solo run
in 柏〜埼玉
2010.07.10 実家参り
明日、マルと走るとして、今日はどうしようか。 土曜の午後、仕事がハネてからしばらく考える。と、不意に患者さんと話したことを思い出した。
「先生、ちゃんとお母さんに顔、見せてるのかい?」 「いや、ウチのオフクロぁ、目ぇ見えねぇから」 「そういう話じゃないでしょ!」
つーわけで、実家に顔を出そうと思いたつ。 思いたったが吉日モードで、その五分後には準備をして表に出た。 土産に焼酎をふたビンつめたら、ケーロクをまたいで走り出す。国道16号の俺の家の付近は渋滞の名所で、しかも土曜の午後。当然バカっ混み。とは言えまたがるのは、フューリィに比べれば『車幅が存在しない』と言いたくなるスリムなケーロクだ。 すり抜けてるうちに、ケーロクに乗るポジションを思い出してくる。 一部の悪魔には及ばずとも、それなりに慣れた16号をハナウタでバシバシすり抜け、いつも通り柏から高速に乗る……乗れない。ETCが作動しない。なので久々に、『ゲートを抜けた先で単車を停める』と、インタホンで係りのヒトを呼び出す。 待ってる間に、車載器の確認をすると、インジケータランプが灯(つ)いてないじゃないか。 「あー、めんどくせぇなぁ。どうせ雨が続くし、タクんとこ入院させてチューソンにやらすかなぁ」 と理不尽なため息をつきながら、通行券をもらって走り出した。
高速道路に入って、久々の全開加速。 インラインフォーの官能的な響きをBGMに、タンタンとリズムよく車速を乗せてゆく。走ってたクルマが停まって見えるようになり、サスペンションがよく動くようになる。風景を後ろに放り投げながらクルマをすり抜けてゆくが、プロテクターやフルフェイスのおかげか、恐怖は微塵もない。 「ふんふんふん〜♪ さ〜て久々の250hs(harf speed:1hs=0.25km/h)だぜ〜」 とメータを見れば、や、全然。230hsちょい越えたくらいの速度だった。 そりゃ『恐怖なんぞ微塵もねぇ』だろうよ、この速度じゃ。プロテクタもフルフェイスも全然関係ねぇじゃん。あまりの体感速度のズレに愕然としながら、一速落として引っ張り始める。12500rpmくらいまで使って走り出すと、なんとか250hsを超えるようにはなったが、こんだ目が追いつかない。 「うっわ。俺、すんげぇダメダメじゃん。こりゃひどいや」 すっかりガッカリ、しょぼくれながらメータを見ぃ見ぃ、体感速度の修正。 「レッド付近まで引っ張っての加速とかは怖くないんだから、要するに、この速度域で『今まで無意識で処理してた』部分を、『意識して処理しなきゃならない』から色々追いつかないんだろう。走り始めた頃の怖さとも、ちょっと違うし」 なんとなく遅い原因はつかめた(ような気がする)ものの。 その原因だとしたら、速度域を上げる(高速域で練習)しか解決策はない。 う〜む。やっぱ骨なんか折るもんじゃねぇなぁ。
意気消沈しながら和光北ICを降りた俺に、さらに追い討ちがかかる。 「ちょ、道が変わってる! つーか出来てるっ!」 工事中だった道がいつのまにか完成して、広々とした交差点もある。だったら素直に国道254号を走ればいいものを、いつもの裏道にアクセスしようとしたかみさん。ひとつ曲がり角♪ ひとつ間違えて〜♪ てなもんで、いっそ華麗にバビっと迷い道。 気づいたら越えないハズの川まで越えてた。 遠回りしつつポプラを数えて、ようやく実家に到着。 ところがどっこい、目の見えないオフクロはヘルパーさんとお出かけ中だし、弟はもちろんお仕事中。当然、家のカギは開いてないし、俺は持ってない。ビシっと締め出された長男坊は、仕方なく近所のファミレスまで足を伸ばす。
ひとりでファミレスなんて何年ぶりだろう。 つってもファミレスなんぞ、それほど感慨深い場所じゃないし、だいたい、俺が実家に住んでるころにはファミレスなんてなかったしね。そう言えば、初めて乗った原付で、このファミレスの向かいのガソリンスタンドに行き、人生初の給油をした際、 「油種は? ハイオクですか? レギュラーですか?」 と、スタンドの色っぽいお姉さんに聞かれて、 「な、なんでもいいです」 言ったのも、今はいい思い出。
冷房の効いたファミレスで、ようやくひと心地ついたら。
ノンアルコールビールと、オクラベーコンだったかな? を注文し、携帯をいじりながら時間つぶし。 やがてmixiに書き込んだのを見た、大阪の弟から電話が入った。ベテラン骨折erかみさんだけに、入院中のムラタの気持ちは痛いほどわかる。「明るく話しながらも、シンドいんだろうなぁ」と、胸を痛めつつ、言い過ぎた、胸は痛くないなりに『頑張れよ』と心の中で励ます。 口に出すのはアレなんで、もちろん 「俺が骨を折った時、心から心配しなかったから、バチが当たったんだぞ」 つって笑ったけど。
