solo run

in 沼南

2009.09.09 砥ぎ出す

 

ジーンズを履いてロンTを着たら、数ヶ月ぶりに革ジャンへ袖を通す。

口元がゆるむ。

右の膝を軽く叩いてからICONのブーツを履いて、X−Elevenをかぶりグローヴをつける。もう一度脚を確かめてゆっくりとドアを開け、足を引き摺りながら愛機の前まで歩いてゆき、まずは先々月に購入したホンダのシートバッグを取り付ける。それからキーを差し込み、ハンドルロックを解く。

大きく深呼吸。

まだ眠ったままのケーロクを押し歩き、駐輪場の段差を慎重に道路まで下ろす。無事に道路まで下ろしたところでスタンドを掛け、そっと右足を上げてゆっくりとまたがる。イグニッションをオン。ETCの電子音やサーボモータの音を聞きながら、クラッチを握ってセルを回す。

きょきょきょ……ボウン!

グズることなく目覚めたケーロクにほっと胸をなでおろし、エンジンが温まるのを待つ。やがてアイドリングが安定してきたのを見計らって、右足で慎重に車体を支えつつスタンドを蹴り戻す。それから左足でシフトペダルを蹴りこみ、軽いショックとともに一速に入ったのを確認。

さぁ、二ヶ月ぶりのケーロクだ。事故に気をつけて、まずはゆっくりと行こう。

 

国道を抜けてるうちに、不安が雪のように融(と)けてくる。

身体に感じる速度とメータの速度に、ほとんど齟齬がないのだ。車線変更もすり抜けも、よどみなくこなせる。どうやら第一段階はクリアしたようだ。にやっと笑って、アクセルを徐々に開け始める。とたんにケーロクは雄たけびを上げながら、ぐいぐいと加速してゆく。

速い……が、恐怖を感じたり、身体が固まったりはしない。

「シシシシ、これだよ。こうじゃなくちゃ。たまらん……よだれが出る」

アクセルをスナッチする右手にケーロクの挙動が直結したような、高回転の感覚。

ベッドの中で何度も何度も反芻(はんすう)していた記憶の中のそれと、今、この瞬間に感じてる感覚がシンクロし、恐れていたような破綻もせずに気持ちよく風を巻いて走る。仕事に復帰してからこっち、初めてといっていいだろう、完全に痛みを忘れ楽しんで通勤できた。

 

整骨院に到着。

このCBR用バッグ、取り付けこそ専用じゃないから若干の工夫が要るものの、つけてしまえば比較的ガッチリと固定されるし、なにより見た目を大きく裏切って、荷物が入るったらない。思ったよりサイズが大きいから「失敗したかなぁ」と思ってたのだが、これはこれでアリだろう。

一泊ツーリングくらいの荷物は楽勝で入るくらい、余裕の容量だ。

 

さて、水曜半日の仕事を終えて、ルーティンの事務仕事をひととおり済ました。

「これなら筑波までいけるんじゃねーかなぁ」

と、仕事しながら何度も何度も思ったのだが、実は仕事中にちょっと郵便物を取りに出たとき、脚が上がらないでハデに転んでしまっていた。仕事をはじめてから今日で一週間、疲れも出ているのだろうと大事をとって、筑波に攻めに行くのはあきらめる。

ヘタレって言うな。これでも意外と慎重なのだよ、俺は。

なので、「軽く近所だけ」とケーロクをまたいで走り出した。

 

街中を走りながら、挙動や感覚を改めて確認する。

自衛隊基地のわきを抜けてぐるりと迂回すると、まずはいつものツイストロードへ。

他に誰もいなかったので、徐々にペースを上げながら数往復した。

リーンウィズのまま身体ごと内側に飛び込んでいくのも出来るし、リーンアウトでちょこまかも走れる。ガッチリ開けてったら速度が怖いかと思ったけど、記憶にあるイメージとそれほど変わらない。どうやら二ヶ月のブランクは、思ったほど俺の刃(やいば)をなまらせなかったようだ。

「元々なまくらじゃねーか」てな突っ込みは、胸が痛くなるから聞きたくない。

俺は鋭さじゃなく刃の厚みと剣の重さで勝負するタイプなのだ(イロイロ意味がわかりません)。

 

ベッドで恋焦がれてた『タイアの喰う感覚』によだれを流しつつ、何度かツイストを往復。

まだまだ「戻った」とまでは言い難いが、それでも思ったよりずっと身体が動くのが嬉しい。これならリハビリライドも短くて済むだろう。「せっかくツーリングに最適の時期なのに、いつまでもイライラしたくないな」と思っていたから、コレは本当に嬉しかった。

あまり何度も往復するとイロイロとよろしくないので、適当に切り上げて沼南方面へ。

こんな道ではアクセルを抜いて、ゆっくりと景色を見ながら走ってみたり。

でも、今は。今だけは。

ストレスがたまってた分、すっ飛ばして走るのがどうにも気持ちいい。

つわけで、道の駅『しょうなん』に向かう。

『しょうなん』で一服したら、そこから通称『沼南サーキット』を走る。

いつもなら流したり攻めたりと気ままに遊ぶんだが、今日はとにかく開けまくる。ブランクがあるから開けまくったってそれほど大したことはないんだが、それでも身体の調子を見るには充分だ。たぶん、ケガ前の速度で言ったら70%くらいで、タイアやサスと相談しながら走る。

ま、相談つったってケーロクに呆れた声で

「あ? なに? 前と比べて? ダメダメ全然ダメ。もっと開けろ」

とか言われてただけだが。

 

気温はずいぶん涼しかったんだが、革ジャンの下に汗をかいてくる。

「そう、コレがスポーツライドってヤツだよな」

と、えらそうに言えるほど、走れる場所でも体調でもなかったが、それでも充分に楽しんで走れた。どのくらい楽しんだかと言うと、信号待ちで停まったら右脚の力がガクンと抜けて、あやうくタチゴケしそうになったくらい。楽しくて右足を酷使してることに気づかなかったのだ。

高々一時間も走ってないくらいだが、どうやらそろそろ脚が限界のようだ。

ここで脚のせいでタチゴケなんかしたら、何のために筑波を我慢したのかわからなくなる。仕方なく自宅に向かいながらも、思ったよりずっと走れたことに気をよくした俺は、きゅっきゅとクイックに反応するケーロクに改めて愛情を深めつつ、混んできたクルマの列をすり抜けて走る。

『ビンクスの酒』をハナウタで歌いながら。

 

さぁて、どうやら気分の方だけは、絶好調に復活したぜ。

今週の残りも頑張って仕事したら、週末はちょっと走りに出かけよう。

なまくらなりに、そろそろ砥(と)いでやらなくちゃ。

 

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