The 95th big machine club

2010.08.01 第95回でっかいもん倶楽部 in 富士山

―ハイスピード・ロングライダース―

六時半ごろ、家を出て走り出す。

海老名に八時なら楽勝だなと思いつつ、ようやく直ったETCでスムーズにゲートイン。オイル交換してシュンシュン小気味良く回るエンジンの快音を聞きながら、200スピード(=1/2時速)弱くらいで楽しく走る。高速の掲示板を見ると、どうやらC2経由の方がよさそうだ。

東名と繋がって便利になったC2に乗り、ひらひらと走りぬける。

と。

山手トンネルに入った瞬間、俺のご機嫌は一発ですっ飛ばされた。

も、バカじゃねーのってくらいクソ暑いのだ。そりゃ、トンネルの中は基本的に暑いんだが、山手トンネルの暑さはちょっと異常。速度を出そうが、前をはだけようが、試してみる作業のすべてが焼け石ウォーター。オーブンの中を走ってるような気持ちで、すっかり元気がなくなる40歳。

なんとか渋谷線に出た時には、思わずほっとため息が出た。

 

海老名に到着したのが、約束の30分前だったか。

当然、誰もいるわきゃないので、携帯でmixiのチェックや更新をする。すると、足跡にしんごを発見した。時刻は午前三時。見た瞬間に、「ああ、今日はしんご、来ねぇな」と思いつつ、冷房こそ効いてるがアホほど煙い海老名SAの喫煙所でまったり。

と、あまりの暑さに、気持ちが悪くなってくる。

いやいや、前日は呑んでないし早寝してるから、二日酔いでも寝不足でもない。単純に熱中症気味なのだ。そのうち、真剣にヤバくなってきたので、トイレに行ってリバース。早くもヘロヘロになりながら戻ると、Rとじゅんが到着していた。

 

「おはようございます、暑いですねぇ」

「おはよー、暑いねぇ。つーかしんごのヤツ、三時にログインしてたから、きっと来ないぞ」

それでも、しんごを待ちつつタバコを吸いに行ったり、トイレに行ったり。俺はNEKOさんからの連絡がないかとmixiをチェックしながら、すでにいいだけクソ暑い太陽をにらんだり、渋滞情報に悲鳴を上げたり。やがて、しんごが新しく買ったR1でやってきた。

「あんだおめ、遅くにログインしてたから来ないかと思ったぞ」

「いや、俺が言いだしっぺですし」

「しんご、ガソリンは? 御殿場で入れるけど、間に合うか?」

「間に合いません、ここで入れます」

「ははは、さすが『ガス喰らい』だなぁ」

 

しばらくダベってから、給油して走り出す。

御殿場までは、200スピード前後の気持ちいい速度ですり抜ける。途中でじゅんがガス欠になりかけてエコランモードに入ったので、サービスエリアでじゅんを待つついでに給油。じゅんがやってきて、一服しながら話してるうちに、「単車を取り替えて走ろう」ということになった。

ワクワクしながら、じゅんのアップハンケーロクをまたぎ、走り出してみると。

「うっわ、コレは怖い」

走り出した瞬間から、またがった時以上に、上半身の起き上がる感じが強い。まるでクルーザのように身体に風を感じる。とてもじゃないが、200スピードなんて出す気になれない。それと、じゅんのセットは俺には脚が硬く感じて、それも怖さを感じた原因かもしれない。

しんごの後ろに付いてのんびり走りながら、御殿場を降りた。

 

暑いから、伊豆はやめて富士山にしよう。

御殿場の出口でしばらく話し、そうルートが決まる。夏季マイカー規制中だから、五合目まで登って雲海を見るってわけには行かないけど、とりあえず海沿いよりは涼しいだろう。今の俺たちには、曲がった道と同じくらい涼しい空気が必要なのだ。

てなわけで俺たちは、富士山目指して走り出した。

混んでるクルマの列を縫いながら、国道138、469と繋いで走っていると。

富士山スカイライン(県道23号)に入る手前の右折で、Rがイキナリ単車を降りた。「どうしたんだ?」と問うまもなく、そのまま歩いて道端に行ったRさん、路肩の日陰に座って休んでらっしゃる。もちろん、右折レーンに単車を置いたままだ。

「いやいや、気持ちはわかるけど、おかしいから」

苦笑しながらカメラを取り出し、ポツンと右折レーンにたたずむCBRと、路肩に座るRを撮る。

え?

