solo run

風に吹かれて

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2010.08.18 五日目(前編) 四国〜淡路

―大阪峠、鳴門スカイライン―

 

昨日の晩、呑んだくれたとき、「もし走れそうなら一緒に走ろうか」つー話になってた。

だが、アンジェの兄貴は昨日、そこそこ酔っ払ってたし、基本的に忙しい身だ。「たぶん、走るのは無理だろうなぁ」と思いながら、ゆっくりと身支度を整える。それからアジトが暑くなってきたので、ちと街に下りて涼しいところに移動しようと、もたもた荷物を積んで走りだした。

昨晩、思わず感嘆の声を上げた景色も、昼間に見ると、わりと普通。

いや、いい眺めなんだけど、夜景が良すぎた。

荷物積みに手間取ってたため、気づいたらかなり気温が上がっていて、汗がダラダラと流れ落ちる。「どっか涼むのにいい場所はないかなぁ」と探しながら走り、途中でガソリンを補給してると、携帯にメールが入った。アンジェの兄貴からで、「葬式が入った」とのこと。残念だが仕方ない。

次回の再会を約したら、徳島方面に向かって走り出す。

 

昨日の夜は四国を走ろうつってたと言っても、アンジェさんが来れないなら話は別だ。

兄貴のいない四国に用はない。

海沿いは暑いだろうから、少しでも山間部を走ろうと決め、海沿いの国道11号を外れ、香川と徳島の間っこあたりの山間部を、東西に走る国道192号へ。11号に比べたら混雑が少ないだろうと予想してたのだが、観光客はともかくトラックが多くて、ペースは上がらない。

そして、朝の山間部だというのにコレがまた、いいだけ暑い。

「こんなことなら、海沿いの方がまだ、視覚的に涼しかったかなぁ」

とつぶやきながら、途中で見つけたコンビニに入ってコーヒーを飲む。

日差しがギラギラと容赦なく照りつけ、アサイチからガンガン体力を奪われる。

今日も、マメに給水しないと熱中症になりそうだ。

20キロくらい走ったところで、道は吉野川と併走する。

山間部かと思ったが、川沿いと言うことは山より低いわけで、そりゃあ暑いだろうよ。

暑さでぼーっとして、信号待ちのゴーストップがしんどくなってきたので、ちょうど通りがかったのを幸いと、井川池田インターから徳島道に乗る。んで、乗ってから『こんな天気の日は、さえぎる物のない高速道路はフライパン』だということを思い出すが、時すでに遅し。

昨日宴会の余韻か、おなかの具合が怪しくなってきたので、乗ってすぐの吉野川SAで休憩。

休憩つーか出すもんを出す。

 

山の間を抜けてるのに、なぜにこうも暑いのか。

暑くて気持ち悪いのか、二日酔いで気持ち悪いのか、正直、判別はつかないが、とにかく気持ち悪くなってきてることだけは確か。もともとたいしたもんじゃないのに、この暑さで更に判断力が失われてくる。わりとピンチな状態なので、ずーっと80キロくらいで走ってた。

 

さて、祖国を脱出して、なにその亡命者。四国を脱出して、本州へ渡るわけだが。

明石の大鳴門橋から本州へ渡るには、徳島道から高松道に乗り換える必要がある。ところが、徳島道と高松道のジャンクションは愛媛側にしかない。今から100キロ戻るとかバカ言うな。つわけで藍住(あいずみ)で徳島道を降り、県道を3キロほど走って、板野から高松道に乗る。

ところが、藍住で降りた瞬間、バカ渋滞。

や、関東レヴェルで言えば、『動いてるから渋滞じゃない』とも言えるのだが、とにかく混んでる。ただでさえクソ暑いトコもってきて、クルマに囲まれたもんだから、熱気は倍増。暑くてイライラするとか以前に、ひたすら意識が怪しくなってくる。

こらぁ、このままじゃよくないよ。死んじゃうもの。

緊急措置として『すり抜け』をはじめた、かみさん40歳。すっ飛ばし始めると、だんだん元気になってくるから面白い。途中のコンビニでちょっと休憩を入れながら、地図を確認してるうちに、つい数日前に走った『鳴門スカイライン』を、もう一度走りたくなってきた。

それなら高松道に乗るのはやめて、このまま県道1号で、海沿いの道へ出よう。

 

