solo run

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山国志

2008.08.14 曲がり道特捜隊の結成、そして山陰道へ

 

遅くまで呑んだくれてたので、あっという間に朝が来る。

これが二軒目の全景。すばらしい店だった(間違いなく店ではありません)。

 

気持ちよく眠る俺を

フラが朝から撮影してやがった。

俺の写真はギャランティが発生することをわかってないようだ。

次は法廷で会おう、フラ公。

 

昨日、しこたまウコン飲んでおいたのだが、それ以上にしこたま呑んだくれたので、猛烈な二日酔いにさいなまれていた。フラが苦笑する前で「ぎぼじわりぃ」とつぶやきながら、なかなか起き上がることができない。せっかく早起きしたフラを尻目に、このままの体勢で延々と動かない。

ところがこの日も快晴で、寝てること自体が苦痛になってくる。

なので、仕方なくのこのこ起きだし、フラと一緒に朝飯のバイキングをやっつけながら、今日のルートを考える。フラは夕方までに一宮あたりまで戻らなくてはならない。そして俺は、昨日ゆっくりした分、今日こそは山陰に入っておきたい。その辺を考えながらコースを決めた。

 

多賀から出て一度高速を折り返し、北陸道から敦賀(つるが)へ向かう。

もちろん、高速は俺もフラも大好きなので、ご機嫌にぶっ飛ばす。しびれるような速度で走ったり、時々フラを待ってゆっくりと走ったりしていれば、二日酔いなどあっという間にすっ飛ぶ。これでもかとV-MAXをいじめながら、俺とフラは、笑い声まで聞こえてきそうな笑顔で走った。

敦賀インターに到着。

 

ちょっと走ってコンビニへ入り、ジュースとか飴玉を買う。それにしてもクソ暑い。

ここでマルからメールが入ってた。

「Zとふたりでツーリングに行く」というので、こちらも「フラと走ってるぞ」と返した。

さて、走り出そうか。

 

フラと決めてたルートの基準はただひとつ。『曲がってる道である』コトだけ。

三方五湖レインボーラインは有料なので却下。それじゃぁと国道27号から162号へ乗って、三方湖や世久見湾を眺めながらのワインディングを楽しむ。目指すは舞鶴。大浦半島にある県道21号線だ。マップルにも快走路と書いてあるので、まぁ、 間違いはないだろう。

 

海水浴シーズンで渋滞する27号をすりぬけ、海沿いを走る。

 

やがて、県道21号線に入った。

若狭湾や内浦湾を眺めながらも、道が少しづつくねりはじめると、

 

フラも気合が入ってくる。

 

21号線は、ちょっとタイトなワインディングだ。いくらフラのV-MAXは足の出来がいいとはいえ、クソ重たいマシンには少し苦しいツイスティロードだが、R1000はもちろん余裕でこなしてゆく。ちょっと突っ込みすぎたりしても、あわてずに対処してやれば、まず破綻することはない。

フロントの手ごたえを感じながら進入し、アクセルオン。

冗談みたいに曲がり始めるR1000を、ケタケタ笑いながら操る。このステージにはノーマルの足は少し硬いが、相手がV-MAXだからそんなことは気にしないで、マシンなりに走るだけでバックミラーから消すことができる。三味線ひいて待ってると、後ろから「きょきょっ!」とタイアを泣かす音。

「けけけ。あいつも好きだなぁ。コケたら盛大に笑ってやろう」

なんてニヤつきながら走っていると、海に出たところで道が急に狭くなった。なにやら、この先が続いてるとは思えない状況なのだが、とりあえず単車を停め、一服しながらV-MAXを待つ。やがて、やってきたフラと一緒に、この先のルートを考える。

「とりあえず、行けるトコまで行ってみるか」

「そーすね」

うん、ごめん。これは考えてるとは言わないね。

 

せまっ苦しくなって山の上に消えてゆく細い道を、気合を入れて上ってゆくと。

はい出ました。待ってたんでしょう?

 

R1000でダート、見たかったでしょう?

やるから。

かみはその辺、ビシーっとやるから。

 

とまぁネタ稼ぎはさておき、程なく道が尽きていたので、来た道を戻って途中から別ルートに入る。

大浦半島のくびれたあたりを横断し、もうひとつの21号線に出るコンビニで休憩。

そう、21号線は二本あるのだ。こっちのワインディングは、さっきよりもう少し広くて走りやすかった。太陽がじりじりと照りつける中、俺とフラは大好きなワインディングを 、おなかいっぱいになるまで延々と走り続ける。もう、道が尽きるまで走っていたい。

