solo run

in 鹿島灘〜筑波山

2009.01.06 走り初め

 

藤木源之助が、虎眼流の免許皆伝を与えられるシーンに、こんな言葉がある。

『もし奪わんと欲すれば、まずは与えるべし。もし弱めんと欲すれば、まずは強めるべし。もし縮めんと欲すれば、まずは伸ばすべし。而(しこう)して、もし開かんと欲すれば、まずは蓋をすべし』

たわんだ弓が矢を放つように、チカラを溜めて解き放てば、それは神速を生む。

なんのこっちゃ判らんと思うが、要するに、正月から晴れた気持ちの良い天気が続いてるのに、風邪で寝込んでいたので、俺の『走りに行きたいぜ魂』は充分にたわめられていたのだ。発射寸前の矢のごとく、風邪が治るその時を持ってた。で、ようやく元気になったので走ってきた。

俺のやる気を水面に映したかのごとく、雲ひとつなく晴れ渡る青空。

とは言え、病み上がりってのは隠しようもなく、起きたのは10時ころだったか。そこから朝飯を食い、昨日GO!!!君にもらったDVDを見たりしながら、ドコに行こうかなぁと考えつつ、ゆるゆると準備にかかる。あわてて朝から出ても、通勤ラッシュに巻き込まれるのが関の山だからね。

 

12時ころ準備を済ませてケーロクをまたぐと、俺はゆっくりと走り出した。

とりあえず霞ヶ浦あたりでも流そうかと考えて、混んでる国道を避けて裏を抜け『道の駅しょうなん』の方から県8、国6とつないで、いつもの利根水郷ラインへ乗る。水郷ラインもそこそこ混んでたので栄橋から茨城側に渡って、土手沿いの道に出たところで、タバコを一本。

土手沿いつーか、ココは『土手上』だ。

 

左が土手沿いの車道。土手上もこの辺は車両通行禁止ではないようだ。よく知らないけど。

『1/6の夢旅人』なんかを口ずさみながら土手の上を走っていると、牛が放牧されている。

のんきな牛とのんきな雲が、やけに穏やかな、いい雰囲気を作っている。

 

いろいろとやる気がなさそう。

 

150くらいで流しながら土手を走り、国道51号へ乗る。

おなじみ、銀星とはじめて会ったコンビニ、通称『銀コン』で一服してるうちに、霞ヶ浦を走るよりも「なんだか海が見てぇ」と思ったので、鹿島灘を目指すことにした。トイレに入ろうと途中のコンビニへ寄ると、ヤンキー母さんとヤンキー女子中学生が、タバコを吸っている光景に出くわす。

ひと組ならさほど珍しくもないのだが、三組ぐらい(全部別々)いたのが圧巻だった。さすが『珍走団の生産高、全国第一位』と言われる茨城県だけのことはある。そろそろ、絶滅危惧種の保護観察地区に指定されてもいいと思うのだが。どうだろう、環境省?

 

仲良しヤンキー親子の群れに、心の中で別れを告げると、そのまま51号を走って鹿島灘へ。

『鹿島とっぷさんて』あたりから、鹿島灘へ出た。

 

この空と、この海。やっぱり海に来てよかった。

 

年取った夫婦が仲良く海を散歩していたが、これもやっぱりヤンキー風もしくは本職風だった。

 

コンビニで買った缶コーヒーを取り出し、海岸に座ってタバコを吸いながら、しばらく海を眺める。

冷たく透き通った冬の空気と、誰もいない海岸。暖かく照る太陽。波の音。海と空の蒼(あお)。年末年始と呑んだくれ続け、風邪までひいてよれよれだった身体が、冷たく心地よい風に吹かれて洗われてゆくようだ。大きく伸びをひとつして、「あぁ、気持ちいいなぁ」とつぶやく。

タバコの煙を吐き出してから、地図を眺める。

出た時間が遅いから、この段階で2時手前くらいだ。美しい景色と、心地よいツーリングは充分に堪能できたから、ココからはやはり曲がった道も楽しみたいのが人情。なので大洗から海岸線を抜けるルートはやめ、北浦と霞ヶ浦を掠めて国道354を西行し、土浦を目指すことにする。

そう、次の目的地はホーム、筑波山だ。

 

結構広くて、そこそこ曲がってて、なおかつクルマ通りの少ない354をご機嫌にぶっ飛ばす。

北浦は穏やかに澄んでいる。

鹿行大橋を渡って霞ヶ浦へでると、そのまま354を突っ走る。

少しづつ、道が混み始めてきたようだ。

354沿いの道の駅「たまつくり」でトイレ。コーヒーはトイレが近くなるね。

6号に向かって混み始めた354をバシバシすり抜けて、国道125号から土浦北インターの脇を抜けたら、いつものコースで不動峠を目指す。さすがに平日だけあってクルマが少ない。途中でガソリンを入れ、さぁ、カマボコを乗り越えながら筑波山を登ろう。

 

いつもの休憩所でいったんクールダウン。

ふだんなら『コケないためのおまじない』で、ふもとのコンビニに寄るのだが、今日は寄らなかった。なので「その分、いっそう気持ちを引き締めて走ろう」と自戒しつつ、ことさらゆっくりとタバコを吸う。

単車は一台もいなかったが、それっぽいクルマは結構いた。

さて、それじゃイッパツ走ろうか。

 

登りの前半は、西日がまぶしくて走りづらい。

減速帯をリズミカルに抜けたら、道の様子を見ながら60%くらいのペースで走る。筑波に来るまでのあいだ、さんざ走ってきて354あたりでは高速コーナーも低速コーナーもあったので、タイアの方は準備ができてるようだ。めたっ、と吸い付くようにグリップし、転ぶ気配がない。

ぐぐぐっと奥まで曲がりこむ左コーナーあたりから、自然と速度が上がってしまう。

後ろに誰かいるときは、それでも我慢して一本目はゆっくり走るのだが、今日は自分ひとりなので、ついついその辺の自制が甘くなるようだ。もっとも昼もあらかた過ぎて車も結構走ってるから、道が凍ってることはまずないだろう。気をつけながら、も少しだけスピードアップ。

反対側の駐車場を過ぎ、風返し手前のUターンポイントを折り返したら。

よーし、行こう!

