The 99th big machine club
2010.12.19 第99回でっかいもん倶楽部 in 北茨城&南福島 ―ワインディングホリック―
「GOは明日、どっか走りに行くの?」 「まだ決めてないですねぇ、かみさんは?」 「う〜ん、写真でも撮りに、適当に走りに行こうと思ってる」
整骨院で治療しながら、そんな会話を交わしたのが土曜の午後。 そのあとタイア交換の練習をしたのは、日記に書いた通りだ。んで、それも全部終わって、いつものように「GO、今日は来るんだろ?」「一度帰ってから、あとで行きます」てな会話になり、俺はひと足先に家に帰った。やがて、GOもやってきて、いつもどおりダラダラ。 すると、しんごからメールが入る。
「そろそろ行きまーす」
ヤツの実弟たかしの日記に、「そのうち兄弟で呑みに来いよ」ってコメントしたので、これは、それに対する答えとして、「近いうちに行きます」って意味だろう。そう思ってGOに、「これ、近いうちに遊びに行きますって意味だよな?」聞くと、「ああ、そうじゃないですか」と、興味なさ気な返答。
「それとも今日、これから来るってコトかなあ?」
わからなかったので、しんごにメールしたが、返事は返ってこなかった。 きっとナニか忙しいんだろうと思い、ちょうど晩飯の時間だったので、ナオミと三人でユアンマクレガーとチャーリーブアマンのツーリングビデオを見ながら、のんびりとパスタを食う。んで、喰い終わって一服してると、ピンポンが鳴ってしんごが入ってきた。
「こんばんはー」 「おう、やっぱ『今日行くよ』って連絡だったか。しんごおめ、あれじゃわかりづれぇよ」 しんご、きょとんとした顔でこちらを見ながら。 「え? あれ? GOさんから聞いてないんですか?」 「あにが?」 「明日、ツーリングに行くんですよね? GOさんが『日曜日、ツーリング行こう。伊豆と北茨城どっちがいい?』って聞かれたんで、どっちでもいいですって答えたら、『それじゃ、土曜日にかみさん家で決めよう』って言ってましたけど」 「GO?」
振り返ってGOに視線をくれると、GOのヤロウ、ニヤニヤしながら。
「しんごとふたりで行くんですもん。かみさんはソロでどっか走りに行くんでしょう?」 「くっそ、てめ……あーそうだよ、俺はソロで走りに行くよ。ユリシーズじゃ、お前らについていけないからな。ま、『偶然キミらと行き先が一緒んなる』って可能性はあるけど。んで、どこ行くんだっけ? 北茨城だって?」 「かみさんには教えない」
と、イジの張り合いをしながら大笑い。 そのあとも、事あるごとに、「明日のルートは?」「かみさんは関係ないじゃないですか」「なにをう! いいよ、ストーキングするから」「ついてきたら、ぶっちぎってやる」「おーし、見てろよ。ゼッタイ消されねぇから」などとやりながら四人でバカ話をしたり、俺としんご、ナオミの三人は酒を呑んだり。 ユリシーズのハンドルの話から、アップハンケーロクのじゅんの話になり。 じゅんに電話入れてみたが、残念ながら不参加。それからダメモトで、たかしにもメール入れてみたけど、こちらもこれないとの事。まあ、とりあえずGOとしんごの三人で走るなら、楽しいのは間違いないから、来れないなら来れないで、三人で行こう。
「俺はしんごとふたりで行きますけどね」 「あーそーですかー!」
あと、相変わらずムラタにも電話したり。 そんな風にして、土曜の夜は更けていったのだった。
明けて翌朝。 6:30のアラームと同時に、仕事の時じゃ考えられないくらい、一発で目が覚める。 起きてみると、ちょうどしんごも起きたところだった。なのでサクサク準備を進める。一瞬、革ジャンを着て行こうかと思ったが、寒そうなのでダウンジャケットにした。天気もいいし、たぶん、このくらいで楽勝だろうと高をくくり、しんごと一緒にオモテに出る。
R1越しのユリシーズ(モドキ)。 柏インターを目指して、16号をすり抜けながら走ってゆく。後ろがしんごだと、まったく神経を使わなくていいから、すげぇラクラク。あっという間にインターへ到着し、ETCをつけてこなかったのでチケットを取って、そのまま常磐道を北へ。守谷待ち合わせは7:30だから楽勝だ。 合流から加速して、一気に160スピード(1/2時速)まで速度を上げる。 とたんに、お気楽なカッコで出てきたことを後悔した。「う〜む、もう一枚、風をさえぎる服を着て来ればよかった」とつぶやいた俺は、向かい風に押しつぶされ保温と言う仕事を放棄し始めたダウンジャケットを恨めしくにらみつけながら、守谷を目指す。