と思ったら、海水浴場にぶちあたって、本当に道が尽きてた。

水着のお姉ちゃんを眺めながら、ドンつきの駐車場で折り返し、そのまま来た道をまた攻める。

かわいい女の子と海水浴に来てる彼ら。クソ暑いさなか、ヤロウふたりで灼けたアスファルトの上を延々と攻め続ける俺ら。どちらが幸せかは意見がそれぞれだろうが、このときの俺たちに関して言えば、120%幸せだった。三回生まれ変わっても、俺らはこっちの世界を選ぶだろう 。

 

陽が傾きはじめた。

フラと延々攻め続けた『曲がり道特捜隊』も、そろそろお開きの時間だ。もう一度コンビニで軽くダベり、「また曲がった道を走ろうぜ 」と握手を交わしたら、南下して国道27号に出る。T字路を、俺は右へ、フラは左へ。それぞれの道へ単車のノーズを向ける。

夕方から用事だってのに、帰宅に3時間もかかるところまで付き合ってる段階で、フラナガンってのがかなり可哀想なヤツなのは、説明するまでもないだろう。俺は、またフラと走れる日を楽しみに、西へ向かって ひとり、走り出した。

 

と、雨が降ってくる。

雷がごろごろと派手に鳴り、あっという間に土砂降ってきたので、仕舞ってる店舗の前に避難。

折りたたみ椅子を出してゆっくりと一服つけながら、地図を眺めたり携帯で天気を確認したりする。さっきまでフラと走っていたテンションは影を潜め、ひとり旅のとき独特の精神状態になってくる。怒りや焦りとは無縁の、ゆるーっとのんびりした心が、自分でも気持ちいい。

こんな精神と、こんな時間のために、俺はひとりで旅に出るのだ。

 

しばらく待ってると、雨が小降りになってきた。

今晩も野宿なのは決まってるから、雨のしのげる場所を探しながら、あわてずゆっくりと走り出そう。霧雨だったり、時々どばっと降ってきたりと気まぐれな雨さえも、なんだか愛しく思えてくる。「雨、やだなぁ」ではなく、「雨か。涼しくなっていいな」と何でもポジティブに捉えることができるのだ。

やっぱり、ひとり旅ってのはステキだ。

 

丹後半島の根元を横断しながら、淡々と走り続ける。

城崎手前あたりの風景。

 

ここいらへくると、気持ちは完全に日常を離れ、色んなものへの興味が尽きなくなる。

道は濡れているが、シャカリキに飛ばすわけじゃないから、雨のワインディングさえ楽しんで走ることができた。こうなってくると、俺は手がつけられなくなる。いくらでも、どこまででも走っていたくなるのだ。そして目の前には、山口まで延々と続く道。

もう、とまらない。

 

やがて城崎に入った。

県道11号は、晴れていれば絶景のワインディングらしいが、今日はあいにくの空模様。

 

でも、景色は充分に美しい。道はちょっと荒れてるかな。

 

雨も降ったりやんだり。飛ばす気にはなれないから、のんびりと雨のワインディングを走る。

 

やがて、香住あたりだろうか、雨が上がって青空が出てきた。

ちなみにこの香住あたりに香美(かみ)町つーのがある。

うれしくてガンガン走ったら、あっという間に終わってしまった。つーかここは、いずれmarmalade spoonが全国展開する時、兵庫県支部として全町をあげて協力してしかるべき町なはずなのだが、香美町のトンネルの中で、『R1000が真横を向いてコケかける事件 』が発生する。

あの縦溝の入ったコンクリのトンネルはいただけない。香美町の猛省を期待する。

 

そうこうするうち、鳥取県に入った。

同時に道を間違って、なんかマイナーな埠頭に出てしまったので、ここで一服。

雨は完全に上がり、空が気持ちよく晴れ上がっている……ように見えるだろうが、気持ちいいもクソも、直射日光がじりじりと全身を灼(や)き、正直、暑くて暑くて 『何がどうでも関係ない』状態に陥っていた。それでもイライラするわけじゃないのが、ひとりの旅のいいところ。

怒ったって、なんも解決しないからね。

 

景色がいいと、時々とまって眺める。

 

空と海が抜群のコントラストで、俺の鳥取入りを歓迎してくれる。

 

まーっすぐな道。これも気持ちいいね。

 

やがて。

鳥取砂丘に出る。太陽光線が絶妙に美しい。

砂丘を横目に走りながら、「今日はどこで寝ようか」なんて考えるのだが、とにかく走ってるのが楽しくて気持ちよくて、どうも真剣に考えられない。とりあえず、「眺めのいい場所を見つけるか、身体が悲鳴を上げたら走るのをやめよう」と決めて、海沿いの山陰道、国道9号線を西走る。

途中、俺の好きなラーメン屋があったので入った。

チェーンなんだけど、やぱり店店で味が違うね。ここのはちょっとさっぱり過ぎた。

 

大山町あたりのコンビニで一服。陽がずいぶんと翳り始めた。

 

海沿いを走ってきた9号線は、米子あたりで内陸に入る。

さらに山陰道という高速の無料区間があるので、そこへ乗って一気に距離を稼いだ。米子西から20kmほど一気にぶっ飛ばし、無料区間の終わる松江玉造で降りる。なんか途中で赤く光った車がいたけど、よく見てなかったので覚えてない。 アレ、なんだろう? 電飾かな?

