The 92nd big machine club

2010.06.06 第92回でっかいもん倶楽部 in 富士山

―ツアラー&ランナー―

 

哀しいことに、今回のツーリングの写真データが飛んでしまった。

超、悔しい。

だからムキになって長文を書くので、文字だけのが嫌いなヒトは回れ右……ってなるところだけど、一緒に走ったなっこが何枚か写真を撮っててくれたので、だいぶやる気が出てきた。写真の代わりに会話を多目にし、わかりづらいトコはアイコンもつけて、読みやすく書いてみようと思う。

なっこ、ありがとね。

 

「かみさん、なっこと一緒に、のんびり富士山に行きません?」

GO!!!からそんな誘いがあったのが二、三日前。んで土曜日の夕方、栃木が雨でマルとツーリングに行けなかったGO!!!が、フェーザーに乗ってやってくる。珍しく、「梅酒を飲む」というので、俺も梅酒を三種類ほど呑み、紹興酒、ジャックダニエルとエスカレートするのは、ま、いつものコト。

翌朝、のそのそ起きだしてみると、GO!!!はすでに起きて歯を磨きながら、

「あれ? ホントに行くんですか? 無理しないで寝てていいですよ」

「なにをぅ!」

いつもの掛け合いをしながら俺も準備をし、朝七時ころ柏を出発した。

高速に乗る前に、「ガソリン入れます?」「俺は50キロくらいしか走ってないから海老名で」てなやり取りをして、柏インターから南へ。環状線から三号線に乗ったあたりだったか。イキナリ距離をつめたGO!!!が、タンクを指差してから高速を降りてゆく。

「あんだ、柏で乗る前に入れりゃよかったのに」

いぶかしく思いつつ、ひとり三号線から東名に乗る。天気のいい高速を気分よく流し、ツーリングライダーと観光客でごった返す、海老名に到着。そのままガソリンを入れたら、GO!!!の到着を待つ。今回は、『魂の妹』なっこも来るわけだが、まぁ、ヤツは来てもギリだろう。

 

一服つけようとして、タバコを忘れたことに気づき、海老名のコンビニで買ったのだが。

もね、コンビニにたどり着くまでで、今日の分は歩いたと言っていいね。観光客の間を、脚を引きずりながらタバコ買って戻ってくるだけで大仕事。「GO!!!、なっこ。かみさんもう、ウチに帰って酒呑んで寝たいよ」と、軽く悲鳴を上げながら、喫煙所で一服。

やがて、ガスを補給し終えたGO!!!がやってきたので、そのままコーヒーを買ってきてもらって、駐輪場の奥にある休憩場所にあるベンチに座ってダベる。すると携帯を開いていたGO!!!が、突然けらけらと笑いだした。ナニゴトかを目で問う俺に、ニヤっとしながら。

「メールが来てました。なっこ、寝坊したそうです」

「ぎゃははははっ! ま、デフォルトだな」

「あいつは、早くて時間通りですからね」

それでもまだ集合時間にはなってなかったので、なっこの到着を待ちながら、『ツーリングと遅刻』と言う非常に奥深い現象について、ふたりで徹底討論した。ウソだけど。GO!!!の友達の遅刻の話なんかを聞いて笑ってただけ。やがて、ちょうど時間くらいに、なっこがやってくる。

「ホラ、まだ八時半ですからね。遅刻じゃないですよ」

「わかった、わかった。おめーは相変わらずだなぁ」

かわいい妹を、GO!!!と一緒にからかって、それじゃ出発しよう。

 

今日は富士山の周辺を走り、時間があれば富士山に登る。

写真は東名、海老名を走り出してすぐ、くらいかな? あとでなっこに聞いたら、

「かみさんがゆっくり走ってる絵って貴重だから、撮っときました」

どあほう、2010年の俺は、むしろゆっくりしか走ってないっつの。

 

GO!!!隊長の先導でのんびりと流し、御殿場でなっこが給油するのを待って、富士山へ。

スタンドを出て、一般道を走り出したとたん、ふぉーん! と図太いインラインフォーの排気音を響かせつつ、GO!!!がウイリーしながら飛んでゆく。コレは当然、からかわなくちゃならないわけで、次の信号待ちで停まった瞬間、なっこに向かって大声で、