県道1号、讃岐(さぬき)街道を北上し、海沿いの国道11号線を目指す。

高速のインター入り口を抜けたら、とたんに道がガラ空きになった。

空いてる上に、適度に曲がってて面白い。かみさん、暑さも忘れてすっかりご満悦。

「いいねぇ、走りやすいねぇ」

讃岐街道をご機嫌で走ってると、やがて道が登り始める。大阪峠だ。

県道1号線を南(下)から走ってきて、そのままグネグネと節操なく曲がる大阪峠へ。

 

大阪峠は地図で見たままの、えらく曲がりくねった狭い道だった。

道幅は一車線ギリギリ。もちろん一方通行ではない。対向車が来る。

対向が来る以上、当然、こんな道は飛ばせない。飛ばせない曲がった道と言うのは、本来、あんまり楽しくない。ところが、この日は違った。何度もしつこく書いてるように、この日はひたすら暑かったのだが、大阪峠を上り始めてすぐ、俺は心から神様に感謝した。

とにかく、ウソみたいに涼しいのだ。

陽が当たるところはもちろん暑いが、ちょっと木陰に入ると、ビックリするくらい涼しい。しかも、国道や高速が近いはずなのに、まるで深い山の中にいるかのごとく静か。「走ってさえいれば、今日の暑さもゼンゼン耐えられるな」と思いながら、気持ちのいい林間の坂道を駆けのぼる。

まさに神の恩寵(おんちょう)、思わぬ収穫だ。

 

さっきまで、やかましくて仕方なかったセミの声も、いまやすっかりヒーリングミュージック。

ちちちと鳥の声なぞ聞こえようものなら、思わずにやりと相好を崩してしまう。『小高い丘』って程度の小さな山を、陽の当たる側は適度にすっ飛ばし、日陰の側はのんびり涼みながら走る。すると、曲がりっぱなに看板が見えてきた。どうやらこの分岐を上に行くと、展望公園があるらしい。

「急ぐ旅でもないし、それじゃひとつ、大阪峠の展望を見てみようじゃないか」

すっかり鷹揚な気分になった俺は、そうつぶやいて分岐を登りだした。

 

登り出して数分。

「おや、結構、登ってきたのに着かないぞ? 間違えたかな?」

と軽く不安になったころ、ようやく展望公園の入り口が見えてきた。

写真奥に写るトイレ以外に建物もなく、太陽からの逃げ場がないのは誤算だった。

 

展望所からの風景。

もちろん美しいのだが、正直、絶景は見飽きてきているので感動は薄い。

「まぁ、こんなもんだろうな」

と独り言ちながら振り返った瞬間、絶景どころじゃない光景が目に入る。

く、くびれがたまらん(否定的な意味で)。

ダッフルバッグは縦にして荷物を詰めるのだが、余った部分を絞る機構がない。なので、詰めた当初はしっかり積んだつもりでも、走ってるうちに振動で偏(かたよ)り、こういう状態になる。コレまでも間々あったのだが、さすがにココまでハデにずれたのは初めてだった。

「このままでも落ちはしないだろうが、精神衛生上、よろしくないな」

わずかな木陰へフューリィとともに篭城し、荷物の積み直しをする。

今度は縦に積んでみた。

とりあえず落ちることに関しては、さっきより耐性が上がったが、残念ながら哀しくなるくらいジャマ。ダッフルバッグの底の部分には、重たいものや硬いもの(テントやコッヘル)が入ってるのだが、こうして積むことで、それらがちょうどケツから腰に当たるのだ。

「ま、しばらく走ってみて、どうしても哀しかったら積みなおそう」

心の中で(帰ったら絶対、他のバッグを探す)と誓いながら、口に出してはそう独り言ちて、展望所までの道を、今度は県道1号線まで下る。ところで、先ほども書いたように、ここらはとっても静かだった。なので、走り出してしばらくすると、ある考えが浮かんでくる。

「エンジンを切って、重力だけでどこまで下れるかな?」

 

エンジンを切るということは、俺の股の下にある最大の発熱体が沈黙することになる。

つまり『より涼しくなる』わけで、しかもガソリンまで節約できてしまう。昔の単車なら、エンジンを切ってもメーターが回るから、あまり長くエンジンを切って走るとメータの距離とガソリン残量のつじつまが合わなくなることもあるが、最近の単車はデジタルメータなので、その心配もない。

