solo run

風に吹かれて

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2010.08.17 四日目(中編) 鳥取

―UMAハンターかみ 巨根の鬼―

前編はこちら

 

雨はすぐに強くなってきた。

木陰に逃げ込んだ俺は、サイドバッグの中から、カッパとポンチョを取り出す。

なんで『ふたつも雨具を出す』かつーと、ポンチョの方は荷物を包んで雨から守るのだ。

こうやって包んでしまえば、多少の雨は凌げる。

んで、カッパを着ようとすると雨が弱まってきた。「もう少し待てばやむかもしれない」と思い、タバコを一本つけて待つ。やがて雨があがったので、荷物はこのままカバーしつつ、カッパは着ないで走り出した。ほどなく空は晴れあがり、乾いた空気が車体を乾かし始める。

「このまま走って、テキトーなところでポンチョを外そう」

なんて思ってたら、ものの十分くらいだろうか。

ぽつん、ぽつん。

「あ、くそ、また来やがった。う〜む、カッパどうするかなぁ……」

悩んでるうちに、雨足は強くなり。

ぽつ、ぽつ、ぽつぽつぽぽぽぽぽぽ……ざぁーっ!

カッパ、間に合わなかった

 

とりあえず、「どっか雨宿りできそうな場所はないか」と探しつつ走るのだが、さっきみたいな場所は見つからない。それどころか、今まで散々張り出していた木々の枝さえ、一本たりとも張り出しててくれない。この辺の植林を受け持ったヤツには、猛省を期待したいところだ。

やがて、ようやく一本だけ枝振りのいい木を発見し、そのそばへ単車を停める。

フューリィが濡れるのはあきらめよう。荷物がぬれないだけマシだ。

そして、俺の方はというと。

ジーンズの前面が、すっかり濡れている。

まぁ、本来ならここらであきらめて、ぬれたジーンズの上からでも、とりあえずカッパを着るのがスジだ。股間は濡れてないし、脚の後ろ側も乾いてるし、被害としてはまだ軽微なのだから。しかし俺はカッパを着ようとせずに、タバコに火をつけて雨がやむのを待った。

なぜなら、雨は確かに降ってるが、

空がこんな状態だったからだ。

そうしてしばらく待っていると、案の定、またもや雨が上がった。ここがチャンスだと、雑巾でシートを拭くや否や、フューリィに飛び乗って走り出す。すると、ちょっと走った先から急に道が乾いていた。降ってたのは一部だけで、こっちの方は降らなかったのだろう。

道路、木々、すれ違うクルマ、どれもひとっつも濡れてない。

走りながらジーンズを乾かしつつ、

「へへん、やっぱりな。コレならもう、この先は大丈夫だろう」

なんてハナウタ交じりに走っていると。

ちっとも大丈夫じゃなかった(タンクに注目)。

こうなってくると、まず、地図を出すのがめんどくさいから、オリエンテーリングが楽しくない。そして、ワインディングも、まるっきし楽しくない。「今回はあんま金がないから、なるべく下道を走ろう」なんて殊勝なことを考えていたのだが、こうなっては是非もないだろう。

高速に乗って、ある程度の距離を稼ぐことにした。

オリエンテーリングとかワインディングは、もう少し米子の近くへ行ってからだ。

 

走りたかったワインディングをあきらめ、たんたんと191号線を走る。

その間にも、雨は降ったり止んだりと忙しい。まるでイギリスだ。行ったことないけど。

気まぐれな天気に翻弄されながら、しかし、俺はこのときすでに決断を下していた。「こんな青空なんだから、カッパなんかゼッタイ着ないぞ!」と。雨なのに見える青空をにらみつけて叫びながら、濡らされたり乾かされたりしつつ走って、どうやら中国道の入り口、戸河内(とごうち)に到着。

戸河内から高速を15キロほど走り、広島北ジャンクションの手前。

すっかり晴れ上がり、痛いほどの太陽光が降り注いでいる。

なので、濡れたものを乾かそうと、ここで荷物を解いた。

広げて、干して、乾かして。

強力な太陽光線は、あっという間に荷物を乾かしてくれる。

ちなみにこの場所は、かつてはPAだったんじゃないだろうかと思われる、廃れたスペース。

アスファルト荒れ放題で、割れ目から草が生えてるけど、とにかくムダに広い。

オフ車かモタードできてたら、間違いなく遊んでるね。

オフ車もモタードも持ってないけどね。

今は。

 

