solo run

一日日 二日目 三日目 四日目 五日目 六日目 七日目 八日目 九日目

 

山国志

2008.08.20 周防(すおう)の国の三豪傑 その二

 

午前中、休みを取って付き合ってくれたN父に挨拶し、さて、山口に向かうわけだが。

Nがヘルメットを取り出して、なにやらニコニコしている。朝、食卓に新幹線の時刻表が乗っていたから、てっきり新幹線で山口に向かうもんだと思っていた俺は、ものすげぇ嫌な予感つーか、むしろほぼ確定だろうNの心積もりを、恐る恐る確認してみた。

「え〜と、やっぱりR1000の後ろに乗るつもりですか?」

微笑んだままヘルメットを掲げるNさん。なにその満面の笑み。SSのケツに乗るって暴挙の意味を、確実に理解してないな、こいつ。がっくりと肩を落とした俺は、荷物を積んでNも積んで、走り出すだけと言う状態になってもまだあきらめず、あえてN父の前でもう一度、説得を試みる。

「まだ間に合うぞ? 新幹線、快適だぞ?」

「出発進行!」

聞いちゃいない。

仕方なく、俺は肩をおとしたまま、R1000を走らせた。

 

怖がってんだか、喜んでんだか、この段階では判別できなかった。

なんか道を間違って都市高速に乗っちゃったので、そのまま北上して香椎あたりで降り、国道三号線をさらに北上して、古賀からから九州自動車道に乗った。

古賀インターの入り口……だと思う。

こっから山口まで行くわけで、俺ひとりなら2時間いらない距離だと思うが、いかんせん、『莫大な荷物』を背負ってるので、ちっとも速度が出せない。その上、高いポジションのタンデムシートは、タンデマーとライダーの両方に想像以上の負荷を与えると、下道を走ってる段階で気づいていた。

なので、ヘルメットとジャケットをNに着させ、俺はTシャツにジェッペルでR1000と言う体たらく。

風は皮膚を容赦なくたたき、ジェッペルを浮き上がらせる。

「ハヤブサだったら、Tシャツどころか半裸でも楽勝なんだけどなぁ」

と埒もないことを考えながら、ひたすら距離を稼ぐことに専念。だが、よく言えばクイックな、悪く言えば落ち着きのないR1000のハンドリングで、しかも、とんでもなく高い位置にクソ重たい荷物が載ってるわけで、とにかくフラフラ、フラフラと直線でさえ疲れる。

もちろん、後ろのNも相当しんどかったようで、ほうほうの体でドルフィー家にたどり着いた直後、タンデムシートから降りるなり、くたくたと座り込んでしまった。本当だったら、ドル家のインターホンを鳴らして「来ちゃった」って往年の島田伸介のギャグをやらせようと思ってたのに。

「ホントごめんなさい。もう、タンデムするとか言いません」

うむ、猛省を期待する。

 

迎えに出たドルが、

「かみさん、どうします?」言うので、

「呑もう!」と、昼日中からステキなプランを提案する。

すると、ドルのヤツはにやりと笑って、「俺、今回初めて、次の日が休みで呑めるんですよ。今日は呑みますよー!」とうれしい返事を返してきた。ホント、こいつは気持ちのいいバカだぜ。おっしゃ、んじゃ、ガッチリ呑むべ。

ドル家のギミック。格納式屋根つきのベランダで、今日はバーベキューだ。

 

わずかな日陰に逃げ込んで、早速一杯やってるNとドル。

昼間っから、ダメ人間この上ないと言ったところか。

え? 俺?

 

もちろん、真っ先に呑んでるさ。当たり前じゃないか。

 

ブーツとかヘルメットとかグローブとか、におい的にマイナスのアドバンテージを背負ってるヤツラには、もちろん、四国で買った魔法のクスリ、ファブリーズをぶっかけて天日干し。 焼け石に水の感も、ないではない。コインランドリーで洗っときゃよかった。

 

肉と野菜を焼きながら、ガンガン飲もうじゃないか。

 

もちろん、喰う。そして、呑む。

と。

なにやらばるんばるんと、排気音が聞こえる。なんだろうと見てみると、どうやら初心者と言った風情のクルーザが、坂道発進の練習をしてた。それほどやかましいわけじゃないし、むしろほほえましく見守りながら、そんなことはどうでも良いからドル、酒よこせてな感じ。

昨日の酒が残ってる上に、今日のビールを上書きして、ドル家のベランダで心地よい風に吹かれながらご機嫌に酔っ払ってたら、いつの間にかオチてた。なんかNも家の中でオチてたらしいが、俺の方が先にとっととくたばったので、よくは知らない。

 

