solo run

風に吹かれて

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2010.08.21 七日目 山梨〜秩父

―呪いの霧 GOとなっこと中里さん―

 

朝おきて、目を開けた瞬間。

目の前に広がる、真っ青な空と、自分のバイク。

この絵がちょっと嬉しくて、思わずニヤリ。それから、寝転がったままカメラを取り出してパチリ。

そこでようやく、周りが涼しいことに気づく。

「ああ、さすがにこの辺まで来ると、朝は涼しいんだな」

俄然、やる気が出てきた。

 

平日の朝としては考えられないほど、すばやく起きて身支度を始める。

野宿場所の全景。

シュラフは結局、マクラとして使った。かぶって寝るには、シュラフカバーでちょうどいい感じかな。夏の夜には悩まされる、蚊だの虻だのも出なかったが、アリンコだけは避けられなかった。さすがにヤツラは逞(たくま)しい。シュラフカバーかぶってたから、被害はなかったけど。

総じて、地方の道の駅ってのは、イージーに野宿するにはとっても便利。

本来あまりいいことじゃないんだろうけど、あんまりヒトの来ないマイナーな道の駅だったら、まず、モンク言われることもないし、アスファルトで覆われてるから虫も少ない。もっとも、アスファルトで覆われてるってコトは蓄熱しやすいわけで、夜でも土の地面より暑いけど。

天秤かけて、俺は虫の少ない方を選んでるってわけだ。

便所や洗面所もあるので、野宿初心者にもオススメ。

 

顔を洗って、歯を磨いて、カトちゃんにも怒られない万全の準備を整える。

で、ハミガキセットを持ったまま戻って来る途中で、一服しちゃうんだからハミガキだいなし。

 

陽が昇ってくると、太陽の当たる部分はさすがに暑くなってくる。

それじゃ、ギラギラが本気を出す前に走り出そう。

アサイチの雁坂みち。ちょっと靄(もや)がかかって、体感温度はかなり涼しい。

 

あんまし激しくない曲率で、朝っぱらのボーっとした俺には、ちょうどいいワインディングだ。

 

甲州の山中を、ばすばす歯切れいい排気音を響かせながら、フューリィと駆け抜ける。

 

広瀬湖が左に見えてきたら、雁坂トンネルまではあと少し。

 

道の駅「みとみ」のわきをすり抜けて、やがて雁坂トンネルの料金所に到着。

「おはようございます。560円です……はいありがとう。トンネルの中、寒いから気をつけて

料金所のおじさんが、親切に教えてくれた。

「寒いならダウンを着とくか……なんてな。バカ言うな。ダウンなんか、暑くて死んじゃうよ」

キレのあるひとりツッコミも鮮やかに、ハナウタ交じりで走り出したかみさん。

 

トンネルに入った瞬間。

「さ……寒い。めちゃめちゃ寒い! ここだけもう秋になってるぞ!」

涼しいとかじゃなくて、明らかに寒い。単車の金属部分に露(つゆ)がつくくらい寒い。自分の薄着が哀しくなるくらい寒い。「走り出す前にダウン着ときゃよかった」と後悔しながら、それでも「トンネルを越えれば、まさかここまでは寒くないだろう」とあたりをつけて、トリハダ全開で走る。

と、1キロ弱くらい行ったところ、いったんトンネルが途切れた瞬間、目の前が真っ白に。

「ああもう、ぜってーGOとなっこの呪いだろ、これ!」

昨晩、携帯でみんなのサイトを読んでたのだが、魂妹なっこの日記に、『GOとふたりで富士周辺のスカイラインを制覇したが、全線、霧で視界が最悪だった』てなコトが書いてあった。それを読んで「ぎゃはははっ! ばっかでー!」と爆笑したせいで、ヤツラの呪いがかかったのだろう。

「GOさん、ごめんなさい。なっこさん、ごめんなさい。もう笑わないから許して」

哀しい呪文を唱えながらトンネルを抜けると。

ちょっとだけ、許してくれたっぽい。

とは言え、視界が悪い上に霧だか雨で路面もびっしょりなので、とても快適に走るとは行かない。国道140号線、彩甲斐街道を滝沢ダム方面に向かい、霧の中をえっちらおっちら進んでゆく。もちろん呪いの元凶GO&なっこに、クチではお詫びをしつつ、内心では毒づきながら。