その写真はどうしたかって?

ま、とりあえず、その話は後にしようか。

 

右折して、富士山スカイラインを走り始める。

自衛隊の横を抜けて、マラソンかなんかのスタッフテントの脇を抜けて、気持ちよくすっ飛んでゆく。メットの中でニコニコしながら、R、じゅん、しんごの背中を見ると、アタマの中に、「バイク乗りの背中ってカッコいい」という、ナリさんの言葉が浮かんできた。

「ホント、速い単車乗りの背中って、カッコイイなぁ」

やがて道がクネクネし始めた。さぁ、楽しいワインディングだ。

 

ところが、楽しいどころか、かなりしんどい雲行きになる。

どうにも遅いのだ。誰がって俺が。

コーナー三つ目くらいには、もう、しんごとの差が開きだしている。正直、かなり焦るが、この連中相手に、ついた差を一気に挽回する術(すべ)はない。や、ないこともないが、それは俺の力じゃなくて、『渋滞するクルマに頼る』ハメになる。

ところが、こういうときはよく出来たもんで、逆に俺がクルマにハマって引き離されたりして。

それでも、頑張ってすっ飛ばしていると時々どっかで引っかかってくれてるので、なんとか三台の後ろにすがりついて走る。途中で遅い2stに引っかかったとき、みんなは、「早く譲ってくれないかなぁ」と思ったろうが、俺だけは「小僧、グッジョブ」とつぶやいていた。

超、ヘタレ。

 

「俺、すんげぇ遅っせぇ」

萎(しぼ)みながら、みなに続いてパーキングに入る。

そこでジュースを買って飲みながら、四台並んだ写真を撮ろうと、バッグを開けたかみさん。ゴソゴソやったあと、「う、うそだろ?」と絶望に天を仰いだ。うそだ、そこまでは絶望してない。でも、かなりガッカリしながら肩を落とす。

「カメラ、落っことしちゃった」

「えぇ! マジですか?」

「さっきRさん撮ってたんだから、あそこからここまでの間に落ちてますよ」

「拾いに行った方がいいんじゃないですか? 俺らはこの先の休憩所にいますから」

「そうですよ」

思ったように走れないとこに持ってきて、カメラ紛失と言う追い討ちをかけられ、すっかり凹んだかみさんに、カメラを探しながら走り戻るなんて気力があるわけもなく。前に、『落としたグローブを探しながら走って、事故りかけた』ことを思い出して、カンペキに戻る気がなくなった。

「いや、いいよ。新しいの買うから。今日は携帯で撮るわ」

報道人として、あるまじき失態だ。報道人じゃねーけど。

 

携帯で写真を撮りながら、休憩所でしばらく駄弁る。

するとRが、この先に地元の走り屋のたまる場所があるというので、河岸を移すことになった。

んで、走り出してみると、やはり、明らかに遅い。

「こないだは大丈夫かと思ったけど、速度レンジが上がるとダメだなぁ」

それでも今までよりマシなのは、『焦ってバカみたいに開ける→ビビって遅くなる』というパターンから脱却したせいだろう。さすがの俺でも、少しは経験値が上がってるようだ。ツッコミは無理をせず、立ち上がりと直線、開けるところはキッチリ開ける。平均値をなるべく下げないように。

もちろん、そんなぬるい走り方だから、前三人にはあっさり消された。

 

クソ遅い自分にガッカリしながら走っていると、休憩所らしき場所が見えた。

減速してケーロクを突っ込むと、Rとしんごが出る準備をしている。さっそく、一本走ってくるようだ。じゅんは行かないようなので、俺もメットを脱いでタバコを取り出す。今、走ってもろくな結果にならないだろうし、焦って飛んだら元も子もない。そう思っての行動なのだが……