7:10、守谷に到着。
「寒いなぁ」 「寒いっすねぇ」
縮こまりながら缶コーヒーを買い込み、しんごとふたりでGOを待っていると。
赤い凶悪なバイクがやってきた。
「おはよー! 寒いなぁ」 「寒いですね。あれ、かみさん今日はツーリングですか?」 「ひゃはははっ! GOさん、そのネタまだ引っ張るんですか!」 「ぎゃはははっ! くっそ、GOめ。覚えてやがれ」
やがて常磐道を友部に向かって走りだす。
120スピードくらいで走ってれば、どうにかこうにかガマンできるくらいの寒さだ。 なので、ふたりが飛ばしても俺はチンタラ走ろうと思ってたのだが、どうやらふたりとも寒かったようで、100スピード巡航をしている。俺はちょうど120スピードのクルマの後ろについたので、そのままクルマの後ろを低回転でドコドコ走っていた。 トップに入れてこういう走りをすると、ユリシーズはまるでクルーザだ。 防風設備がまったくないから、それでもかなり寒くなってくる。 だんだん速度が落ちてきて、途中でふたりに追いつかれたあたりから俺も100巡航。限りなく冷たく、限りなく透明な冬の空気の中を、久しぶりの三人でのんびり走っていると、自然に口元がニヤけてくる。寒いのは寒いけど、今日は楽しい一日になりそうだな。 やがて友部ジャンクションから北関東道に乗り換え、友部インターまで。 友部の出口でETCのふたりを待たせ金を払ったら、GOの道案内でいつもとは違うコースを取る。このコースが非常に素晴らしくて、空いてる上にショートカットなので、感覚的にはいつもの半分くらいの時間で、ビーフラインに入ることが出来た。
この道は、是非、覚えなくちゃ。
ビーフラインを走り出した時の並びは、GO、しんご、俺。 俺とユリシーズのコンビが、ふたり相手にどこまでやれるのか未知数だったのと、久しぶりにふたりの走りを後ろから見たかったのと、ふたつの理由で後ろについた。GOもしんごもリーンウィズで、GOはスパンと、しんごはするりと曲がってゆく。俺はウィズもしくはケツ半落としくらい。 直線が長いとしんどいが、クネクネとしてるところならついていける。 立ち上がりから吹け切るまでが早いので、今日のペースだと短い直線で吹け切っちゃって、シフトアップするか、そのまま6500回転でガマンするか、ってシーンが多かった。だが、コーナリングそのものは充分にやれる。ビューエルってのはつくづく、峠専用機なんだと思い知らされた。 あと、走り出しちゃうと寒くなくなるってんだから、俺も峠専用機。
サクサク走って、いつも休憩する道の駅っぽいところに到着。
「いやぁ、ココに停まるかどうか、実は迷ったんですけどね」 「ここじゃなきゃ、ドコで休憩するつもりだったんだよ」 「高萩の見晴らしのいいところがあるじゃないですか。あそこで」
普段、俺がひとりでビーフライン走る時は、あそこがゴールなんだけどなぁ。
「ってGOさん、それじゃ今日はその先まで行くってことですよね?」 「そうだよ」
こともなげに答えるGO。 距離感とか休憩とか、そういうのがよく解らない可哀想な子なのだ。 変態だから。
「それにしても寒いなぁ。走ってるときはいいけど、停まると寒い」 俺はぶつくさ言いながら、mixiのボイスに写真付きのつぶやきを上げる。それからも、しんごとふたりで寒い寒い言ってると、GOがとんでもないコトをさらりと告白した。
「ボクは寒くないですよ。電熱ベスト着てますから」 「ちょ、いつの間にそんなの買ったんですか?!」 「ずいぶん前から着てるけど。前にかみさんと、ともっちさん家に行った時も着てたし」 「なにぃ! 寒い寒い言ってる俺の横で、そんなハイテク装備をしてたのか!」 「ボク、寒がりなんで」
言いながら、ニヤリ。
「今日は、ウグイスやめときましょう。寒いから」
つわけで、確実にユリシーズが置いていかれるだろう、ウグイスラインを回避。 こっちにとってはありがたい。
「それじゃ、行きますか」 「おーげー」
つってるとしんごが、ニヤっと笑って。
「かみさん、今度は前を走ってくださいよ」 「いいよー」
つわけでGO、俺、しんごの順で走りだす。
