The 42nd small machine club
2010.10.16-17 第42回ちっちゃいもん倶楽部 in
大郷戸 〜月に歌え山賊の歌を(後編)〜
愛人事件のほとぼりも冷め、相変わらずバカ笑いしながら呑んだくれてると。 「あぁっ!」 ロデオテキサスにしてエロオショーのよしなしが、悲痛な叫び声を上げた。 何事だと視線を移してみると、よしなし、ゲラッゲラ笑いながら。
「イスが破れたー!」 あんだ、『最終的に行き着いた選択』の割にはすぐぶっ壊れたじゃねーかと思うだろうが、まあ待て。コレはイスのせいじゃなくて、よしなしがアホなだけなのだ。半年ほど前にソロツーリングで火を使っていたとき、火の粉が飛んで穴が開いたのを、そのまま使ってたんだから。 穴が開いた時にすぐ補修すれば、こんなハメになることはなかったはずだ。 まあ、それでも本人が『ネタだ』つって嬉しそうにしてるんだから問題なし。つまんねーコトをさも大事のように騒いで、いちいち文句つけるヤツより、間違いなく楽しい人生を送ってると言えるだろう。少なくとも俺は、こっちのスタンスが好きだ。 それこそ、考え方の違い、なんだろうけど。
この頃になると、全員、いい具合に出来上がってくる。
キャンプリーダーも気持ちよさそうだ。 ちなみにリーダーと書いてるけど、POPOさんはそう言うタイプじゃない。どっちかって言うとメンドウな話になったらそうっと居なくなり、別の場所で独り楽しんでるタイプじゃないかな? このメンツは、そう言うメンドウな話には絶対ならないから、一緒に遊んでくれてるんだと思う。 ひとりでも『お客さん』がいたら、きっと逃げ出すだろうね。 もちろん、俺もだけど。
やがてeisukeさんから、「できたよー」の声が上がる。
モツ煮うどんeisukeスペシャルは、元のモツ煮より数倍は美味かった。
みんなの食いつきっぷりが、その証拠。
さらに、よしなしの持ってきた水餃子や、mioちゃんのソーセージ、俺の鶏肉なんかも放り込んで。
モツ鍋うどんeisukeスペシャル、闇鍋バージョンの完成。 味はもちろんめちゃめちゃ美味いが、カロリーも大変なことになってそうだね。
暖かいモツ鍋うどんで身体はホカホカ。 だけど、俺の心は満たされていなかった。 オプティマスノヴァに火をつけ、プレヒートしながら小さくつぶやく40歳。
「mioちゃん、やっぱ火が欲しいよな?」 「そうですねぇ」 するとeisukeさんがニヤリと笑って。
いや、eisukeさん。そう言うことじゃないんですよ。 山賊宴会と言えば、やっぱり焚き火は欠かせないって話をしてるんですってば。 つわけで、かみさんは山へ芝刈りに。
キャンプ地の周りは林が広がっているので、ちょっと探せば焚き木には事欠かない。 ところが。 枯れ枝を拾い集めて戻ってくると、なにやらすでに火が焚かれている。近づいてみれば、デカい箱型の木のカタマリの上で、盛大に火が燃えてるじゃないか。ぴんと来た俺はかみさんアイでサーチする。するとやはり、思った通りのものがよしなしの傍(かたわ)らに見つかった。 アルミ製の燃料ボトルだ。 「よしなし、てめ俺のスペアガソリン勝手に燃やしてんじゃねーよ!」 「ま、いいじゃないですか。ほら、よく燃えてますよ」 「ふざけろ、明日ガス欠したらどーすんだよ」 「大丈夫、大丈夫」 言いながら、ニタニタ笑うよしなし。 さっきの愛人捏造事件の仕返しだろう。
持ってきた焚き木を箱型の木の上に乗せて、火をつける。
う〜む、やっぱり足りないか。 つわけで、コンビニ袋を持ってもう一度、焚き木拾いへ。 今度は、もっと太い枯れ枝が見つかった。
これなら、大丈夫だろう。すると、 「俺も焚き木をとってきますよ」 意気揚々と出かけたよしなし。
満足げな顔で帰還すると、コンビニ袋の中身をぶちまける。
焚き付けに使うような細かい木だったので、一気に燃え上がった。 オーゲー、オーゲー! こらぁ景気がいいじゃねーの。 やっぱ火があると一気に盛り上がってくるねぇ……ってmioちゃん!
気をつけろ! 燻製(くんせい)になってるぞ!