ノンアルコールビールも飲み干し、待ってるのも飽きてきたので、実家の庭で呑んだくれよう。 昔なじみの酒屋でビールと水割りを買い、軽く世間話してから実家へ。向かいの犬にワンワン吠えられながらケーロクを玄関先へ停め、裏へ回って庭先で飲み始める。すると、日当たりの悪い庭先に発生した薮蚊に、デコだの腕だの刺し放題に刺されまくる。 お隣のおばさんに「あらぁ、久しぶりねぇ」なんて言われながら、庭先で呑んだくれてると。 弟から携帯に連絡が入る。 「おう、兄貴。オフクロ帰ってきた?」 「まだだ。俺はおまえの家の裏庭で、いいだけ蚊に食われてる」 「んじゃ、カギだけ開けに行くわ」 仕事の途中で職場を抜けてきた弟にカギを開けてもらい、ようやく家の中へ。ゴミと楽器とCD、DVDが三次元的に積み上げられた、むしろ豪雪地帯のごとく降り積もった弟の部屋で、エアコンの作り出す人工的な冷気をあびて、ひと心地ついた。
呑んだくれながら待っていると、やがてヘルパーさんとともにオフクロが帰ってくる。 「あら、おかえり。この間ねぇ、オレオレ詐欺にあいそうだったのよ」 「前置きすっ飛ばして、雑談に入るな。まずはヘルパーさんにお礼を言え」 笑ってるヘルパーさんを送り出し、ビールをひっかけながらオフクロと話しこむ。そのうち、『脚が痛い』言い出したので、足から腰を治療してやってると、仕事を終えた弟が帰ってきた。なので、親子三人水入らず(ただしアルコールは入る)で、近況報告や昔話。 正確には、オフクロの他愛ない話を、ふたりで呑みながら聞き流す。
目が見えないなりに、なんでもこなすオフクロが作った『しば漬け』を喰いながら。
くだらない話で笑い、ちょっと真面目な話もしたりする。 やがてオフクロの話も種が尽きた、つーか俺らの根気が尽きたので、弟の部屋に行って話しこみながら『レッドクリフ』をワタナベ先生の解説付きバージョンで見る。弟はこの後も仕事があるので、酒を控えていた。俺もそれに引きずられるように、あまり酒を呑まなかった。 なので、その後数時間、映画を見たり話したりしてるうちに、すっかり酒が抜けてしまう。 アルコールチェッカーでグリーンランプが点灯(つ)いたので、弟が仮眠を取るのを潮に、俺も引き上げることにする。オフクロが『泊まって行かないのかい?』つーので、『どこで寝ろってんだ。トム(実弟)の部屋はゴミ満載だし、40なってオフクロと並んで寝たかねぇよ』と笑ったら。 ケーロクにまたがって、夜の闇の中を走り出す。
ぬるく澱(よど)んだ夏の夜も、走り出せば爽快。 湿った空気にからみつかれて、じっとりと汗をかいた身体に、メッシュジャケットをすうっと抜けてゆく風が心地よい。254バイパスからまた適当に裏道に入ったら、相変わらずの大ハズレ、かみさん得意の迷い道。信号待ちのたびにじっとりと汗をかきつつ、勘で外環を目指す。 時々、それらしいのが走ってたりするのが、土曜の夜らしくて雰囲気がある。 「ああ、ETC使えないんだっけ」 わずらわしい思いをしつつ、国道から外環に乗ったところで、アクセルオン。 クウォーン! ヨシムラの奏でるサウンドに身を浸しながら、澱んだぬるい空気を切り裂いて走る……には、外環は風が強すぎるようだ。ちっとも澱んでないどころか、むしろ車線変更のジャマをするくらい強く吹き付ける風と格闘しながら、250hsオーバーまで引っ張ったり、逆にのんびり走ったり。 昼間よりはだいぶん楽しんで、空いてる高速を駆け抜ける。 とは言え、フューリィで走るより、ずっと負担が大きいケーロク。家に帰りつくころには(つっても30分くれぇのもんだが)、ずんと重くなってきた脚を引きずりながら、すっかり脱力してしまった。情けない話だが、結局、翌朝のマルとのツーリングもキャンセルしてしまった。 ゆるんだ身体と一緒に、神経の方もずいぶんナマクラになってるようだ。 マルちゃん、ごめんね。
さきほど電話でRにも話したが、俺はずいぶんとヘタレてしまってる。 このままじゃ、速い連中と走りに行っても、無理してすっ転ぶのがオチだろう。なんてイイワケ入れてるところがすでにヘタレ。クチに出すくらいなら走ってナンボなんだが、まぁ、ヘタレならヘタレでいいから、てめぇのペースで取り戻していこうと思う。気合い入ってないのはホントだしね。 速く走る走らない、降りる降りない、気合い入ってる入ってない。 そういうのは、この後の行動で周りに判断してもらうのがスジだろうしね。
ま、とりあえず俺は、降りもしないし、飛ばさなくなったりもしないよん。
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