ホント、このときの自分を褒めてやりたいと思う。マジ、行かなくてよかった。

 

「俺、遅くなってるなぁ」

「確かに、乗れてないですねぇ」

「ビビってんだろうなぁ」

「インにつくのが、早いかもしれません」

一服しながらじゅんとしゃべっていると、年配の男の人(後に57歳と判明)がメットをかぶりつつ、

「あの子達、往復してくるの?」

「え? ええ。戻ってきます」

するとおじさんニカっと笑って、「ちょっと追いかけてみるわ」言いながら、自分の単車にまたがる。それを見て俺とじゅんは内心、(いや、それは無理でしょ)と肩をすくめた。なぜなら、おじさんのまたがった単車が、ハーレィダヴィッドソン・スポーツスターだったからだ。

 

地元スペシャルと言うのは確かにある。

走りこんだ峠道なら、『明らかにスペックの違う単車』が、速いのを追い回すなんて面白い現象が見られることは珍しくない。サーキットならまだしも、峠ではスペック云々より、結局のところ『乗り手のウデ、経験値、判断力』に拠るところが大きいからだ。

だが、それにしたって相手はRとしんごだ。

初めての峠だって、かなりのハイペースで走る腕と経験値は持ってるし、同じSSならともかく、幾らなんでもスポーツスターで追いかけて、追いつけるとは思えない。だからこそ、俺とじゅんは結果に興味をもてなかったのだ。

山の涼しさが、とにかくありがたくて、のんびりした気分でふたりを待つ。

 

「どこから来たの?」

声をかけてきたのは、コレも初老の男の人(あとで聞いたら還暦だそうだ)だった。

ZX10Rに乗るそのヒトは、この暑さにレーシングスーツを着込んでいた。そしてその身体の上には、革ツナギにはあまりにもそぐわない、人懐っこい笑顔が乗っかっている。峠の常連と言うと、なんとなくピリピリした感じがあるものだが、彼にはそう言う雰囲気がまったくなかった。

「東京です」

「千葉です」

「おぉ、暑いのに遠くから来たねぇ」

よくある感じで話しはじめ、単車乗り同士、好きな単車の話で盛り上がっていると。

ばるるん!

元気なシングルサウンドを響かせて、WR250が入ってきた。どうやら彼も常連らしく、ZX10Rのおじさんと挨拶を交わしている。彼がこちらを向いた瞬間、俺とじゅんが会釈をし、彼もそれに返してくれた。が、言ってしまえばそこまでだった。

あとはまた、常連同士、ツーリング仲間同士、お互いの友人と話しこんでいると。

エンジン音が聞こえてくる。

四発の音が聞こえても、俺とじゅんは当然、「あ、帰ってきたな」くらいしか思わない。思ったとおり、CBRとR1がキツいカーヴを立ち上がって休憩所に入ってくる。「ま、追いつけるわけがねぇよなぁ」と思ったか思わないかの瞬間、その後ろにエンジン音が聞こえ。

 

俺は凍りついた。

 

ものすごいフルバンクをしながら、スポーツスターが飛び込んできたのだ。

 

「し、信じられねぇ」

冷静に考えて、追いついていること自体は、Rとしんごが地元のUターンポイントを知らない以上、驚くには当たらない。どこかで先にUターンしてきた可能性もあるのだから。しかし、そんなことがどうでも良くなるくらい、そのフルバンクは衝撃的だった。

背中をぞくっと奔(はし)るものがあった。

ハラワタが震えた。

 

スポーツスターのNさんは、ヘルメットを取りながら満面の笑みを浮かべる。

「追いつけなかった!」

スポーツスターに乗った、初老の男の人が言うのだ。

普通なら、「あたり前だ」と鼻で笑ってしまうところだろう。だが、俺は笑えなかった。いや、笑顔はもちろん浮かべたが、そこにあるのは嘲笑ではなく畏敬だった。正直、敬礼してしまいたくなるほど、彼とそのスポーツスターにイカれてしまっていた。