荷物も乾いたので、とっとと走り出したかみさん。

でも、雨の降ったり止んだりが鬱陶しくて、精神的に疲れ気味(だったらカッパ着ましょう)。

そんな負け犬に、天はさらに追い討ちをかける。

走ってるとやっぱりまた、パラパラと来だしたのだ。青空にかかる厚い雲が恨めしい。

かなり大粒の雨で、身体に当たるとめちゃめちゃ痛い。

その時、ちょうど立体交差に差し掛かったので、

下のスペースに滑り込む。

写真だと、思いっきり太陽が出てるけど、このときはもう、結構、降りだしてる。タバコを取り出して、火をつけるかつけないかくらいのタイミングで、「ざぁっ!」イキナリ音が激しくなった。かなりの降りだ。俺は携帯を取り出すと、mixiのつぶやきに弱音を吐いた。

『降ったり止んだり、降ったり止んだり。雨宿り四回目。もう、カンベンしてくれー!』

『大山とかどうでもよくなってきた……』

ま、こんときはホントに、こんな気分だったのだ。

 

その後も二回ほど雨攻撃を喰らったが、もうどうでもよくなってたので、濡れながら走った。

やがて完全に晴れたようで、気温もぐんと上がってくる。こうなってくると、高速道路ってのはアスファルトで出来たフライパンみたいなもんだ。さらに雨宿りの時に地図を見たら、米子道ってのは、かなり遠回りしている。だったら山間部でもあることだし、下道ワインディングを走ろう。

中国道を庄原インターで降りた俺は、国道183号を走り出した。

 

こういう平坦な道をのんびり走るなら、クルーザがイチバン楽しい。

楽だったり速いのは、ツアラーやメガスポかもしれない。だけど、『ただまっすぐな道』と言う、本来なら単車にはあまり面白くないはずのフィールドを、楽しく走ることのできる能力で、クルーザに及ぶ単車はないだろう。俺の知ってる限りでは唯一、ゼファー750が匹敵するだろうか。

とにかく、V型エンジンの鼓動を感じながら、のんびりまっすぐ走るのは、実に気持ちいい。

 

「ああ、緑に飲み込まれそうだ」

そんな風に感じたら、ひょいと停まって写真を撮る。

ま、コレが本来のクルーザの使い方なんだろうね。だからって攻めるのはやめないけど。

 

田園風景の中をたんたんと進むうち、ちょっとした分かれ道が見えた。

適当に停まって、地図を確認してみる。

米子まであと20キロくらいのところだと確認できたので、「よし、もう少しだ」と走り出したのだが、ここで思いっきり勘違いしたかみさん。ずっと183号で来てて、この先も183号でいいのに、わっざわざ180号に乗って走り出す。いや、これはでも、俺のうっかりのせいだけじゃない。

183号と180号はH型に交差するのだが、その共有部分の表記が180号のみだったのだ。

 

フツーは共有部分(緑)に180と183、両方の国道のカンバンが出てる。

だが、この道は交差点のカンバンに180号の表記だけしか書いてなかった。

 

左下の青い道路から来た俺は、矢印の交差点で停まり、右側の道路(Hの横棒)に書かれたカンバンの表記を見て、「こっちが180なら、反対が183だな」と、一瞬も迷うことなく、左上の赤い道路を突き進んだのである。

俺が自信を持って走ると、何回かに一回、こういうことが起こるから不思議だ。

 

さて、この段階ではまだ、ルートミスに気づいてないかみさん。

気持ちよく二、三キロほど走ったところで、大きな看板をチラリと見た瞬間、急ブレーキ。それから、ホイールベースの長いフューリィを、よたよたとUターンさせ、来た道を100メータほど戻る。そこでまたUターンして単車を路肩に停め、カメラを取り出した。

あとで調べたら菅沢ダムという場所だったのだが、問題はそんなところにはない。

 

