The 17th small machine club

2007.11.11 第17回ちっちゃいもん倶楽部 雨天決行

 

雨が降るのがわかってて、バイクで走る。

しかも、泥だらけでつるつるすべる山の中、ガケの上を。

まぁ、キチガイ沙汰の話なんだが、オフロード乗り、それもケモノ道に行くような人間は、もともとキチガイなので、それを当然だと思っている節がある。雨だからと参加を遠慮しようとしていたpoitaさん、今回に限っては常識人だと言えるだろう。

もっとも、最初から雨天決行と言い切ってたmoto君が、そんな常識的反応に耳を貸すはずもなく。あわれpoitaさん、最終的には雨中のケモノ道に引きずり出された。まぁ、moto君をああいう風に育てたのはpoitaさんなワケだし、自業自得つー話もある。

 

朝四時、目覚ましと同時に飛び起きた俺は、そのまま窓際へ寄って天気を確認する。

「お、やんでるじゃん」

poitaさんの執念が天に通じたのか、どんよりとした曇天ながらも、雨は上がっている。

俺はそそくさと身支度すると、ランツァをまたいで真っ暗な街に飛び出した。

国道16号も、 さすがにこの時間はそれほど混んでない。その代わり早朝の幹線道路らしく、トラックがたくさん走っている。雨でぬれた路面は、オフロードタイアだと良くすべるので、それを念頭に置きつつ、トラックを縫ってぶっ飛ばす。

カッパ代わりの米軍ゴアテクスパーカーをはためかせ『やべ、これじゃ寒いかも』なんてちと後悔しながら、背中を丸めて集合場所まで走った。やっぱり寒くて一度、途中のコンビニに寄って朝飯を食った。これが唯一の休憩だったので、集合場所には6:30に到着。

案の定、誰も居ない。『7:00には山に入れるように集合』つってたんだがなぁ、もしかして、もう行っちゃったのかなぁ、と思ってmoto君の携帯にメールを入れてると、静かなエンジン音とともに、フル装備のpoitaさんが到着。

「雨やんでよかったねー。俺、もうウキウキだよ」

すまん、常識人とか一瞬でも思った俺がバカだった。なにこの乗り気な変態。

 

とにかく、これで俺が遅れたわけじゃなく、moto組の遅刻だったってことが判明した。poitaさんが前日確認したところでは、どうやらmoto君、だいぶん飲んだくれてたようなので、きっと原因はmoto君だろう。そう決め付けて、うろうろしてた野良猫と遊んでいた。

わりと愛想ナシ。

 

でも可愛い。猫は媚びないから好き。

 

やがて複数のエンジン音が聞こえてくる。moto君、K君、iroha君がやってきた。

左からpoitaさん、K君、iroha君、moto君。早朝に変態のそろい踏み。

iroha君はmoto君の実弟で、兄経由で話を聞いたり、彼自身のブログを見たりして、多少は知っていたのだが、会うのはこれがはじめて。話してみると、物怖じしない、面白い男だ。気の利いたセリフが出るのは、アタマの回転が速いからだろうなと思った。

それから少しだけダベる。

この日、11月11日はK君の誕生日だと聞いていたので、用意しておいたプレゼントをあげる。つっても彼の愛機D-トラッカーのスペアレバーセット。つーかさ、誕生日までケモってるような変態には、スペアのレバーがベストでしょ?

