solo run

in 利根川土手

2010.05.04 哀愁のキック

 

前日から泊まってるゴーは、マンガと昼寝のコンボで動かない。

かつて俺を蝕(むしば)んだ、Nが家中に充満させてるダメ人間オーラにヤラれたのか、最近の休日のゴーはウルトラぐだぐだダメ人間。ま、無理に引っ張り出しても、俺の脚が長いツーリング(つっても昼スタートだけど)に耐えられるか見当がつかない。

なので、それじゃぁ用事だけやっつけてこようと、ひとりで表に出た。

が、リハビリ中の右足が不安定なので、キックスタートがしづらい。

しかし通販で買ったバッテリーはまだやってこないので、しばらくはキックで乗らなくちゃならない。つわけで用事を済ますためにフラフラとキックスタートに苦労しつつ走り出し、まずはライコランドへ。連休中だけに結構ヒトがいるのを、「天気いいんだから、走り行きゃいいのに」と眺めながら店内へ。

このときはまだ、ヒトがたくさん居ることの恐ろしさをわかってなかった。

 

んで、2STオイルを買い込んで表に出る。

悲劇はここから始まった。ゴースペシャルは温まるとエンジンが掛かりづらくなるんだが、オイル買ってきたくらいじゃエンジンは当然、冷えてない。むしろぽっかぽか。キックペダルも50用だから短い。そして俺はリハビリ中。コレだけ条件がそろえば、舞台はカンペキに整うわけで。

休日の混みあう駐車場で、キックスタートカーニバル

ニヤニヤ笑う人々の、いや、むしろ観客の前で、キックバスン、キックバスン。蹴っても蹴っても起きてこないエンジンを心の中で呪いつつ、視線ははるか彼方をみつめて、「まったく、いつも言うこと聞かないヘソマガリなんだから。ま、慣れてるけどね」的な無表情をつくる、哀しい40歳。

いやー、こんだけの羞恥プレイは久しぶりだったね。むしろ興奮したね。

 

それから職場へ行く途中でガソリンを入れ、スタンドでも軽くキック祭り。

セルフスタンドのおじさんが手伝おうと腰を上げかけた(推定)ころ、ようやくエンジンが掛かる。

すでにちょっと疲れながら、書類やなんかを仕舞い込んだら、さて、とっとと帰ろうか。

 

ところが、国道を避けてのんびりと裏道を走ってるうちに、やっぱりちょっと足を伸ばしたくなる。それでも、「脚が心配だからなぁ」と散々悩みながら、結局、家の前までたどりつき……「やっぱだめだ!」そのまま停まらずにアクセルオン。家の前をスルーして、16号から水戸街道へ。

「そんじゃま、いつも通り土手沿いでも走るか」

と、6号を下り始める。それほど混雑してるわけでもなく、いくらゴースペシャルでもスクータはスクータなので、信号待ちのときにクルマの間を抜けるぐらいで、基本的にはすり抜けせずにまったり走る。つーか、さすがに『出て90弱』のスクータだと、いつものコースが長く感じた。

ようやく土手沿いの県道に乗り、Tシャツ一枚で気持ちのいい風に吹かれながらクルージング。

「アクセルオンで一瞬遅れんのは、やっぱり好きになれないなぁ」

ぶつぶつ言いながらも、ひとりで走るのはホントに久しぶりだから楽しい。いや、Nが遅いとか、みんなで走るのが嫌とかじゃなくて、なんだかんだ俺は、ひとりで気ままに走るのがイチバン性に合っているみたいだ。気まぐれで飽きっぽいからね。

今日は暑くも寒くもなく、ちょうどいい気温だったから、ただまっすぐに走るだけで気持ちよかったよ。

 

しばらく走ってると、土手に菜の花が咲き始めてる。

「こっちっかわ(千葉側)でこんだけ咲いてンなら、むこっきし(茨城側:空いてる)はもっとたくさん咲いてンだろう。あっち渡って、霞ヶ浦くらいまで走るか」

そんな風に思いながら、土手沿いの千葉側をクルマの流れに乗って走る。するといつに間にか先頭に出たので、せっかくだからちょっと引っ張ってみる。が、パワーのある2STとは言え110ccのエンジンに、最近いいだけ太ってきた俺が乗ってるせいだろう。メータ読み90弱が限界だった。

やせなくちゃ。

てな感じで、いつものコースをいつものように走っているつもりだったのだが、どうにもこうにも目的地がやってこない。いつもなら栄橋を渡って茨城側に出たところからツーリングがスタートするんだが、そのスタートラインまで、えらい時間が掛かるのだ。

「なるほど、俺が楽々走ってても、Nなんかには結構な距離だったんだなぁ」

と認識を改める。とは言え、走ること自体は俺にとって、これっぱかしも苦痛じゃないから、「むしろ、短い距離でもツーリングしてるぜ感が高くてお徳じゃん」てなもんで、小さなタイアが路面のギャップを拾うコツコツとした感触まで楽しみながら、橋を渡って茨城側の土手へ。

暖かくて気持ちいいけど、土手の上はちょっと風が強かった。

写真を撮ったら風よけにバイクの陰へ座り込み、タバコと携帯灰皿を取り出して一服つける。川面を渡ってゆく風が、ゆらゆら水面を揺らす。土手下のダート(未舗装路)を、小さなオフロードバイクがトコトコと走ってゆく。ずいぶん伸びた髪の毛が、風にあおられて踊りだす。キモチイイ。

「生きてるなぁー!」

大きく伸びをしながら叫ぶと、自然と顔がにやけてくる。

 

「さて、それじゃぁ湖まで走ろうか」

タバコを仕舞い、バイクにまたがってキックし始めたのだが……

も、かかんねぇこと、かかんねぇこと。

そのうち右足が痛くなってくるわ、ふらついてコケそうになるわ、あのままあと一分かからなかったら、俺んちで寝てるゴージャフ(GO!!!JAF:ゴー君呼び出し)呼ぶところだった。ひと蹴りごとに汗をかき、ひと蹴りごとに気力をそがれ、ようやく掛かった時には、もう、やる気なし夫。

今日みたいな日は走り自体よりも、走って、停まって、景色を眺めてってのが楽しいわけで。

「かえろ」

さっさと来た道を引き返す、哀しきキックマン。

さっきまでの穏やかな気持ちや、のんびりまったりした気分は春の風の中に霧散し、俺の基本形というか芯の部分が顔を出す。90しか出なかろうが、車体がふらつこうが、アクセル全開ガンガンすっ飛ばしてすり抜ける。車速を落とさないよう、最小限のブレーキで隙間へ飛び込む。

途中でからんだビクスクもネイキッドも、クルマの列を抜ける時にはミラーの彼方。

復帰後、初めての全開オラオラ状態だ。

あっという間に土手沿いから国道を駆け抜けて、家のそばまでたどり着いた。

 

16号にぶつかったところで信号待ちしながら視線をめぐらすと、バイク屋の店先に

「くっそ、もうアレ買っちまうかな」

だったらケーロク乗りゃいいじゃん。つーかアレもキックじゃん。と脳内でセルフツッコミしながら。

信号が変わると同時に、俺はアクセルをいっぱいに開けた。

 

バッテリーが届くまでは、しばらく乗ってやンないっ!

 

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