「なっこ、なっこ! 彼、ウイリーしたぞ、ウイリー!」

「見ました。どのツラ下げて『ツアラー』なんて言ってんでしょうね?」

「うるさい!」

国道138号から469と繋いで、県道23号富士山スカイラインに乗る。今日はまったりツーリングなので、ワインディングに入っても、激烈なペースになったりしない。隊長の後ろを走ったり、なっこを前に行かせてふたりの後ろを走ったりしつつ、初夏の美しい緑を愛でながら走る。

気持ちいいなぁ。

休憩所に入ると、たくさんのツーリングライダーがいた。

「かみさん、脚は大丈夫ですか?」

「ちょこっと痛いけど、全然平気。今日は気持ちよくて楽しいな」

今日のツーリングの間ずーっと、GO!!!となっこは俺の脚を気遣ってくれた。痛かろうがなんだろうが、全部俺の自己責任なんだが、こうして気遣ってもらえるのは単純に嬉しい。だから俺も、ヘンな意地を張らないで、痛いときは痛いって素直に言おうと思った。

でも、楽しすぎて忘れちゃうんだよね。

 

単車の横にペタリと座って、バカ話に興じる。

ツーリングの何が楽しいって、走るのと同じくらい、コレも楽しい。特に、気心の知れたどころか、俺にとっては家族みたいなふたりだから、その楽しさもひとしおだ。いつものようにGO!!!がにやりと笑い、なっこがケタケタと笑い、俺がぎゃはははと笑う。

宴会から酒を引いて、単車を足したようなもんだね。

「くちゅん!」

「隊長ぉカワイー! くちゅんだって……って、なんでニラむんですかー!」

「GO!!!は最近、よくウチでナオミにニラまれてっからな。その仕返しだろ」

「フン、なんか居心地が悪いぞ」

くだらなくて他愛ない、でも、楽しい会話と嬉しい笑顔がたくさんのステキな時間を過ごしていると、休憩所にはどんどんツーリングライダーが集まってくる。そりゃ、こっちだってツーリングの途中だが、こうもたくさんのヒトが居るところってのは、正直、あまり好きじゃない。

「ううむ。ヒトが多いと、なんか軽くヘコむな」

「あ、あたしもです」

「それじゃ、行きますか」

つわけで三人、富士山に向かってワインディングを走り出した。

 

今日はのんびりツーリングなので、GO!!!はそれほど飛ばさない。

とは言え、せっかくワインディングを走るので、まるっきしチンタラ走ってるわけでもない。太陽の光にキラキラと輝く新緑の中を走るのだから、そこそこ気持ちのいいペースだ。それはもちろん、なっこにも言えることで、曲がった道を駆け抜ける後ろ姿が嬉しそうだ。

そして、俺も気持ちは同じなんだが、いかんせんマシンはフューリィ。

ふたりが気持ちよく流してるペースってのは、フューリィ的にはわりといっぱいいっぱいで、イン側のシートに体重をかけてリアタイアを意識しながら、一生懸命曲げてやる。ちょっとだけ、昔より上手くなったかもなぁと思ったのが、オーバーランをしなくなったコトに気づいた時だ。

充分に攻めた上で、それでもオーバーランしないのは、単車の動きに対する意識の差だろうか?

絶対速度が遅せぇからだとか言うな。

そのかわり、単車の曲がらない分を、積極的に動いて曲げてやらなきゃならないので、アクションはずいぶんと大きくなる。時々なっこが後ろを走るのだが、そんな時は「う〜む、ちと恥ずかしいな」と思いながら、それでも大きく動いてやらないと、フューリィは曲がらない。

ある意味、羞恥プレイ。

 

ワインディングを駆け抜けてると、不意にフェーザーが右折し、店に入っていく。

ここでソフトクリームを食べようという話になっていたのだ。

店内にあった無料の高原の水を飲みながらソフトを待っていると、GO!!!が、「かみさん、外で座って待っててください」と言ってくれたので、遠慮なく外へ出て、ふたりがソフトクリームを買ってきてくれるのを待つ。やがて出てきたソフトクリームには、ベリー系のジャムみたいのが乗ってた。

シーズンに行くと、生の果実が乗ってるんだそうだ。

隊長オススメのソフトクリームを食べながら、三人でバカ話に興じる。

「かみさんって、ホントにゆっくり走れるんですね。あたしが初めてかみさんに会った時、『俺はクルーザ乗りだったから飛ばさないよ』って、言ってたじゃないですか? それを信じて何回か一緒に走ったあと、『ああ、アレはウソだ。このヒトはゆっくり走れないんだ』って思ったんです」