んで、降りたらまた下道を走る。

高速はしばらく眺めがアレだったのだが、出たところが宍道湖の湖畔で、すばらしい眺めが広がる。

すると、ちょうど道の駅があったので入ってみたら。

 

大正解。

美しい夕日と芝生に、テントを持ってこなかったことを後悔する。

いや、ごろ寝したっていいんだけど、これだけきれいな芝生なら、やっぱテント張りたいじゃん?

絶対、酒うまいし。

 

刻々と表情を変える湖上の夕日に、立ち尽くして見とれてしまう。

 

もう、今日の寝る場所はここに決定だな。

 

なんて思っていたのだが、やがて日が完全に落ちてしまうと、当たり前のことなんだがいたって普通の道の駅なので、面白くもなんともない。それに酒も買ってなけりゃ、精神的にもまだまだテンションは高いままだ。真っ暗になった道の駅でしばらく考えた後、荷物は解かずに走り出した。

夜だし、追いかけっこは一日一回で済ませたいところなので、おとなしく走る。

出雲の南、キララビーチを横目に見ながら、夜の島根を走るのだが、予想以上に車が多い。お盆の入りだからある程度は混むかもと思ってはいたが、あの『裏高速』の呼び声も高い国道9号線が、まさかこんなに混むとは思わなかった。恐るべし里帰りパワー。

 

やがて9号線はひたすらワインディングになる。

すいていれば気持ちのいい道なのだが、混んでる上に夜だから、ただの『車を抜かしづらい道』でしかない。短いストレートでごぼう抜きにしたあと、ぐねぐねと節操なく曲がる国道の少ないパッシングポイントを有効に使って、ひたすらポジションをあげることに専念する。ちょっとした耐久レースだ。

ブレーキ、ターンイン、アクセルオンで二次旋回、立ち上がって短い直線。またブレーキ。

淡々と、しかし充分に楽しんで走る。時々、「俺は今日、一日中こんなことをしてるのに、なんでまだ楽しいんだろう? もしかしたら、ちょっと頭がアレなのかなぁ」と不安になりながらも、楽しいもんは仕方ないので、 ウキウキしながら夜の峠越えを何度もこなす。

やがて。

江津(ごうつ)あたりのスタンド兼コンビニで、給油と休憩をしつつ、携帯を取り出す。

明日あいてるという山口の凸(デコ)ちゃんからだったので、今晩中に島根の浜田市にある道の駅『ゆうひパーク三隅』に入ろうと思ってる旨を伝える。すると、「明日の朝、待ち合わせて走ろう 」という運びになった。当然、俺の方に異存があるはずもなく、むしろ大歓迎で話を進める。

多少なりとも飽きてきていたワインディングが、その話一発でまた楽しくなった。

 

やがてワインディングも終わり、9号線は途中で二手に分かれて片方が自動車専用道路になる。距離を稼ぐにはもってこいなので、これに乗って一気に南下する。 ちなみに無料区間だ。浜田ジャンクションで降りてまた9号を進み、目的の道の駅「ゆうひパーク三隅」へ、あっという間に到着。

とはいえ、この時点で夜の10:00を回っている。

結局、朝、フラ公と走り始めてから13時間以上、タバコと給油の休憩だけで延々と走ったわけだ。我ながらトコトン頭悪いなぁと思うが、こればっかりは止められない。つーか、俺のレポなんて読んでるやつは、多かれ少なかれその傾向があるに違いないから、むしろ自慢していいのか。

どーだ? うらやましいだろう? 今、これを書いてる俺も、このときの俺がうらやましいよ。

 

つわけで、今夜の寝床を製作。

つってもマット敷いて、お泊りグッズを広げて、虫除けキャンドルを焚けば完成だ。

 

途中のコンビニで買い込んでおいたビールを開けたら、さぁ、ひとり楽しい宴会の始まりだ。

ゆっくりと酒を呑み、今日走った道に思いを馳せ、明日会う初見の単車乗りに期待を膨らませ。月を眺めて、小さな声で歌い、mixiやブログを更新して、また酒を呑む。穏やかな、やさしい時間が、頭上を通り過ぎてゆくのが見えるようだ。そしてなんとなく、思う。

「ああ、帰ってきたな」

今年もまた、こんな時間を持てたことを感謝しながら。

夜が更けるなか、俺はひとりで酒を呑む。

 

これが、俺のひとり旅の醍醐味だ。

 

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