The 86th big machine club

2009.11.21 第86回 でっかいもん倶楽部 in 名古屋

―ツアラー魂―

 

仕事がハネた午後、俺はGO!!!君を治療したあと……おっと、その前に書くことがあった。

出発前の最後の患者さんはGO!!!君だった。

治療しながら、「こうやって一生懸命治療してもさぁ、レポ書くときは『GO!!!君を治療したあと出発する』で終わっちゃうんだよなぁ」と、アサッテな嘆きを本人にぶつけて苦笑を買った後、午後二時ころだったか、それぞれの単車をまたいで出発した。

暖かいくらいのいい天気に、「この天気が、明日に移行すればいいのに」と口をとがらせかけたが、現実から逃避しても意味がないので、せっかくの好天を楽しんで走ることにする。外環から首都高に入り、C2で中央道へ向かった。そのC2から新宿線に乗るあたりだったかな。

突然、目の前がチカチカチカっとフラッシュする。

前を走るGO!!!君の姿が、ネガポジ激しく入れ替わりつつ、俺の目を焼く。う〜ん、うまく伝わらないなぁ……ああ、そうだ。つまりアレだ。何人もの子供がヒキツケを起こした、あのアニメ、ポケモンのフラッシュシーンのようになったのだ。

一瞬のパニックのあと、上を見あげた俺は、ようやく状況を理解した。

トンネルの天井部分がハシゴのような形になっていて、傾き始めた初冬の太陽がそっから差し込むために、影と陽がコンマ三秒くらいで入れ替わりに当たるのだ。ビカビカビカっとフラッシュのように。陽の落ちる一瞬だからタイミング的に数分だろうとは言え、いつか事故を引き起こすだろうね。

道路公団には対策を期待したい。

 

中央道に乗ると、心配したほどは混んでなかった。

最悪、談合坂までずっと繋がってる心配をしていたので、拍子抜けするほどだが、歓迎できる事態であるには違いない。だらだらながらも流れる車の列を、GO!!!君とふたりで縫いながら抜けて行く。俺が前に出たりGO!!!君が前に出たりしながら、120〜130スピードで巡航。

ごめん、ウソついた。俺が前のときは、ちょっとずつ速度が乗っちゃって、もうちょっと出てた。

実は出発前、いつものようにGO!!!君と

「ゆっくり行こうね」

「ボクはいつもゆっくりですよ、ツアラーですから。かみさんが我慢できなくなるんじゃないですか」

「なにをぅ! いいだろう、俺のツアラー魂を見せてやる」

などとやり合っていたので、120スピードくらいで行くつもりだったのだが……

休憩に入ったサービスエリアで、ヘルメットを取るなりGO!!!君。

「うそつき」

ウソじゃないよ、ちょっとくだりで勢いがついちゃっただけじゃないか。

ところでその、休憩に入ったサービスエリアなんだが、本来はワンタンク200キロ強くらい走ったら入ろうと思っていた。だが、寒くてどうしようもなく、中途半端に180キロ弱あたりで力尽き、イッコ手前のサービスに入ってしまった。このときの長野の気温が五度だったかな?

ま、Tシャツに革ジャンてなナメたカッコの男に、何も言う資格はないんだけど。

「さむいさむいさむい」

「そりゃ、寒いですよ。Tシャツに革ジャンじゃ」

「半端なところでサービス入っちゃったなぁ。ここで満タンにして名古屋まで持つかな?」

「かみさんのペースじゃ持たないです」

「GO!!!君、最近、俺に冷たくないか?」

パーキングでインナーダウンを着込み、「寒さ対策は万全だぜ」と走り出す。

うん、走り出して数分で、イッコも万全じゃないことに気づいた。もはやインナーダウン一枚では取り戻せないほど、事態は切迫していたのだ。翻訳すると、皮パン履いた脚も寒けりゃ、真冬用グローブじゃない指も寒い。スピード出すと、寒風が膝や指を切り刻む。

なので、ある意味予定通り、100から120スピード巡航で走る。

すると、そこそこ飛ばすクルマがやってきた。もちろんツアラーなかみさんは穏やかに道を譲って、その後ろにつく。そのクルマが多少加速したって、結局、前は詰まっているのだから、ベタづけしたって意味があるわけじゃなし。車間を引き離されても、気にしないで走っていた。

と。

ふぉーん!

