The 31st small machine club

2008.08.23-24 第31回ちっちゃいもん倶楽部 in ケモノ道

〜ケモ探索 本番〜

 

明けて次の日も、朝から思いっきり雨降り。

だが、ケモに限っては雨だろうがなんだろうが関係ない。いや、現場のコンディションは悪くなるし、なんでもないところがひどく難しくなったりするから、厳密には関係なくないんだが、単純に『やるかやらないか』という雨予報の時のバイクにつきものの悩みが、ケモノ道にはないのだ。

常に雨天決行なんだから。

 

のこのこ起き出すと、初見の板乗りに挨拶。

左から板乗り、トランポ、CRM80。

板乗りは日本人離れした顔立ちのオトコマエだ。本人いわく最初は人見知りらしいが、俺は基本的に自分がしゃべってれば関係ないから、人見知りに気づかないことが多い。くだらない話で板乗りを笑わせて、距離を少し縮める。ま、笑かしちゃえばこっちのもんだ。

それから大テントの撤収をmioちゃんとヒノっちがして、宴会の片づけをmioちゃんとヒノっちがして、

 

俺とよしなし、板乗りとNがそれをちょっと手伝って、ヒノっちはここでお別れ。次回俺の家で宴会に参加するのを約束して、ヒノっちは車で帰っていった。イロイロ大変みたいだけど、そのうちまた呑んで、そして今度は走ろうぜ!

 

撤収したキャンプ&バーベキュー道具を車に積んだmioちゃんは、一度家に帰ってセローに乗り換えてくる。その間にこっちは着替えや準備を進めるのだ。

板乗りのCRM80。Nと俺は、またがらせてもらった。

 

まだすげぇ綺麗な、板乗りの装備一式。でも今日は雨のケモだからね。ご愁傷様ってトコロだ。

 

板乗りは、どうやらマシンとウエアをコーディネートしてきた……のかな?

準備はとっとと終わらせて、野ぐそしたりとか、板乗りのCRMにまたがってみたりとかイロイロ遊んでるうちに、いや、野グソは遊びじゃねぇけど、とにかく俺はふと気づいた。

「あれ? そういえばmioちゃんどうした?」

 

すると、すっかり河原で遊びモードになってて存在すら忘れかけてたmioちゃんが、絶妙のタイミングでやってきたのでサクサク合流し、まずは近所のコンビニへ昼飯とかケモ用ドリンクを買いに行く。

 

コンビニで買い物してるとよしなしの姿が見えない。「よし、どうした?」言うとmioちゃん

「買うものないから待ってるそうです」

「なに? アイツ昼飯買わないのか? そりゃ、いい。mioちゃん、今日のライドは何があろうと、必ず山の中で飯を喰うことにしよう。いや、とにかく近所に昼飯を買う場所がないトコで、よしなしが昼飯を喰いはぐるのを見物しよう」

俺のステキプランに笑ってうなずくmioちゃんも鬼。

 

さて、みんなでコンビニを出発だ。

 

山の近くまで来てほどなく、最初の二股でmioちゃんが俺を振り返る。

「どっちもコースがあるんですけど、どっちからいきます?」

「どうせどっちも行くから、なんでもいーよ」

つわけでまずは右のコースから。

河原に沿って登ってしばらく登ると、コンクリの壁つーか小さなダムみたいなものが見えてくる。「お、こりゃぁ雰囲気あるなぁ」と喜んでいると単車を停めたmioちゃん、「あれ、早速道が終わっちゃった」とつぶやいた。なに言ってんだmioちゃん! あそこに道があるじゃないか!

