solo run
風に吹かれて
2010.08.14 一日目 千葉〜三重 ―古き友 おーが―
本当に久々の、ロングツーリングだ。 今回は、とにかく風まかせ。 何も決めず何も無理せず、楽しく走ってこよう。 ロングってのは『ある程度の予定』を決めた方が、実は簡単だったりする。事前に充分な下調べができるし、予約が必要なところにも行ける。余裕のある予定を立てて、あとはその場で対応していく方がずっと楽なのだ。少なくとも、ある程度の経験則を持ってるなら。 だが、それはあくまで、旅の達人の言い分である。
俺は雰囲気ツアラーだ。 ムーミンに出てくるスナフキンや、マルボロのカウボーイ、ラッキーストライクのバイカーなんかに憧れたガキのまま、いつの間にか不惑になっちまったバカだ。焚き火の前で酒を呑み、焚き木でタバコに火をつける。そんな雰囲気の中に身を浸したいだけなのだ。 イメージ的な意味で、流離い(さすらい)たいのだ。 下調べして上手に効率よく旅をしたいのではなく、失敗してもトラブってもいいから、イチから自分でやってみて経験したい。日常とは違う旅の雰囲気を味わって、幸せな気持ちになりたい。そんな、不純というかミーハーな動機で旅に出るのである。 その方が楽しくて、生きてる気がするから。
てなわけで出発前夜。 ダチからの電話で西に行くことを決めたかみさん。 仕事がハネた土曜の午後、颯爽と家に帰ってくると、適当にパッキングした荷物を運ぶ。
サイドバッグには、今回、訪れることを決めたおーが家と、ムラタ家への土産を積み。
アロハに半ヘルの、敬愛する『NEKOさんスタイル』で準備完了。 さぁ、出発だ。
と、ナオミが、「まさかねぇ」という顔で笑いながら、 「ETCは、カード入ってるんでしょ?」 時が止まる。 「うぉ! 忘れてた! ETCカード、ケーロクのシート下におきっぱなしだ!」 スタートから、イキナリ暗雲が立ち込める。とりあえず整骨院まで、カードを取りに戻ることになった。荷物を積み込んでナオミに手を振ると、俺は16号を、予定とは逆の整骨院方面に走り出す。と、信号待ちで『妙な違和感』を感じたかみさん。 何気なく後ろを振り返って絶句する。 そこにはすでに半分崩れかかった荷物が、ゴムひも一本でぶら下がっていた。
とっとと脇へよけて、とりあえず荷物の積みなおし。 「あんか、イキナリ問題だらけだなぁ。大丈夫か、今回の旅?」 不安な気持ちになりながら、整骨院へ到着。
ケーロクから、ETCカードを抜いて。
ついでに、ETC本体の固定も強化して、
今度こそ出発。 この段階ですでに、時刻は4時を回っている。 整骨院から高速までの混雑した下道を、当初の予定の『まったり走行』とはほど遠い、すり抜け大会ですっ飛ばし、三郷から首都高に乗ったところで、ようやくひと安心。C2の入りっぱながすでに混んでたので、都心環状線から渋谷線で東名高速へ。 時間があれば中央道から行きたかったトコロだが、三重までは400キロ。 しかも、すでに夕方だ。 最短距離を走っていこう。
ガシガシすり抜けて、海老名に到着するちょっと前に、雨が降り出した。
海老名でポンチョとカッパを取り出し、荷物と身体を雨からガードする。
雨の中、久しぶりの『東名左ルート』を眺めつつ下り、たしか富士川あたりで休憩。
ノーマルのV−MAXに乗った若者が声をかけてきたので、しばらく談笑したり。 「ホンダの新しいやつですよね? カッコいいなぁ」 「非力だけどね。スタイルには惚れてるよ」 横のおねぇちゃんのドラスタは、お兄ちゃんの前の愛機だったらしい。単車乗りの彼氏と付き合うようになり、免許を取って彼氏の単車に乗る。よく聞く話だが、とても素敵なことだ。彼女が彼氏の単車に乗れるってことは、彼氏はそれだけたくさん単車を持てるってことだからね。 ナオミさんにも、ぜひ見習って欲しいものである。 「今日は彼女の、初めてのツーリングなんですよ」 「へぇ、そうなんだ? 彼女、初めてのツーリングはどうだった?」 「つ、疲れました」 三人で軽く笑ったら、彼らは食事へ、俺はさらに西へ。
今回はとにかく、音楽を聴きながら100キロ巡航。 休憩をマメに取りながら、たんたんと進む。風がやたらと強いので、時々音楽が聞こえなくなるが、そんな時はクルマの動きを見るのも面白い。「あーあ、そこで車線変更しても、ムダなのになぁ……ほら、ハマった。地道に走ってる軽の方が、先行っちゃったじゃん」などと、ひとりブツブツ。 いつものすっ飛ばす面白さはないが、これもまた楽しい。 やがて陽が落ちてきた。 それでも速度が速度だから、暗くなったって怖いこともなく。低重心で重量のある車体は、ドッシリ構えて強風にもゆるぎない。ポジションも、速度を出さないなら楽々。ま、腰痛もちの人間には向かないだろうけど。低回転で最大トルクを出すエンジンは、ホント巡航が楽だ。 とは言え、仕事疲れもあってか、だんだんシンドくなってくるのは仕方ない。 「いい加減、キビシーなぁ」 とヘタレかけたところで、ようやく伊勢湾岸に入った。