ウグイスとはダンチのせまっ苦しいクネクネ道を抜け、ビーフラインをひた走る三人。 今度は目の前がGOなので、せっかくだから走り方をマネしてみる。道は冷えてるし、空気が冷たいからタイアも冷えてる。なのでGOもぎゅーすぱんとまでは行かない感じだから、なんとかついてける。俺もブレーキングで手前からイン側に荷重をかけ、リリースと同時にカットイン。 『ぎゅーすぱん』は無理でも、『きゅーするん』くらいはやれる。 もっとも、ヤレはするけど、それだとGOに置いていかれる。色々試行錯誤しながら、なんとか置いて行かれないように頑張った。前日、「ぶっちぎってやる」言われてるから、それだけは避けなくちゃ。でも、ちょこっと無理はするけど、無茶なことまではしない。 そこまでしなくとも、ビューエルのコーナリングは充分に戦闘力がある。 直線のノビは、どうしてもキビシイけどね。
461号の入りっぱなにある、いつものコンビニで休憩。
ここで遅い朝食をとりつつ、ちょっと長めの休憩を入れた。 寒いからだろうか、地元の走り屋っぽいヒトは少ない。バイクが三台に、クルマが一台だけだった。俺としんごは相変わらず寒い寒い言いながら、そしてGOの裏切り者は「暑い」とまで言いながら、おにぎりを喰いつつバカ話。「なんでそんなカッコで来たんだ」と言われてしんご、
「いやー、なんか久しぶりに乗るんで、どんなカッコしたらいいのか、わかんなかったんですよ」 「俺なんか途中に『しまむら』があったら寄ろうとまで思ってるぞ」 「寒いのわかってて、そんなカッコで来るのが悪いんですよ」 「くっそー、調子に乗ってるな電熱ベスト」 「電池式だから、そこまで強力じゃないんですけどね」 「GOさん、何枚着てるんですか?」 「え〜と、アレとアレと……」
いいだけ着膨れてるGOに笑いつつ、この先のルートの話。
「ところでGOさん、今日はどこまで行くんですか?」 「秘密。ココで全体の三分の一くらいかな」 「ぎゃはははっ! 高萩で三分の一かよ」
もっとも、時刻はまだ朝の九時半だかそのくらい。時間的にはまだまだ余裕がある。 時間的には。
メシを喰い終わったら、サクサク出発。 この辺のリズムと言うか休憩の少なさは、ヒトによってはキツいかもしれないけど、俺としんごにとってはちょうどいい。ある程度は休めつつも、集中力が途絶えないから、次に走り出したときボーっとしないで済むのだ。休憩時間が短いと、距離も稼げるしね。 もっとも俺のソロなら、もう少しマメに停まって、写真を撮ってるだろうけど。 走り出しから気持ちよく曲がる国道461号を、GO、俺、しんごの順でバンバン攻めてゆく。とは言えGOいわく「道が信用できない」から、リアが滑り出すほど攻めるわけじゃない。楽しく攻めつつマージンはしっかりと言う、GOの絶妙な先導に感心しつつ、広域農道を左へ。 すると上がりっぱなから、道の端に嫌なモノを見つける。 「ああ、知ってる。コレは『雪』って言うんだ」 どうやら、時間以外の余裕がなくなってきたようである。
くねくねツイストしたり、ぐいーんと曲がりこんだり。 節操のないレイアウトの広域農道をすっ飛ばしてると、先導のGOが左へウインカーを出した。コレを見て、俺はぴんと来る。こっちに行けば、例の小山ダムがあるのだ。おそらくダムで景色を眺めようというのだろう。つーわけで、そこからちょこっと走ると、すぐに小山ダムへ到着。
ネイキッド、ビッグオフ、スーパースポーツと三者三様だが、ワインディングはとても楽しい。 もっとも、ネイキッドは羊の皮をかぶった180馬力のバケモノだし、ビッグオフもすでにそうは呼べないほどシャコタン化されたロードスポーツだから、しんごが有利ってわけじゃない。むしろ今日の道のコンディションや気温だと、しんごが不利だって見方も間違いじゃないかも。 SSは速度が遅いとトラクションかかりづらいからね。
天気は上々、気温は寒いけど、それなりに上がってきた。 しんごがタイアを触りながら
「あったまらないですねぇ」 「今日はさすがに無理だろう」 「GOさん、今日ってやっぱり福島に入るんですか?」 「そうだね。ちょっと掠めるくらいかな」 「俺、福島に来る時って、いつもGOさんと一緒ですよ」
それはねえ、日帰りツーリングだつってんのに、高速も大して使わずに、『ワインディングをつないで、福島まで行こう』なんて言い出すのが、この男くらいしか居ないからだと思うよ、しんご。かと言ってワインディングじゃない福島行きなんて、お前が乗っからないだろうしね。 要するにどっちもバカだってことだ。
「このあと、いつもの山を越えちゃって、向こう側からもう少しだけ北上するよ。そのあと西へ行って、途中から南下してビーフラインにつなぐカンジかな」
さらっと言ってるけど、それ、かなり壮大な円だよね、GOくん?
