The 91st big machine club

2010.05.31 第91回 でっかいもん倶楽部 in 北茨城

―ボッカ牧歌―

 

「かみさん、復活おめでとうございます。ツーリング行きません?」

前日の夕方、そんな電話をかけてきたのは、moto君の実弟であり、エスエム兄弟のエムの方ことirohaだった。素直で気のつく気持ちのいい男なので、ヤツからの誘いなら二つ返事でOK。『茨城方面か海あたり』てな感じで、だいたいの方向と翌朝の集合を決める。

んで、その翌朝。

irohaが顔を出したので、まずはコーヒーを飲みながら行く先を決める。

「俺のリハビリコース、利根川から鹿島灘にでも行ってみるか?」

「鹿島灘沿いの道は、真っ直ぐでつまらないんですよねぇ」

「んじゃぁ……ビーフあたりでもいくか?」

「あ、いいですねぇ。せっかくかみさんフューリィだし」

要するに、峠じゃクソ遅いフューリィを突っついて遊ぼうつーハラなわけだ。

ドエムのくせに生意気な。

代わりに、『フューリィにはETCがついてないから下道で』と了承させて、筑波経由でビーフラインを目指すことにする。もっとも、その時の気分次第でコースが変わるなんてのは、かみさんの代名詞みたいなもんだが、その辺を織り込み済みのirohaだと、ツーリングも 楽だ。

irohaのZ1000は二万キロを超えて絶好調。ただ明らかに排気音がうるさい。ノーマルなのに。

 

北柏経由で国道六号線に乗り、好天の元を気分よく走り出す。

「気持ちいいッスね。ねぇかみさん、今日は牧歌的なツーリングにしましょうね」

「当たり前じゃぁないか、iroha君。ボクはいつでも牧歌的だよぉ」

信号待ちのたびにバカ話しながら、楽しく国道を駆け抜ける。 あまり混んでたら予定変更、利根川から海へ向かってやろうと思ったんだが、六号線はそれほど混んでなかったので、適当にすり抜けつつ北上し、県道9号線を左へ折れる。

SDRで筑波に行ってたころによく使ったコースで、土浦あたりの混雑を回避するのに便利。

ガシガシすり抜けながら、信号に捕まったところでirohaが声を上げた。

「か、かみさん。全然、牧歌的じゃないです。すり抜けついていけません」

「大丈夫だ、あとは空いてる裏道ばっかりだから」

「ホントですか? 信用できないなぁ」

「なにをぅ! 『ミスター牧歌的』に向かって生意気な」

バカやりながら裏道を順調に進み、

やがて筑波山が見えてくる。 天気のいい日に山を見ると、なんかワクワクしてくるよね。

 

手前のイレブンにて休憩。

「いやぁ、今日はホントに楽しくて気持ちいいですねぇ」

「最高のツーリング日和だな」

「ここんとこ、ちょっとヤなツーリングがあったんで、かみさんと走りたかったんですよ。自分で企画したくせに人任せだったり、そのくせ文句ばっか言ってたり。助けてもらって、ありがとうも言えないとか、考えられないですよね。別にお礼を言って欲しくて助けるわけじゃないけど、あれじゃちょっと」

「ほほう。そりゃ、よろしくないな。でもまぁ、二度と走らなきゃいいだけだろ?」

「ええ、もう一緒に走ることはないです。なんか自分だけ特別みたいに思ってたり、妙なプライドだけ異常に高かったりで、周りのヒトもうんざりしちゃってますから。やっぱかみさんと走るのがいいですよ。それも、特にフューリィのかみさんと」

「ぎゃはははっ! てめ、ケーロク復活したら覚えてろよ?」

「大丈夫です。ケーロク復活したら、おなかが痛くなる予定なんで」

気持ちのいい天気、気持ちのいい連れ、まさにツーリングの一番大事な要素だ。

 

一服しながら地図を見て、ふたりでこの先のコースを決める。

筑波山を上がり、風返しからそのまま反対側の林道チックな道を下って、県道42号線からビーフラインへと、だいたいのコースが決まったところで、二台並んで走り出した。 走ってるときは、ひらひら快適に。停まった時はメットをあけてバカ話。楽しい時間が続く。