壁の横のところに登れる場所があったのでそれを指摘すると、やる気にあふれかえった38歳は、先頭きって登って行く。いや、ただ調子に乗って先頭に出たワケじゃない。繋がるとわかってる道を抜けるのと、繋がってる確証のない未知の場所を進むのには、大きな違いがある。

無保険で走るような、いつもと違った緊張感があるので、精神的に疲れるのだ。テクニック的には初心者の板乗り以外の三人は横並びだ。ただ俺はmoto君に連れられてケモ探索をしたことがあり、他のふたりは経験がない。ならば俺が先頭を切るべきだと判断したのだ。

俺が抜け、mioちゃんとよしなしも抜け、さぁ、ケモ初挑戦の板乗りの番だ。

2st80ccと言う、トルクなんぞクスリにしたくても持ち合わせのないマシンだけに、雨でつるつるになったドロの坂を登るのは、なかなか難しい。俺のランツァくらい低速トルクがあれば、クラッチを繋いだままアクセルだけで登れるところでも、アンダーパワーのCRMだと、アクセル全開にしたり、半クラ使わないとパワーが足りなかったりする。

かと言って全開や半クラを使えば、即、スタックするのは周知の通りだ。

ただし、CRMにはケモ道最強の武器がある。『軽さ』と言うその武器は、エンジンの扱いづらさを補って有り余る強力な支援である。これでグリップのいいタイアを履いた日には、CRM最強説さえ唱えてもいいくらいの潜在能力があると思う。

 

俺とランツァはほとんど苦労する場所もなく、そのままガンガン登って行く。

登って距離を稼いだら単車を置いて戻り、リカバリの手助けに行くのだが、面白いことに誰が言い出したわけでもなく、なんとなく『基本自力突破』のルールが出来ていた。ヘルプ 要請を頻繁にしたって誰も文句言わない板乗りでさえ、ほとんど自力で頑張っている。

そう、みんなわかっているのだ。

助けてもらって越えるより、自力で突破したときの方が何倍も気持ちいいってことを。

ヘルプするのはやぶさかではないし、俺も何度か助けてもらったが、やっぱり『達成感』と言う観点から言えば、自力突破がイチバン気持ちいい。「やったぜ!」って吠えるのは最高だ。

 

クソ雨の中、ヤロウ四人で大騒ぎしつつ山を攻略してゆく。

ちょっと傾斜のきつい坂があり、途中で止まりたくなかったので一気に駆け抜けた俺は、そこで単車を置いて下へ戻ってゆく。下の方でmioちゃんがスタックしてたので、ヘルプと言われてすぐに助けられるように、近くまで来て待とうと思ったのだ。するとmioちゃん、俺の顔を見るなり、

「かみさん! よしなしさんが落ちた!」

ああ、大丈夫。

何も大変なことが起こって、驚いたmioちゃんがあわててるわけじゃない。よしなしとガケ落ちと言えば、もはや枕詞(まくらことば)、いや、接頭語の域にまで達している現象だ。バリューセットみたいなもんである。当然、このときのmioちゃんもニヤニヤ笑って言っている。

降りてゆくと案の定、ニッコニコのよしなしが「おちたー!」と俺に向かってVサイン。

俺もカメラを取り出して、その姿を写真に撮った。するとよしなし、mioちゃんを見て

「mioちゃん、写真撮らなくていいの?」

なにその無駄な気遣い。

mioちゃんのほうはスタックしたあとのリカバリで息が切れてて、それどころじゃないようだ。

落ちたところを見てみれば、わざわざ引っ張り上げなくてもリカバリできそうな雰囲気だった。よしもうなずいて「あそこから上がれるでしょ」とつぶやき、次の瞬間には平気な顔でさくさくリカバリしてゆく。ガケ落ちエキスパートらしい的確な判断と迅速な行動だ。

 

だんだん勾配がきつくなり、道も怪しくなってゆく。

するとここで、珍しくmioちゃんが折れた。

「もう、ヌタ場はいやー!」

うん、残念ながらmioちゃん、雨の日はドコ行ったってヌタ場だよ。

おそらく『次のルートがある』事実が、mioちゃんの心を折ったのだろう。ここしかなければここを走るんだが、「もしかしたら次はもっと楽しいかもしれない」と思ったら、こんなところは走りたくないってのが確かに人情だ。むしろ、それが楽しいとか言ってる俺とかよしの方に問題がある。