するとpoitaさんも、iroha君にレバーをあげてた。

なにこのホモパーティ的な様相を呈してきたところで、マシンにまたがりいつものケモライドスタート駐車場へ。駐車場でタイアの空気圧を落としたら、moto君先頭に出発だ。山を登り、峠道途中の『明らかに人類の出入りを拒否してる』っぽい入り口から、ゾロゾロと五人のバカが入り込んでゆく。

 

走り始めたとたん、俺は違和感を感じた。路面のグリップが明らかに低いのだ。

もちろん、前日の雨で道はドロドロになってると言うこと、頭では理解していた。が、実際に走り出すと、そんな俺の想像など、何の意味もないことに気づく。今までは難しいセクションへ行くまでのツナギだと思っていた道が、俄然やる気を出して、俺らの足をすくう。

いままで簡単に超えられた場所が、軽い難関になっている。

ドライコンディションならなんでもないところで、ド初心者のiroha君(オフロードが、って話ではなく、単車そのものが初心者なのだ。来る方も、連れ出す方も、やっぱキチガイだこの兄弟)がいきなりスタックしたり、ガケの方に落ちそうになったりする。

苦戦するiroha君と、それを指導するmoto君。

んで、iroha君が通った道を、当然、俺も通るのだが、確かに難易度が高くなってる。ココでこれじゃぁ、こりゃぁ、セクションになったらかなり厳しいぞと、俺は気持ちも新たに、気合を入れて山の中を進んだ。

 

倒木を切り飛ばしては進む。ちなみに切っていいのは倒木だけ。生木はバツだ。

 

最初のセクションに到着した段階で、iroha君はすでに、手足がぶるぶるしていた。

初めてこの道に挑んだときの俺と同じ症状だ。キツイんだよなぁと同情するも、今回はとにかく自力突破が基本と言う話なので、手伝うことが出来るのは、本人からヘルプもしくはGiveUpの宣言がなされてからだ。がんばれよーと心の中で応援しながら、アタックの順番を待つ。

最初はmoto君。当然のごとく、一発クリア。すげぇバランスとテクニックだ。

そして次がiroha君。moto君にイロイロ教わっているが、そのたびに『はいっ!』っと気持ちのいい返事を返す。もちろん彼らだって、普段はタメ口で話しているのだが、バイクに乗るときはmoto君は兄でなく師匠。このときだけは、きちんとけじめをつけて敬語で話す。

これは俺もまったく同感で、初めてmoto君にケモ道へ連れてきてもらったとき、俺も同じように敬語を使い、『はい!』と腹から声を出して返事をしていた。ケモノ道ってのは、絶対ひとりじゃ越えられない。どんなにうまい人でも、越えられない場所はある。

ただ、そのレヴェルが高いか低いかと言うことだけだ。そして、こんな道をはじめに見つけ出す人、もしくは人たちと言うのは、そんな厳しい環境の中を、ものすごい苦労をして、時には命の危険に晒されながら、楽しく、難しい道を探し出すのである。

好きだからと言ってしまえばもちろんそうだが、同じく好きな俺たちがこうして走れるのは、そんな先人、先達のおかげである。だとしたら、そこに敬意を払うのは当然だ。そういう気持ちがあれば自然と、同じく先達であるmoto君に対しても、敬う言葉を使うようになるのである。

話がえらく逸れた。

 

さて、初心者のiroha君が、かつて俺が最初に心を折ったこのポイントをどう攻略するのか、とワクワクしながら見ていると、気合一閃、セクションに飛び込んだiroha君。俺やK君が散々苦労したポイントをあっさり通過して、その上の場所でスタックした。

これが他の事だったら、もしかしたら『くそー!』って気持ちになるのかもしれないが、ことケモライドに関しては、そんなことよりも『やったー!』って気持ちの方が先に湧き出す。不思議と、変な対抗意識やヤキモチ的な感情はわかない。

アタック前はK君と『あっさり超えられたら、せつねーよなぁ』なんて話してたはずが、iroha君がセクションを越える寸前のところでスタックしたときは『うわぁ、おっしぃ!』と声を漏らしてしまう。獣道を走っていると、本当に、心が素直になってゆくのだ。

 

最後は協力してスタックを乗り越え、さて、お次はpoitaさん。

ここで相変わらずの天邪鬼っぷりを発揮した彼は、みんなと違うルートで登ると言い出す。確かにもう一本のルートが、あるにはある。が、ここはmoto君とK君がふたりできたとき、何度か挑戦してあきらめたルートだ。かなり難易度が高い。