「つーか、相変わらずペース速いな。まだ10時ちょっとだ」 「明るいうちに帰りたいですからね」 「たしかに、暗くなったら寒そうだ。つーかどーよ、しんご。ビューエルそこそこやれる子だろ?」 「ゼンゼンやれる子ですよ。コーナリングで離される時ありますもん」
なんつってると、GOが展望所のある小高い丘を登り始めた。
ちなみに小山ダムは何度か来てるけど、展望所に登った事は一度もない。かみはあるかない。
「おぉ、しんご、アレを見ろ。スノーエンジェルだ!」
ちなみに↓が、2009版スノーエンジェル。
「なあGO! スノーエンジェルの2011版カレンダー作ろうぜ!」
言いながらカメラを向けたら、GOは後ろを向いてしまった
残念ながら逆光だし顔も写ってないので、カレンダーは無理そう。 スノーエンジェルファンの女の子たち残念でした。 存在するか知らんけど。
小山ダムの景色を眺めたら、またワインディングを目指して走りだす。 販売機の休憩ポイントには誰も居なかった。そのまま自販機前を抜けて、県北東部広域農道のハイライトとも言える峠道へ入ってゆく。ところで、実は今回走りだすまで、俺にはちょっとした不安があった。もちろん、『ビューエルでふたりについていけるのか?』と言う不安だ。 単独で走って、ビューエルのオモシロさは充分わかっていた。 が、クルーザチックなエンジンフィールだけに速度の乗りが体感しづらく、自分の速さがイマイチよくわからないという状態だったのである。 (相対速度は速いし面白いけど、絶対的な速度はどうだろう? 峠でみんなと走れんだろうか? ぶっちぎられ消されて、帰り道で「くそー、やっぱSS買うか」なんて泣いてんじゃなかろうか?) と、ずっと考えていたのだ。 しかし、それは杞憂に終わった。 長い直線があると離される時もあるが、基本的に曲がりくねった道ならゼンゼンやれる。 トルクバンドの広さと、高回転を使わなくていいコトが上手く作用して、結構なアベレージスピードで走れるのだ。絶対速度はSSの方が速いけど、その分こちらはアクセルを開けやすく、ラフに走れるので疲れない。長い区間のワインディングだと、トータルはトントンだろうか。 なにより恐怖がないから、楽しくてしょうがない。 たまらんぞ、ビューエル。
峠道を駆け上り、よく写真を撮ってる景観ポイントをそのまま走りぬけ、道は下りはじめる。 SSより重いとは言え、マスの凝縮された機体は、下りを攻める恐怖をまったく感じさせない。 早めのブレーキングでしっかり減速し、でも減速しすぎないようにしながら、コーナーへ飛び込む。短いホイールベースと立ったキャスターが、車体をぐいぐいとイン側に運んでくれる。GOやしんごよりバンク角は明らかに少ないのに、描く軌道は同じか、場合によっては小さい。 んで、くるりと回ったらアクセルオン。 トルクフルなエンジンは4000回転からでも加速する。 すぐに6500のレッドまで回りきるので、道と相談しながら、シフトアップするかこのままガマンするか決める。ケーロクなら一速か二速でブン回しながら、ドコまでも加速する機体を制御するのに緊張を強いられるが、コイツは回りきってからゆっくり考える余裕がある。 扱いきれる100馬力は、狭い峠で力を発揮するのだ。
と。 様子がおかしくなってきた。 道がえらく綺麗で広いのだ。 もちろんそれはイイコトなんだが、そうなってくると、ひとつ問題が発生する。ずーっと先頭で俺たちを引っ張ってくれている、あの赤い単車に乗ったオトコと、彼の愛機である「公認車検済みの180馬力」だ。ヤツらのチカラが解放されてしまうのだ。 道が悪くクソ狭い峠道でさえ、あのアベレージだったのに。 案の定、GOの速度が目に見えて乗ってくる。当然、プロトン(集団)の速度も上がる。前をゆく赤いフェーザーの姿がじわじわ離れだし、後ろからは赤黒のR1が迫ってくる。う〜む、さすがにしんどいなと思いながらメータを見た瞬間、俺は思わず大声を出した。
「おい! 160hs(ハーフスピード:1/4時速)超えてんじゃねーか!」
