solo run
風に吹かれて
2010.08.21 七日目(中編) 秩父〜草津 ―ワインディング詰め合わせ―
下仁田方面へ繋がる、県道の入り口が見えてきた。
妙義ナイトキッズの本拠地まで、あと20〜30キロ。
途中、休憩場所があった。
そんなに疲れてるわけじゃなかったのだが、俺は迷わずフューリィを滑り込ませる。 なぜなら、ここは道の駅じゃなく、
村の駅だったからだ。 つっても村の駅ってのが何なのかは、ビタイチ知らないんだけど。
いつの間にか気温がぐんぐん上がり、だいぶんクソ暑い。
下道をたんたんと、北へ向かって走り続ける。 いや、『たんたんと』なんて書いてるけど、ここまでもわりと楽しいルートだ。少なくとも、俺は楽しんで走れた。いや、まあ、乗り出したら12時間続けて走っても「楽しい」つって笑ってるキチガイの言うことだから、話半分で聞いといてくれればいいけど。
国道を左折し、松井田下仁田線を右折したら。
妙義山はもうすぐだ。
やがて妙義のふもとにたどり着くと。
前フリチックな電光掲示板。 もちろん、そんな甘言に乗るかみさんではない(甘言ではありません)。 走り出してすぐ、ちょっと違和感を感じた。なんだろうとしばらく考えて、「ああ、そうか。いつもは高速側から登るから、考えてみたらこっちから走るのは初めてかも知れん」と納得がいく。でも、今これを書きながら冷静に考えたら、往復したから初めてじゃないや。 単に忘れてるだけだったようだね。いつものことだけどね。
「あれぇ? 妙義ってこんなに狭かったっけ?」 もともと広いワインディングではないが、久しぶりに走る妙義は、記憶の中よりもずっと狭かった。曲率も思ってたよりキツいし、道も荒れてる。もしかしたら俺が走らない数年の間に荒れたのかもしれないけど、それを差っぴいても、ヒトの記憶ってのは当てにならないもんだ。 ヒトのつーか俺の。 路面がハーフウエットだったので、無理せず気楽に曲がりながら、妙義山の頂上を目指す。 「あの景色は、なかなか壮観だよな。久しぶりに、楽しみだなぁ」 やがて、妙義山の駐車場に到着した。
霧に飲まれながらも、妙義の勇姿は健在だった。
妙義全景を描いた案内図。 白いのが車道だから、俺の知ってる妙義の道はこれだけだ。黄色とかオレンジ、赤い道は『歩いて登ろう』つーキチガイ、もとい、ハイカーの通る道。赤いのが上級者ルートらしいが、俺だったらどの道だって一歩たりとも歩きたくない。かみは歩かない。 一服つけてから、もう少し近づいて、妙義の姿を写真に撮る。
この方が、妙義を伝えられてるかな?
ちょっと日本離れした、中国っぽい風景だよね。
久しぶりに妙義の雄姿を堪能したら、さて、だんだん暑くなってきたし、走り出そうか。 「確かこの先に道の駅があるはずだから、そこまで走ってから休憩しよう」と決めたら、濡れた路面に気を配りながら走り出す。妙義の曲がりくねった山道を快適ペースで進んでいると、暴走防止用の段差に差し掛かった。 「事故が多いんだろうから仕方ないのかもしれないけど、これ、走りづらいよなぁ」 思いながら、道の段差でガタガタ揺れてると、べちゃん! と音がする。 「あ、なんか落とした」
急いで停まり、振り返ってみると。
俺の大切な旅の相棒、マップルさんが落下してる。 「のんびりペースでよかった。すっ飛ばしてたら気づかなかったかもな」 妙な安堵をしつつ地図を仕舞って走り出す。地図なんてもちろん、できるなら毎年買い換えるべき情報だ。この2009年版だって、もう、載ってない道がいくつもある。だけど、ナビのデータと違って、地図ってのは一緒に走った思い出の一部だから、出来れば失くしたくない。 他の単車乗りにあげるのは、ぜんぜん気にならないのにね。 不思議だね。
道の駅「みょうぎ」に到着。
ここで、今夏の旅で初めて、ナンシーに遭遇した。 「これ、はーれー?」 「ほんだ」 「なんしーしー?」 「1300」 「せんさんびゃく? おおきいねぇ」 「いや、イマドキだと中くらいかな。デカい単車はいっぱいあるから」 ま、儀式みたいなものだ。税金とも言う。
やがてナンシーも去り、「んじゃ、どこへ行こうか」と地図を眺める。 この時間も、また楽しい。 軽井沢の方へ抜けるのもいいが、せっかくジグザグ南北に走ってるんだし、もちっと北の方に行ってみようかと思ったところで、しんごと『志賀草津道路』の話をしたことを思い出した。それじゃ、志賀草津の方へ行こう。そう思って走り出した瞬間、大切なことに気づいて叫ぶ40歳。 「あぁ、そうか。着替えを買わなくちゃ」 実は出発するまえ、荷物をパッキングしてるときに、ナオミと話したことがあった。 「う〜ん、タンクトップが足りないな。コンパクトで荷物にならないからいいのに」 「それじゃ、出先で必要になったら、買えばいいんじゃない?」 「おぉ、なにその俺好みの対応。カシコイなおまえ」 つわけで、今回はアロハ、Tシャツ、タンクトップの三枚しか、上半身を覆う服を持ってきてない。ま、タンクトップはほとんど覆わないけど、それはともかく。今日、着て走ってるヤツが三枚目なので、どこかで洗濯するか買う必要が出てきたわけだ。 なので、手っ取り早く街へ出ようと、国道18号を東へ進んだ。