一見、簡単そうにも見えるが、登りながら左に曲がり、しかも下には岩がゴロゴロ埋まっている。オマケに最後は、感覚的にはオーバーハングと言いたくなるような、リップの出た場所だ。実際はそこまでじゃないけど、感覚的に、ね。

途中で曲がるので、イキオイで超えようとしてアクセルを開けると、ケツが滑って谷側へ落ちる。かと言ってゆっくり登ると、岩が邪魔でタイアがアサッテの方向に飛ばされる。それでも頑張って超えると、その先のリップでフロントを跳ね上げられ、単車がサオ立ちになってしまう。

40度くらいの坂の上で、さらに急角度の坂に乗り上げ、サオ立ちになった単車。その下には、はるかなるガケ。iroha君が行ったセクションよりも、難易度も危険度も高く、なにより恐怖感が大きい、かなりの難所である。

しかし、勇気の人poitaさんには、そんなことは関係ないようだ。

勇ましく走り出し。

 

コケた。しかもコケる前に頂上で思いっきりサオ立ちするというオマケつき。

 

それでも挑むpoitaさんを尻目に、K君が通常ルートをアタック。

多少難航しながらも、なんとか見事クリア。その頃になってようやくあきらめたpoitaさんも、通常ルートに挑む。俺は一番最後でずーっと手が空いていたので、写真を撮ったり、単車をおいて降りてきたmoto君と、poitaさんが挑んだルートをチェックしたりする。

と、チェックしてるうちに、俺も行きたくなってきたんで、poitaさんが通常ルートでスタックして悪戦苦闘してる隙に、別ルートのアタックを開始する。もっとも、何度かトライしたが、すっ転がっるばかりで、結局、登頂ならず。残念。

その間にも、poitaさんはスタックから脱出しようと悪戦苦闘。じりじりと進んではいるものの、かなり苦戦しているようだ。汗だらだら流しながら、それでも結局ヘルプなしで登った。俺は最初のとき登れなかったから、あの時は猛暑だったと言うのを差し引いても、poitaさんのガッツ勝ち。

poitaさんが登り切ったったので、俺もあきらめて通常ルートでアタック。

もっとも、こっちのルートは何度もアタックした経験があるので、何とか一発クリアできた。

 

じゃ、次のセクションに行こうかと走りだすと、poitaさん、すでにヘロヘロ。最初のアタックで力を使い果たした様子だ。もちろん、俺も最初のときはこうだった。初めてのケモノ道で、アゴを出さないヤツはいない。問題なのは、そのあとなのである。

みんなで身体から湯気を上げつつ、セクションをクリアしてゆく。すると突然、俺の後ろに誰も居なくなった。あれ? poitaさんが来ない。いくら待っても来ないし、最初の休憩ポイントまで来てしまっても、姿を現さないので、俺が戻って見に行くことにする。

今来た道を、徒歩でガシガシ進みながら、大声で声をかける。

「大丈夫ですかー!」

すると

「だいじょうぶ〜」

と、どうにも大丈夫じゃないっぽい声が、様子がおかしいほど下の方から聞こえてくる。おいおい、下=ガケだぞ? びっくりして『こりゃヤバい』と走っていくと、ガケの下の方にちょこんと熊のヌイグルミが座っている。その横に、バイクが気持ちよさそうに昼寝していた。まだ午前中だけど。

「うわ、落ちてる! ケガないですか?」

言いながら、大声でみなを呼ぶ。するとpoitaさん、ヘロヘロ顔のまま

「いや、大丈夫。自分でリカバリーするから」

と、あんたなに言ってんだ的なことを言い出した。ガケだよ? ガケの下に落っこちて、話によれば、いくら自分より軽いとは言え単車の下敷きになったんだよ? しかも回りはぬかるみ、それもハンパない、ブーツが半分がた埋まるようなぬかるみなんだよ? どうやって単車持ち上げるんだ?