俺の目を引き、あまつさえ急ブレーキまでかけさせたカンバンというのが。

も、ヒャクパー狙ってるとしか思えないよね。

『おおね』とかルビがふってあるのが、逆に嘘くさい。看板作った人、楽しく仕事できたろうなぁ。

「う〜む、とりあえず俺がここにいるのは間違いだな」

と、軽く自虐チックなひとりごとを吐きながらたたずむ40歳。ちょうど女の子の乗ったセローが通りがかり、おもわず股間を隠しそうになったのは、ココだけの秘密だ。つーかもしかしたらあの娘、俺がいなければ、ココに停まって写真撮りたかったんじゃないかなぁ。

悪いことしたなぁ。

や、巨根がどうのって意味じゃなくて、

フツーにすごく綺麗な場所だったから。

さて、バカな写真を取り終わったら、またまた走り出そう。

巨根から、いや、菅沼ダムから10キロほど走ったところに、またまたダム湖があった。

賀祥ダムは、『緑水湖』と呼ばれているらしい。確かに、翡翠のような緑だ。

「キレーだなぁ……場所を確認しておこう」

地図を見て場所を確認した俺は、そこでようやく道を間違えたことに気づく

つっても、もはや慣れたものだ。木陰で休みながらリルートする。

すると、すぐ先に広域農道があり、それが県道1号線に繋がって、そのまま大山西側の真正面に出ることがわかった。地図で見た感じ、それほどくねった道ではないが、俺はとにかくツーリングマップルの黄色い道(広域農道の表示)が大好き。黄色があったら、黄色を選ぶ

180号を一キロほど北上し、広域農道の入り口を右折した。

 

広域農道自体は1,5車線ほどの、それほど広い道ではなかった。

が、クルマが一台もいなくて、こんなカンジにそこそこくねってる。

「やっぱ空いてる道は気持ちいいねぇ。広域農道大好き」

などと騒ぎながら走っていると、道は県道1号線にぶつかる。対向二車線の普通の県道だが、周りが畑なので見通しがよく走りやすい。それに、ここに至るまでの国道183号線や180号線が、充分にワインディングだったので、そこまで曲がり道に飢えてるわけでもない。

やがてカンバンに『大山』の文字が見え始め、いよいよだと期待に胸をふくらませていると。

 

見えたっ! 大山だっ!

ぽつんと孤高にそびえる中国地方の最高峰の姿に、おもわず武者震いがでる。

「おーし、行くぜー!」

 

県道1号線をそのまま走っていると、『とっとり花回廊』という場所に出る。

50ヘクタールの全天候型花園らしいが、自然の花ならまだしも人工の花園に用はない。

つーか花園そのものに用がない。

なので、この写真だけ撮ったら、とっとと走り出す。

 

花回廊からは、意外と快適な高速ワインディングが続く。某所ランナーみたいな人でも楽しめるだろう、綺麗で広く曲率もそこそこだ。長さは2キロくらいしかないけど。ワインディングをちゃっちゃか進むと、道は両側を壁に囲まれた高速道路チックな様相を呈してくる。

「壁に囲まれると、今まで景色が良かったんだってわかるなぁ」

絶景に麻痺したドタマで、そんなことを考えながら進んでゆくと。

ちょ、上の方になんかいる!

調べたら『鬼ミュージアム』や、『おにっこランド』という施設らしい。

どうやらこの辺は、鬼が観光資源のようだ。

UMAハンターの俺にふさわしい場所じゃないか。

 

橋の上から見た日野川。この先10キロほどで、美保湾に流れ込む。

んで、この橋を通過した先には。

鬼たちが、天敵である俺を威嚇していた。

『UMAハンターかみ』として、激闘の末に、こいつらを捕獲したことは言うまでもない。昔から伝わる日本三大UMA(鬼、河童、ツチノコ)のひとつを捕らえた俺は、メール便で鬼を自宅に郵送する手配を済ませ、意気揚々と走り出した(しれっとウソをつくのはやめましょう)。

 

さあ、いよいよ大山(だいせん)は目と鼻の先だ。

 

後編に続く

 

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