爆音ですっ飛んで行く、GO!!!君のフェーザー

俺は苦笑しながら、ヘルメットの中でつぶやいた。

「うそつき」

 

結局、もちっとだけペースをあげて150スピードくらいですり抜けながら、俺たちは淡々とひたすら距離を刻む。後半は特にトラブルもなかったが、山間を走る中央道は陽が落ちてくるととにかく寒い。山間部を抜けて平地に出ると、多少は体感温度が高くなるが焼け石に水。

むしろ、「その焼け石をボクに抱かせてください」ってくらい寒い。

パーキングに休憩に入り、ともっちさんに電話を入れる。

「もしもし、お疲れさまー!」

「あ、ともっちさん、お疲れさまっす。もうすぐつきます」

「天気は大丈夫?」

「さ、寒いっす」

「ははは、りょうかーい。お風呂沸かして待ってますね」

なんという慈悲。たしかに今の俺には、酒よりも風呂だ。

つわけで温かいお風呂を夢に見ながら、残りの行程を一気に走りぬける。そして、名古屋インターを降りた瞬間、俺の脳裏にひらめく光景。「あ、ここ知ってる。これなら自力で行けるんじゃね?」と確信したかみさんは、GO!!!君を引き連れ、自信満々で名古屋市街を駆け抜ける。

そして、走り出して30秒で、あれほどあふれていた自信が、瞬時に霧散する。

「おやおや、どうやら俺は、ま〜た知らないところを走ってるねぇ」

適当に走ってバイクを停めると、GO!!!君に振り向いた。

「道、わからん」

「えぇ? わからないで走ってたんですか?」

「ま、ちょっと待ってて。今から、ともっちさんに聞いてみる……あ、もしもし、ともっちさんすか? 今、高速降りたんですけど、行けると思ってテキトーに走ったら、まるっきし迷っちゃいました。今、○○って交差点に居るんですが」

「ははは……それじゃあですね、かみさん。まずは、インターを降りたところから左へですね」

「ごめんなさい。すでにそんな難しい注文に応(こた)えられる状況じゃありません」

「……わっかりました。そこで待っててください」

ホント、申し訳ねーです。

 

つわけでGO!!!君とふたり、ともっちさんの迎えを待ちながらダベる。

「なんで行けると思ったんです?」

「そんな難しいこと聞くなよ」

「……つーか震えてますね。そんな寒いんですか?」

「寒いねぇ。劇的に寒いねぇ。GO!!!君は平気なの?」

「ジャケット着てますもん。ボクはツアラーですから」

「寒いから突っ込まなくていい?」

 

バカ話しながら待つこと二三十分、ともっちさんが車で迎えにきてくれた。

「お久しぶりですー! つーかホントすいません」

「いやいや、それじゃ行きましょうか」

ともっちさんの先導で、無事、ともっち邸に到着。

ブーツを脱いで入り込むと、なおっちゃんが書類仕事をしている横で、すでにムラっちゃんが手羽先をつまみにビールを飲んでいた。その姿に悪口雑言をたたきつける余裕もなく、「ただいまー」と挨拶したら、まずはとにかくお風呂をいただく。

「う゛ぁ〜! 気持ぢい゛い゛〜」

ハナウタで『ビンクスの酒』を歌いながら、凍った身体をゆっくりと解凍する。

 

風呂を出たら、さぁ、宴会だ。

つっても、ムラっちゃんはもう、出来上がってる感じ。

よし、待ってろ。すぐに追いつくからな(張り切るポイントが違います)。

GO!!!君はプシュさんを手なづけようと、おもちゃでご機嫌伺い。

 