それじゃ次へ行こうとUターンして下るわけだが。

これがまた、至難の業だったりする。なんつっても単車一台分の道幅で、左はガケ。どう転んでもスパンと気持ちよくUターンなんてできるスペースはない。moto君あたりならフロントをぽんとあげてその場で転回してしまうんだろうが、俺にできる方法と言えば。

 

倒して。引きずって。

 

回して。起こす。

安全度は高いが、外装へのダメージや体力の浪費、なによりビジュアル的にかなりいただけない方法でUターンすると、来た道を下って戻る。雨で上りづらいとは言え、それほど厳しい傾斜なところを上がったわけじゃないので、くだりは楽勝でスイスイ戻れた。

mioちゃんも楽勝で下る。

 

ちょっと疲れたかな?

 

んで、戻ってる途中、枝道ののぼりを見つける。

見つけちゃったらしょうがないので、ただちに登ってみた。上へ行くほどカントがきつくなるが、難しいのぼりじゃない。何より足元がいいので、簡単に登ってゆける。こりゃぁいいやと調子に乗って速度を上げてゆくと、突然、足元がヌタ場になった。しかし車速は充分乗ってる。

「大丈夫、いけるっ!」

っとアニメみたいに叫んでアクセルを開けた。

が、ヌタ場に入った瞬間、リアタイアが滑り出し、あっけなくスタック。「あーあ」とブレーキを握って足を着くと、車体が滑り始めた。「うわぁ、ヤベぇ」と叫んだ時にはそのまま右回りに後ろへ流れ、立ち木にフロントタイアとチャンバーの隙間を綺麗にはめ込んで、停止。

乗ったままじゃハズレないので、降りてフロントタイアを回し、なんとか外してそのまま下ってゆく。「どんなもんなんだろ?」と興味しんしんで待ってる連中の顔を見た瞬間、俺の心のいたずら魂が頭をもたげた。何事もなかったかのように、ちょっとはしゃいだ感じで

「大丈夫、楽勝だ! ゼッタイ行って来た方がいいよmioちゃん。つーか、よしなしは強制だ」

満面の笑みを浮かべて、坂を指差してみる。

キッチリ引っかかったmioちゃん、登って、おそらく上で苦労して、下ってくるなりよしに向かって

「よしなしさん、行かなきゃダメだよ! 損するよ」

mioちゃんは俺の言葉の趣旨を理解してくれたようだ。

 

明らかに泥を付着させながら帰ってきたよしなしも、板乗りを嵌めようと笑みを浮かべて薦める。

言っても初心者の板乗りは、この段階でかなりヘロヘロだったのだが、みなにそう言われれば行かないわけにもゆかず、CRMをキックして走り出した……のだが。

どうもすぐにエンストしてしまう。

いや、この先の急勾配あたりでハマるならわからなくもないが、いくらなんでも、こんなフラットなところでエンストしまくるのはおかしいだろう。もしかしたら、疲れすぎて上手くクラッチが握れないのかもしれない。試しにと俺が交代して走り出してみる。うん、すげぇ難しい。

なんだってこんなに半クラが難しいんだ? これで一速だってんだから、やっぱ80ccってのは非力なんだなぁと思いながら、なんとなくシフトペダルを蹴ってみると『がちゃん』おい、板乗り! 二速に入ってるじゃねーかと突っ込もうとしながら無意識にもう一度蹴ると『がちゃん』。

……なぁ、板乗りよ。いくらなんでも三速はねぇだろ。

ま、冷静に考えれば、板乗りはバイクだけじゃなく今はいてるブーツも下ろしたてだから、シフトの感覚がつかみづらいのは当たり前なのだ。俺だってブーツ初めて履いたときはシフトできず、結局ランツァのペダルをDトラッカー用に換えてるくらいなんだから。

