The 41st small machine club

2009.11.02-03 第41回ちっちゃいもん倶楽部 in 秩父

〜嵐の夜に(後編)〜

前編はこちら

 

天に向かって燃え上がりながら、周囲を暖め、明るく照らす。

キャンプの焚き火というものは、少なくとも俺の中では、そういうものだった。

ところが俺たちの横で燃え盛る焚き火には、周りに居るものを暖めやさしく包み込むような母性と言うものが一切存在しない。轟々(ごうごう)どころか、むしろシュゴー!というメリケンチックな表記が似合う、ガスバーナーのような威圧的な音を立てながら燃え盛っている。

炭を残すような甘っちょろい燃え方ではない。

一般的に完全燃焼と呼ばれる、『明日のジョー』的な燃え方だ。

かなり強くなってきた雨に負けるどころか、さっきまでイッコも火のつかなかった半分生木のような枝までも、恐ろしいイキオイで灰にしてゆく。周りが川原で砂利ばかりだから、延焼する心配はないのだが、そんなことより何より、これでは何のために火をおこしたのかわからない。

強風に大量の酸素を供給され、ただイタズラに灰を作るだけの存在になりさがった焚き火。

だがしかし、俺たちに心配したり呆れたりする余裕はなかった。

なぜならその時、俺たちはもっと大きく、もっと深刻な悩みを抱えていたからだ。

強風が、大テントを飛ばそうとしていたのだ。

 

「ちょ、ヤバい! かみさん、そっちを支えてください!」

「ボクはこっちを支えるよー!」

「うわっ! ヤバい、ヤバい! テントのそっち端、浮いてんじゃねーか!」

気温は秋というよりむしろ初冬のように寒く、風は大テントを吹き飛ばそうとするほど強い。

そして、その風に乗って真横から叩きつけてくる雨は、強さをさらに増している。

そんな中で呑んだくれながらバーベキューだの焚き火やってるだけでもキチガイ沙汰なのに、何が悲しくて雨に叩かれびしょぬれになりながら、テントを支えなければならないのか? 必死にテントを支えながら、俺たちはイマイチ納得できない気分だった。

 

だが、ただテントを支えていても事態は好転しない。

「とりあえず風よけにクルマを動かします」

「んじゃ、俺とろろちゃんはテントの脚を短くするわ」

テントの脚をたたんで短くし、強度を高める。

 

みんなすでに、びしょ濡れだ。

 

さらに、mioちゃんのクルマを動かして、大テントを守る。

さらに、クルマのタイアの影に大きな石をおき、その石にロープをくくりつけてテントを支えてやると、ようやく大テントが強風に対抗して自立してくれるようになった。俺たちはほっと胸をなでおろし、疲労に憔悴しきった顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

 

災害の避難場所といった様相を呈してきた大テントの中で、俺たちはやっと腰を下ろす。

キャンプの高揚感は失われ、しかし、暴風雨への不安もなくなっていた。そう、この段階で三人の精神状態は、一般的に言う『ヤケクソ』に近いものとなっていたのだ。携帯を取り出して時間を確認すると、時刻はまだ7:00くらいだったか。さすがに寝るには早すぎる。

俺たちは酒を干し、肉を焼き、ゲタゲタ笑いながら宴を再開した。

そんな中、ふと視線を移してみれば。

焚き火は相変わらず、轟々と音を立てて燃えている。

俺のキャンプ人生の中で、これほどありがたくない焚き火に出会ったのは初めてのことだ。

 

強風と格闘しているうちにこんがりと焼けた豚バラを切り分けていると、なんと、大雨が降り強風が吹きすさぶ荒天の夜の闇を切り裂いて、一台のオフロードバイクがやってきた。俺たちは思わず顔を見合わせて、それからやってきたバイクのライトを凝視する。

「うっわ、俺らもたいがいバカだけど、もっとキチガイがいるなぁ」

と呆れるよりむしろ感心していると、バイクは大テントの前で停まる。

mioちゃんの友達が、会社の帰りに差し入れのワインを持ってきてくれた。

「ホントにこんな天気でヤってるんだ?」

呆れ顔で笑った彼に、俺たちは焼けた肉をすすめる。もっとも、彼は会社の帰りに立ち寄っただけで、この荒天の元で俺らのごときバカをやるほどキチガイではなかったので、ちょっと話した後、「それじゃぁ、気をつけて」と心配そうに言うと、暖かい自宅へ帰っていった。

彼の背中を見送る三人の胸中には、きっと同じ思いが浮かんでいたはずである。

「俺も帰りてぇなぁ」

 