そんな俺の思いは、この頑固オヤジには届かない。

俺のヘルプ声を聞いて飛んできたほかの連中も、びっくりするやらあきれるやらで、とりあえず休憩場所まで戻る。んで、間違いなく上げるのは無理だろうし、poitaさんがあきらめるまで待つかつーことで、そこで早めの昼飯にすることになった。

白く曇っているのは、俺の身体から出た湯気のせいだ。

 

ツーレポだと、いつも俺の写真がないので、さみしいから自分撮りしてた。すると

iroha君が、俺を入れて写真を撮ってくれた。こうやって、みんなといる写真があると嬉しいね。

 

右の男は、相変わらずバカだけど。

 

昼飯喰ってると、iroha君が笑いながら告白する。

「俺、かみさんって怖い人だと思ってたんですよ。こう、痩せこけてヤク中みたいな感じの。迷惑かけたら、ガケから突き落とされないかなーって心配してました 」

どんなイメージだ、俺は。つーか、ハッキリ言って基本的にすべて間違ってるけど、特に間違ってるのは、とりあえず何がどう転んでも、痩せこけてはいないから、俺。むしろメタボリック予備軍だから。力説してる自分が悲しいからもうやめるけど。

ひでぇなぁと笑っていると、moto君がうなずきながら

「ああ、アウトローのイメージな?」

や、そっちのアウトローじゃねーだろ、普通。

 

てな感じで20分くらいだろうか?

歓談していると、遠くから悲鳴のような叫び声が聞こえる。よく聞けばヘルプサインだ。

よっしゃとみんなで駆け出して現場まで行くと、さっきハスを向いていたpoita号が、出口に向かっている。ヌタ場も半分がた抜け出している。ものすげぇガッツつーかむしろ、鬼のような意地っ張りだなぁと感心さえしならがらpoita号にロープをかけて、五人でガケの上まで引っ張りあげる。

そして走り出したのだが、しばらく休憩して気合に穴が開いたのと、引っ張りあげ作業で指の傷口が開いてしまったのとで、こんどは俺がすっ転び、単車を逆さにしてしまう。うん、わかってるよ。ただのイイワケだよ。気ぃぬいてすっ転んだだけだよ。

とりあえず、それほど厳しい状況じゃなかったので、ヘルプなしで何とかリカバリすると、みなの後を追った。またも、ガケの上や藪の中、竹だらけのケモノ道を抜けてゆくと、いよいよ難関、スーパーV手前の丘越えだ。前のケモ動画で、moto君やK君がアタックしてた、あそこだ。

ココはみんなの単車を置くスペースがないので、俺とK君とpoitaさんは、下に単車を置いたまま、まずはmoto君とiroha君がアタックする。そして変態motoはあっという間に一発クリア。こないだは苦労してたくせに、なんでより足場の悪いこんな雨の中で、一発クリアとか出来るんだろう。

俺の仮説『motoにはジャイロが仕込んである』つーのも、あながち空想とは思えなくなってきた。

 

次はiroha君。しばらくアタックするも、なかなか登れない。そりゃそうだ。初心者でいきなりこんなところを登れといわれて、出来る人間、そうは居ないよ。やがてiroha君の息が、ゼエゼエと上がって動けなくなったので、交代してK君が現場へ登る。

相変わらずのK君節で、単車をサオ立ちさせながら、アタックポイントの手前まで来たK君。バックして助走距離を取ると、一拍置いて気合を入れ、一気に登頂寸前まで駆け上がる。もう一息のところだった。そこからこじってひねって、最後はみんなで押してクリア。

このへんで砂喰って、カメラが一度、動かなくなったので、携帯写真も併用ね。

 

ここで問題発生。

K君が削ってしまったため、登頂ルートの難易度が、さらに上がってしまったのだ。こりゃ困ったと思っていると、moto君がイロイロ探しながら、『こっちのルートが使えるかも』と言い出す。その言葉に確認してみれば、確かに、まっすぐだし、ぱっと見イケそうに見える。