本来はとっても人懐っこい、ともっち家の愛猫プシュさんだが、なぜか俺とはソリが合わないつーか、どうも怯えられてるフシがある。初めて会ったときから、プシュさんは異常に俺を警戒するので、最近ではコミュニケートをあきらめた。時々、嫌がらせに抱っこするくらいだ。

 

ビールを一本で済まし、焼酎に切り替えて調子の出てきたころ。

ともっち邸ではおなじみの、ナオユキ君と料理長がやってきた。

さらに今回はブルマンが来ない代わりに、新人のオガー君がやってきた。関東からバカが来るつって顔出したら俺が居るんだからね。かわいそうな生贄だ。んで相変わらず美味い料理長の料理に舌鼓を打ちながら、呑んだくれてバカ話。

その合間に、GO!!!君はプシュさんとの友好を深めている。

ゲラゲラ笑ってがばがば呑んでるうちに、疲れと風呂で下準備の整ったかみさん。

泥酔。

途中から記憶が飛んでるのだが、携帯の発信履歴が大変なことになってたから、たぶん、色んなヤツに迷惑電話掛けてた。もっとも、俺の携帯に入ってる連中の半分は基本的人権が認められてないので、ま、問題はない。おーがだのフラ公なんて、ナニやったってメイワクじゃねーのだ。

なぜなら、ヤツらは俺を愛してるから。

つわけで前日に突然、電話をかけて宿泊させてもらった、ともっち邸、いや、ともっち亭での楽しい一夜は、俺の『泥酔大騒ぎ、罵詈雑言、悪口雑言』を、ともっちさんが暖かく見守ってくれたおかげもあって、にぎやかに過ぎていったのだった。

 

朝、目が覚めると、自分が何かを抱いて寝ていることに気づく。

「?」

眠い目を擦りながらおきてみると、俺が抱いていたのは布団と脚だった。いや、違う。自分の脚を抱いて寝るなんて器用な雑技団じゃない。横に寝ていたGO!!!君の脚を抱いていたのだ。ビックリして起き上がると、GO!!!君も起きてきた。いや、もう起きてたのかな?

「あれー、俺、GO!!!君の脚を抱いてた」

「そして、ボクの布団も抱いてますね」

「なにっ?」

驚いて確認してみると、俺は自分の布団を蹴っ飛ばして隅に追いやり、GO!!!君の布団を強奪して抱き、さらに彼の脚までついでに抱きこんでいたのだ。まさにGO!!!奪(うまいこと言えてません)。ま、きっとこれは、昨日の昼間GO!!!君が俺に冷たくしたせいだろう。

つーか最近、GO!!!君の俺を見る目が、すんごくNに似てるのは気のせいだろうか。

ともっち亭の名物、自家製パンの朝食をいただきつつ、携帯を確認してみると。

昨日、酔っ払って「てめぇ、今から来い」と散々いじめてたフラナガンから、メールが来ていた。内容は、ともっち亭から帰る途中にあるワインディングの説明だ。マップルを開いて言われた道を確認してみると、結構な長さでワインディングが続いている。

「お、コレは面白そうだ。やるじゃねーか、フラ公」

「でもこれだと、帰りは夕方になりますね。雨に降られる覚悟はしておかないと」

隊長の冷静な判断にうなずいていると、ムラっちゃんつーかムラタが、困ったような半笑いで

「そうすると、俺はどうやって帰ればいいんでしょう」

「カンタンだよ。柏から常磐道に乗って……」

「いやいや、行きませんから」

 

とりあえず、一緒にワインディングを走って、中央道に乗ったところから東西に分かれて帰ることに決まった。そうと決まれば、雨が降る前に走り出そうじゃないか。おいしい朝メシを腹いっぱい(腹いっぱいは俺だけだが)喰ったら、ともっちさんとなおっちゃんに 、お世話になった挨拶をする。