わりとすぐに、閉店売りつくし中のジーンズショップを発見。 タンクトップを二三枚買おうと店に入って売り場を探すと、あるにはあったのだが……さすがに『閉店売りつくし中』だけあって、品揃えがハンパない。どのくらいハンパないかつーと、俺の着れるサイズのタンクトップが、蛍光ピンクと、蛍光イエローと、ムラサキしかないくらい。 百歩ゆずって、赤か緑までだよなぁ。
しかたなく、何も買わずに店を出て、またしばらく走ると。
今度はコインランドリーを発見した。 ここで洗濯すると一時間近く取られてしまうが、この際、仕方ない。昼近くなってクソ暑くなってきたところだし、洗濯がてら休憩しよう。なんたって、例の『しゃぼん』と違い、ここは冷房が効いてる。連日、いいだけ太陽に灼(や)かれている身としては、何よりありがたい。
さすがに平日の昼間だけあって、広い店内は貸しきり状態。 もちろん、妙なカードを買う必要もなく、現金でオッケーだ。洗濯機が動いてる間にメールやmixiをチェックしたり、地図を見てここから志賀草津道路までのルートを考えたりする、なんつっても冷房の中だから、ぼーっとしないでじっくり考えられるのが嬉しい。
やがて、洗濯が終わった。
今回、持ってきた衣類一式。 これに、今着てるTシャツとジーンズですべてだ。 こいつらを、アンジェの兄貴に教わって買った、圧縮パックに入れると。
下着からシャツまで、バスタオル以外の全部を入れて、バスタオルと同じくらいのサイズ。
そのバスタオルは単体で、このくらい小さくなる。 ま、せっかくふわふわに洗い上がったのを圧縮しちゃうのは、ちょっと心苦しいが。 んで、この圧縮パックをつぶしてる時に、ふとひらめいたので。
ダッフルバッグをゴムバンドで圧縮してみた。
これなら、走ってるうちに荷物が偏って、変にくびれちゃったりもしないだろう。 もっとも、固定用に二本あったゴムのうち一本を、圧縮に使ってるので、固定力は落ちるけど。単車を起こして揺すってみると、今までより少し不安定だが、まぁ、何とかいけそうだ。最悪、ダメなら通りがかりの店でゴムロープ買えばいいだけの話だしね。 だったら、今のうちに買っとけばいいのにね。 メンドくさかったんだね。
出発準備が整ったら、志賀草津を目指して走り出そう。
国道18号から県道48号に乗って、うねうねしながら北を目指す。
快晴とは程遠いが、そのぶん直射日光が少なくて助かる。蒸し暑いけど。
県道から繋がる国道406『草津街道』を走り抜けてると、だんだん空が晴れ上がってきた。「晴れてくれたこと自体は、ツーリングライダーとしては喜ぶべきことなんだろうけど、正直、暑いのはもうお腹いっぱいなんだよなぁ」とゲンナリしつつ走る。 ま、今考えると、晴れてくれてホントに良かったんだけど。
やがて道は山間部に入り、細くくねりだす。
たぶん、須磨尾峠のあたり。
須磨尾峠を抜けて、吾妻川に掛かる橋を越えたら。 道は国道145号『長野街道』にぶつかる。つーか、ここから西へ5キロくらいの区間だけ、一本の道が、今走ってきた国道『406号』と『145号』、『146号』の、三つの名前を持つことになる。俺をしょっちゅう迷わせる、例のH型交差の変形って感じだね。
矢印が俺の走るルート。 右下から走ってきて、T字路で145(6)を左へちょっと走ったところで。
避難場所つーかたぶん、冬季のチェーン装着場っぽい場所で、休憩を入れる。 下道オンリーだから距離のわりに疲れてるが、さすがに志賀草津が近いこともあってか、ツーリングライダーの姿を見かけるようになり、気持ちはちょっと元気になってきた。別に一緒に走ってるわけでもないのに、楽しそうに走ってるのを見ると、こっちまで嬉しくなる。 さ、一服したら俺ももうひと息、志賀草津道路を目指して走ろう。
やがて国道292号『志賀草津道路』に入る。 サンデードライバー、観光マイカーが多くなってきた。
もちろん、観光バスもだ。 黄色線だから、おとなしく後ろを着いて走り、ちょっと開けたところで追い越す。 繰り返していると、前のクルマがいなくなった。
道は途中までこんな感じの、山間を走る一般的なワインディイングだ。 が、やがて硫黄が木々を枯らす、草津らしい景色になる。
空は雲の合間から、時々青空が見えるくらい。
ひたすら山を登ってゆくが、厚い雲のせいで景観的にはいまひとつ。
写真には写ってないが、マイカーやバスも平日なのに結構多くて、走りも楽しめない。
と思ってたら、だんだん雲が晴れてきた。
青い空が見えてきたなぁ。
お、いよいよか?
抜けた。 とたんに緑がまぶしく輝きだす。
抜けるような……いや、呆れるような青空が広がる。
ここが確か、第一駐車場だったかな? 金取るつーから停まらずに、走りながら写真だけ撮ったった。
これから行く先の道が、こんな風に見えるのっていいね。 景観としても、すっ飛ばすためのルート確認にも。 あぁ、これ書きながら写真見てたら、こんだケーロク持ってって走りたくなってきたなぁ。
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