 

西日がキツくて先がまるっきり見えないところだけ充分に減速し、それ以外の部分は80%かそれ以上で攻めはじめた。この間よりも路面のギャップを感じるのは、少し慎重になってるからだろうか。ステップを擦りだしたので少しだけケツを落とし、ケーロクをひらひらと躍らせる。

左コーナーの雑草が枯れ落ちていて、ガードレールがよく見える。カットインして旋回に移ると、実際はともかくイメージではガードレールにメットを擦るようなイキオイでクリップをかすめ、反対車線へは余裕をもって立ち上がる。すぐに次の右だ。切り返して左足に引っ掛けた車体を右足で曲げる。

次の左の進入でアウトになるよう、そのままインベタで立ち上がる。

左を抜けたら長いストレートだ。アクセルをひねり上げ、エンジン音を心地よく聞きながら、3速へシフトアップ。全開。橋を渡るゆるい左は、アクセルオフだけで減速しながら先を確認。立ち上がりはまたインベタ。キツい右へ向かってブレーキング。リリースしてカットイン。

うん、ケーロクは今日も言うことを聞いてくれる。

楽しい。

 

そのまま谷側でUターン。

西日に目を細めながら、陰になっている部分を攻める。他に走ってるクルマや単車がいないので、逆に手拍子で走ってしまわないよう、操作を確認しながら走ってみたり。後ろに乗りすぎるより、少し前乗りに近い方がいいかも。つーか今までがムキになって後ろに乗りすぎてたのかな。

そんな風に走ってると、あっという間に反対側へ到着。

Uターンポイントまで行かず、山側の休憩所に入ってタバコに火をつけた。

 

筑波山を眺めつつ、はやる気持ちを抑えてタバコをゆっくり灰にしたら、さて、もう少し走ろう。

 

下りは西日が少ないので、自然と攻めっ気が出る。

途中で立ちションだかするためにコーナー出口で停まっていたクルマに出くわし、いったん車体を起こしてよけてから、改めてバンキング。こんな動作も流れるように決まるので、楽しくて仕方ない。もう一度向こう端まで行ってUターンし、また登り始めたところで、黄色いスポーツカーに追いついた。

すると、向こうのエンジン音が、明らかに高くなる。

「お、スキモノだな」

思いながら、気を引き締めて後ろにつく。減速帯でも結構な速度のまま行くので、車体がウインウイン揺れているのを見ながら、こちらは流されずにしっかり減速。ヒュンと右へ消える車体を目の端に入れたまま、こちらもようやくカットイン。スナッチで立ち上がり、左へ消える姿を追う。

しばらく走って左のゆるい下りから右へ切り返して登るちょっと開けた場所で、一気に差をつめた。ピタリとつけてバックミラーを見るが、こちらを見てる様子もない。なので、いきなりブレーキングされてオカマ掘らないよう、充分に意識しつつ、ハイビームベタづけ。

長い直線で一気にフル加速して前に出る。

ストレートエンドで一瞬ミラーを見ると、思ったより距離が離れていた。

「つっても、こっちは向こうほど速く曲がれないから、ブレーキングで追いつかれるだろうな」

なんてわりと冷静な自分に、ちょっと驚きながら右コーナーへ。ギャップを拾って暴れるケーロクをなだめながら左の登り。もう、後ろを見る余裕はない。右左、右左、ひとりの時よりも速度を上げて攻めゆくと、軽い緊張で心臓がドキドキ言いはじめる。

「ココのだらだら長い左は得意なんだよね」

つぶやきながらアクセルを開けてゆき、先が開けたところで、さっきブチ抜いたときよりもさらにエンジンを引っ張って加速。ゆるい右もほとんど減速しないでケツを落としたまま入り、次の左の手前で一気にブレーキ。すぐに離して左へ倒し、ぐるんと曲がって立ち上がり。

おっと、軽くフロントが浮いた。「ありゃ、ちょっとハシャギすぎか」と思いながら、右左右とS字を描いたあと左へ大きく曲がる。突っ込みすぎたようで、パーシャルよりアクセルオフ気味になりながら、顔を出口へ向けて曲げる。よし、大丈夫だ。行けっ! かみ! 行けっ!

 

Uターンポイントで、左の路側帯に停める。

それからミラーを見ると、5秒ほど遅れて黄色いスポーツカーの姿が見えた。

パッパン!

ホーンの音に、こちらも満面の笑みで手を振ってお別れ。メットかぶってるから笑顔は見えなかっただろうけど、「ありがとう! 楽しかったよ!」って気持ちは間違いなく伝わったと思う。じっとりとかいた汗さえも気持ちがいいと思えるくらい、爽快な走りだった。

 

もうお腹いっぱいだったので、帰りは流し目で走る。

そのままパープルを出て、カマボコ道を下りながら、俺はもう一度ヘルメットの中で笑った。

こんな一期一会ってのも、悪くない。

 

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