The 97th big machine club
2010.09.25 第97回でっかいもん倶楽部 in 筑波 ―異端者たち―
仕事がはねた土曜の午後。 マーちゃんトコに行くGOのクルマをしんごとふたりで見送り、ユリシーズのシート比較をしてみたのは日記のとおり。 んで、しんごが帰っていくのを見送ってから、オークションで買ったシートをユリシーズのリアに積み込んでいると、なにやら2ストの音が聞こえてくる。 「あれ? しんご忘れ物でもしたかな?」
「おう、どーした?」 「かみさん! 走りに行きましょう! あんまりいい天気すぎて、戻ってきました」 「ぎゃはははっ! バッカだな、おめ。もちろんOKだよ。シートをタクんトコに持ってくから、付き合え。そのあと走りに行こうぜ。つーかどこ行くよ?」 「曲がってるトコなら、どこでもいいです」 「あー、ま、筑波山かなぁ」
てな感じで、タクの店に行き、チューソンにシートを渡してから、8号船取線を走り出す。
途中、いつものスタンドで給油し、8号をガンガンすり抜けながら北上。 国道6号線に出てからは、ユリシーズで初めて、かなり全開に近いすり抜けをはじめる。トルクが太くて、でも出力の仕方がマイルド。しかもアイポイントが高いので、とにかくすりぬけが楽。車体の幅もクルーザ乗りから言わせてもらえれば天国に近い。 低回転ではドコドコと、まったり走るのが気持ちよくさえ感じたエンジンも、レッド付近までぶん回してやると、その本来の顔を見せ始める。SSの天井知らずな加速にはもちろん及ばないが、アクセルのオンオフに忠実についてくる動力性能は、実に気持ちがいい。 クルーザっぽい感覚があるから、余計にそれが気持ちいいのだ。 言うなれば。 車重を100キロ削って、パワーを三分の二にしたV−MAXってトコか。
県道19号を折れて、筑波山に向かってすっ飛ばす。 高速コーナーや直線では、さすがにNSRを置いてけぼりに出来るが、ちょっとタイトな場所だったりクルマが詰まってくると、さすがに現役某所ランナーだけに、気づけばミラーに写ってる。久々のぶっ飛ばし、久々の高速ランデヴー走行に、ニヤニヤするのがとめられない。 信号待ちで停まった時、しんごに「すんげー楽しそうじゃないですか」と笑われるくらいだ。 全ヌキのサスを、ふわふわさせながらすっ飛ばし、筑波山麓のイレブンで休憩。
もはや絶滅してゆくだけの、2スト250ストリートゴーイングレーサーと、すでにつぶれてしまった激烈変態メーカの、さらに異端児なデュアルパーパス。排気量もカテゴリも違うけど、なんとなく共通する匂いがあるように感じるのは、きっと感傷だろう。
ロケットスリーのときから、新しい単車と仲良くなるのは、いつもここ。 俺の近年のライディングテクニック、いや、単車に乗ることそのものの骨子が、この山ではぐぐまれた。ここ最近はあんまり走ってなかったけど、やっぱり、この姿を見ると顔がほころぶね。某所のような緊張感はないけど、いい意味で気が引き締まる。
コンビニで軽く飯を食ったり、タバコをつけたりしながら、ちょこっとダベる。 「しんご、NSRどうよ?」 「これ、ブレーキかけながらだと曲がらないんですよ」 「うん、それが普通なんだよ。俺がSS乗ったとき騒いでたろ? 『すげぇ、すげぇ、ブレーキかけながら曲がれるよ!』ってさ。俺ぁそっちがわに長いこと乗ってきてたから、SS乗ったとき走り方がわかんなくなっちまったんだよ。ま、言い訳だけど」 「むずかしいですねー」 「GO隊長みたいな乗り方すれば、曲がるよ」 「でもブレーキが利かないから、ぎゅーすぱんって出来ないんですよ」 「ばっかおめ、出たときは『すんげぇ停まる』って大騒ぎだったんだぞ?」 期せずして、昔話になってしまった。今のバイクは曲がる。それが事実で、それ以上でも以下でもない。古いバイクを上手く操れるからって、イッコも自慢にならないのだ。少なくとも古いバイクで速い人が、新しいバイクで速く走れないってコトを、俺は充分すぎるほど知ってる。 とは言え。 新しいバイクしか知らないしんごが、古いバイクを乗りこなそうと頑張ってる姿は、見てるだけで何だか嬉しくなってしまう。古くても新しくても、遅くても速くても、バイクの数だけバイクの楽しさがあるんだなって、改めて強く感じた。
