solo run
風に吹かれて
2010.08.15 二日目 三重〜大阪 ―三人そろって魂の兄弟 ムラタとフラ―
あけて翌日 。 昼近くまで、寝たり起きたりウダウダして過ごす。 その合間にもフラから『走りましょうメール』が入るのだが、正直、このクソ暑いのに単車で走るとか、バカ以外のナニモノでもないつー話だ。クルーザ最速決定戦? 知るか、そんなモン。秋だ、秋。こっち三時ころには出るから、ムラタん家に集合しとけ。 と、『自分から最速決定戦と言った』コトなど棚の上、空の彼方まで放り投げる。
やがて昼も過ぎ、「腹が減ってきたなぁ」と思ってると、タイミングよくおーがが、 「かみ、美味いカレー屋を見つけたから、そこで飯を食おう」 「お、カレーか。そりゃ二日酔いには最高じゃないか」
つわけで、おーがのクルマ「ハイジ」に乗っかってカレー屋へ。
十分ほどだったか、クルマでバカ話しながら走ってると、ほどなくカレー屋に到着。 ゆるみきってるので、写真撮るの、すっかり忘れてた。
撮ったのはこれくれぇか。手前のが俺のキーマカレー(辛さ普通)とナン。 美味い上に、ナンはおかわり自由だつーんだが、『全盛期のキチガイ食欲』など見る影もなくなった俺には、正直、この一枚で充分だった。おーがは結局、三枚半くらい喰ってたけど。その、おーがの喰ってるカレーは裏メニューの10カラで、ヒトクチもらったら火ぃ吹いた。 「俺にはこれでも足らんのさ。次は15カラにしてもらお思うとる」 「ほんま、このヒトの味覚、おっかしいよなぁ、かみ?」 「バカじゃねーの? ベロ、イカれてんだ」 バカ話しながら飯を食い、満腹と満笑でクルマに乗り込んだら、おーがの家に戻る。ここで時刻が三時ころだったか。さすがに、そろそろ出ないと陽がくれる。クソ暑い中、フューリィの前でしばらく談笑しながら、せっせと荷物を積んで、出発準備が整ったら。 「さて、それじゃあ俺、そろそろ行くわ」 「おう、またな」 「かみ、またおいで」 「おう、来るさ。んじゃな!」 おーが一家に別れを告げて、俺は酷暑の中を走り出した。
東名阪自動車道に乗り、目指すは大阪、ムラタの家。 亀山で降りてそのまま、『高速と勘違いしやすいコトで有名』な、名阪国道をひた走る。つっても、速度はのんびりだから、覆面や白バイに気を使うこともない。周りを眺めながら、二度ほど覆面を見つけたくらい余裕をもって走る。つーか休日の名阪は、やっぱ居るねぇ。 「ふん、今日の俺様にスキはないぜ」(伏線) やがて名阪国道でも俺のイチバン好きな、クネクネのワインディング区間に突入。さすがに、ここはチンタラ走りたくないので、気合を入れてぶん回し始める。途端にリアサスがふわふわ頼りなく踊り、フロントが逃げ始めたが、気にしない。 前にVTXで走ったときや、ケーナナで走ったときとは違うのだ。
VTXの時はまだ某所的な走りを知らなかったし、ケーナナの時は慣らし運転だった。フューリィの非力なエンジンにムチをくれた俺は、VTXの時には知らなかった、そしてケーナナの時には回せなくて出来なかった、『コーナリング中のすり抜け』を駆使してすっ飛ばす。 「あのころは、『すり抜けウインカーの意味』も知らなかったんだよなぁ」 などと感慨に浸りつつ、いいだけ曲がり倒して満足したころ、名阪国道がようやく終わった。そこで「おや、ETC車載器の角度が悪いな」と、走りながら左手で直そうとしたとき、間違って左手を車載器にぶつけてしまい、カードが飛び出しそうになる。 「あぶねーあぶねー」 つぶやきながらカードを刺しなおし、西名阪自動車道に乗ろうって瞬間。 それは起こった。
ぴーぴーぴーぴー! 「何の音だ……って、俺の車載器からしてる警告音じゃねーか!」 気づいた時にはすでに遅く、俺はETC入り口のバーに行く手を阻まれてしまった。ゲートの中で、「こりゃ参ったな」とつぶやきながら、無意識に単車を左へ寄せて停まる。そこでカードを引っこ抜き、改めて刺しなおしたりと作業をしていると、俺の横をクルマが抜けていった。 「あ、バカ。今行っちゃダメだ」 案の定ゲートは開かず、クルマもそこで立ち往生。 ドハマりした俺たちは、そのまま係員が来るのを待つハメになる。 俺のせいで(つーか勝手に横を抜けて、勝手にハマったんだけど)動けなくなったドライバーに、いちおう、両手を合わせて謝るゼスチャーをする40歳。