「かみさんのフューリィって、違法トラックみたいな音ですねぇ」

「しょうがねぇだろ、原付サイレンサーなんだから」

バカふたりの珍道中で 筑波山を登りはじめると、ミラーにベタづけのZ1000が写り込む。

「くっそ、irohaのヤロウ、いじめ放題いじめやがって」

苦笑いしながら、右手をひらひらさせてirohaを前にやる。とたんに快音を響かせてすっ飛んでゆく、オレンジ色の憎いヤツ。その背中を見ながら、「かー! 気持ちよさそうだなぁ。やっぱ早くケーロクに乗りてぇなぁ」と全開でシットしつつ、こちらはクソ長い車体をよじらせて、山を駆け上がってゆく。

クルーザで峠は基本、八割がたガマンだから、なかなか神経を削られる作業だ。

 

やがて、山頂手前の風返し峠に出た。

風返しの交差点で、これから走る林道チックなくだりのことも知らず、呑気に笑うiroha。

さて、筑波山で二輪通行禁止じゃない唯一のコースを下り始めると、最初のコーナーから牙をむく合法風返しの下り。コンクリみたいな滑りやすい舗装の道が、『公道としてはギリじゃねーか? 』ってくらいの急角度で、しかもUターンチックにうねりながら下ってゆくのだ。

かなり怖いけど、興味のあるヒトは走ってみると面白いよ。主にその話を聞いた俺が。

 

下りきったら、そのまま42号線を道なりに北上し、フルーツラインの手前に到着する。

停まるためにココへ入ったけど、もちろん二輪通行禁止のフルーツラインを走るわけじゃない。

この写真を撮りながら、二輪通行禁止の看板が写りこむのを見て、irohaとふたり、「この写真アップしたら、走ってないのに『走った』とか言われんだぜ、きっと。つーかさ、どうせ疑われるならココも走っちゃう?」「いや、そこは普通にビーフライン行きましょうよ」

そだね。

 

つわけで、140号から64号とつなぎながら、国道50号線に入る。

このへんで昼近いのだが、イマイチ心を刺激する食事場所がないので、irohaの「もう少し田舎で食いましょう」の言葉に従って、そのままビーフラインを走ることにする。県道1号を北へ折れ、入りっぱなスグのビーフライン入り口からスタート。ココから走り出すのは久しぶりだ。

走り出してしばらくしたら、irohaと先頭を交代。

ばびゅん!

ひらりひらり踊るようにビーフを駆けてゆくZ1000の後ろ姿を見てると、思わず笑みがこぼれる。

「はははっ、楽しそうだ。つれてきた甲斐があるってもんだな」

言いながらも、こっちの相棒はそうそう素直に言うことを聞いてくれないわけで。ステップを擦らないよう気を配りながら、出来るだけ身体をイン側に入れてコーナリングスピードを稼ぐ。パワークルーザなら立ち上がりのアクセルオンで怒涛の加速をするところだが、いかんせんフューリィ。

音ばっかりで前に進まない。

「なるほどなるほど、軽さが武器になるかと思ったが、しょせん『クルーザにしては軽い』程度じゃあ、焼け石ウォーターなんだな。前輪が逃げるからコーナリングもしんどいし、立ち上がりはかったるいし、う〜む……これじゃあマルのニンジャとやるのは厳しいかなぁ」

軽い絶望感にさいなまれつつも、基本的に直線のアップダウンも気持ちいいビーフライン。

緑の中を駆け抜けてゆくだけで、爽快な気分になる。

 

いつもの休憩所に入って、一服しようか。

単車を並べてヘルメットを取っていると、「こんちわ!」と声がかかる。ハンターカブに乗った男のヒトとSRに乗った女のヒトが、人懐っこい笑みを浮かべてこちらを見ていた。もちろん俺とirohaもニッコリ笑って、「こんちわー! ハンターカブ、いいですねぇ」と返事をする。