なっこがソフトクリーム片手に、ニコニコしながら話し出した。

「だから、最初だけでも貴重な絵を残しておこうと思って、高速で写真を撮ったんですよ。でも、今日はちゃんと走ってたから、『なんだ、かみさんもゆっくり走れるんだ』って思いました。今日みたいなツーリングだったら、いつでも一緒に走りますから」

するとGO!!!が、ニヤリ悪い笑顔を浮かべて。

「バカだな、なっこ。今日は脚が悪いうえに、道がわからなくて俺の後ろ走ってるとか、色んな要因が重なって、仕方なくゆっくり走ってるだけに決まってんだろ。かみさんが、ゆっくり走れるワケないんだよ。(俺の方に杉良太郎ばりの流し目をくれながら)ね、かみさん?」

「なにをぅ! ウイリーしたクセに」

「そうだ! ツアラーって言ってるくせにー!」

(……ニヤリ)

俺となっこにウイリーをツッコまれて、すっとぼけて薄笑いを浮かべる隊長。

 

ソフトクリームを食べ終わったら、71号をさらに北へ。

県道を北上し、西湖の周りを回る。

うねうねと節操のない曲がり道で楽しいんだが、それよりも西湖の眺望が素晴らしい。

「こりゃ綺麗だ。でも、隊長はきっと停まってくれないだろうな」

と思った俺は、走りながらカメラを取り出し、西湖の美しい青を写真におさめる。帰ってきてデータ飛ばしちゃってりゃ世話ないんだけどな。くっそ、悔しいからもう一回ツーリングに行って、写真を撮り直してきてやろうかな。んで、このレポの写真を改めて捏造してやろうか。

そういや『こち亀』で、そんな話があったような。

 

西湖の青を堪能したら、お次はそのまま下ってワインディング。

前日、梅酒で一杯やりながら、GO!!!と地図を見ていたときのことなんだが。

「ここにさぁ、片道二キロくらいのワインディングがあるんだけど、走ったことある?」

「えーありましたっけ?……ってホントだ。ああ、入り口はわかると思いますよ」

「んじゃ、ここも走ってみようぜ」

ワインディングに恵まれた連中にとっては「こんな短いトコわざわざ走るんけ?」と思うかも知れんが、峠のない地域に住んでると、曲がった道に対して貪欲と言うか、とても貧乏性になるのだ。だから俺が普段走ってる道を見て、「おめ、こんなんで喜んでんのか。かえーそーに」とか言うなクソマル。

つわけで、富士山の西側にある、全長二キロほどのワインディングを走り出す。

富士山に向かって走るので、晴れた日はきっと富士を眺めながら気持ちよく走れるだろう、ステキなワインディングだった。雲の多い今日は、眺望的にはイマイチだったけど、空いてて見通しもいいので走りやすい。曲がり道ファン的には、ま、ビックリするほどじゃないかな。

 

さて、腹も空いたしそばを喰いにいこうか。

GO!!!オススメのソバ屋があるというので、彼の先導で走り出す。

しばらく走り、ちょっと行き過ぎUターンしてソバ屋の駐車場へ入ってみると。

『しばらくの間、休業させていただきます』

ま、良くある話だが、タイミング的に笑ってしまった。

「それじゃ、もどって別のところへ行きましょう」

きた道をまたグイグイ戻り、別のソバ屋へ向かって枝道を入ってゆくGO!!!隊長。

入ってすぐ、イキナリ道が細くなり、ガタガタに荒れてきた。さらに急激な勾配が現れたと思ったら、砂が浮いて山汁が出ている。ケモ道に入る前の前哨戦みたいな荒道に、思わず「ぎゃはははっ! こんなん、なっこ走れねーんじゃねーか?」と、ヘルメットの中で爆笑しながら下ってゆく。

いいだけ林道を下ったところで、ソバ屋が見えた。メットをとるなり、なっこが叫ぶ。

「隊長ぉ〜! アタシがこういうところ嫌いだって知っててつれてきたでしょー!」

ニヤリと笑うGO!!!隊長。そして次の瞬間には、三人で顔を見合わせて大笑い。文句を言う前に楽しんでしまう連中だから、とにかく楽しくて仕方ない。

店内は混んでいるようなので、前でダベりながら待ってると、出てきたお客さんらしきオヤジさんが、俺の方を見て、「ソバ? もうないかもよ?」と教えてくれた。なので聞いてみると、店のおばさん、「ごめんなさい、もう、おソバがないの」と手を合わせる。