トンネルがあったり、一部道の悪いところもあるが、基本的には走りやすい(すぎる)高速ワインディングを、悪魔二台に挟まれてフル加速する、かみさん41歳。さすがに160を超えながら突っ込んでゆくと、ちょっとのギャップでハンドルが振れる。 もっとも、シンドいのは俺だけで、ふたりは水を得た魚。 すっ飛んでゆくGOを追いつつ、後ろのしんごに突っつかれないように開け倒す。ぶん回しながらシフトアップすると、ギヤ比がワイドなせいだろう、ぐんと加速してフロントの接地感が薄くなる。メータがぴょんと跳ね上がり、車体がうにゅりと揺れる。 息つく暇がない。 車体の限界付近でゴリゴリやりながら、俺はヘルメットの中でわめく。 「ぎゃはははっ! こりゃまたシンドい! でも、コイツ高速域でもやるじゃねーか!」 もっとも、高速コーナーでついていけるのは、GOが三味線を弾いてるから。あとで聞いたら、「フェザーで今日のコンディションなら、僕はあれ以上出しませんよ」つてったし、それは確かに本当だろうけど、それだけにGOのコーナリングには余裕があった。 しんごに関しては、正直、見る余裕がない。 こんな超高速ワインディングで、ビューエルが後ろなんか見れるわけねーだろつー話だ。 ふたりはたぶん二三速、俺はキッチリ4速まで使って、高速ワインディングを駆け抜ける。
やがて道が林道チックな、荒れた道に変わった。 ここならもう少し、楽についていけるだろうと思ったら、道の入りっぱなでGOのリアタイアが何かを蹴り飛ばす。その瞬間、俺の目の前に白いものが舞い上がった。そう、砕かれた氷の粒が舞い上がったのだ。どうやらさすがにこの辺まで来ると、路面が凍結してる部分があるらしい。 一瞬、心が折れかけるものの、「GOがいけるなら、俺もいける」と叫んでアクセルを開ける。 日陰の部分が凍ってたり、溶けて濡れてたり、完全に乾いてたり。 めまぐるしくコンディションを変えるタフな荒道を、ゲラゲラ笑いながらリーンアウトとリーンウィズを使い分けて攻め倒す。すると今度は、アスファルトが剥がされた工事区間に入った。突然あらわれたダートに、思わずアクセルを緩めてアプローチすると…… カツ、カツ、カツ! 何かが俺のヘルメットを叩く。 それが小さな石だとわかった瞬間、俺は思わず大声を上げた。 「おいっ! GO! 加速すんな!」 小石を跳ね飛ばしながら加速してゆく姿に、大声で笑いながら「ずるいぞ!」と叫びつつ俺もアクセルを開け、同時にスタンディングポジションを取る。突然のダートランでも、さすがは(元)ビッグオフのユリシーズ。するすると、なんでもない様子で加速してゆく。 近づくGOのケツと反対に、ミラー越しに遠ざかるしんごのライト。 「はははっ、そりゃSSはキツいよなぁ、しんご?」 ダートを越えてしばらく走ったところで、GOがフェザーを道端に停めた。
地図を眺めるGOに、ヘルメットを取った俺としんごが食って掛かる。
「GOおめ、加速したべ!」 「だって、ユリシーズはダート得意じゃないですか。突っつかれたらヤだなと思って」 「俺のはユリシーズじゃないって言ってたくせに」 「ふたりとも、おかしいですよ。ダートが見えたから、ゆっくり走ると思ったのに」 「ミラーにしんごが見る見る小さくなっていく姿が写って、思わず笑っちゃったよ」 「ふたりが加速したんで、あきらめました」
バカ話しつつ、GOのリルートが終わったら走り出す。 相変わらずタフな道を、ガンガン進んでゆく先導に、こちらも負けじと喰らいつく。 「しっかし、速ぇなあいつ。R1の時より速いんじゃねーか?」 ま、GOが実際にそうかは置いとくとして、サーキットや広くて走りやすい道ではない、今日のようなバッドコンディションのせまっ苦しいワインディングをつないで走るのには、アップハンで先の見やすいネイキッドは向いてる。しんごのR1のが、むしろシンドいだろう。 その上、ペースを作るのは鬼だし。 「最高だな。これぞツーリングって感じだ」 スパスパと曲がってゆくGOの後ろ姿を見ながら、俺はそうつぶやいた。
国道に出たところで、コンビニに入って休憩する。
「いやぁ、あんだけ高速ワインディングだと、やっぱシンドいわ」 「結構、走りましたよねぇ、GOさん?」 「今で、300キロ超えてるかな」 「でも、まだ午前中なんだなぁ」 「だいぶ、寒さも和らいできましたねぇ」
