行ったNSRがUターンしたので「地元のUターンポイントなのかな?」と思って俺もUターンした。当然、そのままNSRを追いかけるのだが、彼はあんまり速くなかったので、ふたつ三つコーナーの様子を見てから、見通しのいい下りのS字で一気に前に出た。

あとは余裕をもって引き離し、そのまま走りきって道の駅に戻る。

「 も少し走ってみっか」とも思ったが、よしなしが寒くて死に掛けてる。

少し駄弁ってから、食事の場所が混んでるので、「下って温泉でうどんを食おう」という運びになる。もちろん俺はいの一番に飛び出して、下りをすっ飛ばす。が、観光客だけじゃなくゴミの収集車まで連なって走ってたので、抜くのに手間取っているうちに目的地に到着してしまった。

小瀬川温泉。

 

デコと、ゆっちょむ。

 

オッチーのハーレィと、KさんのV-MAX。ここからの絵だと、なんか感じが似てない?

 

店の中に入った段階でガッツり混んでる店内の様子にヤられてしまう、人ごみの嫌いなかみさん。早々にギブアップして、表でのんびりしながらみんなが喰い終わるのを待つことにした。すると、水車があったので、 近寄ってって写真を撮ってから、そばにあった岩に寝転がる。

水車。

 

水は流れて

 

小川を作る。

 

紅葉を眺めたり。

 

寝転がって空を見た。

 

天気よく、ぽかぽかと気持ちいいので、気づいたらすっかり寝てしまった。

しばらくして目を覚まし、話し声や人の気配に起き上がると、よしなしが今まさに俺の寝姿を写真に収めようとしてるところだった。口を尖らせたよしなし、もとい、だいなしに「ダメだよ、起きちゃ」とか意味のわからんクレームをつけられた。だいなしのクセに。

さて、そのよしなしにはタイムリミット、新幹線の時間がある。

駅まで送る時間だのを考えたドルフィーが、「そろそろ帰りましょう」とお開き宣言するのを合図に、クルーザ組が並んで走り、飛ばし組が先に行って待ってるという『往路と同じ構図』になった。つーか、帰りの飛ばし組は俺しか居なかったけど。

山口はこんな場所が多くて、本当に気持ちが良い。

 

全員でドル家に戻り、「後で来る」という宣言をしたKさんとオッチーが、いったん帰る。

乾いたテントを仕舞ったり、明日のために荷造りをしてから、ドル居間でまったりとくつろぐ。明日は雨の予報だから、体力気力を蓄えておかなくちゃならない。一番いい方策は、もちろん宴会だ。なので宴会の準備をするのだが、その前にやることがある。

なにって よしなしいじめに決まってるじゃないか。「おめ、ほんとに帰るのか?」と何度か食らわし 、帰りたくないヤツの気分をあおる。それからドルの運転するクルマにみんなで乗り込み、よしなしを駅まで送る。クルマの中でもバカ話をしてるうちに、あっという間に駅へついてしまった。

「よしなしさん、まだ間に合いますよ」とかいじめてる、ゆっちょむ。

 

もちろん俺も横でうなずき、「よしなし、ギリでもいいから帰って来い」と笑った。

よしなし、本気で悔しそうな顔をしつつ、切符を買って改札をくぐる。

俺は両手を開いて「よしなしっ! 来いっ!」とか行ってみたけど半笑いでスルーされた。

 

ひとあしに茨城へ帰るよしなしを見送ったら、さて、宴会の買出しをして帰ろう。

食い物や酒をたっぷり買いこんでドル家に戻る。程なくやってきたKさん&オッチーと合流し、さぁ、乾杯しよう。Kさんやオッチーは呑まないのでコーラだかなんかを掲げ、俺、デコ、ゆっちょ、そしてドルフィーがビールを掲げ、さぁ、待ちに待った乾杯だっ!

呑み、喰い、騒ぎ、げったげた笑っていると、仕事を終えたJちゃんが帰ってきた。

しかし、彼女はこのあとまた夜中に仕事へ出るという。なので、風呂に入らせ、メシを喰い終わるや否や、治療を開始した。俺もまだ、ひどく酔っ払ってるわけじゃないので、きちんと治療できた……と思うけど自信はない。ま、人は酔っ払っても自分の器を出ることはないから、大丈夫だろう。

1mgの根拠もないけど。

さらに宴は絶好調に盛り上がる。ゆっちょむに呆れるオッチー(左)。

 

山口に来るのは三度目だが、前二回と同じく、とんでもなく楽しい時間が俺を狂喜させてくれる。

なんだってまぁ、こんなにも気持ちのいいバカばっかりなんだろうね。本人には何度も「お前バカだなぁ」と言ったが、よしなしが新幹線に乗ってまでやってきたくなる気持ち、本当はよくわかる。いつも楽しい時間と場所を提供してくれるドル。デコとゆっちょむの気持ち良いバカっぷり。

オッチーはにっこり笑って毒を吐くし、Kさんはもう、ずっとゲタゲタ笑ってる。

やがて、Kさんとオッチーが帰宅したあたりで、俺の記憶も途切れた。朝起きたら、せっかく作ってくれた寝場所じゃない、居間の床で寝てたから、相当飲んだくれてベロベロになったんだろうね。これっぱかしも覚えてないけど、 楽しかった宴会の手ごたえは充分覚えてる。

ステキな時間をありがとう。俺は、お前らが大好きだよ。

 

翌朝、天気は予報にたがわず雨。

前日に準備しておいたのであわてることもなく、ドルフィー、デコ、ゆっちょむの三人に楽しかったと別れを告げた俺は、はるか1000km彼方の千葉県柏市に向かって、ハヤブサのノーズを向けた。

尾道ラーメンを食い。

 

新名神を駆け抜け。

 

東名を走る。

雨の中、100km前後で休憩を入れながら、まるで修行僧のように淡々と距離をこなしてゆく。正直、めちゃめちゃしんどい。寒いし、身体がこわばってくるし、ドタマも段々働かなくなる。走って走って走り続け、富士のそば『裾野インター』をパーキングと勘違いして降りてしまったり。

しかも、「くそー!」と叫びながらUターンしたら、思いっきり逆方向に向かって走ってるし。

半分泣きながら、トラックに水をぶっ掛けられながら、沼津で降りて引き返し、横浜あたりでまたラーメンを食う。そのあとは聞くも涙、語るも涙の大渋滞だ。暗くなって目が見づらくなり、シールドをあけてヘロヘロになりながらすり抜け続ける。

「永遠にこのまま、走り続けなくてはならないんじゃないだろうか?」と、軽く無間地獄に落ちた気分で走っていると、ようやく首都高速の文字。「さぁ、最後の一息だ。帰り着くまでが遠足だっ!」楽しかったツーリングを、楽しいまま終わらせるために、気合を入れなおした俺は、

柏に向かって走り出した。

 

みんな、楽しかったよ。

また、飲んで、食って、騒いで、バカやって。

走ろうぜっ!

 

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