solo run

in 柏〜手賀沼周辺

2009.09.05 時は動き出す

 

仕事がはねると、着替えるのももどかしく足を引きずってXR100の元へ。

右側に立って左足をキックペダルに掛け、右ひざの痛みに耐えながらキックを踏みおろす。二度、三度とかからぬたびに軽く悲鳴を上げつつ、それでも四度目、ストトトッと小気味のよい音を立ててエンジンが目を覚ました。ゆっくりと左に回ってXRをまたぐと、赤男爵へ向けて走り出す。

今日は入院してたエスエル(SL230)が帰って来るのだ。

いったん家に戻り、Nを乗せて16号へ。XRのエンジンはふたりを乗せてちょっと不満の声を漏らしながらも、ホンダらしい従順さで16号をけなげに走る。と、右を走っていたビッグスクータのオッサンが突然、ウインカーも出さずに前へ割り込んだ。

それでもエスエルが帰ってくるので機嫌がいいのか、そんなに腹も立たない

信号待ちで横についたときにジロリとそちらを見るが、まるっきり気づいてないようなので、きっと悪気は無かったんだろうと好意的に解釈し、青信号とともにそのまま抜き去って一気に赤男爵。XRを停めて降りると、店長がいたので「バイク取りに来ました」と伝える。

しばらく待っていると、やがてエレベータに乗ってエスエルが降りてきた。

 

挨拶をしてエスエルをまたぐと、Nとともに赤男爵の裏手に出る。

そこで走り出した瞬間、妙な違和感を感じた。どうやら派手に転倒したためにフロントホイールのアライメントが狂っているんじゃないだろうか。ちょっと大き目の道に出たところで、いったん道の端にエスエルを停めると、後ろから来てるNに振り向いて肩をすくめる。

「なにやらイロイロとひん曲がってる風のフィーリングだ」

「そう言えば、スタッフもそんなこと言ってた」

クスリと笑うNにもう一度肩をすくめて見せると

「どっかでご飯食べよう」

「この先に食堂があったよね。あそこに行ってみようよ」

つわけで仲良く走り出し、すぐ近くにある柏大井食堂へ。

まいどおおきに食堂グループのフランチャイズ店なんだが、思ったよりおいしかった。

 

一品100円前後、高くて2〜300円のおかずをお盆に取り、最後にご飯を買ってから清算する、讃岐うどんとかドライブインでよく見るシステムだ。俺みたいにがっついてて目で買い物をしちゃう人間にはあまりよろしくないシステム。少なくとも酔っ払って行っちゃいけない。

もっとも、今日はエスエルに乗る方が大事だから、アホほどは喰わなかったけど。

 

ふたり分で1700円くらいだったかな。

値段に比して味はおいしいと思うが、味付けはちょっと濃い目。濃いのが苦手なNは、途中でギブアップしてた。ま、16号からすぐという立地から想像するに、基本的にはトラックドライバーさんとか、ガッチリ食う人向けの店なんだろう。もう一回くらい来てもいいかな。

 

メシ喰ったあと、どこかに走りに行こうかと言うと、Nさん。サラッと「洗車」おっしゃる。

なのでいつもケモの後に洗車しに行くコイン洗車場へ。いつもはたいがい水曜の午後とか、仕事が終わった夜に行くのでガラガラなんんだが、今日は土曜の午後とあって結構混んでいた。「せっかくの休みに、ほかにやることねーのかよ」と、てめぇを棚に上げて毒づきながら洗車場へ入る。

と言っても、俺は足を引きずってる状態なので、洗車なんか別にしたくも無い。

「じゃ、あたしがやるよ」

Nさんの申し出にありがたく乗っかって、俺はエスエルから離れてタバコを吸いに行く。

洗車するぜオーラ満載のNさん。かみ製ヒップバッグがステキ。

 

がんばるNさんを、遠くで一服しながら温かく見守る。

しばらくすると、Nさんが微妙な苦笑を浮かべながらこちらへ戻ってきた。

「どーした?」

「なんかね、洗剤だけで終わっちゃった」

うん、それはあなたが『洗剤のみ』のボタンを押したからだよ。

 

なんとか無事に洗車も終わり、一服つけて少し話た後、Nさんとはここでサヨナラ。

綺麗になったエスエルをまたいで、当てもなく走り始める。

それこそ最初は、「リベンジがてら筑波あたりまで足を伸ばしてやろう」とも思ったのだが、とりあえず『俺の身体が何時間耐えられるのか』がカイモクわからない。なので、近くにある道の駅『しょうなん』に向かいながら、その時の道路状況の応じて適当に走ることにする。