「もう、ソバないんだってさ」

ふたりにその旨を告げると、とたんになっこの表情が曇った。

そう、走ってきたばかりの荒道をまた、もどらなくちゃならないからだ。情けない表情で肩をすくめたなっこに、ニヤニヤとイジワルな笑いを返して、また来た道を戻る。つーかさ、この道の荒れっぷりを記録しようと、せっかく必至こいて走りながら写真撮ったのになぁ(イジワルした報いです)。

 

さらに戻って、ソバの看板を見つけ、その表示どおりに走り出したのだが。

行けども行けども、ソバ屋が見あたらない

何度か停まって隊長と話し合いながら、あきらめそうなったころに現れる案内カンバンにはげまされ、なんとか三件目のソバ屋に到着する。入り口から少し離れたところに砂利の駐車場があったので、そこへ三台の単車を入れて、意気揚々と歩き出す。

そして店の前に来るや否や、視界に飛び込んできた張り紙。

『本日、貸切』

も、怒るとか天を仰ぐとかじゃなく、フツーに笑っちゃったね。

 

砂利の駐車場に戻って、地図を見たり一服つけたりしながら、しばし作戦会議。もっとも、正直俺は、こいつらと走ってられるならメシなんざ喰わなくてもいいと思っちゃってた。するとなっこも、「アタシもべつに大丈夫です」ふたりで隊長を見ると、「ボクも平気ですよ」つわけで。

「んじゃ、富士山に登ろうぜ。雲海を見よう、雲海」

「いいですね、あたし見たことないんですよ」

「かみさん、足は大丈夫ですか?」

「うん、平気っちゃ平気だ」

「それじゃ、ここから下ってガソリン入れて、スカイラインから富士山に行きましょう」

139号と469号の交差点だったかにあったスタンドで、給油とトイレ休憩。

「う〜む、暑いな。汗だくだから、ジャケットのインナーを外そう」

「富士山に登るんだから、すぐに寒くなりますよ?」

「その時はその時……ってGO!!!っ! いつの間にか、俺のバッグに君のお茶が入ってる」

「きゃはははっ! 隊長、さっきから地図出したりして、かみさんのバッグ開けてますよ」

「荷物持ちかみさん、便利だろう?」

(ニヤリ)

ホント、ちょっとの休みでも笑いが絶えない。

 

てめぇらはどうでも、単車の方が腹いっぱいなら問題なし。

ガソリン満タンにしたところで、意気揚々、富士山の五合目を目指して走り出す。富士山スカイラインを走ってるときに、NEKOさんに目撃されたようだが、ワインディングを気持ちよく流す隊長となっこについてくのがやっとの状態だったので、イッコも気づかなかった。

なお、「たとえケーロクでも気づかなかっただろ」って突っ込みは自重しれ。

んで、富士山スカイラインに入ってみれば、なにやらすでにかなりガスってて、めちゃめちゃ寒い。
メッシュのジャケットを抜けてゆく風の冷たさに閉口しながら、えっちらおっちらフューリィを曲げる。この辺でなんとなく、こいつの曲げ方がわかってきたつーか、言うことを聞いてくれるようになってきた。

基本的な感想は最初と変わらないが、慣れれば思ったよりはずっと素直に曲がる。

 

身体の心まで冷え切ったころ、152号の富士山側の入り口へ到着。

そのまま登ると思ったら、気を使ったGO!!!が路肩に単車を止めて、

「かみさん、さむくないですか?」

ヘルメットを脱ぎつつ、唇をガタガタさせながら

「寒いよ。寒いとも」

GO!!!が苦笑し、なっこがケラケラと笑う。

早速、ジャケットを脱いで持ってきたダウンを引っ張り出す40歳。

ダウンを着た瞬間、「うほっ、あったけぇ」と声が出てしまった。

「いやー、隊長、なっこさん、すいません。お待たせしました」

「ホントですよ、まったく」

GO!!!の得意技、ニヤリを喰らったら、さあ、霧の中を富士山に登ろうじゃないか。

霧だか雲だか判別のつかない、トンコツスープみたいな視界の中を、そろって走り出す。ちょっと離れるとすぐに前が見えなくなるので、隊長のハザードがとっても頼もしい。さっき走ってる最中に、「GO!!!のウインカーはイッコも見えねぇなぁ」とか言って、ホントごめん。

