solo run

スーパーカブ110 ご近所散歩

2012.04.04 春風に誘われて

 

この時期は、おそらくヒノキであろう、俺の花粉症が絶好調。

通勤でオモテを走るだけでも、顔面が涙と鼻水で大洪水になる。なので半日仕事が終わってからも、山賊宴会の動画を編集したりしながらヒキコモリ。動画のアップロードも終わったので、さて、それじゃ諦めて帰ろうかと、借りてたカブ110にまたがって、トコトコと走り出した。

「うっわ、今日の天気は最高だなぁ」

鼻声でつぶやきながら、いつもの通勤路を走っていたのだが、どうにもまっすぐ帰る気が起きない。ここんトコ休みのたびに雨だし、晴れても花粉で出たくないしで、家でおとなしくしてることが多かった。走りたい気持ちが高まってるところに、気持ちのいい風。

「鼻水なんか、もう、どうでもいいや。ちょこっとだけ、寄り道して帰ろう」

いつも、ちょっとだけ寄り道するときに走る道へ行ってみた。

が、デカい単車と違って、広い道をすっ飛ばしてもそれほど充実感が得られない。

だいたい、フルブレーキングするほどの速度が出ないのだ。

 

と。

通りがかった公園に、花が咲いている。

「おー、きれーだなぁ」

ながめながら走るうち、気づいたら速度は30キロ。ウラ道で他のクルマが少ないから、思いっきりチンタラ走りながら景色や草木を眺める。静かなエンジン音や、穏やかな天気と相まって、なんだかやけに優しい気持ちになりながら、カブと一緒にトコトコ。

すると、家からさほど遠くない場所で、桜が開きかけていた。

「お、ちっと見てくか」とつぶやいて、カブを路肩へ停める。

ギアが何速に入ってようが気にしないで、ひょいっと停められるのが楽しい

 

写真を撮って走り出すと、すぐまた花の開きかけた並木道に出くわす。

大きいのだったら、さすがに、『走り出して一分で停まる』ことはないだろう。

カブの与えてくれる、『停まることの楽しさ』の新鮮さに驚きながら、ちょっと花が見つかったら、ひょいっと停まって写真を撮る。停めるところがなければ、Uターンして反対車線のあいてる路肩へ。そして写真を撮ったら走り出す、の繰り返し。

そんなのが、やけに楽しくてニヤニヤしてしまう。

まさに、ちょこっと走りのエキスパートだ。

もっともカブってのは、新聞配達みたいに、ゴーストップの多い仕事で使われてるわけだから、こういう使い方がハマるのも、アタリマエといえばアタリマエなんだろう。だが俺は、何かが気になった瞬間に、躊躇(ちゅうちょ)なく停まって写真を撮るのが、こんなに楽しいとは知らなかった。

近いことをやろうとしてみたこともあるけど、ここまで徹底的に停まったことはない。

なんだかんだ言っても、デカい単車でここまでゴーストップしたら、正直かったるい。

 

並木道が終わったので、そのままトコトコ流してると。

目のまえに工事用のクレーン群が見えてきた。

もちろん、いつもなら流してしまう景色だ。

ホントに家の近所の、こんな何でもない風景が、カブに乗っただけで新鮮に思えてくる。俺、四半世紀も単車に乗ってるのに、こんな新鮮な気持ちではしれるとは思わなかったな。と思いながら写真を撮っていると、対向からパトカーがやってくる。

いつもなら構える彼らの姿にも、今日はまったく無反応。

なんたって俺は今、なにひとつ違反をしていないのだ。

 

走り出してすぐ、右手にピンク色の花が咲いた樹を見つけた。

見つけたときにはすでに交差点を曲がり、そちらへ向かって走っている。

桃……だよね? 俺、あんまくわしくないから自信ないけど。

まさに桃色に咲き誇る花で囲まれた公園の景色をしばらく眺め、元きた道を走り出す。

と、今度は竹林を見つけた。

「こんなコトに竹林なんてあったんだ」

さすがにここへ入り込むのは、竹林の持ち主とカブの持ち主の両方から、いいだけ怒られそう。

おとなしく写真だけ撮ったら、さらに散歩を続けよう。

 

また花を見つけて写真に収めていると。

小さな子供をつれた、若いお母さんが通りがかった。

子供がめずらしそうにこっちを見てるので、「こんにちは」とほほえみかけると、ビックリした顔で「こんにちは」と返してくる。お母さんも笑いながら、挨拶を返してくれた。すっかりいいヒトぶった俺は、写真を撮り終えてカブにまたがると、ふたりに手を振って走り出す。

なんとなく思いつきでアチコチ走りながら。

かつてビューエルでも走った、ちょっとした未舗装路に出た。

「ま、そうは言っても、ちょっとはこういうトコロも走っておかないとさ」

誰にイイワケしてんだかわからないセリフをつぶやいて、未舗装路に乗り込む、かみさん42歳。ダートをカブで走るってのは、意外といろんなヒトがやってるから、それなりに走れるんだろうと思ってたのだが、実際に走ってみると、思ったほどじゃなかった

やれなくはないけど、って印象だ。

ま、今回は、新車でサスが硬かったから、てのもあるかも知れないけど。

 

ダートをトコトコ走って。

ひょいと停まって写真。

『ひたすら、ただそれだけ』なのに、ひとりでケタケタ笑いながら走ってるんだから、ハタから見たらちょっとアレなヒトだったろう。俺も今、写真を見ながら冷静に書いてて、「なんであんなに楽しかったんだろう?」と、ちょっとばかり疑問を感じているほどだ。

でも、楽しかったことだけは間違いない。

 

やがて、ゆくてに水たまりが出現する。

いつもなら、まったく何も考えないで普通に突っ込んでゆくところだが、しかし、このカブは俺の単車じゃない上に、納車されたのがほんの数日前なのである。ここでドロだらけにしたら、さすがに可哀想だ。つわけで、その場でUターンをする。

車体が軽くて小さいから、こんな場所でも簡単にUターンできる。

来た道を戻り、またも花や景色を眺めながら、トコトコと家路についた。

 

何年か前、オフロードバイクに乗り出したとき、世界が広がった気がした。

そして今日、カブでちょこっと走ってみたら、また、世界が広がった気がする。

きっと単車の種類だけ世界があり、乗るたびに俺の世界は広がっていくんだろう。

 

そんな風に思えた、午後の短い散歩だった。

 

 

 

 

 

とか、ちょっと感慨にふけってる、

怪しげなおっさん。

 

さて、とりあえず鼻水だらけの顔を、キレイに洗おうか。

 

 

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