ま、そんな心配をするくらい、長いこと下るつもりだったのだ。

レポが冗長になる(何を今さら)ので先には書けなかったが、実は大山の林道セクション(俺の勝手な命名)を走ってるときも、ガソリンが心配で似たようなことをしてた。その時に思ったのが、「コレを動画に撮れば、風切音だけで下ってゆく映像が撮れるな」ってことだった。

「よし、善は急げだ、早速やってみよう」(善ではありません)

カメラをセットし、撮れたのが下の動画……なんだが。

 

勘のいい連中は、すでに気づいてるだろう。

俺も走り出してかなり早い段階で気づいた(聞きづらいが、動画の中でぶつぶつ言ってる)。

こんな映像、自転車の連中がナンボでも撮ってると言うことに。

 

急激にやる気が失せたので、動画は適当に切り上げ、あとはエンジンを切ったまま、

涼しい木陰のトンネルを、たんたんと抜ける。

やがて道幅が若干広くなり、同時に潮の匂いがしてきた。

と、急に視界が開ける。

海だ。

見えないところから、視界が開けた瞬間に見える海と言うのは、何度経験してもいいモノだ。

こんなジャイアンチックな停車をしても、何の問題もない。

大阪峠を登り始めてから、いや、正確には高速の入り口を越えてからココに至るまで、ただの一台も対向車に出会わなかったのだから。登りはさすがにエンジン切れないだろうから、上がってくればイヤでもエンジン音が聞こえるだろうし問題ない。とにかくそのくらい静かだったのだよ。

つーかこうして見ると、原付マフラー、意外とカッコいいじゃん。

 

結局、下りはほぼ全線、エンジンを切って走りきってしまった。

道が平坦になったところでエンジンをかけたら、自分のエンジン音で驚いた。

海沿いの国道、9号線に出たところ。ココまで下ってくれば、当然、クソ暑い。

 

9号線は、平日だからってのもあるだろうが、トラックが多かった。

もっとも、大阪峠の木陰で癒され、仏様モードに移行した俺には、まったく問題ない。

あまりに遅いトラックがいたときは、道端に単車を停め、海を眺めてやりすごす。

動力性能の低いフューリィを、しかも低回転でのんびり走らせているので、急に追い越しをするのがとてもかったるい。自然と無理な追い越しや、強引な抜き方をしなくなる。その代わりに、こうやって風景を眺めたりしながらやり過ごすことを覚えた。

今回のツーリングで、俺のツアラー能力が飛躍的に上がったのは、衆目の認めるところだろう。

 

国道11号線を、海を眺めつつ走っていると、やがて見覚えのある場所へ出る。

県道183号線、『鳴門スカイライン』だ。

来た時と逆方向からのアプローチで、快適なワインディングを走り出す。

しかし、これだけ連日ワインディングを走って、今日もさっきまで、舗装林道みたいな狭いツイストを走ってきてるのに、なんでこういう曲がり道へのアプローチを見ると、とたんに胸がわくわくするんだろうね。もしかしたら、脳になにか重大な欠陥があんじゃなかろうかと、ちょっと心配になるよ。

お陰で美味しいモノ喰うとか、名所を見るとかいった、まともなツーリングができないし。

 

狭めの林間ツイストを気持ちよくすっ飛ばすと、暑さも頭痛も気にならない。

ま、ちった気にしないと熱中症になっちゃうんだけど、そこはそれ。

万が一熱中症になっちゃったら、近くの海にパンイチで飛び込んじゃえばいいだけだし。

男に生まれてよかったね、俺。

 

やがて道は、先日写真を撮った、大きな橋に差し掛かる。

スカイラインを西から東へ抜けてる左側だから、コレは播磨灘(はりまなだ)だね。

播磨灘つーと真っ先に浮かぶのが相撲のマンガってのもどうかと思うけどね。

面白いから全巻もってるけどね。

 

前回走ったとき気になってて、写真を撮りそこなっていた場所を、今回は狙って撮る。

なんて大げさなもんじゃなく、普通だと赤いはずの『高グリップ減速帯(俺命名)』が、青くてキラキラしてたのが、印象に残ってたのだ。「青は海を意識してて、キラキラするのは貝殻のイメージだろう」などと勝手に推察しながら走る。ゼッタイ間違ってるけど。

ちなみに、普通の赤い減速帯はグリップが高いけど、某所のは幾つか滑るのがあるらしい。

マーマレードマメ知識。

 

鳴門スカイラインを走りきると、県道(国道じゃないぞ)11号線に出る。

ここで四国とはお別れし、大鳴門橋を渡って淡路へ。

 

中編に続く

 

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