「ともっちさん、トツゼン来ちゃってすいませんでした。ありがとうございました」

「なに言ってるんですかー! ホント、いつでもまたきてください」

「なおっちゃん、またケンカしに来るからねー!」

「うん、またケンカしに来て」

いや、もちろんホンキでケンカしたわけじゃない。

俺となおっちゃんは宴会のときは宿命のライバルという設定なので、俺がなおっちゃんを、「これだから天然はダメなんだよ」とイジメたり、たまに彼女の突っ込みに返せないで居ると「やった、かみさんに勝った」となおっちゃんが笑う、そんな展開がいつもなのだ。

「プシュさんも、またな」

 

プシュさんはもちろん、こっちなんぞ見やしない。

 

準備を終えた俺たちは、階下で待つ愛機の元へ。

ムラタにケーロクをまたがらせて、ヤツの購買意欲をあおったりしつつ。

ともっちさんにもう一度お礼を言ったら、三バカ珍道中のスタートだ。

 

俺としては、誰でも先頭を取れるように、フラ公からのメールをふたりに転送しておいた。

だが、朝っぱらから布団をGO!!!奪した負い目もあり、俺が先頭を取って走り出す。言っても、すでに昨日の段階で迷い道機能を全開にさせてたかみさんだ。そしてまたフラ公の教えてくれたルートが、ぱっと見はまっすぐなのに、よく見るとT字路からクランクに走ったりと、やけに迷いやすい。

「今日こそは道に迷わないぞ」

と固く心に誓っていた俺は、ちょっとでも不安になると、単車を停めて道を調べることを繰り返した。朝っぱらから走っちゃ停まり、走っちゃ停まりだったので、「う〜む、ふたりにも 、ずいぶん鬱陶しい思いをさせてるだろうな」と思うのだが、それでも迷うよりはマシだろう。

何度か道を確認しつつ、ようやく県道33号に乗る。

が。

確かに道は楽しいのだが、いかんせんクルマが結構走ってて、その割に道幅が少ないので、パスしてゆくのが少々鬱陶しい。「結構クルマが居るねー」「まぁ、仕方ないですけどね」なんてGO!!!君と話しながら、二日酔いも手伝ってもっさりした感じで走ってゆく。

33号も一瞬、別の道を通るクランクになってて、そこでも見事に勘で反対へ向かうかみさん。

Uターンして33号に戻り、クルマをかわしながら走っているうちに、いつの間にか33号は終わってしまった。国道153号に合流するところで信号待ちで停まった時、GO!!!君に「往復しないでいいよね?」と確認すると彼もうなずいたので、そのまま153号に乗る。

 

んで、しばらくすり抜けながら走っていたら、目の前にパンダが現れた。

どこかに停まってやり過ごそうと思ったちょうどその時、自動販売機のある休憩所みたいな場所が見えたのだが、気づくのが一瞬遅かった。「ま、他にもあるだろうから、次に販売機があったら停まろう」と決めて、パンダの後ろをゆっくりと走る。

いや、俺とムラタだけなら、そこらの道端で一服すればいいけど、GO!!!君はタバコを吸わないから、販売機くらいはあった方がいいだろうと思ったのだ。ところが、これが完全に裏目に出て、行けども行けども販売機はおろか、駐車場さえ見当たらない。

「う〜ん、このまま行くんじゃかったるいし、どっかイイトコないかなぁ」

と思っていたら、右っかわに販売機のあるソバ屋の駐車場が見えてきた。同時にGO!!!君が前に出てきて、休憩の合図をする。うなずいて、ソバ屋の駐車場に入った。

この段階で昼前だが、気温はかなり低い。

そして二日酔いと朝飯の食いすぎで、俺のテンションも低い。

休憩して一服つけながら、ダラダラと話をしたり、掛かってきた電話で話をしていると、やがて、俺の身体に異変が起こる。腹が下ってきた感じだ。「コレはよろしくないぞ」と見回せば、トイレ発見。 ムラタと入れ違いでトイレに入り用を足していると、上からも意思に反してせりあがって来る。