板乗りのCRMもケモ仕様になってきた。

 

衝撃の三速に大笑いしてから、改めてCRMを借りて坂を登ってみる。

あ、こりゃいいや。タイアがロード寄りだから全然喰わないけど、それ以外は軽くて扱いやすくて、えらく面白いバイクだ。板乗りをフルサイズオフロードに嵌めてやろうと思ってたのに、こっちがミニオフ買っちゃいそうな勢いだよ。4st125あたりも、面白いんだろうな。

戻ってきて板乗りと交代すると、ヤツもヘロヘロの身体で登って行く。

しかし、さすがに疲れて上手くコントロールできないようで、途中で引き返してしまった。

 

全員そろったところで次の道へ。最初の二股を逆へ行くと、似たような山道が現れる。しばらくゆけば目の前に現れたのはかなりのカントでカチ上がる登り。しかもご丁寧に木の根が並んでる。

木の根っこで作られた天然の階段といった風情だ。

かなり厳しそうだが、せっかくなのでチャレンジしてみる。勢いをつけて登りにアプローチすると、最初の段を越え、二つ目の段にかかったところで木の根にフロントを跳ね上げられ、盛大にマクれる。かろうじて転ばなかったものの、支えきれずに単車を投げてしまった。

 

mioちゃんのヘルプでUターンし、お次のルートへ向かう。走りやすい林道をしばらくゆくと、廃道になった散歩道チックな場所が現れる。そのまま登って進んでいくと、ふいにmioちゃんのセローが足元からすくわれた。ハデにもんどりうってすっ転ぶセロー。

道の真ん中にナナメに転がってた倒木は、当然、タイアに削られて木の皮がなくなり木肌が露出している。そこに雨が降れば、そのつるつる具合はやってる人間ならご存知だろう。その倒木にナナメに乗り上げたmioちゃんのフロントが、木肌に沿ってスライドしたのだ。

怪我もなく、大丈夫とのことなので、そのまま先へ行く。

 

ここが面白いコースだった。

 

今までとは打って変わったガレ場の登りで、横に沢が流れている。

かなりガレてる感じだが走ってみるとそれほどでもなく、そのうち調子に乗った俺はわざとガレてる方を走ったりしてた。それでも転んだりしなかったんだから、まぁ、走りやすい道と 言って良いんだろう。一般的にはともかく、ケモ的には。

ポカリングmio。

 

土管がむき出しのセクションってほどでもない場所を越えたところで、道が少し広くなってたので単車を停めて休憩。ドリンクを飲もうとするが、買って来たポカリスエットは、もう、残り少ない。mioちゃんに 水場があるか聞こうとして、知らないから探索に来てるんじゃねーかってことを思い出す。

ならば、道はひとつだ。

沢まで下った俺は、試しに一口飲んでみた。いや、本当は沢の生水なんて飲んじゃいけないんだろうが、俺の胃腸は一年中アルコールで鍛えてある上に消毒までされている。しかも年間300日くらいは二日酔いで腹を下してる。つまり、エキスパートなのだ(違います)。

 

沢の水をペットボトルに入れて、魔法の粉(大塚製薬)を入れてみると。

 

「なんだ、全然ポカリじゃん。大丈夫だよ、よしなし」

よしなし、苦笑しながら「あたりまえだよ」と突っ込みを入れてきた。ふん、そんなヤツには俺の『秩父のおいしい水で作ったポカリ』飲ませてやらないからな。と、バカなことをしてるうちに、板乗りが土管を越えて追いついてきた。 さぁ、出発だ……と行きたいところだが、

板乗りはすでにグロッキー状態。

俺も最初のころ覚えがあるが、『やっと追いついたら休んでた連中が腰を上げる』というループに入ると、ケツの人間はちっとも休めない。最初からそんな厳しい状況で板乗りが楽しめるかは怪しいから(すでに厳しい状況です)、ここで板乗りの分も休んでおこうと決めた。

 