刈谷でおーがに電話したら、残りは50キロ強。 伊勢湾岸を走り抜け、降りてからちょっと迷って、近所のコンビニまで迎えに来てもらったら、そのままそこで、今夜の酒と飯を買う。つっても久々におーがと会ったわけだから、今日は当然、呑んだくれるわけで、俺に晩飯は必要ない。ツマミだけ買ったらクルマにくっついて走り。 ようやく、おーがの家に到着だ。
タン塩だのパストラミだの、肉系ツマミ。それに酒さえあれば、俺の晩飯は充分。
おーがの長男UKTは、俺を非常に高く評価してくれる貴重な友人。 二歳のころから『かみが好き』で、『バイクが好き』なのだが、近頃はバイク熱が少し冷めてきたか。それでもかみ熱は冷めてないっぽく、小学生になっても相変わらずちょっとアレなくらい懐(なつ)いてくれてたので嬉しかった。しかし、俺には今回、非常に不安な要素がひとつある。 それは、UKTの妹、二歳児のNNKだ。 前回、会ったことなど、もう覚えてないだろう。 だとすると、二歳児でも女の子にはあんまり人気のないかみさん、泣かれたりしたら困るなぁ。
すっかり大きくなったNNK。つーか俺、この並びだとやたら顔がでかいな。 彼女的には『知らないおじさん』を見て、最初はちょっと不安そうに様子を伺ってたが。
オーゲー! 懐いてくれたぜ! 慣れてくれば元気いっぱい、さすがおーがの長女。
飼い主ちゃんも、相変わらず元気でダメな女の子。 しっかりしてるし、オトナでオトコマエだから忘れがちではあるが、この子はおーがの嫁なのだ。精神の構造が基本的にダメ人間なので、話すとめちゃめちゃ面白い。さすがに二児の母になってしまったから、昔みたいにKPでぶっ飛ばしたりはしないけど。 いや、機会さえあればやりかねねぇな、この女だきゃ。
だいぶん酔っ払ってきた俺と、だいぶん眠くなってきたUKT。
と、飼い主ちゃんが俺のアタマをまさぐり始めた。 『旦那の目の前で、そのダチと乳繰り合おう』とは、ずいぶん大胆じゃないか、と思ってると。 「ほい、できたで、かみ。サザエさんにしたったわ」 「は? サザエさん? ナニ言ってんだ飼い主ちゃん?」 「カガミ、みてみるか?」 差し出された手鏡に映っていたのは……
もういい。誰か俺を殺してくれ。 などとバカやりながら、おーが夫婦とバカ話をして盛り上がる。その間も、UKTは俺にくっつき通しだし、それを見たNNKもくっついてくるので、軽くハーレム状態(ただし残念ながら幼児のみ)になりながら、呑んで、しゃべって、笑う。とても穏やかで心の休まる、楽しい時間だ。 やっぱり、来てよかった。
せっかく長い休みなんだし、知らない場所をガンガン走り倒す方がいいのではないか。 そう考えたからこそ、「ダチの多い西を避けて、東の知らない道を走ろうか」と悩んだりもした。だが、こうして古いダチのところへ来て、楽しい時間を過ごしてしまえば、「くだらないことで悩んだなぁ」と、肩をすくめるしかない。ヘタの考え休むに似たりってヤツだ。 ムキになって、新しい道を探したり、知らない場所を探さなくたっていい。 単車でダチに会いに行く。俺はそれでいい。 いずれ新しいダチが出来れば、そいつに会いにゆく過程で自然に、新しい道にも知らない場所にも出会えるだろう。ずっと走れなかったもんだから、ついつい、「走ろう走ろう」という気持ちが強くなりすぎて、なんだかチカラが入ってたみたいだ。 おーがに会って、そんなチカラがすっと抜けたような気がした。 俺にとっての、魂のランドマークみたいなもんだ。
飼い主ちゃん。おーがの愛妻にして俺の愛人。 シャキシャキハッキリした性格で、オトコマエな姉御肌。唯一の欠点は、俺に惚れてないことかな。夫の前では実に可愛い。特に酔うと甘えて可愛い。そして同時に、俺の知ってる中ではイチバン、忍耐強く子供と付き合い、同じ目線で話し、決して怒らずキチンと叱る母親でもある。 おーがはこの子を嫁に出来たコトで、幸運を使い果たした可能性が高い。 「あんなぁ、かみ」 「なんだ、バカおーが」 「おまえなぁ、ナニ言っても説得力あれへんで、その髪型じゃあ」
やかましいつーんだ。 昔話から今の話、ダチの話にバカ話。色んな話をし、気持ちよく酔っ払ったかみさん。安心しきって疲れが出たのだろう、いつの間にか寝オチしてた。ま、この家で呑んだくれると、よくあることである。つーか、これ書いてて気づいたけど、俺、おーがの写真、ほぼ撮ってねーじゃん。 安心つーか、気ぃゆるみすぎだな。
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