一気に垣根のなくなった我々は、お互いに笑みを浮かべながら話し始める。

そうなれば単車好き同士、話題に事欠くことはない。ZX10Rのおじさんの話を聞き、WR250を眺める。するとこのWR、ただの250じゃなくてFだった。つまり市販車のWRじゃなくて、レーサーのWR250Fに保安部品を付けたものなのだ。

逆車だから比較的簡単に書類登録できるとは言え、スキモノなのは間違いない。

 

話して笑って、楽しい時間をすごしてると、スポスタのNさんと、Rが「走りに行く」と言いだす。くだりは流して(富士山スカイラインの地元ルール)登り一本、今度はNさんが前で走るらしい。みなで談笑してるだけに、ピリピリした雰囲気ではないものの、やっぱりスキモノ同士がヤるわけで。

こっちまでワクワクしてくる。

のんびりツーリングに行くみたいに、二台は走りだした。

すっかり楽しくなったこっちは、ZX10RのおじさんやWRの若者と、バカ話をして笑いあう。

暑いは暑いが、富士山腹だけに風が吹けば気持ちがいい。

「このへんはさぁ、実は陽が出た方が涼しいんだ」

「えぇ! そうなんですか?」

「陽が出ると風が吹くから、木陰なら涼しいんだよ」

地元情報にうなずいたり、こちらの話をしたり。

 

情報交換やバカ話をしてると、やがてスポスタとCBRが帰ってくる。

「いやぁ、速いねぇ」

「いえいえ、そちらこそ。すごいフルバンクでしたよ」

「よく言うよ、ゼンゼン余裕だったじゃない。ミラー見たら手ぇ振ってるし」

RとNさんが、笑いながらそんな話を始める。

そんな中、折を見てRは、俺らにそっとささやいた。

「いや、マジで結構、速いです。さすがに直線は170hs(ハーフスピード=1/4時速))くらいですけど、コーナリングがかなり速いですね。ステップガリガリで火花が出てるんで、寄せ切れなかったのもありますけど。いや〜、いい乗り手って居るもんですねぇ」

Rさん、すっかりご満悦。

単車の速い遅いにこだわり、妥協しない男だけに、言葉に重みがある。そして、Rにそんなことを言わせるNさんとスポーツスターに、俺の心はすっかり魅了されていた。ま、俺の中でスポスタは、クルーザじゃなくてネイキッドなんだが、この際、そんなことは関係ない。

SSを追うどころか、場合によっては喰うスポーツスター。

シビれない方がおかしいだろう?

CBRのタイア。

そんな地元に、初見の峠でベタ付けして、ミラー越しに手まで振って見せるコイツもバケモノ。

 

それからまた、みんなでだべりつつ笑いあった。

その合間にも、それぞれの単車のそばに寄って、気になることを聞いたり。こちらのマシン、CBR-RR、GSX‐R、YZF‐R1の話に、向こうのZX10RやWR250F。そして、なにより。あの異常なハーレィダヴィッドソン・スポーツスター。ま、異常なのは間違いなく乗り手なんだが。

ふと気づくと、Nさんが携帯を取り出して、話を始めた。

「あ、Oさん? 今、東京から速い子が来ててさぁ……」

どうやら友人に、俺らのつーかRのことを話してるようだと、聞き耳を立てていると。

「ここの最速と勝負したいって言ってるんだよ」

言ってません、言ってません。

Rを筆頭に俺らの誰ひとり、そんな話はしてませんよ、Nさん。

「いやいや、向こうも冗談だってわかってるから」

う〜む、単車乗りのそう言う話は、イマイチ信用できん。

 

話をしていると、やがて甲高いエンジン音とともに、YZF‐R6が飛び込んできた。

比喩(ひゆ)じゃなく、文字通り飛び込んできたのだ。登場の段階で、この人物が明らかにおかしな部類の人間だということが明確にわかる。半そで短パンの軽装ですっ飛んできた、このR6の乗り手こそ、地元の彼らが、『富士山スカイライン最速』と言い切る、Oさんだった。