五合目までの距離自体は短いんだが、とにかく前が見えないのが致命的。

クルマに追いつくと、普段ならジャマだなぁと思うはずが、

「おぉ、人がいる。よしよし、俺たちは間違いなく、今、生きて走ってるんだな。いつの間にか冥界に紛れ込んだりしてないよな?」

と、安心したり。さらに、自転車で登ってるツワモノに出くわした瞬間、

「おぉ、生き物としての強度が、全然違うな」

と思わず手を合わせる。

つーか「富士山を自転車で登ろう」と思いつく精神状態が、俺にとってはアメイジング。

 

ひいひい泣きながら走り、五合目付近に出た瞬間、イキナリ雲が切れる。いつも不思議だなぁと思うんだが、ホント、計ったみたいにここで雲が切れるよね。なっこも言ってたけど、一年通してここで切れるのが判ってるから、ここに駐車場を設置したのかなぁ。

「ただ五合目で切りがいいからじゃないですか?」

も少し夢を見せてくれよ、GO!!!。

駐車場に単車を停めておりると、やはり今日は雲海が見えない。

「かみさん、飲み物でも買ってきます?」

「お、悪いね。コーヒーよろしく」

隊長となっこが飲み物を買いに行ってる間、mixiに「雲海が見えない」とボヤいたり、道ゆく登山客を眺めたりしてると、何人かの様子のおかしい人物を見かける。ひとりやふたりじゃない、その異様な風体の団体を見て、俺の口から自然に呆れた声が漏れた。

「おいおい、装備を担いで上まで登って、富士山でスキーやろうってか?」

彼らもまた、俺とは生き物としての強度が違う。

スキーヤとか自転車乗りには当たり前なのかもしれないけど、すげぇなぁと素直に感心するよ。

風で暴れた髪がくしゃくしゃになっちゃって、指がイッコも通らないかみさん。顔の下半分だけ日に焼けてるのは、天気のいい日にサングラスと半ヘルで走り回った際の後遺症だ。絵的にかなり残念な感じだが、それでもかみは頑張って生きてる。みんな応援して欲しい。

 

『六月に富士山でスキー』なんてツワモノの群れを眺めてると、隊長となっこが帰ってきた。

「かみさん、かみさん、何個くらい食べます?」

なっこが買ってきたカステラを見せながら言う。

「あん? 俺は要らんよ」

「えぇ! GO!!!さん、大変っ! かみさん食べないって。ノルマ三個ですよ。

なはは、六個入りを二つづつ喰う予定だったか。

「なっこ、気をつけろ。紙がついてるぞ」

「ちゃんと取って食べてますよー!」

「つーかGO!!!、そこが美味いんだぞ? なんでも骨とか皮の近くの身は……って聞けよ!」

隊長、フルシカト。

「しっかし、今日は雲海見れなくて残念だったなぁ」

「あたし、見たことないんですよね」

「俺は今まで二回来て、二回とも見れたなぁ」

「何回来ても見れない人って、結構いるみたいですね。なっこは何回来たんだ?」

今日、初めてです」

「え〜と、殴っていいかな?」

「かみさん、隊長がいじめるー!」

「最近、ナオミにいじめられてストレスたまってるんだろ」

「じゃあ、ナオミさんに仕返しすればいいじゃないですか、隊長!」

「できるわけないだろう!」

「ぎゃはははっ! なんで切れ気味なんだよ」

結構な距離を走って、昼飯も食ってないのに、無駄に元気な三人だ。

 

俺とGO!!!は明日仕事だし、なっこも夜から用事があるとのことで、ようやく重い腰を上げる。

二軒目のソバ屋で荒道を帰ると決まった時のなっこみたいな表情で走り出した三人は、相変わらずのトンコツスープを掻き分けて、ゆっくりスカイラインを下ってゆく。昔の料金所を超えて左に曲がり、御殿場を目指して下ってゆくのだが、なにやらなかなか霧が晴れない。

やがて他のツーリングライダーに追いつき、そのままマスツーみたいに富士山を下る。

下界へ降りた俺らを向かえたのは、御殿場までの下道、げっそりするほどの渋滞だ。ここらでツアラーを自称するウイリー小僧も、いい加減イヤになってきたようで、左右の『不思議道路』を利用してガンガンすり抜け始める。

俺もクルーザですり抜けは慣れてるし、もちろんなっこも問題なし。

あっという間に渋滞の脇を抜けて、御殿場から東名に乗る。

 