またも三人になった我々は、このあたりで完全に事態の収拾をあきらめた。

『なるようになれ』てなもんである。mixiにmioちゃんが「キャンプ楽しい〜!」と書き込んだのを見るやいなや、ゲラゲラ笑いながら「キャンプ嵐〜!」とレスポンスしたり、これほどの荒天を呼んだmioちゃんの奇跡的な雨オトコっぷりについて、ろろちゃんとふたりで責め倒したり。

焼けたバラ肉を食いながら、その合間に酒を干してゆくのだが、とにかく寒くて寒くて、去年の雪中行軍のときのように、呑んでも呑んでも酔いが回らない。しかも大テントの中は、横殴りに吹き付ける雨のおかげで、活用できるスペースがものすごく少ない

白い部分が、大テントの有効スペース。もちろん、このあとさらに小さくなる。

 

バーベキューコンロに張り付くように寄り集まった俺たちは、

「こんなにコンロの近くで呑むのはじめてだ」

などと、くだらないことで盛り上がって呑んだくれた。

と、ろろちゃんが

「クルマで自分のテントが見えないから、なんか不安だなぁ。ちょっと、様子を見てくる」

とつぶやきながら、初めて張った自分のテントの様子を見に行く。

しばらくして、

「あーっはっはっはっはっはっ!」

爆笑しながら戻ってきたろろちゃんに、ナニゴトかと見に行くと。

テントがものすごく小さくなっていた。

「ぎゃははははっ! なんだこれ。ろろちゃん、何がどうなってるの?」

「なんかねー、よくわかんないからテキトーに張ったんだけど……」

みんなで爆笑しながら、とりあえずろろちゃんのテントを元に戻す。

 

大テントに戻ってきたら、今度はメインの料理だ。

牛もも肉1キログラム。

この段階で結構、腹いっぱいになるほど食っていた俺は「いや、俺はもう食えないよ」と辞退する。するとろろちゃんが、「なんだよ、ガッカリだよ。なんでそんな弱くなっちゃったんだよ」と、わけのわからない責め方をする。それを聞いてもちろん、俺とmioちゃんは大爆笑だ。

う〜ん、この辺の空気って言うかキチガイな感じは、なかなか上手く伝えられないなぁ。

 

ちなみに、俺らの様子を焚き火側から見るとこんな感じ。

有効スペースが、さらに縮まっているのがわかる。

せっかく雨の中苦労して火をおこしたので、俺は焚き火を消さないように、いや、この焚き火が天寿を全(まっと)うできるように、イッコも役に立たないのを承知の上で、ひたすら薪をくべ続けた。雨が降り続いてるから、焚き火のそばに行くわけじゃないし、ホントに意味ないんだけど。

 

呑んで騒いでいるうちに、もも肉が焼きあがる。

極上のローストビーフの完成だ。

正直、も少し体調が万全の時に喰いたかった。ろろちゃんに勧められるまま、二切れくらい食ったところでトイレをもよおし、タチションしに行った草むらで下を向いた瞬間、胸の奥からせり上がってくる何かをそのまま吐き出す。ま、要するに呑みすぎたってだけの話。

寒さで酔いがついてこないから気づかなかったが、結構な調子で呑んだくれていたようだ。

 

ぬれた草で手や口元をぬぐいながら戻ってくると。

mioちゃんが鉄板を熱して、牛脂を溶かし始めた。

 

さらに、豚トロを炒めはじめる。

 

そう、富士宮ヤキソバmioスペシャルだ。

普段なら食欲をそそるはずの脂の焼ける香りが、たった今リバースしてきた俺の鼻腔を焼く。

「かみさん、吐いちゃったんなら、また喰えるじゃん」

「ろろちゃん、そんなことができるのは君だけだよ」

などと言いつつも、胃の中が空っぽなのは間違いない。そして何より胃の内容物と一緒に体温を吐いてしまったため、寒くて仕方ない。「よし、それならば温かい汁物を食おう」と、mioちゃんがヤキソバを作っている横で、鍋焼きカレーうどんを作り始める。

「なんでヤキソバ作ってるのに、カレーうどん作るんだよー」

ろろちゃんが笑ってるのも意に介せず、強い意志を持ってうどんを作るかみさん。ところが、パッケージを全部開けたところで、とんでもない事実に気づいてしまった。顔を上げ、ろろちゃんとmioちゃんの顔を見てから、俺はその悲しい事実を発表する。

「み、水がねぇじゃん」

とたんに巻き起こる大爆笑のなか、それでもかみさんの強い意志は曲がらない。極限の状況の中、周りを見渡してみれば、目の前にお茶のペットボトルがある。それならば答えはひとつ。お茶でカレーうどんを作ってやればいいのだ(作らないという選択肢もあります)。