そのOさんがヘルメットを取った瞬間、俺としんごは思わず顔を見合わせる。

話には聞いていたがOさん、御年(おんとし)61歳。スポスタのNさん(57)の師匠スジだそうだ。彼のたたずまいにぞくっと来た俺は、WR乗りの若者に、「雰囲気のある背中だねぇ」とつぶやく。すると若者は、「キチガイですよ。むちゃくちゃです」と苦笑した。

もちろん、褒め言葉だ。

確認したわけではないが(少なくとも俺は)、要するに、『Nさんのスポーツスターを倒すと、ラスボスのOさんが出てくる』と言う、ちょっとしたゲーム的システムになっているようだ。Rやしんごと一緒に出てたら、俺なんざきっと、いいだけ煽られて千切られたろう。

ある意味、調子悪くてよかった……のか。

ちなみに、このへんでZX10Rが多いのは、R6の他に10Rにも乗ってるOさんの影響らしい。

 

話が進むうち、Rがかつて「このヒトは速い」と感じた乗り手が、実はOさんだったと判明。

しかもその時のマシンは借り物だったというから、さらに驚きだ。OさんとNさんのふたりは、俺らの心をガッチリキャッチ。なかでもRは、かなりご機嫌。思わず、しんごやじゅんに振り向いた俺は、「Rのあんな機嫌のいい顔、久しぶりに見た気がする」と笑った。

なんつってる俺も、Nさんのフルバンクに魅了されてるんだけど。

そのRは、OさんやNさんとすっかり意気投合し、座り込んで話し始める。速い乗り手とヤリ合うのを、いつも楽しみにしてるRだが、前に見たというOさんの走りや、今見たNさんの走りで、いい乗り手だと評価したのだろう、本当に楽しそうに話している。

周りで見てた俺たちも、思わず微笑んでしまうほどだ。

でまぁ、俺らは俺らで、それぞれ話し込んだ。

 

その合間に、俺はスポーツスターを見に行く。

バカみたいに車高が上がってるわけでもなければ、とんでもないカスタムをしてるっぽくもない。強いて言えば、ステップが削れ過ぎちゃって、半分くらいしか残ってないくらいか。ま、ステップ削れてるのは決して、カスタムではないんだけんども。

「かみさん、フュ−リィ持ってきて勝負したらいいじゃないですか」

「やれるか。一瞬で消されて終わりだよ。つーかケーロクでもダメじゃね?」

「かもしれませんね。アレならSS千切ってるって言うのもわかりますよ」

「ふん、スポスタはクルーザじゃないのだ。フォアコンでもないし」(負け惜しみです)

 

「でもさ、それはともかく、この単車であの走りはスゲェなぁ。バンク一発でシビれたよ」

「かみさんも、しんごも、一緒に走ってみたらいいのに」

「そんでスポスタにぶっ千切られろってか。ヤだよ」

「コーナーで離されて、直線でつめる、イチバンかっこ悪い展開になりそうですね」

「絶対、ヤだ。つーか見ろこのステップ。ショートステップかと思ったら、擦れてなくなってんよ」

「重量車だからでしょうね。SSでコレだけ擦ったら、飛んでますね」

SSでそんなアチコチ擦るヤツはいない……と思ったら。

いたよ。

Oさんがこの単車に乗ったときに、フルバンクしながらギャップに乗って擦ったんだと。

ヒトの単車で、ここまでやるってのも、いろんな意味でスゲェな。

 

放って置いたら、延々と話し込んでいそうな雰囲気だ。

さすがに腹が減ってきた俺としんごは、そろそろ走り出そうと準備を始める。それを見たRも、一応、支度を始めるのだが、別れ難いのだろう。支度の手が止まっては、OさんやNさんと話している。いっそ、『Rはここに置いて三人で出ようか』と言う話になったくらいだ。

いや、イジワルで言うんじゃなく、そのくらいRは楽しそうに話していたから。

「かみさん、関越で帰りましょう」

「え〜とじゅん、君が何を言ってるのか意味がわからないんだが。ここは富士山だぞ?」

「だから、道志を抜けて北上して……」

「うんわかった、じゃあおまえはRと関越で行け。俺としんごは中央道に乗るから」

「あ、ザンネン。中央道は規制で乗れませんよ」

「ぎゃははははっ! ウソつけ! どんだけ群馬に行きたいんだよ」

「え〜、行きましょうよ〜!」

ホント、じゅんのドタマの中の地図を、一度見てみたいもんである。

 