起きたら日が暮れてたので、もちろん、そのまま宴会を再開する。

ドルの後輩オッチーが、リュックに24本入りのビールケースを担いで持ってきてくれたので、酒の切れる心配もなく、全速力で楽しく飲める。ドルやオッチーとバカ話しながら、やつらの仕事がらみの面白い話を聞きながら、まさに、宴もたけなわ。

やがてドル嫁のJちゃんが帰ってきたので、「それじゃぁ治療してやらなきゃなぁ」なんて思ってると、またもどるんどるんとエンジン音が聞こえる。「さっきのヤツか、それにしても熱心だなぁ」なんて感心してると、様子を見に行ったJちゃんが、ケタケタと笑ってる。

なんだ? といぶかしむ俺らに向かってJちゃん、「凸(デコ)さんが来たよ」

昼間酔っ払った俺が、いつものように携帯で、「デコ、今日は何時ころくるんだ?」と言ってた時は「無理ですよー! 残念ですが、今日はいけません」なんつってたくせに、なんだかんだ仕事に折り合いをつけて、ニコニコしながらやってきやがったのだ。

もちろん、俺はこういうのが大好きなので

「おぉ、デコ! おめ、バッカだなぁ」

とご機嫌の大笑い。

左からデコ、Jちゃんに抱きついてる俺、治療されて妙な声を上げてるJちゃん、ドル、オッチ−。

 

夜だけど、一軒家で隣にはまだ人が入ってなく、相当騒いでも大丈夫と言うステキな場所。

今後、中国四国、九州あたりを走るときは、絶好のキャンプ地になるだろう。家主がなんと言おうが、実際の実力者であり、むしろ独裁者であるJちゃんの心は、マッサージでガッチリキャッチしてるからね。何の心配も要らないって話だ。

家庭もちの単車乗りと付き合うなら、まずは嫁の心をキャッチですよ、ホント。

 

モザイクはかかってるけど、どいつもこいつも最高の笑顔なのは、たぶん、伝わるだろう。

 

仲良し夫婦、ドルフィーとJちゃん。

ま、これからも度々(たびたび)世話になると思うんで、そこんとこヨロシク。

 

笑いが途切れることのない最高に楽しい宴会に、みんなの酒が進んでゆく。

と。

シュコー!

自転車の滑走するような音が聞こえて、思わずみんな、そっちを振り返った。俺は背中を向けていたので、身体をひねるようにしながら見たのだが、その自転車らしき人影は、なにやら白いヘルメットをかぶっている。「なんだ?」と思ってよく見る前に、突然、ドルフィーが爆笑した。

「ぎゃははははっ! ゆっちょむだー!」

 

「行けません」とかほざいてた、山口最強にして最大のキチガイ、ゆっちょむがやってきた。

 

そうとなれば、もちろん俺も大ご機嫌の絶好調!

中だるみさえしないほど盛り上がってた宴会は、ゆっちょの登場でさらにヒートアップ。もう、手がつけられない状態になってゆく。呑む、しゃべる、騒ぐ、俺の大好きな、至福の時間が流れてゆく。「夜中からまた仕事に行く」と言うJちゃんが寝た後も、残った俺たちは大騒ぎ。

が、やがて夜風が肌寒くなってきた。

 

家に入ろうと言う話の流れに、時間も遅いからデコ、ゆっちょ、オッチーの三人は帰る運び。

サプライズうれしかったぜ、ゆっちょむ。こんだ、柏で呑もう!

 

左のオッチー、楽しい時間をありがとう。またそっちに行ったときは、ぜひ呑もう。

んで、デコ。さんきゅな? これないって思ってたから、ホントうれしかったよ。つーか山口の連中は、みんな気持ちの良いやつばっかりだ。新築の家にこんな薄汚い男を上げて喜んでるドルも、ビール担いでやってくるオッチーも、来れないつっててサプライズかますデコやゆっちょむも。

おめーらみんな、俺は大好きだよ。

本当にバカだけど、な。

 

二人を見送り、俺とドル、Nの三人はドル家の中に入る。

なにこのくつろぎっぷり。すでに自分ち状態だ。

 

珍しく、ドルも呑みまくってる。

 

「仕事だ」と起きだして来たJちゃん、ご苦労様。また行ったときは、治療すっからね。

 

ガキと大人が、バカと真面目が、鍛えられたでかい身体に両立されてる、熱い男、ドルフィー。

穏やかな中に熱い心を持ち、微笑みながら辛らつな突込みをする、気持ちの良い男、デコ。

タダのバカ。最高のバカ。明日のことなんて知るかと、冗談と気合で熱く突っ走る男、ゆっちょむ。

 

山口の三豪傑にもらった、最高にステキな時間を反芻しながら、俺は布団をかぶった。

 

旅もそろそろ終わり。

明日はここから、神奈川県は厚木まで一気に走る。

 

<<七日目へ

九日目へ>>

index

inserted by FC2 system