このヒトはハーレィにも乗ってるらしく、フューリィのこともちょっと話した。

 

女のヒトがSRをキック一発で始動する画ってカッコいいよね。

茂木へ向かうというふたりと別れたら、それじゃあもうひとっ走りしようか。またビーフを走りだし、すぐにirohaと先頭交代。だいぶん慣れてきて、さっきよりはZ1000についていけるけど、やはり途中で引き離される。なんだか、マルとやってたときを思い出して、メットの中で思わずニヤリ。

わかりづらい道だけ俺が先頭に立ち、あとは基本、irohaの好きなように走らせる。

前、見たときに比べると無駄な動きがずいぶんなくなって、危なげなくコーナリングしてゆくし、なにより、とにかく楽しそうに走るのがいい。上手くなったなぁと思ったら、irohaと走るのは例のダマシ事件以来だったようだ。一年以上 たってるんだから、そりゃ上手くもなるか。

irohaなりに、 この一年、キッチリ走ってきたんだな。

 

県道33号に入ってすぐのところ。俺は不意にウインカーを出して、食事どころへ入った。

この名前を見た瞬間、も、どうしても入らなくてはならなかったのだ。

そんな急激な入り方だから、当然、irohaは行き過ぎてしまう。

「悪かったなぁ」と思いつつも、この看板の魅力には勝てない。Uターンして戻ってきたirohaに謝ろうとすると、「かみさん、ここ休業みたいですよ」「な、なにぃ? あ、ホントだ。ごめんごめん」「や、こちらこそ臨時休業ズですいません」 のセリフに、 思わず爆笑する。

ツーリング先で店が休みなんてのはよくあることだが、moto兄弟の場合、『臨時休業』の割合がすごく多いのだそうだ。まぁ、臨時ってことはヤツラの責任じゃないんだが、あまりに多いので最近は、兄弟で 『臨時休業ズ』と名乗ってるという話を、休憩のときに聞いていたからだ。

さんざ笑ってから、俺はirohaに指令を出した。

「この先しばらくは33号線を走るだけだから、irohaがテキトーなところで店に入れよ」

するとirohaは、おどけながら唇を尖らせる。

「ボクの仕切りじゃないのにボクが店を決めて、しかも臨時休業になってて怒られるんだ!」

「ぎゃはははっ! なにトラウマになってんだよ。つーか、俺のツーリングに『仕切り』とかねーだろよ。基本的にソロツーリングだっつの。んで、おまえもソロツーリングで、たまたま道行きが同じだけ だ。独りで走れないヤツとはツーリング行かんのだよ。んなことより、ソバ喰おうぜ、ソバ」

俺はみんなでバカやるのは好きだが、群れるのは嫌いだ。

人間の集団に『全体の意思』なんてものは存在しないと思ってる。強烈な個人の意志が、集団を染め上げた結果。あるいはヘタレが責任の所在から逃れるための方便。そんなのが『全体の意思』って薄気味悪いものの正体だろう。まずは一人で立つこと。それが大事なんじゃねーかな。

いやまぁ、足の骨折れちゃっちゃ、立つもクソもねーんだけどさ。

 

irohaの先導で走っていると、道路の脇に『うどん・そば』のノボリが立っていた。

減速して左側の敷地へ入ってゆくirohaへ、俺は大声で声をかける。

「えーと、iroha君、iroha君、そこは明らかに一般家庭だ」

「そ、そうですよね。僕もそうじゃないかと思ったんですよ」

ゲラゲラ笑いながら、irohaの入った一般家庭と道路を挟んで反対側に延びる林道チックな道を見つけ、様子を見ながら二台でゆっくりと進んで行く。すると300メータほど行った先に、どうやらソバ屋らしき店舗を発見した。新し目の店舗だったから、新規か改装後なんだろう。

駐車場に単車を入れて、ヘルメットを取る。

するとirohaが大声で叫んだ。

「かみさん、かみさん、アレ見てください! シブい単車がありますよ」

その言葉に振り向いてみると、六発のCBXが鎮座している。

たしかに、シブい。「この店のオーナーのかなぁ」とふたりで話しながら、店の暖簾をくぐる。

 