コンビニの駐車場に入ったのに、誰もコンビニには寄らずに愛機の前でダベる。気の置けないダチと単車で曲がった道を走りまわり、休憩しながら単車の前でバカ話をするってのは、俺の人生でも、最上級に類する喜びだ。コレがなくて、何の人生か。
「なあGO。この後は国道で南に下るんだろう?」 「そうですね。それでハンマーホイールの時のソバ屋にいって、メシを喰いましょう」 「りょうかーい」
するとしんごが、ユリシーズのタイアを見ながらたずねてきた。
「かみさん、タイヤ何にするんですか?」 「そーだなぁー、温度依存の大きいタイアはいやだなぁ。スポーツツーリングあたりがいいかな」 「これってノーマルは何でしたっけ?」 「ピレリだよ。スコーピオンシンク」 「知らないですねぇ。GOさん知ってます?」 「いや、知らないなぁ」 「まあ、三年モノだから、『本当の意味でこのタイアを知ってる』わけじゃないんだよな、俺も」 「だったら、もう一回ノーマルを履いてみるのもいいかも知れませんね」 「そうだなぁ」
言ってもタイアの話だったら幾らだって出来る連中だから、そこから色んなタイアの話をする。その間に俺はタバコを三本か四本ほど灰にして、それじゃあ、そろそろ走り出そうか。あとは国道を南に下ってメシを喰い、ビーフラインに乗ってまたワインディング三昧だ。
走り出してしばらくすると、信号待ちのたびにGOが、タンクバッグの地図を開いている。 その瞬間、ぴんと来た俺は、思わずにやり。 「ヤロウ、どこか別のワインディングに行く気だな?」 そう思ってると案の定、いきなりウインカーをつけて右折レーンに入るGO。 しんごと顔を見合わせ、俺たちはニヤニヤしながらその後ろに従った。ちょっと込み入った場所だったので、いちど道を間違えてしまったが、もちろんGOはリカバリも早い。俺がソロで迷ったときの十倍くらいの手際のよさで、あっという間にリルートすると、サクサク進んでゆく。 ナビ使ってたら、絶対に出来ない芸当だ。 ナビの是非は置いといても、俺自身に限っていえば、地図でルートを探しながら走った方が、ツーリングは断然面白いと思う。オリエンテーリング的な要素が加わって、なんとなく冒険心が満たされるのだ。コレはあくまで俺の個人的な意見で、ナビを否定するわけじゃない。 俺はとにかく、雰囲気に弱いからね。
ほどなく、道が曲がり始めた。 道の入り口の看板には『アップルライン』の文字が見える。聞いたことない道だなぁと思ったが、後で教えてもらったら新しく出来た道らしい。俺の2007年版マップルには乗ってなかった。来年は新しい地図を買わなくちゃ。道に迷ったら死んじゃうからね(ナオミさん用イイワケ)。 このアップルラインがまた、面白い道だった。 普通のくねくねももちろん楽しいのだが、特筆すべきは長く回りこんだコーナーだろう。パープルにも幾つかあるけど、先の見えないブラインドコーナーに入っていくと、奥の方まで延々と曲がりこんで居るという、峠道では時々見かけるコーナーだ。 まあ、その最強にして最大、最速のヤツが首都高なわけだが。 あれほどアベレージが高いわけではもちろんないが、なかなかに攻略が大変で、それがまた面白い。低速ではスパンと曲がり、フル加速し続けるような高速コーナーでも安定していたビューエルが、だらだらと長いコーナーに入った瞬間、わずかに戸惑いを見せる。 コーナリング中でもひらひら動き、よく言えば余裕がある。悪く言えば落ち着かない。 (なるほど、こういうところはむしろ、複合コーナーとして段階わけで処理した方がよさそうだ) 色んな走り方にトライしながら、GOの背中を追っかける。 ミラーにはビタっと後ろを走るしんごの姿が写っている。 楽しいなぁ。
アップルラインは短く、あっという間に終わってしまった。
「こんなとこがあったんだね。面白い道だねぇ」 「ちょっと短いですけどね」