しかし、根っこが飛び出て、途中には誰かがスタックしたせいだろう、岩がずるんと顔を出していて、難易度はかなり高そうだ。しかも今日は、雨が降ってずるずるなのだから、気合を入れても、気合が空回りする恐れがある。

すると休憩して回復したiroha君が、決意を新たにした表情で『行きます』と言った。

そこでみんながルートの横に散らばり、iroha君をサポートする形になる。やがて深呼吸一発、iroha君がアクセルを開けた。気持ちのいい開けっぷりに、DR250は一気に加速して、坂の中腹を越え、あと一歩のところまで駆け上がった。とたんに、歓声が上がる。

あと少しのところをみんなで押して、iroha君もクリア。次は俺だ。つっても特筆するところはないかな。俺もiroha君の切り開いた、通称『iroha坂』を駆け上がり、最後でスタック。助けてもらって無事、クリア。ネタの神様は降ってこなかった(期待の方向がアサッテです)

 

さぁ、最後は鉄壁の頑固オヤジ、poitaさんだ。

ぶんぶんとシェルパのアクセルを開け、果敢にアタックする。俺やiroha君が止まった所に来たので、手を貸そうと近づくと、なんとpoitaさん。そのまま降りてしまった。なるほど、あくまで自力突破を狙うのか。poitaさんらしいと言えばらしい。

俺はこの先がまだまだ長いことを知っているから、力を温存してしまったが、poitaさんとiroha君は初めてのアタックなワケで、先の見えない状態で、それでもめげずにアタックするそのガッツは、驚嘆を禁じえない。

基本的にヘルプ要請がない限りは手伝わないというルールなので、俺らはタバコを吸い、バカ話をしながら、poitaさんのクリアを待った。しかし、ココまでの道程で、すでに精根尽き果てているpoitaさん。三回目くらいから、アタックする前にすっ転んでしまうような状態になってきた。

俺にも覚えがあるが、疲労し、心が折れかけると、出来ることまで出来なくなってしまう。しかし、イラつこうがムカつこうが、地べたは何も変わっちゃくれない。こちらがクリアするしかないのだ。やがて何度目かのアタックのとき、ついにpoitaさんもgiveupする。

「これで上がれなかったら、そのまま助けてください」

そして気合一発、アタックすると、俺やiroha君と同じ場所まで、一気に上がってきた。

ヘロヘロでまともにアタックも出来ないような状態だったのに、最後は一気に決めてきた。恐ろしい根性である。そこからみんなでヘルプして、ついにpoitaさんもクリア。しかし、このあとにはスーパーV、そして恐怖のつるつる坂が待っている。ほっとする時間はないのだ。

 

moto君はテクで、iroha君は気合で、俺はランツァに助けられて。

長い長い登りのV型溝を、一息にクリアする。そのまま上で待っていると、K君のスタックする盛大なエンジン音が聞こえてきた。彼ひとりだけD-トラッカーというモタードバイクに、オフタイアを履かせただけで参加しているので、こういう場所はかなり厳しい。

下のトルクが薄い分を回転で稼ごうと思っても、路面がグリップしないからスタックしてしまうのだ。それでも半クラが使えるうちはまだいいが、疲労で半クラが使いづらくなってくると、K君のスタック率は極端に上がる。ま、moto君つー変態と関わってしまった、彼の運命を嘆くしかない。

上に単車を置いたmoto君、iroha君、俺の3人は、K君救出に向かった。

ロープをかけ、ヘロヘロのK君の代わりにmoto君がDトラに乗って、ケツを真横に振りながらも、どうにかクリアする。そして、この頃になってようやく『シェルパの使い方がわかった』と叫んだpoitaさんは、言葉どおりシェルパの低速を上手く利用して、この坂をクリアする。