この上なくシンプルな、潔いメニュー。俺らは十割ソバを頼んだ。

中が禁煙だったので、店のヒトに声をかけて表に出ると、CBXの脇にある喫煙所で一服。それから店の中に戻り、地図を広げて行き先を相談しつつ、バカ話や真面目な話に興じる。特に、さっきの休憩で話した『ツーリングへの考え方』の話が一番長かったかな。

「しかしおめーも、鬱陶しいツーリングに行ったもんだな」

「ツーリング企画しといて、いざ集合したら内容を誰かに丸投げとか、迷惑かけたり助けてもらったのに詫びや礼どころか、「自分の仕切りで楽しかっただろう」みたいなこと言われたら、やっぱ面白くはないですよ。 それも、俺ひとりの話じゃないですしね」

「まぁ、世の中色んなヤツがいるから、お客サン的な生き方しか出来ないのもいるんだろうよ」

「可愛い女の子だったら、なんでもOKなんだけどなぁ」

「ぎゃはははっ! ダメ人間満開のセリフだな」

なんつってると、ソバがやってくる。

十割ソバと山菜のてんぷら。ソバも美味かったが、このてんぷらが絶品だった。

「最近、山菜の美味さがわかるようになりました」

「あ、それは俺もだ。なんか素朴な味がしみるよなぁ」

年寄りくさい感想を吐きながら、ソバに舌鼓を打っていると、店主が「これもどうぞ」と、

二八ソバの切り落としを湯がいて持ってきてくれた。ものすげぇコシがあって、えらい美味かったので、「こりゃ、二八頼んだ方が良かったかなぁ」と軽く後悔したくらい。次に訪れる時は二八を食おう、と俺は心に誓った。や、まぁ誓うってほどの話じゃねーんだけんども。

さらに、食後にコーヒーを持ってきてくれて、

「バイクで来たお客さんには、なるべく出すようにしてるんですよ」

「あ、それじゃもしかして、オモテのCBXって?」

店主、ニヤリと笑う。なはは、スキモノだなぁ。

美味いそばやてんぷらを食いながら、この先のルートを考えるのも、また楽しい。

「かみさん、温泉に行きます? 今風呂に入ったら、動ける気がしませんけど」

「お、いいねぇ。湯治の旅か。つーかそう言うつもりで見ると、この辺って『ゆ』の字が多いな」

「まぁ、行きませんけどね。ワインディング行きましょう」

「ちょ、てめぇで振っといて行かねーのかよ! おめ、徹底的に俺をいじめるつもりだな?」

つわけで、ソバ屋を辞したあともワインディングツーリングは続く。

 

県道33号を北上し、せまっ苦しくなってきた道を、国道461号へ折れる。

461号は非常に楽しいワインディングが続くので、irohaに「楽しいぞー」と話してあったのだが、それは国道349号を超えた西側の話で、県道33号から国道349号までの区間は、まさに『酷道』と呼ぶのにふさわしい、荒れて見通しの悪い、最悪のグネグネ道だ。

それを伝えるのを忘れてた俺は、いざ461へ入ってから

「あ、もしかしてiroha、俺に騙されたと思ってるかな?」

とミラーを見る。すると、明らかにうんざりした顔が見えて、思わず笑ってしまった。

国道349とぶつかった時点で、いつものコンビニに入って休憩。

「iroha、フューリィまたがってみるか?」

「いいですか?」

なんだろう、なんか似合わない気がする。

 

さて、トイレも済まし、一服したら走り出そう。

「ココからしばらく気持ちのいいワインディングが続くから、おめ、先に行け」

「わかりました。広域農道の入り口で待ってればいいいですか?」

つわけでirohaを先行させ、俺はひとりのんびりとソロ走りを楽しむ。

前のトラックがキラキラだったので、しばらく後ろについてナルシストラン。

やがて広域農道の入り口でirohaと合流し、そこから県北東部広域農道を走りだした。相変わらず気持ちよくひん曲がるワインディングに、自然と口元が緩む。う〜む、やっぱりここはケーロクで来たいなぁ。なんつってたら、かみさんのお約束。