「へん! だったらお茶で作ればいいんだよ! ろろちゃん、お茶をとってくれ!」

破れかぶれで叫んだ俺に、ろろちゃんが真面目な顔で聞く。

「かみさん、緑茶とウーロン茶、どっちにするの?」

も、どっちでもいいよ。

 

緑茶カレーうどんを食って温まったので、ちょっと元気が出てきた。

結局、mioちゃんのヤキソバも食いながら、相変わらず呑んだくれていると、ココまで来て、今まで頑張ってきてくれた俺の脚が、ついに言うことを聞かなくなった。痛いというより、動かなくなってしまったのだ。「コレはまずい」と重い腰を上げ、テントまでカイロをとりに行った。

とりあえずカイロで温めながら、ごまかしごまかし行くことにする。

そんなことするくらいなら、とっとと寝袋にもぐってしまえばいいようなもんだ。

だが、なんだかんだ言いつつも、俺はいつの間にか、この最前線の野営みたいな展開が楽しくなってきていたのだ。ろろちゃんも俺もmioちゃんを責めるために、クチを開けば「しんどい」「寒い」と連呼していたが、実際はけっこう、いや、かなり楽しんでいたのである。

こういう「非日常」こそが、ある意味キャンプの醍醐味なのだから。

 

やがて俺の脚だけではなく、三人の全身がどうしようもない寒さに震え始めた。

この段階で、天気予報では気温6度だったようだが、寒風吹きすさぶ川原での体感気温は、雪中行軍のときよりもはるかに寒く感じた。『緑茶のサワヤカな後味』が新しい緑茶カレーうどんを、汁まで飲み干した俺はともかく、mioちゃんとろろちゃんは、かなりしんどそうだ。

やがてmioちゃんも「カレーうどんを食う」と言い出す。

「おお、だったら今度はウーロン茶で作ってみれば……」

「コンビニまで、水とか暖かいものを買いだしに行ってきます」

俺に皆まで言わせず、ウーロンカレーうどんを完全否定したmioちゃん。いそいそとコンビニまで買いだしに行き、水や甘いものを買ってきてくれた。普段は甘いものが苦手な俺も、シュークリームなんぞを頬張る。体温が下がってるせいか、疲れているせいか、甘いものがやけに美味かった。

そしてもちろんmioちゃんは、間髪入れずカレーうどんを作る。

出来上がりざま美味そうにすすりこみ、すぐ、

「うわ、コレは暖かい。ろろちゃん、これゼッタイ喰った方がいいよ」

ろろちゃんに勧めるが、ろろちゃん、

「おなか一杯だよー」

と悲しそうな顔で首を振った。

mioちゃんの上着でやたらと着膨れてる、満腹ろろちゃん。

ミシュランからクレームがつきそうだね。

 

そして、寒い夜と言えば、かみさん得意のコレ。

ホットカクテルは相変わらず大不評だが、それでも暖かい物を身体が欲しがるのだろう、ろろちゃんは結構飲んでた。mioちゃんは相変わらず、発泡酒一辺倒。ま、ちょこっとホットカクテルを飲んでニヤリと笑い「熱いくらいだと飲める」とか、味 は全否定のひどいセリフを吐いてたが。

 

結局、mioちゃんのカレーうどんの汁をもらい、ろろちゃんもちょっとあったまって元気が出る。

「やっぱ、お茶で作ってないカレーは美味いね」

「なにをぅ! ろろちゃん、お茶カレー食ってないじゃないか!」

バカ話をして笑いながら、宴は続く。

とは言え、炭火のすぐ横で身を寄せ合い、低くした大テントの屋根のウラに溜まった煙を吸いながら飲んでるわけで、俺たちの周囲の空気は、野外としてはありえないほど悪い。時々、空気の悪さに耐え切れず、雨の中、テントの外に出て新鮮な空気を吸い込む。

「う〜ん! 世界は広いなぁ!」

ろろちゃんの叫び声に大笑いしつつ、小雨の中、タバコを吸いながら立ち話をしたり。

いつの間にか時間も11時を回っている。

大テントに戻ってしばらく話したところで、ついに眠くなったろろちゃんが、ひと足先にギブアップ。おやすみを言って、さっきよりさらに小さくなった不思議なテントにもぐりこんだろろちゃんを尻目に、俺とmioちゃんはしばらく、ロケットIIIのブレーキの話とかサスペンションの話をしていた。