充分休憩を取って走り出すと、いくつかルートを選択できる面白い場所に出る。

mioちゃんが一番ノーマルっぽいルートを行き、

 

おれがちょっとひねて下って登るルートを選択。どっちもそんなに難しくないので、楽しんで走れた。

リクエストしたのに、よしなしは落っこちてくれなかった。

 

さて、それじゃこの先を登ろうぜと坂の途中に差し掛かる。

でかいつるつる倒木が、カントのきつい坂の途中に鎮座してらっしゃるじゃないか。フロント上げたまま登れるような連中ならなんでもない道なのだが、テクニック的にも横並びの俺らは、しかも、さっきのmioちゃんの転倒を見てる。ちと、心が折れた。迂回しよう。

つわけで、みなで迂回ルートを探す。

一カ所目をつぶればどうにかいけそうなルートが見つけられたので、そこにチャレンジしてみることにした。他の三人は別ルートを探してるようだが、俺は気が短いのだ。藪の中を進み、目をつぶらなきゃならないポイント、岩の間を抜けるルートに差し掛かる。

おっしゃ、と気合を入れて突き進むと、

はい、期待通り亀の子になった。

岩の間で腹が使えて、にっちもさっちもどうにもブルドッグ。それでも『自力突破』の御旗を胸に掲げた38歳は、ヘルプを呼ばずに対処する。といっても技術的に対処できるわけじゃないので、トンチと チカラ技で進むしかない。はぁはぁぜぃぜぃ言いながら、やっとの思いで脱出。

そのあとは足元は悪いが、難易度そのものはたいしたことない道を進んで、無事、迂回に成功。

しゃがみこんでぜぇぜぇ言いながら『秩父のおいしい水で作ったポカリ』を飲み、タバコに火をつける。

見上げると、天から降り注ぐ雨。

息切れし、汗だくになり、その上ずぶぬれになり。

それでも、気持ちいい。最高に、楽しい。

「あぁ、また山を走れてよかったな」

素直にそう思いながら、他の連中が追いついてくるのを待つ。

 

あまりに遅かったら手助けに行かなくちゃと思ってると、ライトが見えた。mioちゃんのセローだ。後ろにはよしなしも居る。しばらく見てると、mioちゃんも疲れが出てるようで、スタックしてしまうとなかなか前に進めない。ムダに元気なよしなしが、その横をばびゅーんと抜いてゆく。

どうにかmioちゃんも上りきったところで、やってこない板乗りを助けに行くことにした。

迂回路を歩いて戻れば、岩を越えたところでスタックしてる。「おぉ、あの岩を自力突破したのか」と感心しながら近づき、大丈夫かと声をかける。「助けてください」と言ってもおかしくないところなのに、板乗りはガッツを見せてうなずいた。そしてCRMをキック。

何度も横倒しにしてるからか、エンジンがかかりづらい。板乗りのガッツを尊重してしばらく見ていたが、「代わろうか?」と声をかけてみた。すると、素直にうなずく板乗り。イキナリこんな山の中に連れてこられて、綺麗な単車や装備をボロボロしながらも、ヤツの男はまっすぐだ。

「気持ちのいいやつだな」

と思えば、自然に手伝いの手も伸びる。何度か滑ったので俺も乗って上がるのをあきらめ、押して登った。こんなとき軽量のCRMは強い。途中からmioちゃんの手助けも借りて、三人でCRMを押す。よしなしは撮影係だ。

OK、こっちは勾配がきついから、こっちから……

ずるっ!