『もう終わり』と言う意識が、俺の緊張感に穴を開けたのだろうか。

東名に乗ってすぐ、脚が痛くなってくる。そのまま流れ解散でもよかったのだが、この気持ちのいい連中とも少しだけ一緒にいたいなぁと言う気持ちもあって、隊長にSA寄ろうとハンドサイン。そのまま俺が前に出て足柄SAに入り、最後のダベりタイムとなったところで。

本日のCrazyMarmaladeでっかいもん倶楽部は、無事に終わりを迎える。

俺ンちで何度も宴会してるので、しょっちゅう顔は見てるんだが、実は久しぶりだったGO!!!隊長&なっことのツーリングは、俺がフューリィ&リハビリ中ってのもあって、終始、穏やかに楽しく過ごせた。ネイキッドやSSがワインディング流すペースでも、クルーザはしんどいと改めて実感できたしね。

隊長、なっこ。また一緒に走ろうね!

 

 

 

 

で、もちろん終わらないマーマレードスタイル。

足柄でバイバイし、あとは各自のペースで走り出すわけだが、なんとなく離れがたくて、隊長やなっこの後ろを走っていると、事故渋滞でクルマがつまり始める。となればすり抜けてくワケだが、日曜の帰りの東名上りといえば、ツーリングライダーの踊り食いが出来るので有名。

あちこちから東京を目指すツーリング帰りのライダーたちが、ごっそりと道をふさぐ。

もちろん向こうにジャマする意図なんかないので、こちらもサクサク抜いていくのだが、そこで何台かのヤる子に出会ったから、さあ大変。モタードとSSかなんかの、おそらく友人だろう二台が、似たような感じで数珠繋ぎのクルマの間を縫うようにガシガシすり抜けてゆく。

もっとも、俺が抜けるくらいだから、すり抜けつっても首○高ランナーのそれとは一線を画すが。

ともかく、そんな連中となんとなく前行ったり後ろ行ったりしてるうちに、事故現場らしき場所を抜けたのだろう、クルマがばらけて走りやすくなってきた。それまでもチラチラと気配を見せていたので、「けけけ、隊長、行くかな?」思ってたら

 フォーン!

やはり、お行きになられた。

当然、フューリィもスクランブル。その横をなっこの黒いCBRがすっ飛んでゆく。

「ぎゃはははっ! やっぱ、ふたりとも好きなんだなぁ」

笑いながら、俺もアクセルを全開にする。

160〜200スピード前後のすり抜けなら、フューリィはともかく隊長やなっこにとっては、停まってるようなもんだ。案の定、三車線使って明らかに遊んでる隊長の背中を見ながら、俺はにやけてくるのが止められない。その後ろをなっこがすっ飛んでいき、例の二台もアクセルを開ける。

二台がちょっと離れると、速度を落として巡航するGO!!!&なっこ。

追いついた二台はそのまま先へ行くのだが、適当なところでまた、すっ飛んできた隊長となっこに刺される。つーか、もしかしたらふたりは、刺すとかそんなことさえ意識してないかもしれない。二台と俺の三人だけが、わりと頑張っちゃう構図になってきた。

「やべぇ、コレはコレで、やっぱすげぇ楽しい」

混んだり空いたりを繰り返す東名を、そんな風に遊びながら抜けてゆく。

 

やがてなっこの降りるインターの看板が見えてきた。片手を上げてアイサツするなっこに、同じく手を上げて答える隊長と、両手を挙げてバンザイしつつ、「ありがとう、楽しかった」と、伝えるかみさん。そのスキに抜いてゆく二台の背中をロックオンし、なっこと別れてぶっ飛ばし始めたところで。

  

今度こそ本当に、でっかいもん倶楽部の幕が下りる。

のんびりツーリングから、おなか一杯になるほどのワインディング、そして高速ランまで楽しめた、最高のリハビリツーリングだった。思わず、「予定をちょっと繰り上げて、ケーロクのリハビリ始めるか」なんて思っちゃうくらい、ステキに楽しかったよ。

隊長もなっこも、もちろんツアラーとして充分な乗り手だけど、でも……

「やっぱり、ランナーなんだよな」

新しく開通した大橋ジャンクションのグルグルをのんびり回りながら、俺は思わず笑みを漏らした。

 

さて、何ヶ月も転がってたぶん、がっちり走るぞー!

 

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