さて、それじゃホントに走り出そうか。

何度も、「それじゃまた!」「気をつけないで!」「ぎゃははは!」「気をつけて!」など、単車乗り同士のバカな挨拶を交わし、ようやく走り出す。時刻はもう昼過ぎだ。地図を見て、地元の連中に聞いて、だいたいのコースは決まっていた。予定通り、県道を北上する。

しかし、相変わらず置いていかれる。

もちろんRやじゅん、しんごは全力には程遠い、流すくらいで走ってるのだが、それでもちょっと気を抜くと、簡単に車間が開く。焦るな焦るなと自分に言い聞かせるのだが、冷静になったからといって差が詰まるわけでもなく、前がクルマに引っかかったスキに、なんとか追いついてるだけ。

原因は自分でもわかってる。

ビビって力が抜けてないのだ。意識して力を抜こうとはしてるんだが、速度域が高いので、どうしても緊張する。かと言って、緊張したまま無理に突っ込んでも、イイコトないどころか事故る可能性が高いこともわかってる 。

とりあえず、八方塞(はっぽうふさがり)だ

 

と、突然、Rが右ウインカーを出して停まった。

じゅんとしんごは停まりきれずに、先でUターンしてる。俺はなんとかブレーキが間に合った。遅れていたからだ。止まった場所は、以前GO!!!に連れてってもらった、アイスクリーム屋さん(俺認識)の前だったので、「ああ、アイスが喰いたいのか」と、苦笑しながら単車を停める。

ま、アイスじゃなくて、ここで飯を喰おうって話だったんだが。

 

別口で来ていたツーリングライダーが、集合写真を撮ろうとしていると。

「シャッター、押しましょうか?」

なにやら親切に写真を撮ってあげるR。

と、戻ってきたヤツは、ニヤリと笑って

「ひとつイイコトしたから、これで今日は転ばないな」

そんなんで転ばなくて済むなら、俺、モータドライブで100枚くらい撮ってやるんだけどなぁ。

 

しんごとじゅんが『カレー』を、俺とRが『レモン風味の鯛』を喰う。

揚げ焼き(?)された鯛のレモン風味。非常に美味しかった。

 

飯を喰いながら、富士山スカイラインでの衝撃の出会いを反芻する。「朝はよく走ってるそうだし、今度は朝のうちに行ってみりゃいいじゃん」つったら、Rはうれしそうな顔で、「そうですねぇ」と笑った。本当に、速いヤツと走るのが好きなんだなぁ、と思わず微笑んでしまう。

単車の話、乗り手の話、楽しい時間ではあるのだが……しかし暑い。

それでも風が吹けば心地いいので、ここでしばらくまったりとする。Rは、「温泉に行きましょう」言ってるのだが、俺はもう、だいぶんヤラれてしまっていて、ここで温泉なんか入ったら動けなくなることは目に見えてる。とりあえず、温泉行きは断った。

食後のコーヒーを飲んだら。

さて、暑くてもう走りたくないし、時間は早いけど帰ろうか。

 

店を出て、県道を北上しながら走りだした。

しんごの前を走りながら、さっきよりだいぶん力が抜けていることに気づく。ああ、そうか。みんなに引っ張ってもらって、突っ込む速度に慣れてきたんだ。そう思ったらちょっと気が楽になって、さらに気持ちよく曲がれるようになった。まぁ、コレならそんなに悪いこともあるまい。

狭いワインディングを、そこそこすっ飛ばしながら、リアを沈ませてぐぐぐっ!