 

思いっきりすっ転んだ。

しかも、絶好の場面をよしなしが撮りはぐりやがった。

「んだよ、よし。撮れよー!」

とかなり残念な発言をしつつ、

気を取り直してCRMを坂の上に持ち上げる。ここでまたしばしの休憩。水分を取ると、待ってましたと身体から水蒸気が上がる。ギアセカンド状態のみんなの表情は疲れながらも、しかし、ものすげぇ輝いてる。

「にゃはははっ。やっぱり、ケモはいいなぁ」

楽しい気持ちで休憩しながら駄弁る。

「この先、繋がってればいいんだけどなぁ」

「先がわからないってのは、疲れますね」

「もう少し行ったら、もどってオフロードコース行きます?」

「お、それもいいねぇ」

と、ここでmioちゃん、他のふたりを絶望に突き落とす失言。

「本当なら、一番上で昼飯を食おうと思ったんですけどね」

「一番上?」

食いついた俺の表情に、しまったと口ごもるmioちゃん。

「いや、ほら、元は遊歩道だから……」

「そうか、山の天辺(てっぺん)まで繋がってるんだ!」

「いや、でも、土砂崩れとかあって、それで今は廃道なわけだから」

「よっしゃ、そんじゃ上まで行こう!」

「いや、かみさん。つながってるかわからないですよ? それより、オフロードコースがありますから、そこでみんなで走りません? 楽しいですよ」

「おう、もちろん行くさっ! 上まで行って戻ってからな」

説得、ならず。

 

そうと決まれば休憩は終わりだ。頂上まで行くぜっ!

横倒しの丸太を何本も越えて進んでゆくと、やがて道はちょっと険しいセクションに差し掛かった。さっきまでなら心折れたかもしれないが、今の俺には問題のないセクションである。それでも知らない道だからと単車を止め、ルートを見に行こうとすると。

ぶおん!

上のほうから単車がやってきた。

「おや、お仲間かな?」と見ていると、も、明らかに乗り方の様子がおかしい。一見してすぐわかるその単車は、ケモ最強のマシンにしてケモラーの憧れである(要出典)トライアラーだ。チャリンコみたいなバイクのステップに立ち、「や、そこはさすがにどうだろう」的な場所をゆく。

感心半分、嫉妬半分でその走りを見るうちに、気力がなえた。

 

ジャマしてもなんだし、Uターンして帰るべと話は決まり、しばらくトライアルの練習を眺めた後、おとなしく来た道を戻る。帰りは迂回路じゃなく丸太の道をジャンプして降り、降りた先で板乗りを待ったりしながら、ちんたらと山を下ってゆく。

 

くだりで一ヶ所、道がガケに向かって斜めになってるポイントがあり、お疲れ気味の板乗りだと落としてしまうかもしれないと危惧した俺は、差し出がましいかもしれないが板乗りと運転を代わってCRMをその先まで運ぶ。

よしが撮影しながら俺のガケ落ちを待ってたが、無論、そんなリクエストには応えてやらない。

 

山を降り、mioちゃんの先導でしばらく市街地を走り、件(くだん)のオフロードコースへ到着。

利根川の河川敷みたいに、おそらく有志が作ったんであろうコースも、雨でガラガラだ。

 

早速コースへ出て、そのまま走り出す。

が。

オフロードのコースというのは、コーナリングするタイアに削られ、深く掘りさがってる場所が多い。そして、天気はご機嫌の土砂降り。そう、コースの70%が水没しているのだ。言ってみれば川の中を走ってるのと大差ない。板乗りのCRMなんて、行方不明になりかねない。

一周して音をあげた俺は、それでも別のコースをいくつかたどってみる。確かに晴れてたらきっと楽しいコースなんだろうけど、水没してるとあんま楽しくないね。みんなのところに戻ると、mioちゃんがバッグからパンを取り出して食ってた。そうだ、まだそのネタがあったか。

よしなしの前で、みんなで昼飯を食ってやろうと張り切ってると、何事もなかったようにバッグから弁当箱を引っ張り出す、よしなしの外道。「これだと、おむすびが潰れないからいいんだよねー」とか人の気も知らず呑気に喰ってやがる。しかもこの土砂降りの中で。

 

