The 43rd small machine club

2012.04.08 第43回ちっちゃいもん倶楽部 in 利根川

〜牛よ、桜を見よ〜

 

四月の第一週ともなれば、世間は花見に浮かれている。

しかし、「それじゃあ、お花見にでも行こうか」とは、ならない。

なぜならナオミさんは、最強の『ひきこもり』だからだ。天気がよくて暖かい日曜日、なんとか引っ張り出すことには成功しても、メジャーな花見ポイントなんて、ヒトがごった返してるに決まってる。そんなところへ行こうなんぞ言おうものなら、「じゃあ、家で本を読んでる」となるのがオチだ。

本人もそれはわかっているので、『混んでないところ』という基準で、行き先を考える。

 

「桜つっても、北の方はまだ満開とはゆかないだろう」

「でも湖は寒いよねぇ」

「利根川の土手、菜の花は、まだちょっと早いかなぁ」

「あ、それじゃあさ、牛を見にいこうよ」

「う、牛ですか?」

 

どういうシステムが発動したのか、俺にはビタイチ理解できないのだが、とにかく『桜を見る代わりに牛を見る』という斬新なアイディアを発したナオミさん、得意げに小鼻を膨らませている。つわけで、わけもわからないまま、とりあえず牛を見に行くことになった。

 

ところで前日、タカシが遊びに来て、いいだけ呑んだ。

ふたりでテキーラをボトル一本と、ジンをボトル半分あけて泥酔し、バカ話や真面目な話をして、楽しい時間を過ごしたあと。タカシはアサイチで帰ってゆき、あとに残されたのは、二日酔いで敗残兵のようになった、かみさん42歳。

しかし、窓から見える、『青い空とやわらかい陽光』は、心を浮き立たせる。

これで仕事なら起き上がる気力はないが、ツーリングなら話は別だ。

 

昼前くらいに起きだし、ちんたら着替えを済ませた、ヒキコモリと敗残兵は。

それぞれの荷物を持って階下へおりる。

ナオミはXR100に、俺はカブ110にまたがって、のんびりと柏の街を走り出す。気持ちがいいのでウラをぬけて遠回りすると、柏公園の桜並木は、ほとんど満開だった。思わず停まって写真を撮ろうとしたら、後ろからクルマが来てたので果たせず。

いいや、あとで歩いて撮りに来よう。

 

つわけでトコトコ走り出し、クルマの少ない道を選んで、景色を眺めながら走る。

やがて船取経由で国道6号線へ。

二台並んでのんびり走ってると、「すり抜けしよう」と言う気がまったく起こらない。

XRでさえエンジン熱ダレさせるくらいすっ飛ばすのが好きなのに、カブに乗るとクルマの後ろにくっついて走ることが苦痛じゃないのだ。自分の心境変化に、自分で驚いた。まさにカブマジック。やがて6号から利根水郷ラインに入る。

ぼんやりと景色を眺めながら走ったり、

 

ミラーに写るナオミを撮ってみたり。

 

ジレたクルマがぶい〜んと追越してゆくのを、「気をつけてなー!」と見送りながら、栄橋を渡るたもとの信号まで来た。いつもなら一瞬でブチぬいてゆくクルマの列に、おとなしく並んで信号待ちしながら、ナオミとしゃべったり写真を撮ったり、実におだやかな気分だ。

そんななか、ふと反対岸を眺めると。

どうやら桜が咲いている。

「帰りにあそこへ寄ってみようか?」「そーだねー!」なんて言いながら、栄橋をわたって利根川の茨城側へ出る。いつもの休憩&写真ポイントにひとがいたので、も少し進んで離合(りごう:すれちがい)用のスペースにカブを停める。

一服しながら景色を眺めたりバカ話をしたり。

 

「おめ、ちっとカブまたいでみろよ。そんなに足つき悪いか?」

「あたしの足の短さ、ナメんな!」

「……あ、ホントだ、ごめん。つーかさ、ここの部分にまたがればいいんじゃね?」

「えーと……こう?」

うん、なんか色々とごめん。

 