やがて俺も眠くなってきたので、12時ころだったか、mioちゃんにお休みを言ってテントへ。

夜中にのどが乾いて目を覚まし、テントの外に出てみると、ウソみたいに晴れ上がった夜空には、満月が煌々と照っていた。それを恨めしくにらみつけながら、「遅せぇよ」とつぶやいて中指を立て、ぶるっと震えてからウーロン茶を飲み、暖かいシュラフにもぐりこんだ。

イロイロと大変だったが、総じて楽しく、記憶に残る夜だった。

 

あけて翌日の朝。

七時過ぎまで寝こけてた俺は、ろろちゃんに電話で起こされる。

「もうそろそろ起きたらー? mioちゃんはバイクを取りに戻ってるよ」

生あくびで返事をし、テントの外に這い出てみると

抜けるような青空。

「こりゃ、気持ちいいや」

と立ち上がって歩き出そうとし、一歩目が前に出なくて危うく転びそうになる。

「あちゃ、昨日、無理しすぎたかな」

タバコを一本つけてから、のろのろと撤収作業をしていると、ぶろろろろとエンジン音が聞こえる。

昨日ワインを差し入れてくれた、mioちゃんの友達がやってきたのだ。なので、mioちゃんが単車を取りに戻ってる旨を伝え、ひと足早く撤収作業を終わらせたろろちゃんに会話を任せて、撤収の続きをする。そのうち、次々とオフロードバイクがやってきた。

そのmioちゃんの友人たちの格好や単車を見て、俺のハラも決まる。

「あんだ、mio公。サワヤカ林道とか言っといて、全然、行く気マンマンじゃねーか」

一人を除いてみなカンペキなオフロード装備だったのだ。

 

本気オフロードを走った後、三時間かけて柏に帰るのは無理だろう。

そう判断して帰る決心を固め始めたところへ、mioちゃん、いや、mio公が、新しくなった愛機にまたがって戻ってきた。エンジンをオーバーホールする際に、10ccのオーバーサイズピストンを組んだmioセロー、通称『エロー』は、まるで別のバイクのように、すっかり様変わりしている。

社外のヘッドカウルとモノトーンを基調としたステッカーで、すっかりおしゃれシティコミューター。

 

そしてタンクサイドには、ステッカーの上にエロステッカーを重ねて、SEROWの『S』を隠し

EROW(エロー)

つーかね、俺の使ってる(このサイトを書いてる)HTMLエディタにはね、単語のつづり間違いを指摘してくれる機能がついてるから、バイクの名前とか固有名詞みたいに一般的じゃないつづりだと、「コレ間違いじゃない?」って指摘されるんだよ。

だから何度も指摘されないように、学習辞書に登録するんだよね。

そのエディタに『EROW』なんて言葉を、登録する日が来るとは思わなかったよ。

mioちゃんには猛省を期待したい。

 

やってきたmioダチと一緒にしばらくダベリング。

みんな、やる気マンマン。

 

つーか、彼らがこれから行く先で、昨日、雪が降ったそうだ。

恐るべし秩父。いや、恐るべし、mioちゃん。

なんつってると、犬の散歩をしていた人が、近づいてきて話しかけてくる。

なんて名前か忘れた。かわいいんだけど、よだれだらだら。

 

やがていい時間になり、mioちゃんはmioダチと一緒に林道、いや、ケモノ道へ。

あとから来たメールに、「爽やかじゃねぇ、つーかみんな飛ばしすぎ」つーセリフと

こんな写真が添付されてたから、まぁ、行かなくて正解だろう。

俺とろろちゃんは、もう少しだけ犬の飼い主としゃべった。ドカとBMWを持ってるらしく、バイクの話をしばらくしていると、冷たい風に背中を押される。彼に挨拶をしてエスエルにまたがり、ろろちゃんに別れを告げ、三時間彼方の柏へ向かってトコトコ走り出したところで。

本日のCrazy Marmalade ちっちゃいもん倶楽部は、何とか無事に終了。

『楽しくキャンプ宴会をして、次の日にはサワヤカに林道をツーリング』の予定のはずが、イキナリ暴風雨に見舞われて体力を使い果たし、ヘロヘロどころか吐くまで呑み、結局、林道ツーリングどころじゃなくなってしまったのは、ちょっと、いや、かなり予定と違ってしまった。

だが、ものは考えよう。

この先に控えている『フューリィ納車&慣らし』や、『和歌山龍神スクランブル』のコトを思えば、コレでよかったのかもしれない。何より、ツーリングならまたいつでも出来るけど、『嵐の中で野営』ってのは、まともに暮らしてたらなかなか出来る体験じゃないからね。

 

てなわけで、mioちゃん、ろろちゃん、もんすげ楽しい時間と貴重な体験をありがとう!

また近いうち、野宿して呑んだくれようぜ!

出来れば、次は晴天の下で、な。

 

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