みんなで(正確にはmoto君以外のみんなで)ほっとため息をつく。そこで軽く休憩しながら、ちょっとダベる。『もう、すっからかんだ』と言ってるpoitaさんの顔も、なんだかさっきより元気があるようだ。もちろん、みんな疲れているし、みんなすっからかんだ。

だけど、どいつもこいつも、すげぇいい笑顔をしてる。ヘロヘロになって、苦痛に眉をひそめながら、それでもバカ話をして笑うとき、疲労が刻まれた顔で、いい笑顔を見せるのだ。俺は、この瞬間、この笑顔の中に身を置ける自分の幸せを、心から感謝した。

 

さぁ、最大の難関がやってきた。

つるつる坂だ。

とは言っても、単車を停めたところから、右に大きく曲がりこんだところにあるので、この位置からは見えない。助走区間を取るために、かなり手前で停めたのである。

まずはmoto君がアタック。ぶいーん! とエンジン音が鳴り響き。しばらくして、がしゃっと言う音とともに、あたりが静かになる。やがてmoto君からヘルプ要請が来たので、みんなで坂を駆け上っていく……つもりなのだが、正直、立つこともおぼつかないほどすべる。

ちょっと油断すると、まるでマンガのようにすってんころりんひっくり返るのだ。そろそろと転ばないように上がり、途中から端っこの滑らない場所を駆け上って、moto君を助けに行く。ロープをかけて引っ張り、後ろでケツを押しながら、なんとかmoto君がクリア。

あのmoto君でさえこうなのかと、俺はK君と顔を見合わせて、ため息をつく。

ヘルプ組はそのまま坂に残り、次のアタッカーiroha君を待つ。と、ぶおんぶおんエンジン音が聞こえるや否や、ケツを盛大に振り回しながら、iroha君がぶっ飛んでくる。グリップしない道を、上手に駆け上り、あわやクリア一歩手前というところまで駆け上ってきた。

周りで見ていた俺らは、『おぉ!』と感嘆の声を上げる。

と。

すぱん!

切れるようなものすげぇ速度で、iroha君がハデにすっ転んだ。ウデを強打して、うめいている。コケ方から言って、かなりしたたかに打ち付けただろう。それでも、ヘルプ組が単車を起こして運ぼうとすると、自分も手伝おうと立ち上がる。すばらしい根性だ。

 

キックスタートのDR250は、転ぶとエンジンをかけるときが大変で、セルならちょっと長回しすれば済むところを、疲れた身体で何度も蹴りおろさなくてはならない。腕を痛めたiroha君の代わりに、moto君が代わってキックするが、なかなかかからない。

やがて回復したiroha君が交代して『あと10回っ!』と叫びながら蹴りだした。あと10回以内にエンジンをかけるぞ、と、自分に気合を入れたのだ。途中で一度転びかけるも、『あと五回っ!』と叫んで蹴る。足元がつるつるなので、みなでロープで引っ張り、両手で支えながら、それをサポートする。

やがて。

どるん! とDRのエンジンがかかった。

そこで運転をmoto君と交代し、DRが走り出す。同時に俺とpoitaさんが、それっと綱引きよろしくロープを引く。後ろをK君が懸命に押す。するとキック連発でヘロヘロになってたiroha君が、だだだっと駆けてきて、一緒にロープを引っ張り始めた。

さっきの転倒を見ていた俺は、思わず『無理しないでいいよ』と声をかける。するとiroha君は、にっこりと男らしい微笑を見せ、『ありがとうございます!』と答えた。しかし、その手は緩まない。単車が上まで上がる間、痛いだろうに一言も漏らさず、一生懸命駆け回ってヘルプする。

 

俺はこの姿を見て、カンペキにやられてしまった。

 

それまで『moto君の弟』という見方をしていたことを、心から反省する。moto君の弟だから初心者なのにヤルんじゃなくて。moto君の弟だからガッツがあるんじゃなくて。irohaって男はiroha単体で、ものすげぇガッツのある、気持ちの澄んだ男なのだ。