キッチリ道を間違えて、途中でいったん休止。

地図を確認してみると、クロスしてる22号が広域農道へ繋がっているので、そっちのルートを採った……ら、これがまた、ご機嫌な『険道』なもんだから、irohaの表情が曇る。俺は 、フラ公と走った和歌山の『酷道425号』を思い出して、ニヤニヤしながら先導した。

やがて道幅が広くなり、気持ちのいいワインディングになったところで、右手にダムが見えてくる。

「そういえば、このダムって一度も来たことないなぁ」

と思ってスピードを緩めると、すかさずirohaが追い抜いてゆく。苦笑しながら、「仕方ない、あとで見に来よう」と決めて先の交差点で左に入り、北茨城屈指のワインディング、県北広域農道のイチバン面白いところへ到着した。

日曜なら常連が溜まってる、自販機の前に単車を停める。

 

「いやー、走った走った。しっかし、やっぱフューリィは厳しいなぁ。ケーロクで走りてーよ」

「いやー、楽しいですねぇ。俺、今日はすっげぇ楽しいです。やっぱフューリィはいいですねぇ」

「ぎゃはははっ! てんめ、いいだけツッツキやがって、覚えてろよ?」

なんつってると、CB750に乗ったヒトがやってくる。

メットを取った所に話しかけて、どうやら地元の常連だとわかった。

このヒトがZ1000を欲しがってたので、その辺から会話に取っ掛かり、地元の情報を聞いたりバカ話に興じる。話してたら45歳だということが判ってビックリした。同じ歳や上のヒトが、ガンガン走ってるのを見ると、単純にうれしいね。

「ココの常連ってさぁ、話してばっかりで走らないんだよね」

「ああ、そういえば『走りましょう』つって断られたことありますよ」

どこでも、似たような話ってのはあるもんだ。

で、そんな話の関連じゃないんだが、せっかくココまで来たんけど、正直、俺はもうフューリィでワインディングを走りたくない。なのでirohaに、「話のタネに走って来れば? 俺はもうシンドいから走らないけど」つーと、irohaはうなずいて、Z1000を跨ぐ。

走り出した後ろ姿を見送って、俺はCBのヒトと雑談をした。

なはは、俺らも走らないで話してるじゃん。

彼がCBに乗ってる経緯や、俺がR1000に乗ってることを話してると、やがてirohaが帰ってくる。「どーよ、楽しいだろ?」つーとiroha、目を輝かせて「いいですねぇ」言いながらニッコニコ。ま、伊達に年間何人も死んでないってトコロだろう。

みんな、生きて帰ろうね?

 

福島へ向かうというCBさんに手を振り、こちらは戻って例のダムを見に行こう。

ちょこっと戻ってダムの駐車場に入る。

もっとダムの近くまで行ける道もあったのだが、今日は平日だからか閉鎖されてた。足元のおぼつかない俺としては、その段階で『ダムの近くまで歩く』という選択肢がなくなる。いまや千葉県北西部を超えて、関東全域どころか全国へ広がる感のある 、超有名にして大切な言い伝え。

『かみは歩かない』

は、2010年の今も、もちろん健在だ。

 

駐車場に単車を停め、ダム周りの景色を「キレーだなぁ」と眺めていると、irohaがわめく。

「かみさん、かみさん、上まで歩きましょうよ!」

「いかねーよ。『かみは歩かない』んだぞ?」

「大丈夫ですよ、俺が杖(ツエ)を作ってきましたから」

と言いながら差し出されたのは、俺の小指くらいの太さの枝

irohaよ、俺の体重なめんな。

大笑いしてから、駐車場の芝生んトコに座って、日向ぼっこしつつ駄弁る。

「あったけーなー! こりゃ、昼寝したら気持ちいいでしょうねぇ」

「だろーなぁ。ま、昼寝したら間違いなく、帰る気力なくなるけどな」

「ははは、ですねぇ」

芝生に 転がって、irohaの仕事の話だの、俺の身体の話だの、他愛ないことをつれづれに話し込みつつ太陽を浴びる。ワインディングを走ってきた疲れが、心地よく身体を包む。が、時間は午後三時を回り、そろそろ帰る方向へ走り出さなくちゃならない。