雨の中で飯を喰う必要はまったくないことに気づいた俺たちは、またもmioちゃんの先導で、近くの公園チックな場所へ向かった。パルテノン神殿チックな休憩場所で、思い思い、ブーツを脱いだり荷物を広げたり、ジュースを飲んだりしながら、ダベリングタイムだ。

イロイロ話し込んでると、mioちゃんがガタガタ震えながら寒いと連呼しだす。

雨もだいぶん強くなってきたし、下手にここで休憩してしまったので、これからまた山の中に入るガッツは、みんなの心から失われていた。俺もまぁ、8日間野宿ツーリングしたあとの初仕事が待ってるので、それじゃあお開きにしようかと言う話になる。

若干ながら弱まった雨の中をバイクまで戻り。

河原の基地まで帰り着く。基地つーかmioちゃんは家のそばだし、よしなしと板乗りは車だから、基地的なテントがはってあるのは俺だけなんだけど。テントの前で濡れたものと乾いたものを分け、中で着替えてカッパを着たら、テントの撤収だ。

よしと板乗りはその間に着替え。

そしてmioちゃんだけが、雨の中ぼけーっと待つことになる。

もっともmioちゃんもキチガイだから、黙って待ってないで河原をセローで走り回ってたけど。

「mioちゃん、寒いんじゃねーの?」

「寒いから走ってるんですよー!」

それはてめぇの足で走らないとダメだと思う。

 

自走できて、すべての荷物を単車に積む俺が、撤収に一番時間がかかる。「先に帰っていいぞ」つったんだが、律儀な連中はみんな雨の中で俺の撤収を待っててくれた。それでちょっとあわてたのだろうか。荷造りが終わった瞬間、荷掛ネットが見当たらない。

探しても見つからず、mioちゃんだかよしだかの「テントの中に入れたままなんじゃないですか?」と言うせりふに「おめ、まさかそんなわけあるか」言いながらテントを引っ張り出して展開してみると、「ほらー! あるじゃないですかー!」うん、ホントごめん。

さて、こんどこそ準備が終わり、それじゃあ解散となる。

「かみさん。ホントにサンダルで帰るの?」

よしが俺の足元を写真に撮りながら笑う。さっきのパルテノン神殿で一度ブーツを脱いで靴下を絞ってしまったら、も、「こんな気持ちの悪い物体を履いて帰るのは一切ごめんこうむる」な心もちになってしまったのだから仕方ないだろう。

mioちゃんと俺が走りだし、よしなしと板乗りの車が動き出したところで、本日のcrazy marmaladeちっちゃいもん倶楽部はつつがなく終り。いつものmioちゃんとよしなしってバカに加え、板乗りって言う新しいバカ、ヒノっちつー間違いないバカ、また楽しい出会いがあった。

そして楽しい走り、楽しい酒。

至福の時間をくれたみんなに感謝しながら、俺は気分よく雨の中を走った。

や、サンダル、超ぉ怖ぇ!

 

さすがにこれで柏まで帰るのは無謀だったと反省する俺の目の前に、燦然と輝く『東京靴流通センター』のカンバン。さくっと方向転換し、店の前に並んだクロックスのバッタもんみたいなサンダルを手に取ると、なにやら生臭いにおいをさせながら、レジに並ぶかみ38歳。

走ってると気にならないけど、雨でぬれたゴム的なものや布的なものは、殺人的なにおいを発する。子供が怪訝な顔で俺を見るのを必死に止める若いお母さんに笑顔を見せると、結局サイズが大きくてサンダルとあまり変わらないクロックス(バッタ)を履いて、俺は走り出した。

 

途中、2stオイルが切れたので、通りがかった二輪館でオイルを足す。

 

どうもこの2stオイルを足すのが、最近、とってもわずらわしい。

なので、もしかしたらかみさん、ランツァ手放すかもしれないよ。

よしなし、mioちゃん、板乗り、ヒノっち、N。

ありがとう、今回も楽しかった!

また、バカな集まりをやって、バカな酒を呑み、バカな走りをし、

バカ笑いしよう!

 

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