そこからは俺も一緒に地図を見て、県道をつないで国道へ向かう。 ビーフラインに出たところで、GOが逆方向へ走るからどうしたのかと思ったら、国道との交点にあるガソリンスタンドへ入った。ああそうか、大喰らいのR1が一緒だったっけ。俺はすっかり失念していたが、さすがにGOは覚えていて、しんごが何も言わないのにスタンドに寄ったのだ。 こういうところはホント尊敬しちゃうよなぁ。 ウチで転がってるときはダメ人間なのに。 ガスを満タンにしたらビーフラインに戻って、そこからはいつもの慣れたコースだ。当然、さっきより速度が上がる。これまでもコテンパンにワインディングを走ってきたのに、それでもまだ走りたいし、走ってると楽しい。わからんヒトにはわからんだろうが、わかるヤツは垂涎だろ? いいからまず、そのよだれを拭けよ。
そうして楽しく走っていると、もしやと思ったポイントで、やっぱりGOのウインカーが出る。 (まあ、そうだろうよ。おめーがあのまま走らずに終えるとは、俺も思ってなかったよ) あきらめの笑いを浮かべて、目を向けた先にある、この道こそは。 ウグイスライン。 高速コーナーでつながれた直線で、ヤレる乗り手なら300を見るという、例の場所だ。 先導のコーナリング速度が、ついに一線を越えた。もう、後ろのしんごを見てる余裕などない。ひとコーナーを立ち上がるごとにジワジワと引き離される先には、最長の直線が口をあけて待っている。「ようし、やるさ!」と腹をくくった俺は、アクセルをストッパーにぶち当てた。 しかし、すでにGOの背中は遥か彼方。チラ見したミラーにはしんごのライト。 直線でぶち抜かれるかと思ったが、しんごは後ろにつくことにしたようだ。
「ちょ、しんご。イジメだよそれ」
半笑いの頬が引きつる。 トップエンド180を超え190に迫るあたりで、明らかに加速の鈍ってきたビューエル。 そこから飛び込む左の高速コーナーは、ケーロクだったら280からブレーキをなめて突っ込んでゆく場所だが、ビューエルでは180から、しかもちょこっとブレーキが要る。後ろのしんごにとっては全然なスピードだから大丈夫だろうとわかっていながらも、「しんご、ごめん」言いつつブレーキ。 それをきっかけに左へ飛び込み、そのまま短い直線。ブレーキ、コーナリング。 車体がわずかに振れる。 立ち上がったときには、すでにGOの姿はマメツブだった。
ほうほうの体(てい)でウグイスラインを抜け、ビーフラインへ戻る。 このあたりから、なんとなくクールダウンに入った。するとGOの速度も落ちてくる。別に決めてたわけじゃないけど、メシを喰いに行くってことで、なんとなくそうなったんだろう。この辺のリズムのシンクロ具合も、俺がGOやしんごと走るのを好む理由のひとつだ。 やがてビーフラインが尽き、国道50号線に入った。 当然道が広くなり、クルマも渋滞ってほどじゃなく、目の前に大きな空間が広がる。 (ケケケ、GOのヤツ、いくかな) 思った矢先、フェザーの排気音が高まり、フロントタイアが持ち上がる。 「ぎゃはははっ! やっぱりだ」 『広い国道に出たよ嬉しいなウイリー』を決めたGOの姿に、メットの中で大笑いしたら。 Uターンして、反対車線にあるハンマーソバ屋へ。 混んでる駐車場に単車を停めたら、三人で店の中へ。すると、思った以上に混んでて、結構な待ちの人数がいる。GOが「どうします?」。俺が「どっちでも」。しんごが「どっちでも」。てなわけで、ココで喰うのはあきらめ、友部のサービスエリアで食おうという話になった。 俺も含めて基本的に、グルメとかどうでもいい連中なのだ。 そう言ったら、GOはゼッタイ反論するけど。
50号線をクルマの後ろについてのんびりと走り、友部から高速に乗る。 行きは寒くておとなしかったが、今はだいぶん暖かいし、なによりさっきのウグイスラインでよくわかってた俺は、高速に乗った瞬間から覚悟していた。すると、ほんのちょっと三台一緒にのんびり走ったあと、前をゆくGOがシフトペダルをふたっつ蹴りこんだのが見えた。 「まあそうだろうなぁ。んじゃ、GO、しんご、バイバイ」 ヘルメットの中で言い終わる前に、フェザーとR1がすっ飛んでゆく。 もちろん俺だって途中までは頑張ってみたさ。 だが、どうあがいても200に届かないんだからしょうがない。アクセル全開なのに、強い風に押し戻されてメータの針が上がらないのだ。「いいよいいよ、あそこまでワインディングで頑張ってくれたんだ。おまえは最強の空冷OHVだぜ」と愛機を慰めながら、120巡航にはいる。 そこから友部まで、ひとり寂しくソロツーリング。