おー! やっと曲がってる気がしてきたぜ。

 

渋滞する県道、国道をすり抜けて、ようやく、高速に乗る。

R、しんご、俺、じゅんの並びだ。

すると、暑くてすっ飛ばす気がないのだろう、Rやしんごにしては珍しく、200スピード弱くらいで遊びながら走り始める。「高速に入ったら消されるだろう」と思っていた俺には、ありがたい展開だ。無理せずちょうど気持ちよく走れるくらいの速度なので、暑いなりに楽しく走れた。

が、連なって走ってると、タイアにかきあげられた小石が飛んできて痛い

なので、Rやしんごとラインを外し、別の方からすり抜けてると、Rとしんごに抜かれてステアを切ったクルマに寄せられる。行けるかと思ったが思いのほか寄られたので、ブレーキをかけた。その瞬間、反対側からじゅんが抜いてゆく。

あとで「俺の後ろは怖いと思ったんだろう?」と聞いたら、

「かみさんがヤったとき、『じゅんが煽ってた』って言われないように」

バカだなぁ、事実なんていくらでも捏造できるのに(バカはアナタです)。

 

ハナウタが出そうなくらいご機嫌にすっ飛ばし、途中で列を成す旧車会を縫ってSAへ。

ガソリンを入れて、木陰でちょっと休憩しながらダベる。

「かみさん、リアタイア滑ってません?」

「んにゃ、滑ってねーけど」

「立ち上がり全部、ブラックマークが残ってましたよ」

「え? んじゃ滑ってんのかな? イッコもわかんねかったけど」

じゅんに聞いたら、PPは滑ってなくてもブラックマークが残るんだそうだ。

 

「かみさん、乗れてなかったですね」

「だめだったなー。でも、後半はマシだったよ」

「そうなんですか?」

「後ろで見てたら、いつもとそんなに変わらなかったですよ」

「なはは。ちっとマシになったから、しんごの前に出たんだよ」

「そんな時には、アップハンですよ」

「意味がわからん。ヤだよ。今朝おまえの乗って、アップハンにしないって決めたんだ」

「まぁ、セパハンの方が、速度出すと楽ですけどね」

「かみさん、タイア替えましょうよ」

「おう、替える、替える。次はナニにすっか……」

「今から」

「ぎゃはははっ! 今からかよ」

クソ暑い昼下がりだが、SAでダベって笑うのは楽しい時間だ。

 

一台のハヤブサが、ガソリンスタンドの前で何かを待つように停まっている。

「なぁ、R。あのハヤブサ、俺らが出るのを待ってるんじゃね?」

「そうですかねー? だったら嬉しいなぁ」

フツーは警戒したり、気合入れなおしたりするもんだけどね。

もっとも、そのハヤブサは連れの女の子を待ってただけだったようだ。

「あんだ、CBSSの女の子を待ってるだけだったのか」

「なんだよー!」

残念がるRの『勝負好きっぷり』に笑ったら、ここで流れ解散だ。

 

「んじゃ、俺はゆっくり行くから」

「寄るなら石川パーキングで」

「お疲れ様でした」

「お疲れ様です」

渋滞の中を走りだし、クルマを縫って150〜200スピード。

 

八王子ICで、ETCの俺&じゅんが先になり、そのまま走って石川パーキングへ。

タイアの話をしながら、じゅんとふたりでRとしんごを待っていると。

確実に来るだろうという時間を待ってもやってこない。ふたりは石川に寄らないで帰ったんだろう。それじゃ俺たちも帰ろうと、重い腰を上げたところで。本日のCrazy Marmaladeでっかいもん倶楽部は無事、終わりとなる。距離的には短かったけど、内容の濃い一日だった。

 

最初こそ、乗れてなかったり、カメラ落っことしたりで、わりとローテンションだった。

だが、面白いヒトたちと出会えたり、ひさしぶりにしんごと走れたり、帰りはじゅんと遊びながら楽しく走れたり、Rの嬉しそうな顔を見れたりと、トータルではえらく楽しいツーリングだった。そしてなによりも、スポーツスターでSS喰ってるって事実にシビれた。

世の中には面白いヤツラが、まだまだいっぱい居るんだろう。

そんな連中に会うために、色んなところを走り回りたい。そして、会った時に多少なりとも話が出来るように、もちっと速くなりたい。あらためてそんな風に思いながら、俺はひらひら踊るように走る、じゅんの背中を眺めていた。

 

単車って、ホント楽しいな。

 

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