今日は荷物をウエストバッグに入れてきた、かみさん。

しかし、普段使わないウエストバッグが、ジャマでジャマでしょうがない。いや、ウエストの太さはこれっぱかしもカンケーねぇから黙ってろ。俺の心に傷をつけるな! んで、とにかくジャマなので、「どっかに取り付けられねぇかなぁ」と考えていたのだが。

どうやら、よさそうな場所が見つかったので、そろそろ走り出そうか。

 

土手沿いの道を走ってると、工事現場に出くわす。

警備のヒトに、「この先って、いけます?」と聞いてみると、「ああ、土手の上を行けば? 自転車とか行ってるから」とニッコリ。彼に促されるまま土手にあがり、川沿いの小さな牧場へ向け、牛を目指してトコトコと歩を進め……あ、ダートだ。

こら無理かな?

振り返ってみると、XRにまたがったまま、ぶんぶんと首を横に振っている。

なのでその場でUターン。それでも一応、ダートを確認に行ったナオミさん。

 

振り返った姿が、やけに力ない。こころなしか弱々しく見える。

とにかく、ここで当初の予定である、『牛を見る』のは断念。

そんじゃ、とりあえず戻ろう。

 

つっても、そのまま戻るのはつまらないので、土手下から別の道へ入り、知らない道を探検。

田舎の住宅街をとぼとぼ抜けてゆくと、栄橋のたもとに出た。

「そうだ、さっきの桜を見に行こうか?」

「そうだね」

つわけで、橋は渡らずに進んでゆく……ってほどの距離もなく、

すぐに先ほどの桜ポイントに到着。

 

駐車場にもたくさんの桜が咲いていた。

 

バイクを止めて坂道を登ってゆくと。

地元の町内会かなんかの主催だろう、ちいさな桜祭りをやってる。

「あ! ね、ねぎが安い!」

「買って積んでったらいいじゃんか」

「いや、それは……でも、安いなぁ」

町内会の女性陣が作ったであろうと思われる、チラシ寿司や豚汁、衣料品におまんじゅう、そしてナオミさんの心をわしづかみにした野菜。規模が小さく、それゆえにほほえましい、まさに『地元の祭り』といった風情の中を歩いてゆくと、天辺(てっぺん)に建物があった。

利根町の役場だ。

つまりここは、役場の駐車場なのである。

美事に咲いた桜を堪能したら、祭り会場へ戻って腹ごしらえ。

チラシ寿司と豚汁を買って、隅っこのクルマ止めに座ってふたりで食べる。

「おぉ、なんつーか田舎の味だなぁ。こら美味いや。市販品なんかよりよっぽど美味い」

「わぁ、おねぎがたくさん入ってる……けど、あつい」

「どれ……おお、ホントだ。ネギたっぷりだ。こっちも美味いな」

 

ポカポカ陽気と、美しい桜のもと。

のんびり食事を終えたら、ちょっと会場を見て回ろう。

 

「まんじゅうとか、いろいろ売って……ぬおっ! 赤飯だ!」

「はは、好きだねぇ」

「すいません赤飯くださいふたつ!」

「ふたつで600円です」

「ひとつ450グラムも入ってるぞ。安いなぁ」

「着物とかも売ってるんだね。あ、ほら、インド綿だって」

「お、あのサイケな綿バッグ欲しいな……って3500円か」

「あはは、なかなかいいお値段するねぇ」

 

小さな会場だから、ものの十分もあれば、ひととおり見て回れる。

結局、ネギは買わず、赤飯だけオミヤゲに買って、駐車場へ戻って一服。

カブの車載工具を探したり、ナオミの職場のバイク話を聞いたりしたら、そろそろ走り出そう。

土手沿いの道を、せっかくだから戻らずに反対方向へ。

 

すると、あちこちに桜並木がある。

 

「このへんは、意外と穴場なのかもしれないな」

と思いながら、50キロにも満たない速度でのんびりと走る。

 

んで、いつもの道から戻ろうとすると……はい、また道が途切れてダートになってます。

どうしますか?