「やべ、どっちを堪(こら)える?」

軽くパニックになりつつ、最悪の事態を回避しながら両方排出し、無事トイレを出る。

出すもん出したのでイロイロと元気になった。

 

さて、それじゃぁ国道を北上して、ワインディングを楽しもう。

国道だけに、そこそこクルマは居るのだが、さっきよりはずいぶんと広いので抜きやすい。ガシガシすり抜けて曲がり道を楽しむ。それでも抜きどころが多いわけではないので、一台づつしか抜けず、走った先でしばらく後続を待ち、また走るというのを繰り返した。

とは言え、そこはGO!!!君とムラタだ。

かったるいなんてコトは一切なく、ちょっと直線で待っていれば、すぐにライトが見える。「やっぱ、キチガイと走ると楽しいなぁ」とニヤケながら、6〜7割くらいのペースで気持ちよく流す。GO!!!君が「直線は飛ばさない」つってたので、俺も真似して直線はあまり開けず、コーナリングを楽しむ。

いつの間にか、途中で後ろがムラタに変わり、こんどはGSXランデブーだ。

直線も少し開けるようにして、8割くらいでワインディングを駆け抜ける。ブレーキを早めにするのと、コーナリングが終わった後の立ち上がりでのアクセルを少し抜く感じ。コーナリング自体は、それほどトラクションの掛かってる感じではないものの、スムーズに気持ちよく曲がれる。

「ま、知らない道だし、こんなもんだろう」

俺はフラ公に感謝しながら、曲がり道を楽しんでいた。

と。

ぴゅ〜ぴゅ〜!

なんだか、急に風切音が強くなった気がする。出る前に、Z−6のロック機構を知らずに、ちょっとチカラを入れてシールドを開けようとした事があったので、「もしかしたら、あの時にシールドを壊しちゃったかなぁ?」と思いながら、シールドを押さえつけてみたりするのだが。

ぴゅ〜ぴゅ〜!

消えない。

「まいったなぁ。修理に出さなきゃならないかなぁ」

とつぶやいた瞬間、道がトンネルになった。とたんに大きく響くぴゅ〜ぴゅ〜音。あれ? もしかしてと思ってミラーを見ると、後ろにはクルマをはさんでムラタがついてきている。よかった、違うか。ってことは、これはやっぱシールドが……う〜ん、でも、なんかヘンだなぁ。

もう一度、ミラーをよく見てみれば、ムラタの後ろになにやら、すごく見覚えのある影

アップライトな乗車スタイルの、白い単車がピタリとつけている。

「あれ? moto君?」

ムラタは前に俺と龍神で走ってから、ずいぶん練習したのだろう。いつの間にか、後ろにmoto君の影を背負えるほどにまで成長したようだ。ムラタの後ろから、まるでmoto君のSTがついてきてるようにさえ見えるほどのオーラを見て、俺は気合を入れなおした。

「よし、それなら俺も全力で走らなきゃ、失礼に当たるな。ムラタ、これが俺のホンキだ」

ギアを叩き落として、スクラッチスクランブル。

俺は全開アタックに入った。

 

知らないワインディングだが、車の数はぐんと減っている。

多少荒れたアップダウンのある道だが、俺の嫌いなリズムじゃない。そしてテンションも先ほどのまったりムードから、一気に戦闘モード。むしろ、ゼッタイ逃げ切ってやるモード。面白いことに、とたんに頭が冴えてきて、身体がリズムを思い出す。

「なるほど、リハビリとか言いながらダレてたのが、ここんとこの不調の原因か」

思ったように動く身体とケーロクに、ものすごく嬉しくなってくる。俺に必要なのはイイワケじゃなくて全力疾走だったのだ。ましてステージは、俺の大好きな200以下のワインディングだ。本当ならシビレながら走るはずの全力疾走が、ニヤニヤしながら肩の力を抜いて走れる。