「さて、それじゃぁ行くか。下道でけーるか、高速使うか……俺、ETCついてねーんだよなぁ」

「ボクはどっちでもいいです。まだ陽も高いですし」

帰りがてら給油して、そこでしばらく相談したあと、結局、高速で帰ることになった。

高速の入り口へ向かいながら、「そういえば前に、Rだのナリさんたちと来たときは、高速の入り口を見つけるのに難儀したっけなぁ」と思い出し、ひとりニヤニヤ笑う気持ち悪い40歳。今回は地図を見ながらだったので、すぐに高萩インターを見つけ、無事、常磐道に乗る。

高速に乗って確認。ワインディング三昧で、ステップの破壊が進んだ。

 

空気はちょっと肌寒いくらいだが、天気は相変わらず気持ちいい。

あんまりすっ飛ばす気にもならず、それこそ『牧歌的な気分』のまま、時速100キロ前後でのんびりと高速を走る。淡々と走るこんなのが、フューリィだととてつもなく気持ちいい。もっとも、一日中いいだけ走ってるので、ケツの筋肉や脚の方は、とっくに限界を迎えているんだが。

irohaも100キロ巡航がいいと言うので、そのペースのままひたすら常磐道を南下。

頭の中には、『1/6の夢旅人』がエンドレスでループ。夏に行こうと思ってるロングツーリングにまで想いが及んだ際には、さすがに自分自身でも、「いやいや、気が早いだろ」と ツッコミ入れたけどね。ま、どうやら今年の夏は、フューリィでロングへ出ることになりそうだ。

淡々と高速を走り、いつもなら一気に走りきる柏までの道のりを、マメに休憩しながら進む。

irohaとふたり、そんなのがやけに楽しい。

「きもーち、寒いかな?」

「ちょっと寒いですねぇ。かみさん、持ってきたダウンジャケット着ないんですか?」

「や、そこまで寒くはないかな」

「いやー、着た方がいいんじゃないですかねぇ」

「あんだよ、おめーが着たいんだろう? ジャケット出すか?」

「いや、ボクはいいです」

「別に俺は構わないから、おめー着ろよ」

「いや、いいです」

「寒いんだろ?」

「寒いけどいいです」

「なははは、なんでそんな頑(かたく)なに拒むんだよ」

「わかりません」

「ぎゃはははっ!」

休憩のときのこんなやり取りも、ツーリングの醍醐味のヒトツだ。

 

そのまま最後までペースを崩さず、柏インターを降りて我が家へ向かった。

俺んちでナオミと三人、晩飯を食いながらバカ話をし、笑って笑って楽しい時間をすごす。やがて陽もすっかり落ち、「16号も空いてくる時間だろう」とirohaが立ち上がったところで、久しぶりのCrazy Marmaladeでっかいもん倶楽部も無事に終了。

久しぶりに走って笑った、楽しい一日だった。

 

すっ飛ばすのも、こんなのも、俺にとっては等しく大切な時間だ。

だからこそ、走る時間を大切にしたい。『でっかいもん倶楽部』なんて書いてるけど、もちろん、そんな組織立ってやってるわけじゃない。俺は『お客』が来るような企画やイベントは一切立てないし、その手の企画やイベントに乗ることもないだろう。誰もいなければ独りで走るだけだ。

独りでも楽しく走れることは、充分に知っているから。

依存心の高いヒトと走って、なんかあった時の、「アンタのせいだ」……死ぬほど鬱陶しい。

だから、そんな俺の考え方に共感してくれたヒト、そしてそれが実践できるヒト。そんな連中となら、これからも一緒に走ったり、宴会やったりしたいなと思ってる。それが俺の 、ヒトとの付き合い方だ。ま、今さら言うことでもねーけど、irohaの話があったから書いてみた。

つわけで、お客さんにならないで一緒に走れるヒトは、また近いうち!

 

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