The 34th small machine club

2009.01.31〜02.01 第34回ちっちゃいもん倶楽部 in 沼田

〜雪中キャンプツーリング 前編〜

後編はこちら

 

チェーンを買ったから、雪山に行く。

一般的には『雪山に行くからチェーンを買う』わけで、話としては本末転倒だが、我々にとっては至極まっとうな理由によって決まった今回の雪中行軍。もちろん、言いだしっぺはケモ鬼軍曹ことmoto君だし、脊髄反射で賛成したのは俺、よしなし、irohaあたりだ。

mioちゃんは当初、「凍死の危険がある」と開催を危うんでしたし、moto君の友人オーちゃんに至っては『話を聞かされるはるか以前に、参加が決まっている』と言う、いつもの可哀想な状態。それでも根はこういうバカ企画が好きな連中だから、ヤルと決まった瞬間から準備を始めていた。

そして迎えた1月31日。

朝から降っていた雨もあがり、曇天とは言えそれほど悪くないコンディションの道路を、仕事が終わった午後2時ころ、俺はランツァに山ほどの荷物を積んで走りだした。 関越道の沼田インターでみなと合流し、その先にある『赤倉林道』へ向かう予定である。

関越道下りは、ガラガラだ。もちろん単車の姿など、一台も見かけない。

 

たった230ccの2サイクルエンジンを積んだランツァで、長く走るのはかなりしんどい。

しかもオフロードタイアは柔らかいので、高速をぶっ飛ばすとあっという間になくなってしまう。なので、目的地までの道行きは法定速度でのんびり巡航だ。それでも、出発して100キロを越えたあたりから段々ケツが痛くなってくる。仕事の疲れもあるんだろうか、割りと早い段階で ヤラれはじめた。

淡々と距離を稼ぎ、上里あたりで給油しようかなぁと思っていると。

道端に停まったバイクの前で、両手を振っているちょっとアレな人達が見えた。よく見てみれば、moto兄弟とオーちゃんだ。「ナニやってるんだ、あいつら?」といぶかしみながら路側帯にランツァを停めてヘルメットを取ると、挨拶もソコソコにmoto君が叫んだ。

「かみさんっ! ガソリンのスペア持ってます?」

「持ってるよ」

とたんに安堵の表情を浮かべる三人。

オーちゃんの乗ってきたDRが、上里まであと数キロと言うところでガス欠になったのである。

スペアガソリンを入れてキックすれば、息を吹き返すDR250。

 

上里まで走ってそのまま給油し、休むまもなく沼田に向かって走り出す。

沼田インターを下りてすぐのコンビニには、すでにmioちゃんとよしなしが待っていた。

「寒いねー!」

「ホント、バカじゃないの? こんな企画考えたやつ」

「おめーだよ、moto君」

バカ話しながらしばらく休憩だ。

シェルパに積まれたirohaの荷物。

もちろん、兄の荷物も入っているので、総重量は30キログラムを超える。

 

つでに 俺の荷物も紹介しよう。irohaには及ばないものの、これもなかなかの重量だ。

 

休憩したら、さて、赤倉林道に向かおうか。

と、その前に晩飯を買い込んでおく必要がある。「このコンビニで買い込んでおこうか」と言ってると、よしなしが「この先に確かスーパーがありますよ」とナイス情報。それならそっちで買おうと走り出す。国道をすぐに左へ折れ、県道をしばらく行くと、右手にスーパーがあった。

スーパーで食い物や酒を買い込んだら、こんどこそ出発だ。

山へ向かって走ってゆくと、道端に雪が見え始めた。しかし、赤倉林道の入り口が見当たらない。

停まってみんなで道を確認してから、もう少し進んでみたのだが、やはり通り過ぎてしまったようだ。

Uターンしてもどり、俺が先頭でゆっくりと入り口を探しながら進むと、どうやらそれっぽい場所を発見した。しかし、除雪された雪と積もった雪とで、なかなかタフな入り口になっている。moto君と顔を見合わせ一瞬躊躇したあと、「行ってみます?」「いってみようか」と話が決まり。

moto君が上り始めた。

が、即スタック、アンドTTR自立。

やはり、チェーンをはかさないと無理なようだと単車を降り、歩いて先を見に行く。

赤倉林道であることは間違いないのだが。

 

左のirohaと右のよしなしの間に見える、ロープの張られた先が赤倉林道。

むろん、この程度の積雪など、雪装備カンペキの我々の障害にはなり得ない。装備、技術、根性のどれひとつとして我々に欠けたモノはないのだ。我々に唯一足りなかったもの、それは時間だ。もうすぐ日が暮れると言うことは、夜間雪中走行を余儀なくされるのだ。

しかし、それとて我々の気合とテンションの前では、何ほどのこともない。

それでも我々は満場一致で赤倉林道をあとにして、キャンプ場所を探し始めた。全員の心に共通していたのは、林道云々ではなく、たった一つの切なる想い。それは『も、酒呑みてぇ』だった。この断固たる強い想いの前には、他のすべてのことは 意味を失う。

協議を終えた我々は、キャンプ場所を探す旅に出たのであった。

 

やがて、『どうやらココでいいだろう』という場所が見つかる。

正確には、「も、ここでいいじゃん。早く酒呑もうぜ」的な精神状態だ。荷物を降ろして雪を踏み固め、驚くほどスムーズに各自のテントを設営してゆく、歴戦の猛者たち。そう、「酒呑みたい」時の酒呑みは時 に、自身のチカラをはるかに超えた能力を発揮するのだ。