遺伝子がどうとか、兄貴を見てるからどうとか言う話じゃなく、単に素直でガッツがあるヤツだから、勢いよく駆け上がれるのだ。俺はこのとき、irohaという男を、moto君の弟ではなく、一人の男として認めた。同時に、認められたいと思い、ダチになりてぇと思った。

次に俺がアタックし、ロープで引き上げてもらうときも、irohaは同じように駆け回り、誰よりも動いていた。単車を上において戻りながら、俺はmoto君に、『あのオトコぁ、非常に気持ちのいい男だねぇ』と伝えた。moto君がにやりと笑ったような気がした。

それからK君、poitaさんとアタックをかけては失敗し、ロープで引っ張りあげてもらう。さすがに頑固オヤジ、一回目のヘルプを拒否して頑張っていたが、それでも意固地になることなく、納得できるまでアタックした後は、引っ張ってもらってた。俺はpoitaさんの頑固っぷりに、思わず笑ってしまう。

「もーさ、認めましょうよ。poitaさん、やっぱ好きなんじゃん、こういうの」

俺が言うと、みんなが笑う。poitaさんは知らんぷりしてたけど、もちろん、怒ってはいない。むしろ、照れくせぇんじゃねーだろうか。ま、素直じゃないのが売りってトコもあるしね、あのヒトぁ。本人には確認してないけど、ヘルメットの中は、苦笑していたはずだ。

 

このころになると、俺たち五人の結束は恐ろしく頑強になっている。それも当たり前で、みんなで助け合えば、あのmoto君でさえ越えられなかった場所をクリアできるのだ、という事実の前には、くだらない見栄や対抗意識の入る余地は、これっぽっちもない。

そりゃぁ、独りで、しかも一発で出来ればイチバン気持ちいいだろう。

だけど、そう言う勝負とか挑戦とはまた別の、みんなで難関を越える楽しさが、ケモ道にはある。ヒネてもハス向いても、地べたは助けてくれないし、バイクは操る人間の技量の分だけしか、応えてはくれない。雨もやまないし、難しい場所を突然、越えられたりもしない。

だからこそ、厳しい自然の中で、汗だくのボロボロになりながら、それでもみんなで難関を越えたときに感じる達成感や心地よさは、人間を心から素直にさせる。助け合うことを、素直な気持ちになることを、自然と当たり前に思うようになる。てめぇの小ささを、コテンパンに実感できる。

場合によっては命がけになるスポーツだからこそ、それをサポートしあう同士は信頼できなくちゃならない。そして信頼するためには、あるいは信頼されるためには、心を開いて真摯な気持ちで、今、自分がやれることを精一杯やるしかないのだ。

 

たぶん、普通にモニタの前でこれを読んでたら、『One for all. All for one』なんて、ふた昔前のクセぇ青春ドラマだと笑うだろう。いいからラグビーやってろよと、肩をすくめる人もいるだろう。ひとりがみんなのために、みんなが一人のためになんて、きょうび流行らねーんだよ、と。

だけど、あの自然の中で、優しくて美しい見慣れた自然じゃなく、圧倒され押しつぶされそうに思えるほど巨大で恐ろしい自然の中で、その爪の先みたいな場所に苦戦しながら、それでもみんなで協力してその爪の先を超えて行くとき。

『全員で、ココを超える』って言う決意が、本当に素直に、腹の底からわいてくるのだ。

嘲笑(わら)われようが、バカにされようが、これを経験してるって事実のでかさの前には、そんなものはハナクソほどの意味もない。どんな想像力だろうと及ばない、見た目だけじゃ絶対わからない黄金の世界が、そこにはあるのだ。

 

思えば単車乗りってのは、本来、そうしたやつが多かったはずだ。

乗るものだけの世界や知るモノ同士の共犯意識を楽しむような部分、単車乗りなら誰でもドコかしらに持ってるはずだ。そしてそんな単車乗りにさえ白眼視されることのあるこのマニアックな世界は、俺に言わせれば、単車乗りのなかの単車乗りの世界だと思う。