走りながら、アクセルを軽くスナッチして、ぐん! と車体が押し出される感覚を楽しむ。

ギア比をケモ用のローギアードに設定したままだから、20馬力のエンジンでも低速からグイグイ押し出されるのだ。信号待ちからスタートする時に、アクセルをあおってクラッチをスコンとつなぎ、軽くフロントリフト。リアブレーキをロックしてテールスライド。うん、大丈夫。忘れてない。

普段、毎日毎日単車に乗っているから、二ヶ月も乗らないで居るとイロイロ不安になる。

XRが悪いわけじゃないが乗るにはイージィ過ぎて、その辺がどうなのか不安だった。でも、エスエルで遊びながら、感覚が戻ってくるのを実感して、なんだか妙に嬉しくなる。同時に、「早くケーロクに乗りてぇ」と言う気持ちが湧き上がってきた。エスエルはやっぱり、悪路で遊びたい。

 

と、俺の脇をV−MAXが抜けてゆく。

とたんに「シシシシシッ」とケンケンのような笑いが、俺の口から漏れた。『しょうなん』からほど近い、軽くツイストした広めの道。相手はかつて愛し狂ったV−MAX。心には、ずっと溜め込まれていた『単車に乗りたいんだこのヤロウ』と言う気持ち。そして好天に心地よい風。

コレだけのロケーションで知らん振りしたら、セッティングしてくれた神様に悪い。

ぶろろろろろ!

エスエルのくぐもった排気音が高くなり、口元はニヤケが止まらない。

後ろにつけた瞬間、V−MAXの排気音がちょっと上がった。とたんにぐいっと車間が開く。シシシシ、そうこなくちゃ! エスエルのアクセルは目一杯。それでもローギアードが災いして、速度はまだ70にも満たない。V−MAXはそのまま俺を引き離し、最初の直線の終わりに近づく。

V−MAXのブレーキランプがついた瞬間、彼我の距離が一気に縮まる。

もちろん、こちらがブレーキをかけてないからだ。速度そのものはケーロクで走るのに比べれば眠ってるようなもの。このままの速度だって曲がれることは知っている。あとはエスエルがついてこれるのか、それだけを探りながら走ればいい。フロントのアライメント? 知ったことか。

アタマを内側にふって、身体ごとエスエルを曲げる。

向こうがどっかり座ってるんだ。こっちだってヤボな格好じゃ曲がれない。あくまでリーンウィズで、涼しい顔をしたまま(内心はともかく)V−MAXが直線で得たアドバンテージを一気に喰う。立ち上がりに向こうのミラーを見ると、スモークシールドのヘルメットが、こっちを見たような気がした。

「どうだい? 結構ヤルだろう?」

とたん、V−MAXが更に容赦なく加速する。

「はははっ、ごめん。それはさすがにムリだよ」

俺は半ヘルにサングラスの口元を、ニヤリとゆがめて苦笑する。

直線の終わり、今度はちょっと曲がりがキツめなので、さすがにブレーキを舐めてから左に身体を投げ込む。ガリっというステップの擦れる音を小気味よく聞き、目はV−MAXのテールを見つめる。さっきみたいにカマ掘るほどは近づけないが、それでもまた距離をつぶした。

二三度、そんなテールトゥノーズを繰り返したが、ここは峠じゃない。

やがて道がまっすぐになり、V−MAXはそのまま加速する。さすがにもう、距離をつめるのはムリだ。俺は肩をすくめて苦笑しつつ、それでも楽しい時間をくれた彼に手を上げて挨拶をする。見えたか見えてないかはわからないが、V−MAXは野太い排気音とともに信号の向こうへ姿を消した。

 

思いがけず楽しい時間を過ごしたが、ここらで脚とケツが痛くなってきた。

脚もそうだが、長く寝ていたので右のケツの筋肉も落っこちているのだ。それでも俺はずいぶんと満足して、手賀沼周辺をちんたらと走りつつ家路に着く。途中で「そう言えば、ちっとも写真を撮ってないな」と気づいて、家のそば寸前でエスエルを停め、カメラを取り出す。

家から二三キロの、なんてことない普通の道。

だけど、ほんの一週間前までは、家から出られなかったのだ。今の俺にとっては、世界中のどんな風光明媚な景色より、美しくて意味のある眺めだ。ツーリング先で眺める美しい景色。俺にとってその美しさの半分以上は、『ともに単車がある』と言うことが大切なんだと、改めて思い知る。

「やっぱり……たのしいなぁ」

駐輪場にエスエルを入れ、ここ数日じゃイチバン痛くなった膝もケツも気にならず、俺はひどく満たされた気分でゆっくりとため息をついた。時間にしてたかだか一時間弱の短い走りだったが、溜まっていたストレスをすっ飛ばすには充分な走りだった。やっぱ、単車は最高だ。

 

つわけで、とりあえず、ただいま。

すいぶんと時間がかかったけど、『ダチと単車が傍らにある、ステキな風景』を見るために。

俺はまた帰ってきたよ。

 

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