やがて、奥秩父もみじ湖のそばに出た。

2008年の12月だったか。

poitaさんやよしなし、horstなんかと一緒に、mioちゃんに連れられて走った、サワヤカ林道ツーリング(ちっちゃいもん倶楽部参照)の時に、三国峠を抜けられなかった代わりに来たところだ。あの時は、もんすげ天気がよかったが、今日はバリバリにガスってる。

滝沢ダムなんか見えやしないが、やっぱり雰囲気のあるいい場所だ。

ちなみに、あのときの写真は。

こんな感じ。

こうやって比べてみると、晴れの写真もいいけど、霧の中の写真もそれはそれでいいね。

 

滝沢ダムを越えてすぐのところに橋がある。

雷電廿六木橋(らいでんとどろきばし)つーステキネーミングのループ橋だ。

写真を撮ろうと停まって、まずは一枚……う〜ん、これじゃループっぷりがイッコもわからん。

つわけで、もう一枚。

この方がわかりやすいかな? つーか降りたとき下から撮ればよかった。今気づいた。

ループ橋を撮ったら、とっとと走り出す。

「そろそろガソリンが心もとないから、どっか途中で入れておこうか」

思った矢先にスタンドを発見したので、そこで給油したのだが、まぁ最近では中々お目にかかれないほど、ゴキゲンに態度の悪いスタンドだった。ムスっとしてるだけならまだしも、常連っぽいオッサンとしゃべってて手元も見ない。当然、ガソリンがこぼれるが、知らん振り。

「ガソリンこぼれたから、ウエス貸して下さい」

つーと、めんどくさそうに無言で渡しやがったから、さすがの温厚なかみさんもカチン。

「あのさ、俺、なんか悪いことした? 何が気に入らないの? いいよ、話あるなら聞くよ?」

「は? え、いや……」

「別にお客様は神様とは思ってねーけど、こぼしたのは神様カンケーなくね? 自分じゃね?」

「は、はい、すいません」

思いのほか恐縮したので、態度が悪いつーより、単に寡黙で自己表現の苦手なヒトだったのかも知れない。彼のビックリした様子に、早くも後悔したかみさん、「ま、いいや。んじゃ」とあわて気味に言い放ち、逃げるように走り出す。んで、走りながらちょっと反省。

接客がどうのと怒るのは簡単だけど、みんながみんな敵意を持ってるわけじゃない。

俺だって機嫌が悪い時は無愛想になるんだし、感情表現が苦手なひとだっている。これからは、今よりもう一歩だけ我慢してから、文句なり意見なり言うようにしよう。せっかく気持ちよく走ってるんだから、あんまつまんねーことでイラついてるのもバカバカしいし、もったいないよね。

 

気を取り直して、気分よく走ろう。

林間を楽しくうねる140号を、時々ステップを擦りながら駆け抜ける。

このころになると、無駄にステップを擦る事がほとんどなくなっていた。道の曲率を見れば、フューリィのコーナリングに必要な進入速度が、ある程度は判るようになってたのだ。だから緊張もないし、オーバースピードで曲がれなかったりすることもない。

当然、走るのが楽しくて仕方ない。

幸せだね。

 

やがて道の駅の看板を見つけて、ちょっと奥まったところにある、そこへ入る。

道の駅あらかわ。秩父鉄道の踏切がそばにあったので、電車の好きなヒトは知ってるかも。

ここでトイレを済ませる。いや、実は雁坂からこっち、ずっと寒かったのでおなかが冷えたのだ。かと言って、ダウンを着るほどは寒くない。停まれば充分、蒸し暑いのだ。「長袖のTシャツでも、一枚くらい持って来ればよかったなぁ」と後悔しながら、でも、買うほどじゃないし。

なかなか難しいね(サマージャケット着ましょう)。

 

出すもん出してスッキリしたら。

ここで携帯をチェックし、着メのあったmioちゃんにメールしたり、BGMでかかってた、ルイ・アームストロングの名曲、『What a Wonderful World』に、「なんで道の駅でスタンダード!」と、ひとり勝手に大笑いしてmixiにつぶやいたりしながら、地図を眺めて今後のルートを決める。