モンク言われたらヤル気マンマンだったけど。すると向こうも、苦笑いしながら手を上げてくれた。 それにしても、なにが、『今日の俺にスキはない』だ。 思いっきりありまくりだっつの(みんな知ってます)。 やがて係員が来て、ようやくゲートの罠(つーか俺の自爆)から脱出した俺たちは、顔を見合わせてもう一度笑いあう。俺は待ってる間に脱いだヘルメットやグローブをつけてから走り出し、先に走っていた彼を追い抜きざま、左手を上げてアイサツした。 追い抜くとき、ちょっと背中を丸め気味にしてカッコつけた(つもり)のは内緒だ。 「余計な時間、食っちゃったな。さっさとムラタん家でビールが呑みてぇや」 俺は大阪に向けて、アクセルをちょっとだけ多めに開けた。
ムラタ家の近くのインターで降り、すぐにコンビニへ入る。 そこでヤツに電話を入れると、「今、ちょうどフラちゃんが来たんですよ。迎えに行きますから、○○ってトコの駐車場で待っててください」言うので、道順(ってほど複雑じゃない。ただの一本道)を聞いて走り出す。やがて、言われた施設が見えてきたタイミングで、ちょうど赤信号になった。 施設はもう少し先の右手にある。 ということは、国道の真ん中で右折待ちをしなくてはならない。 「このまま、広い国道で右折待ちをするのは、ジャマ臭いなぁ……ってひらめいた! この手の大きな施設なら、裏口がないってコトはないだろう。右折して横道を行けば、施設の裏側に出られるんじゃねーか? その方が効率いいんじゃねーか? 俺、カシコくねーか?」 まぁ、いつもだいたい、ひらめいたらやらかすんだけどね。 学習しないよね、俺。
信号が青になるや否や、サクっと右折して横道へそれるかみさん。 徐行しながら左側を見て、施設の裏口を探す。 「あれ、ねぇなぁ……ここはパチンコ屋の駐車場だしなぁ……いや、いくらなんでも行き過ぎだろ。なんかおかしいぞ。まさか裏口がねーのか? なんて施設だ、まったく。ま、仕方ねぇ。テキトーに左へ入って、国道に出直すとしようか。そっからもう一度、左折してやればいいわけだし」 つぶやきながらテキトーに左へ入ったら、道がうねうねとくねり始めた。 普段ならクネクネ道は大歓迎なんだが、とりあえず今だけは要らない。曲がりくねった道を走り、二、三回ほど右左折したところで、カンペキに方向を見失った。そこで引き返せばいいものを、長くてUターンがめんどくさいフューリィだけに、ついつい、リカバリしようと試みる。 そして、いっそ華麗にガンハマリ。 あとで確認したら、パチンコ屋の駐車場が、その施設と兼用だったみたいだ。
なにやら夏祭り会場みたいなところや、明らかな私道を抜け、ようやく国道を捕まえる。 橋を二つ越えて、待ち合わせの駐車場に入った。 あたりをきょろきょろを見回してムラタの姿を探していると、一台のクルマが、ゆっくりと近寄ってくる。運転してた女の子がこちらを見たので、「おやおや。お嬢さん、俺に惚れたかな?」などと思ってると、ウイーンと窓が開いて女の子が声をかけてきた。 「かみさんですか?」 「は? はぁ」 マヌケな返事をしながら、メットを取る。 「ムラタです。クルマの後ろについてきてください」 「あ、は、はい」 返す返すもマヌケな初対面だ。今思い返しても、非常に悔やまれてならない。どうせなら、「俺に惚れると怪我するぜ。ついて来いって? 女は男について来るもんだ」くらい言ってやりゃよかった。ついてこられても、道、知らねーけど。
ムラタの嫁さん、ミサトちゃん(仮名)にくっついて走ってると、道端にバカがふたり立っていた。 「ちーす!」 「かみさん、遅いっすよ」 「おう、ムラタ久しぶり! うるせぇクソフラ、おまえが迎えに来い」 アイサツを交わして、ムラタのガレージにフューリィを放り込む。荷物をといて降ろし、フラナガンの赤マックス(赤色のV−MAX)もガレージにぶち込んで、三人でムラタの家まで歩きながらバカ話。どっちもタマシイ的に俺の弟みたいなもんだから、まどろっこしくなくていい。 ムラタの家でエアコンの冷気にあたり、ようやく人心地。