さくさく設営を済ませて、俺やよしなし、mioちゃんは火起こしにかかった。

左がよしなしのコールマンガソリンストーブ。俺のオプティマスでmioちゃんのマメタンを燃やす。

 

一方、moto兄弟とオーちゃんの三人は、かろうじてカセットコンロを持ってきてはいるものの、ナベに類するものを忘れるという失態を演じていた。スーパーで買ってきた弁当はプラスティック製の容器に入っているので、火にかけて暖めることが出来ない。

するとなんと、弁当を冷たいまま食べ始める三人。

よく冷えたカレーライスは、三人の体温を急速に奪ってゆく。もしょもしょと弁当を咀嚼する音が、すっかり日の暮れた山間部に響く。そしてその合間に挟まる、三人誰かしらの「さ、寒みぃ……」という哀しい呟(つぶや)きが、抜群のBGMとなって悲壮感を煽 った。

 

そんな低体温症気味の三人を尻目に、氷の中へザクザクとビールを突っ込む猛者もいる。

連射する砲弾のごとく並べられた発泡酒。

 

もちろん、アルコールはビールか発泡酒オンリーのmioちゃんだ。

いつものごとく、大量の肉を用意して、バーベキューに取り掛かっている。

「ちょ、mioさん! ボクにもください」

思わず近寄るirohaに、moto軍曹の強烈な檄が飛ぶ。

「irohaっ! おまえ、裏切るのかっ! そんなものを貰うんじゃない!」

内部崩壊を始める何の準備もしてないキリギリス組。それを見て大笑いする、こちらは準備万端の俺、mioちゃん、よしなしで構成されるアリ組。ここへきて事前装備による明暗がくっきりと浮かび上がった。やはり、厳しい場所に挑む時は、充分な下準備が大切だということだ。

マメタンになかなか火がつかないので、mioちゃんはビールも半分オアズケ状態。

それでも、俺やよしなしの作った食い物を軽くつまみながら、淡々とバーベキューの準備を進める。一方、irohaの裏切りによって内部崩壊しかけていた『キリギリス組』は、あまりの寒さに声も出ず、その代わり急速に結束を固めてゆく。

彼らは誓いの証として、コスチュームを着ることで結束を強めた

 

おまえら……

 

火の強くならないマメタンに 焦れたmioちゃんは、ついにガストーチで直火焼きを始めた。

よしなしはイチバン賢く、寒中に最も暖の取りやすい「おでん」「鍋焼きうどん」などの汁物を準備していたので、寒さなどどこ吹く風といった体で、余裕の表情のままビールを開ける。俺はこのとき、すでにビールを二本空にして、もっともやりたかった『熱燗作り』をはじめていた。

ビールの空き缶に日本酒を入れて、ガソリンストーブで燗をつけるのだ。

 

オプティマスの火が安定してないが。

 

空き缶に日本酒を入れて、お湯でガンガン暖める。

 

熱燗のチカラで『キリギリス』たちにも笑顔が戻ってきた。

 

さらに、買い込んだ手羽先の竜田揚げを、ストーブの火で直接あぶる。

 

mioちゃんのバーベキューも、どうやら出来始めたようだ。

 

と、いい匂いに誘われて、irohaが二度目の裏切り行為に出た。

兄の「iroha! 裏切るのか!」の声も届かない。

するとmoto君、自分もさっさと前言を翻し、「mioさん、肉まだ?」とか言い出した。そのセリフにみんな爆笑しながらガンガン酒を飲むのだが、気温が低すぎるせいなのか、一向に酔う気配がない。いや、酔っ払ってはいるんだが、呑んだ量と酔い方が比例しないのだ。

やばい、めちゃめちゃ楽しい!

 

やっぱり火があったほうがいいだろうと、ここで焚き火をはじめる。

焚き火の火が小さくて寂しかったらしい俺は、ここでスペアガソリンを持ち出した。

さて、派手に行こうぜっ!

 

 

 

派手すぎ。

ガソリンタンクにまで引火したので、雪の中に突っ込んで消火する。

消える炎に、湧き上がる爆笑。

 

と、オーちゃんを見張りに立てて、キリギリス組がゴソゴソとなにごとかしはじめた。

中をのぞいてみれば。

カイロ作戦決行中。このカイロ作戦が見事に当たったようで、「寒い、寒い」と騒いでいたキリギリス組が、ココで一気に元気を取り戻す。それに釣られるように、俺たちもヒートアップ。宴会はますます混迷の様相を呈してきた。

 

アレだけ寒がってたirohaも、Tシャツになってしまうほど元気になった。

 

まぁ、そんなトコにまで貼ってれば、そりゃぁ暑いだろう。

 

びゅおん!

「あぁぁっ!」

突風が吹いた瞬間、mioちゃんが悲痛な叫び声をあげる。

ペグ打ちしてないmioちゃんのテントが、強風に飛ばされたのだ。

 

もちろん、回りの人間は笑うばっかりで、助けになぞ行かない。

いつの間にかmoto君が、mioちゃんの隙をついて自分で肉を焼き始めている。

どのクチが裏切り者とか言ってんだって話だ。

俺たちは軽くキチガイ状態になりながら、延々と騒ぎ続けた。

 

後編につづく

 

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