単車をねじ伏せ、思うように操るために、げっそりするほどの苦労をし、時には自分の限界を超えることができる。他では『限界を超える=死』だが、ここには横でサポートしてくれる同志がいる。だから、限界を超えていける。限界を超えた自分を誇りに思い、同じように横にいる顔を誇りに思う

だから、この世界は美しいのだ。

また、盛大に話が脱線した。

 

つるつる坂を越え、いったん休憩ポイントに出る。

前に書いた、見た目じゃわからない後半ルートの入り口だ。

ここで後半の計画を立てようということになった。だが、後半ルートに入ると、時間的に、終わる頃には完全に日が暮れる。場所によっては、出た瞬間に方角がわからなくなる可能性がある。それは非常に危険だ。moto君も俺も、後に引かないタイプだから、より危険だ。

いったんは未経験組とココで別れて、moto君やK君とともにこの先まで行こうとなったのだが、冷静に話し合った結果、夜間走行の危険を冒すのは勇気じゃなく無謀だということで、今回はここまでにしようということに決まった。K君がほっとした顔をするのが、おかしくて笑ってしまった。

 

とにかく、そうと決まれば、あと一時間くらいは駄弁る時間が出来たことになる。

疲れきった身体を、思い思いの場所に休ませて、俺たちは、今しがた超えてきた難関の話やバカ話に花を咲かせる。irohaはここでも絶好調で、バカ話の流れからホモネタになると、着替えているK君の裸の上半身に抱きついたりしてた。

もちろん、俺は

「iroha、それ、俺にやったらシメ落とすからな」

と釘を刺し、みんなで大笑い。

俺とpoitaさん、K君の三人がへたばってる中、自称ドMのirohaと、自称ドSのmoto君の変態兄弟は、ムダにパワーをもてあまして、バカやってはみんなを笑わせていた。moto君など、たぎる血潮のやり場に困り、poitaさんのシェルパで曲芸走りを始める始末。

こいつら、いろんな意味で底なしだ。

 

胸が痛いというpoitaさんが『かみさん、ちっと診てよ』というので診てみると、どうやら骨折一歩手前の、胸部打撲と、多分、肋間筋の挫傷。調子よかったら骨膜までイってるっぽい。そう言うと彼は『ま、折れてなきゃいいや』と笑う。笑った痛みで、顔をしかめる。

わかっちゃいたけど、この人も変態なんだよね、やっぱ。

あんだけ嫌がってたくせに、当然のような顔で『次回、リベンジだな』とか言ってるし。せっかく買った愛機シェルパも、あっという間に顔ゆがませて、傷面(スカーフェイス)になってるし。や、ランツァは全身打撲だから、俺も人のことは言えないけど。

スカーフェイス、シェルパ。

 

『ごめんよシェルパ』と、ねぎらう首ナシpoitaさん。

 

かみ、ガケ下から熊の捕獲に成功。むしろ犯人逮捕。

 

そのうち、風が冷たくなってきた。太陽もずいぶんと傾いている。

てなわけで、第17回ちっちゃいもん倶楽部は、ここで終了。moto君のテクニック、iroha君のパワー、K君の寡黙な強靭さとpoitaさんのガッツ。久しぶりに走ったヤツも、初めて走るヤツも、みんな等しくバカで変態で、でも、最高に気持ちのいいヤツラだ。

それがうれしくて俺は、帰りの16号で最後の最後、キチガイじみた土砂降りに降られながらも。あまりの寒さに歯の根が合わず、ガチガチと音を立てながらも。全身ぐっしょりと濡れそぼって、凍死しそうなイキオイで震えながらも。今日の楽しい時間を思い出して、ニヤニヤと笑いっぱなしだった。

 

単車って、ほんとに楽しいよな。

 

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