「暑ちいなぁ……このクソ暑いのに単車なんか乗ってるヤツはバカだな」 「ホントすよ。バカじゃないの? つーかかみさん、クルーザ最強決定戦、やんなかったんすね」 「そうなんすよ、ムラっさん。何回メールしても、やる気ないんですよ、かみさん」 「うっせーな、このクソ暑いのに、んな暑苦しいことやれっか。もうフラが最速でいいよ」 「そんなん、ぜってー思ってないクセに」 「いいから、ビール呑もうぜ」 てなわけで、早速カンパイ。
フラ公は、ちと太ったか。俺もヒトのこたぁ言えないけど。 ムラタは脚の骨を折ってもムダに元気だ。 この数日後、いつの間にかトリッカー買ってるくらいムダに。
ムラタんとこの長男坊。 初めて呼んだ他人の名前が『かみ』という、とても将来性の高い子だ。残念ながら、この日はごらんのように爆睡。翌日は俺が早朝から出発しちゃったんで、結局、運命の会見にはならなかった。まぁ、どうせまた近いうちに行くだろうし、その時にしっかり洗脳してこよう。 とりあえず次回の土産は、ゴーストライダーのDVDかな。 もしくはイージーライダー見せてクルーザにハメるか。
嫁さんのミサトちゃんは、実家で送り盆だかがあるつーことで、このあと息子と出かけてしまった。 せっかくの華がいなくなり、ムサいオッサン三人でビールをひっかけながらバカ話。哀しい状況だが、人は後ろを向いていては前に進めない。目が前についてるのは、前に進むためなのだ。つわけで、バカな弟たちとバカな話をしつつ、美味い酒を呑んで盛り上がる。
つっても、この三人が集まって話すことは、もちろんただひとつ。 単車の話に決まってる。 タイア、ブレーキ、エンジン。セルフステア、トラクション、アクセルコントロール。峠、高速、一般道。SS、クルーザ、オフバイク。ケーゴ、ケーロク、赤MAX、ニューMAX、フューリィ。つっこみ、バンク、立ち上がり。速い、遅い、楽しい、怖い。 他の宴会だってもちろん楽しいが、やっぱり俺には、これがイチバン楽しい酒のつまみだ。 「ちょ、フラちゃんなんでノンアルコールビール!」 「おめ、なに帰ろうとしてんだよ」 「明日の朝、用事があるんですよ」 「なんだよー、さびしいなー」 「ふざけろ、明日の用事なら、明日行けばいいじゃねーか。呑め呑め、呑んじまえ」 「なはは、カンベンしてください」 俺は普段、ヒトに酒を勧めることは絶対にしない。俺自身がそんな呑み方して美味いと思わないからだ。だから俺が冗談でも「呑め」と言う時、そいつは『他人(ヒト)』ではなく、家族だってコト。「呑め呑め」なんてフラ以外じゃたぶん、なっことかしんごくれぇしか言ってないと思う。 そのへん、割り引いて読んでくれると助かるよ。
フラ公の意志は固く、結局、夜遅くに帰っていった。 「アレじゃねーか? 日曜過ぎると高速代が高くなるから帰ったんじゃねーか、アイツ」 などと、見送ってきたムラタに向かって、フラへの憎まれ口を叩いてると。 「フラ、帰りがけにヒューズが飛んでましたよ」 「ぎゃははは! 俺を置いて帰るからだ。つーか、おめーも明日仕事だべ」 「仕事です。けど、かんけーねーですよ。呑みましょう」 気持ちいいねぇ。 ムラタとサシで、飽きもせず単車や乗り手、峠や高速の話をしてると、不意に思いついた。 「ムラタ、並べて写真撮ろうぜ」 「お、いいですね」 つわけで
骨折兄弟の右足ユニゾン。 近来まれに見る圧倒的なバカさ加減に、むしろ感動さえ覚える絵面だ。まぁ、冷静に考えたら、『40と38の、オッサンふたりのスネ』の写真なワケで、わざわざ写真とって晒(さら)す価値があるかどうかには、疑問が残らんでもないが。 とりあえず、ふたりとも『今後、二度と骨折しない』と誓った。
さて、昨日はまだしも今日は、180キロくらいしか走ってない。 俺としてはほとんど走ってないに等しいので、明日は、ちっと走ろうと思う。大阪からなら、四国あたりがいいか。もしかしたら、四国のアンジェさんに会えるかもしれない。会えれば、また俺の幸せポイントが増える。そんな風に考えてmixiにその旨を書き込んだら。 明日仕事だってのに、夜中まで付き合ってくれたムラタが寝るのを潮に、俺も眠りについた。 はじめてきた家なのに、自分ちで寝るみたいに気持ちよく眠れた。 やっぱり、バカの住処(すみか)は居心地がいいぜ。
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