ふりかえると、銀色のヘルメットがふるふる横に振られている。

なはは、無理か。

そんじゃもどって別の道を探そう。

俺も他の道はよくわからないので、テキトーにあちこち走り、やがて6号線に出た。

 

「ここからなら道わかるから、先に行っちゃっていいよ?」

「なにをう! 俺はゆっくり走れるんだ! ここまでだって、ぜんぜんすり抜けてないだろ?」

「そういえば、そだね」

「な、やれる子なんだよ俺は」

 

バカ話しながら国道を走り、船取線との分岐に差し掛かったところで思い出す。

「ああ、そういや『メット見たい』つってたっけ」

つわけで分岐を折れ、ライコランドへ。さすがに街中へ入ると多少は混んでくるが、クルマと一緒に走り、停まっても横をすりぬけたりしない。しかもそれが、がんばらなくても自然にできる。「これならナオミと走るのも、ぜんぜん楽勝だな」と満足しながら、16号を渡ってライコランドへ。

ライコでヘルメットや用品を見たら、オモテでタバコをすいながら、

「さて、どうすんべ?」

「ユウヒくんのところ行ってみよう」

「お、乗った!」

その足でユウヒのガレージへ向かう。

 

ガレージに到着すると、ユウヒのほかに、ふたりの若者がいた。

モヒくんとたくまくんと言うその若者たちに挨拶したら、早速、ユウヒの新しいバイクを眺める。

スズキGS1200は油冷エンジンを積んだネオクラシック。古いGSX‐Rみてえな顔をしてるが、マシンとしてはわりと新しい。むかし油冷の1100乗ってたような、俺らの年代を狙った単車だろう。もちろん俺も、ほぼストライク。これでリアサスが一本ショックだったら、迷わず買ってるだろう。

またがらせてもらうと、シートが低いからか、思ったよりポジションはきつくない。

もっとも、俺の場合は手足が短いから、木にへばりついたセミっぽくなるのは否めないが。

 

「買った段階で、ひととおりやってあるから、楽でいいんですよ」

と笑うユウヒの言うとおり、HIDやETCなんかのツーリングに必要そうなものから、FCRやカスタムシートなど走りに振った方まで、装備が充実してる。GSを見たり、モヒ君の組んだグース350を見たり、ガレージにある色んな単車を眺めつつ、バカ話しながら笑ってると、

「かみさん、モヒにカブ乗らせてやってくれません? こいつカブ大好きなんですよ」

「おう、もちろんだ! 俺んじゃねーけど」

つわけで買い出しがてら、モヒくんがカブに乗って、たくまくんと一緒に出かける。

俺らはユウヒと三人で、ガレージの中でバカ話。

ホント、この場所は居心地がいいから危険だ。

「う〜む、ここに住みてぇなぁ」

「毎日だと飽きますよ、きっと」

ゆったりとした時間を満喫。

 

しばらく話し込んだら、さて、ユウヒの邪魔ばっかりしても悪いし、そろそろ出ようか。

柏にむかう途中、いつもの洗車場に立ち寄って、二台まとめて洗車。

ピカピカになったところで、本日のCrazyMarmalade ちっちゃいもん倶楽部は無事に終了。

家を出てから帰るまで、一度もすりぬけをしないという快挙を達成した、実に有意義なショートツーリングだった。カブならナオミと走っても全然ストレスなく、むしろ楽しく走れることがわかったのも収穫だった。ま、牛を見れなかったのは、ちょっと残念だったけど。

暖かくなってきたし、また、ちょいちょいこんなツーリングに出かけよう。

カブでトコトコなら、鼻水たれても問題ないしね。

 

 

家に帰ってから、今度は徒歩で柏公園の桜並木を眺めに行った。

『かみは歩かない』けど、きれいなものを見るためになら、ちょっとだけ歩く。

 

結局、家のそばの桜が、いちばん綺麗だったかも。

 

そんな、おだやかな春の日らしい、のんびりしたお花見ツーリングの話。

 

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