さて、もうすでに陽が傾いてきている。 「とりあえず上がって、そのまま風返し走るか。それともパープル行くべか」 「パープル先に走ると、風返しで飛びやすいらしいですよ」 「おげ、んじゃ上がって風返しな?」 観光マイカーをパスしいしい、ユリシーズとNSRは筑波山を駆けのぼる。その間に早くも、俺はニヤつきを止められなくなってきた。どるるるるっと加速して、適当なところでアクセルオフ。エンブレで間に合えばきっかけ程度にブレーキ、間に合わなければブレーキを足して、そこからリーン。 入力に見合っただけ、すすっと寝てくれる。 パーシャルの間も不安定感はない。シートのどこに座っててもいいくらいだ。アイポイントの高さを利用して道の先を確認したら、アクセルオン。強烈なパワーじゃないので、SSほど神経を使わず、大胆にあけてゆける。アクセルに呼応して、車体が気持ちよく旋回。 そのまま余裕を持って立ち上がると、ちょうどエンジンがパワーバンドに入る。 パワフルというより爽快。 ユリシーズのコーナリングは、まさにそんな言葉が似合う。
山を登りきったところで、そのまま風返しを一本。 ここでまた、ニヤリ。 風返しは下りからスタートになるのだが、その一発目の左で、ユリシーズはイキナリ魅せてくれた。想像したラインの、思いっきり内側を通るのだ。『それじゃ、もう少し』と突っ込んでみると、それでもくるっと回ってくれる。寝かす必要がないから、切りかえしも速い。 「ぎゃはははっ! なんだこれ、気持ちわりい。最高じゃねーか!」 とてもケーロクより重たい単車とは思えないくらい、あのクソ狭い風返しの下りがちっとも怖くない。もちろん速度はそれなりなんだろうけど、そんなことが気にならないくらい、気持ちがいい。重さから考えたら、これはとんでもなくすごいことだ。 速さより気持ちよさ。 このセリフをここまで本気で言える単車を、俺はほかに知らない。
一往復して、休憩所に入る。 「やっべ、なんだこれ超たのしい」 「楽しそうでしたねー。俺はちょっと怖いです」 「まぁ、ひたすら練習しかないよな」 「ですね。ところでユリシーズのサスはどうですか?」 「ちっとフロントが踊るかな。さすがに全ヌキはアレっぽいから、フロントの伸び側だけ締めるか」
シートを外して車載工具を取り出し、伸び側減衰だけちょこっと締める。 サスセットしたあとは、一服しながらダベるのだが、その間もやけに腰が落ち着かない。 もう、乗りたくて走りたくて仕方ないのだ。ほとんど幾らも休憩せずに、もう一本走り出す。こんどはしんごが前だ。せまっ苦しい勾配を下りながら、NSRの細いエグゾーストからもうもうと吐き出される煙を吸い込んで、なんだか生き返った気がした。 「この2ストのケムがたまらん。へへ、やっぱり峠はいいなぁ」 まあ、変態といえば変態だ。
下りきってUターン。登り勾配を駆け上がる。 しんごが開けきってないのとマシンのトルク差で、登り一発目の右で追いつく。下りよりは走りやすいのだろう、しんごもさっきよりはビシっと攻め込み、タイトなS字ではちょこっと離された。もう、楽しくて楽しくて。このまま道が続いてたら、ふたりともきっと干からびるまで走ってただろう。 風返しを登りきり、そのままパープルへ入る。 するとしんごが、右手をひらひら振って『前に行け』と合図したので、そのまま、前に出てすっ飛ばし始める。最初の左を慎重に入りつつ、しばらくは速度に身体を慣らそう……無理だ。楽しすぎる。もういいや、開けられるだけ開けちまえ。要は転ばなきゃいいんだ。 地元の走り屋ほどではないにしろ、知ってる道だけに安心感はある。 アプローチはケーロクよりブレーキにメリハリをつけて。アクセルはエンジンが穏やかな分、早めに開けても大丈夫。ケーロクみたいにアクセルを抜くだけでインに入ったりはしないけど、姿勢の自由度が高いから突発的な動きにも対応しやすい。 「ああ、さっきよりフロントが落ち着いた分、リアの動きが気になるな」 サスペンションだけじゃない。乗り方を変えれば変えただけの反応がはっきりと出る。出ると言うか知覚できるから、『次はこうしてやろう』という気持ちになる。こんなに色んなことを感じ取れるのは、マシンの挙動がクイックだとか、たくさんの要素があるんだろう。 けど、一番大きな要因は、とにかく怖くないってこと。これに尽きる。
速度そのものが、ケーロクで『乗れてるとき』よりは遅いかもしれない。 でも、体感的には遜色ないし、何よりちっとも怖くないもんだから、楽しくて楽しくてしかたない。実際問題、SDRの時より怖くないってんだから困ったもんだ。これはビューエルの手柄だけじゃなく、フューリィでワインディングを走りこんだのも効いてると思う。 いいだけ走って、パープル北側の休憩所へ。