股の下で踊るケーロクも、機嫌がいいようだ。

ケツを落とさず、リーンウィズか四分の一ケツくらいで、アクセルで曲げてく感じが、どうしようもなく楽しい。少し突っ込みすぎたかと思っても、アクセルを抜くだけで内側に進路変更できる。知らない道なのに、「どんなレイアウトでもドンと来い」ってな気分だ。

楽しすぎてイキオイあまった俺は、街中に出てからもすっ飛ばし、高速に到着してしまった。

 

そのまま高速に乗り、最初のパーキングに入るとムラタに電話。

「おー! 面白かったなー!」

「面白かったっすねー! でも、バラけちゃいましたね」

「ま、こんなんも『らしく』ていいだろ。また、走ろうな」

「また走りましょう!」

ニヤつきながら電話を切ったところで、本日のCrazy Marmaladeでっかいもん倶楽部は、無事に流れ解散となる。昼過ぎくらいまでの短い時間だったけど、事故以来、久しぶりにGO!!!君と走り、龍神以来、久しぶりに大阪の弟ムラタと走れた、楽しいツーリングだった。

事故で失った時間を、ようやく取り戻してきた感じだ。

そしてなにより『俺にとっては、バカな連中と呑んだり走ったりすることが人生における一番大事なことなんだ』と言うことを、改めて実感させられた二日間だった。ともっちさん、なおっちゃん、ともっち亭のみんな、そしてGO!!!君とムラっちゃん。俺みたいなクズと遊んでくれて、本当にありがとう。

また、呑んだり走ったり、楽しい時間を共有しようぜ。

 

 

 

 

 

と、キレイに終わらないのも、マーマレードスタイル。

しばらくしてパーキングにやってきたGO!!!君、ヘルメットを取るなり

「高速のスタンドで、ブレーキフルードって売ってますかね?」

「あんで?」

「フロントブレーキが……」

見ればフロントのブレーキホースからオイルが染み出してる。マスターシリンダの手ごたえも、ほとんどなくなったそうだ。言ってもスポーツバイクのブレーキなんて、ほとんどが前輪に頼ってるわけで、ましてGO!!!君は特にリアブレーキを使わないことで有名だ。

「とりあえず、高速降りてバイク屋探してみる?」

「いや、このままゆっくり走って帰ります」

つわけで、GO!!!君を先頭に、120〜130スピード巡航で帰路につく。相変わらず寒く、俺にとってもこのくらいのスピードがちょうどよかったので、ゆっくり車線変更しつつ、点在するクルマを穏やかに縫って走る……うちに、だんだんとGO!!!君の速度が上がってくる。

「おいおい、ユーはフロントブレーキが使えないんじゃなかったかい?」

なんて突っ込みは、ヘルメットの中にむなしく響くだけ。

諏訪あたりで最後の給油をして、マーちゃんのところに電話するGO!!!君。

雨を覚悟していたにもかかわらず、なんだかんだ降られる事なく、途中では太陽まで顔を出すほど天気に恵まれながら、俺とGO!!!君は淡々と走った。ブレーキにトラブルを抱えてるGO!!!君には申し訳ないが、「なんだか、こういうのも楽しいな」と、顔をゆるませる俺。

やがて、談合坂を越えていよいよ東京が近づいてきた。

このころには脚どころか、ケツまでも悲鳴を上げ始め、ケーロクのポジションが恨めしくなっていた。すると、それを察してくれたのだろう、クルマが多くなってきたところで、さすがにすり抜けは出来ないGO!!!君がハンドサインで、「行け」と合図してくれた。

しんどくなっていた俺は、素直に甘えて前に出る。

振り向いて片手を挙げたあと、俺は柏に向かってアクセルを開けた。

 

GO!!!君、今回は本当に最後まで、イロイロありがとう。

寒くなってくるけどツアラー同士、またツーリングに行こうね。

もう、二度と布団を奪ったりしないから。

 

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