すると、ここから少し戻ったところで分岐する、県道43号を見つけた。

秩父ミューズパークの横を通って北上し、長瀞(ながとろ)の方へ向かう道だ。とりあえず、なんとなく決めてる『日本ジグザグ』的には、北へ向かうのはアリだろう。もっともそれさえもキマリじゃなくて、別に気が向いたら西でも南でも、好きな方に走ればいいんだし。

風まかせ、楽しいなぁ。

 

道の駅あらかわを出たら、ちょっと戻って県道43号へ。

入りっぱなから狭くてくねる、四国や鳥取でさんざん走り倒したような道だ。

ウエットだからすっ飛ばすわけにもいかず、朝の空気を吸い込みながら、たんたんと走る。

そのうち道が平坦に走りやすくなった。「ウエットの時は直線がいいね」言いながら、ボケっと43号を走っていると、アチコチに『バイクの森おがの』の看板が出てくる。俺の持ってる2009年版マップルには載ってなかったので忘れてたが、そう言えば秩父にはそんなのがあったっけ。

なので、急遽43号線を逸(そ)れて、県道209号線に入る。

『バイクの森おがの』は、この209号沿いにあるのだ。

やたら案内が目立つので、場所はすぐに見つかった。

駐車場にフューリィを入れるが、時刻はまだ9時前。

開館の一時間以上も前じゃ、もちろん誰も居ない。

「なんだ、もっと建物が大きいかと思ったのに、意外と小さいな」

思いのほかショボめの外観にちょっとガッカリしたら。バイクミュージアムが見れない以上、ここはただの駐車場でしかないわけで。おとなしく戻るものつまんないから、そのまま進んで県道37号に入り、さらに県道71号を走ろう。

白いラインの右側、緑&ピンクの道が県道71号だ。

途中の、カタマリみたいにグネってるトコなんてステキだよね。たぶん走りづらいけど。

今日も今日とて、観光地も行かず名物も食わず、ひたすら曲がり道を走る。

 

71号に乗って走り出すと。

最初こそこんな感じの、広くて走りやすいワインディングだが、mioちゃんと走ったことのある合角(かっかく)ダムを過ぎてしばらく走ったあたりに入ると。

やっぱり狭くなってくる。つっても、このくらいなら全然、問題ないけど。

むしろ濡れてることの方が問題。

さらにガスってきたことが最大の問題。

防曇仕様のシールドが曇ってくる。湿気具合がひどい。

 

「う〜む、今日は霧に祟られるのかなぁ」と凹みながら進んでゆく。

 

すると、俺の願いが届いたのだろうか。それともGO&なっこの呪いが解けたのだろうか。

どうにか雲が切れて、青空が顔を出した。

「やっほう! やっぱ、GOやなっこなんざ、俺の敵じゃないぜ!」

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、曇らせないで雨も霧もやめて。

 

呪いの効果はなかなかのもので、結局、このあとも晴れたり雲ったりを繰り返した。

そのうち道が街中を走るようになり、県道71号は国道462号にぶつかる。

神流川(かんながわ)にかかる橋の上から。や、たぶんだけど。

 

さらに71を北上し、有名な御荷鉾(みかぼ)林道を、舗装部分だけでも走ろうと思ってたが。

うっかり曲がるポイントを見逃して、そのまま国道462号を進む。

やがて道の駅が見えてきたので、ここで休憩がてらリルートだ。

道の駅『万葉の里』は、バイクの駐車の扱いがひどいと思う。

クソ狭いトコに停めさせられると、そこは便所の前つーんだから。

この日はクソ暑かったから、日陰で逆に助かったけど。

 

リルートして、462から299へ出、県道45号で下仁田の方へ行こうと決めた。

下仁田の方つーか、妙義(みょうぎ)山の方だ。

ふだん群馬のあっちの方へ行くと、赤城とか榛名ばっかり走って、なかなか妙義を走る機会がない。なのでこの際、久しぶりに妙義山を走ろうと決める。『頭文字D』の中で俺のイチバン好きな名ゼリフ大王、中里さんのホームグラウンドだしね。

いつか必ず使うと決めてる名ゼリフ。

「外から行かすかよォ!!」

シビれるぜ。

中編に続く

 

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