サービスエリアに入ると、すでにヘルメットを脱いでいた二人を見つけて、横へ滑り込む。
「やっぱ高速はダメだな」 「でも、峠は充分じゃないですか」
しんごに慰められながら、サービスエリアのレストランへ向かうと、なにやらやけに人が多い。さらに、いつの間にか友部のサービスエリアが様変わりしていた。やけに近代的な、こじゃれた建物になっていたのである。GOも「こんなになったんですね」と驚いていた。 あとで患者さんに聞いた話では、新しくなったことをTVで紹介したらしい。 それで、あんなに混んでたんだな。 レストランを見回しても、座る場所がない。それでもGOがどうにか場所を見つけてくれたので、食券を買って厨房にもって行こうとすると、職員に止められた。「もう、注文は完了してますので、お席について呼ばれるまでお待ちください」とのことで、なにやらハイテクになったもんだ。 バカ話しながら待っていると、まずはGOの定食がやってくる。
それからしばらくして、しんごのカツカレーと、俺の味噌ラーメン&ミニかき揚げ丼がやってきた。
ものすげぇフツーの味噌ラーメンが、逆に美味かった。 やっぱり、ラーメンも単車も人も、シンプルが一番。
飯を食いながらmixiへの返信をしたり、バカ話したりする。 いいだけワインディングを走ってきて、おなかも一杯になったし、あとは家に帰るだけ。まったりした時間の中で、俺は久しぶりに、まったくアルコールの入らない状態で、ふたりと話した。タイアの話、単車の話、今日走った道の話。いつまで話したって尽きることはない。 やがてタバコが吸いたくなった俺が立ち上がったところで、ふたりも立って店を出る。 もっとも、喫煙所が遠かったので、『歩かない』かみさんは喫煙を断念したんだけど。
サービスエリアでしばらく話し、それじゃ陽が落ちる前に帰ろうか。 スイッチを切った俺たちは、100巡航で走り出す。そのうち誰かが行くかなぁと思ってたのだが、誰もいかずにのんびりクルージン。もっとも、後で聞いたらしんごは、「すっ飛ばすやつが来ないかな」って待ってたらしいけど。とにかく、そんな感じでのんびり走り続けてると。 しんごが、するすると前に出た。 特にすっ飛ばす感じじゃなく、なんとなくと言った体(てい)で前に出たのだが、これに反応したのが赤いフェザーを駆る悪魔。三車線使って渋滞をひらひら抜けてゆくしんごを、猛然と追撃し始める。そして渋滞してるとなれば、こっちにだって目はあるわけで。 俺もシフトを蹴り込んで、スクランブル発進。
「ぎゃはははっ! やっぱり最後はこうなるのかよ!」
クルマを縫いながら180まで速度を上げる。ビューエルは中間加速が強いから、100から180までの加速なら充分にヤれる。三台でひらひらと気持ちよく踊りながら、残りの行程をあっという間に駆け抜け、柏インターに入る左コーナーをガッツリと曲がったところで。 本日のCrazy Marmaladeでっかいもん倶楽部は、無事に終わりを迎える。 ETCのふたりは先にゆき、俺は金を払ってのんびりと走り出す。別に無理してすっ飛ばし、追いつく必要なんてない。GOもしんごも俺んちに帰っているはずなのだ。「へへ、今晩はツーリングを肴に、また楽しい宴会が出来るなぁ」俺は慣れた16号の渋滞を抜けながら笑う。 ホント、シアワセモノだと思うよ。
400キロオーバーの行程、その半分以上がワインディングと言う、実にステキなツーリングだった。そしてGOやしんごと走るのは本当に楽しいと、改めて実感できた一日だった。次もまた一緒に走りたい。そう思わせてくれるふたりが、俺は実に誇らしい。 そして、思った以上に応えてくれたユリシーズ。 ホントの高速域はともかく、アンダー200のワインディングならSSとも遊べる。 それが確認できたことも、すごく嬉しかった。
まだまだ寒いし、もう北の方は走れなくなるだろうけど。 それでも、単車で走るってのは、本当に楽しい。 次はどこに行こうかな。
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