スモークドmioちゃんの姿に、大笑いする一同。
多少、煙が収まっても風向きがカンペキなので、どうしてもmioちゃんが犠牲になる。 だったら場所を移動すりゃいいのに、mioちゃんも意地になって煙と戦う。
「くそー! 負けるもんかー!」 「あのさ、灰が飛ぶからあっちに行ってやってくれない?」 「なんで、そんな俺をいじめるんですか」 「mioちゃんだからに決まってるだろう」 「いいですよ、俺も焚き木を拾ってきます」 前後の繋がらないセリフを残して走り出し、しばらくして戻ったmioちゃん、ニヤニヤしながら獲物を見せた。その足元には、もうすでに焚き木とは呼べない何かが転がっている。それを見た瞬間、全員、まさに火のついたかのごとく、狂ったように爆笑した。 代表して俺が突っ込んでやる。
「mio公、コレは焚き木じゃねぇ。丸太つーんだ」 「これならバッチリでしょう?」 少しは人の話を聞け。
丸太を転がして焚き火の上に乗っけると、バーナーで火をつけるmioちゃん。 「ばっかじゃねーの。そんなん燃えるかっつーんだ」 などと浅はかなmio公を嘲笑していたら。
意外と燃えた。楽しいけど、ちょっと悔しい。
やがて。
どうやらカンペキに安定した火を囲んで。 山賊宴会のメインのヒトツである、まったり談笑の時間だ。
やっぱり、火があると精神的な安定度が違う。 呑んだり、しゃべったり、電話したり、各自が思い思いのことをしながらも、火を囲んでともに夜を過ごす楽しさに、自然と顔がほころぶ。この日の午前中、仕事をしてる時、「野外宴会をやる」と言う話を聞いた患者さんが、「それの何が楽しいの?」と質問してきた。 メンドウなので「仲間と集まって呑むから楽しい」と答えたら納得してたが、本当は違う。 もちろん、集まって呑むのは楽しいが、それをわざわざオモテでやるのには、別の理由があるのだ。暗闇の中で火を囲みバカ話しつつ、互いの顔を眺めるときの。あるいは満天の星を見上げながら、ダチの笑い声をBGMに思いっきり伸びをするときの。 あの、なんとも言えない不思議な充足感。言葉にし切れない優しい感覚。 それを味わうために、山賊たちは集まるのだ。 や、たぶん。
リーダーが焚き火の写真を撮ってる横で、よしなしはそろそろ限界点。
eisukeさんはmioちゃんに触発されて、いやむしろ対抗して、ガスバーナーを出してくる。 こんな時の精神構造は、みんなガキみたいなもんだからね。
蛍光灯の下にいる時なら「まだまだこれから」と言う、日付の変わる時間。
さんざん呑んで喰って騒いだ山賊たちの顔には、そろそろ睡魔が見えてくる。とは言えみんな精神年齢はガキだから、眠いくせに寝ようとしない。「ここで寝ちゃったら、このあと起こる面白いことを見逃すかもしれない」なんてのも、きっと、どっかにあるんだろう。 その中でもイチバン調子に乗って呑んだくれてたバカ、つまり俺が、ついに限界となる。 「ね、眠い。限界だ。俺は寝ます」 と立ち上がったところで、楽しかった夜も終わり。あとはそれぞれで過ごすことになる。
焚き火を囲んだ山賊の宴は、やっぱり最高の時間だった。
明けて翌朝。 XRで走った疲れが出たのだろうか、たっぷり8時間以上も寝た俺は、エンジン音に目覚める。 むくんだ顔をこすりつつ、のそのそとテントから這い出すと。
あれ、みんな撤収が終わってるじゃん。
残ってるのは、俺のテントだけ。 「あ、起きた、起きた」 「死んでるかと思ったよ」 からかわれながら、ふらふらと自分のイスへゆき、タバコに火をつける。
その間にも、みなの撤収作業は進んでゆく。
タバコをゆっくり灰にしたら、俺も撤収を始めよう。
もたもたやってると、みんなの準備が整ったようだ。 なのでとりあえず手を止めて、みんなをお見送り。 「そんじゃ、気をつけて! またやりましょう!」 「かみさんも気をつけて」 「かみさんこそ気をつけて」 去ってゆく山賊たちの後ろ姿を、笑いながら見送ったところで。本日のCrazy Marmaladeちっちゃいもん倶楽部は、どうやら幕引きの時間だ。クルマ、バイク、それぞれ好きなものに乗って集まり、ただ呑んだくれて騒いだだけの、だけど最高に楽しいステキな時間だった。
昨晩のバカ騒ぎを思い出してニヤニヤしながら、だだっぴろい草地で道具を仕舞う。
途中で飽きると、夜露に濡れた道具を乾かしながら一服つけたり。 誰を待たすでもなく、自分のペースで好きにやれるのも、このスタイルのいいところ。
やがてXRの小さなリアシートに荷物を満載した俺は。 最後に出たゴミの袋を荷台にくくりつけながら、思わず「ありがとう」とつぶやいていた。 それは、小さな車体で重たい荷物を運んでくれたXRへの。あるいは、バカどもを受け入れてくれた空や土や湖など自然への。そしてもちろん、楽しい時間をすごさせてくれた最高にバカでキチガイな山賊どもへの、素直な感謝の気持ちだった。
これからは寒くなる一方だ。つまり、俺たちのキャンプシーズンの始まりだ。 「クソ寒い中で呑んだくれよう」なんて酔狂に、もしも付き合ってくれる気があるなら。 次回は一緒に呑まないか?
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