途中、高速セクションで一瞬消えたあと、結局ベタっとついてきたNSR。 とは言え、しんごはNSRで峠を走るのが初めてなんだし、操るのに四苦八苦してる単車で、それでもそれなりの速度で走れてしまうのは、さすがのセンスだと思う。これで乗り慣れてきたら、きっとここでも消されちゃうんだろうなぁ。いや、さすがに峠だけはもう少し頑張ろう、俺。
一服つけながらバカ話してると、明らかに陽が傾いてくる。 「どうする? もう一本走って、来た道で帰るか?」 「下道だと、柏からがめんどくさいんですよ」 「んじゃ、このまま下って高速乗って帰ろうか」 「でも、かみさん、もう少し走りたいですよね?」 「いや、いいよ。大丈夫」 「それじゃ、途中の長い直線でUターンして帰りましょうか」 「おげ、それで行こう」 つわけで、パープルを(たぶん)地元往復区間だけ走る。こっち向きだと夕日が眼に入るコーナーが結構あるので、そこまでバカ飛ばしは出来ないけど、それでも気持ちよく曲がれるのは同じ。しんごのNSRをミラーに見ながら、ウキウキとゴキゲンでパープルを攻める。 いや、攻めるつーより、踊る。 曲がって立ち上がって加速、減速、すすすっ、くくくっ、すばーん!
Uターンして戻り、休憩所を越えてそのまま山を下る。 さすがと思ったのは、途中のカマボコ。「いけるかな?」と思って、あえてあまり減速せずに乗り上げてみたんだが、長いサスストロークが吸収してくれて、ほとんど気にならずに乗り越えられた。いや、みんな「アレはオフじゃない」とかいじめるけど、意外といい仕事するよ、コイツ。 山を下ってそのまま下道をすっ飛ばし、土浦北から高速へ乗る。 「さーて、16号で160スピード(=1/2時速)は出せたけど、高速はどんなモンかな?」 合流から思いっきりアクセルを開けると、ふわっと前輪が浮く。いや、リフトするほどハデに浮いたわけじゃないけど、着地でハンドルがぶるんと触れるくらいは浮き上がった。実は来る時の下道でも、立ち上がりや信号スタートでハデに開けると浮いてたのだが。 「やっぱ、ホイールベースが短いんだなぁ」 ま、しんごのNSR250と同じホイールベースだからね。
さて、べタベタに褒めてきたユリシーズだが、さすがに弱点はあった。 高速道路は、残念ながらかなりダメだった。いや、ダメつーか普通なら問題ないレヴェルなんだろうけど、ワインディングがあまりにも良かった分、期待値が上がりすぎていたようだ。160スピード巡航ならまるきし問題なしだが、実用的なのは180〜200スピードまで。 200以上は正直、出したくないね。 あのホイールベースとハンドリングだから仕方ないだろうけど、直線がとにかく苦手。むしろ200弱で三車線使って縫いながら走る方がぜんぜん安心して走れる。極端な話、高速コーナーの方が速度が出せるんじゃないか? ってくらいだ。 上半身が思いっきり起きてることや、空力なんかイッコも考えてないデザインも、高速走行時には、ネガティブな要素になる。上半身が起きてるのはワインディングでいい武器になるし、デザインも俺はめちゃめちゃイケてると思うが、高速域に限ってははっきりネガだ。 この域だとさすがに、NSRもしんどいのだろうが、こっちも充分しんどい。 結局、160〜180くらいをベースに、時々200に入れる程度で走り続けた。空力なりパワーなりの必要な措置をすれば、もう10〜20くらいはイケるかもしれないが、峠の走りが鋭いだけに、そこをスポイルしてまで出すのが、なんかバカバカしく感じてきちゃう。 コイツはこれでいい。 アンダー200スピードのスペシャリストにして、ダートも走れ、のんびりトコトコもできる。 それで充分だろう。
柏が近くなってきたところで、しんごに片手を挙げてアイサツ。 右車線をNSRがすっ飛んでいき、こちらは相変わらず、ぐいんぐいんとムダに曲がりながら、柏インター出口車線に飛び込んだところで。本日のCrazy Marmaladeでっかいもん倶楽部は、短いながらも充実のうちに終了した。 久しぶりのしんごとの走りに、抜群のワインディング性能を見せてくれた愛機。 なんだかひたすらニヤニヤしっぱなしの午後だったよ。
しんご、また一緒に走ろうな!
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