solo run
in ご近所
2011.01.14 お散歩ダート
俺のユリシーズは、ユリシーズであってユリシーズでない。 なにやらムダに哲学的なフレーズに聞こえるが、要するにサスペンションがXB‐R用なので、車高が低くストロークもノーマルのユリシーズに比べると少ない。なので、峠道でXB‐Ss並みの気持ちいいコーナリングが出来るのに、車載性はユリシーズのままと言うイイトコ取り。 だからロングやキャンプツーリングも、他のビュエルよりやりやすい……のだが。 こないだの伊豆キャンプツーリングの時、荷物を満載して伊豆スカや西伊豆スカを走ったら、さすがにハンドリングが重ったるくてジャマ臭い。それでもそれなりに走れちゃうのは、コイツの完成度の高さかもしれないが、やっぱりワインディングは気持ちよく走りたい。 長々と、なんの前置きかつーと。 ケーロクのときに使ってた、『ヘンリービギンズサイドバッグ』を付けてみたのだ。
ジャストフィット。もすこし変かなと思ってたのだが、まるっきし問題ない。
幅はハンドルより内側なので、すり抜けも楽勝だろう。 つわけで、取り付けたら走りたくなるのが人情。 とりあえず、ライコランドまで走ってみると、やはりすり抜けは問題ない。160スピードくらいでも、ブレたりズレたりしなかった。テントとシュラフを積まなきゃならないから、冬のキャンプツーリングはさすがにアレだろうが、夏の野宿ツーリングくらいなら全然オッケーだね。
ライコでインナーに着るパーカーの代わりを探す。 俺は丸首が好きじゃないので、トレーナーはいやなのだが、パーカーはすっ飛ばすときにフードが邪魔になるから、フードがなくて前開きのインナーを探すのだ。んで、イエローコーンのネオプレーンインナーに「相変わらずロゴさえなきゃカッコいいのに」とつぶやきながら見て回ってると。 「お、これいいじゃん……って、なんとっ! HYODじゃんか!」
HYODのマイクロシープボアジャケット。 なんでHYODって騒いでるかつーと、ご存知のようにかみさんは昭和のプロレスラー体型なので、タイトなシルエットのモノが多いHYODの服は、圧倒的に似合わないのである。幅に合わせると遠山金四郎だし、長さにあわせると拘束衣としか思えないキツキツっぷり。 ところがコレはモコモコしててシルエットもゆるく、珍しく着れそうなのでビックリしたのだ。 試してみたらフツーに着れたし、見た目もそんなにおかしくなかった。 つってもサイズはLLだけどな。
「ネットで価格やネガを確認して、良かったら買おう」 つぶやきながらライコを後にして、いつものウラ道から軽いツイストを走る。
中高速ツイストを気持ちよく攻め、家に帰ろうかと走ってると。 いつも見逃してた場所に、ちいさなウラ道があった。 ホントにちょっとしたダートなんだが、そこを見た瞬間、胸の中に『ある言葉』が浮かぶ。ユリシーズのうたい文句である『フラットダート最速』つーその言葉が浮かんだと同時に、俺の中のダート魂が、鎌首をもたげ始めた。なので、とりえあえず入ってみる。
固く締まった土の上に砂利が薄く乗ってるだけだから、もちろん問題なく走れた。 走りながら、ついついガバっとアクセルを開けると、とたんに滑り出すリアタイア。幅広のモトクロスハンドルは押さえやすく、アレだけ「失敗した」つってたツアラテックのワイドステップは、ブーツにガッチリと食い込んで足元をカンペキに固定してくれるので、思わず、ニヤリと笑みが浮かぶ。 「けけけ……行くか」
思いたったが吉日。 さっそく、納車の時にサスペンションのリングをすっ飛ばした、利根川沿いのダートへ向かった。
やる気がフツフツと湧いてくる。 ノーマルよりサスペンションストロークがない分は、足つきのよさから来る安心感で相殺し、タイアがロード寄りな分は、ワイドステップの固定力で相殺。空冷OHVの重心の低さと、Vツインエンジンのトルク特性があれば、フラットダートだってガンガンいけるはず。 気持ちを引き締めて、『脚だけXB‐Ss』のユリシーズをフラットダートに乗り入れる。
思ったとおり、全然やれた。 ギャップを越える時のショックはさすがに大きいが、サスを柔らかめにセットしてあるせいもあるだろう、突き上げと言うほどひどくは感じない。ハンドルが若干低いので、スタンディングがやりづらい感はあるものの、ケツの振り方もVツインらしく、滑り出しが穏やかでわかりやすい。 慣れてきてからは、ギャップの手前でアクセルを開け、フロントの荷重を抜くこともできた。 「ぎゃはははっ! やれるやれる。なんだよ、全然ヤレんじゃん!」 大騒ぎしながら、小さな橋まで一気に走る。
静かな畑道の中、停まって一服つけながら、気持ちよく晴れ上がった空を眺める。 それから愛機に視線を移すと。 「ありゃ、さすがにダートだと工夫が要るかもな」
ヘンリービギンズが、抗議の声を上げていた。
タバコを吸いながら、360度ひろがる田舎風景を満喫。
サイドバッグの位置を、最初より若干、うしろにずらしてみた。 こっちの方がいいな。 このバッグが満載でもヤレることは、ムラタと走った龍神でわかってる。もひとつバッグを積んだくらいなら充分、気持ちよく走れるだろう。これで長年の夢だった、『ドコドコのんびりツーリングしながら、ワインディングではガンガン攻める』ってのがやれそうだ。 しかも、フラットダートまで走れると言うオマケつきで。 今夏が、今から楽しみだ。
ドコドコとクルージングできるのに、ワインディングに入ればくるんくるん。 フラットダートもガンガン走れて、おまけに通勤快速だっつーんだぞ? 笑いが止まらんって話だよ、ホント。
彼方のエリック・ビューエル御大に感謝の祈りをささげたら。 さて、もちっと走ろうか。
まっすぐな田んぼ道を、トコトコと走りつつ。 ダートがあれば入って飛ばし、舗装路になれば更にすっ飛ばす。ダートで100オーバー、舗装路で150オーバーを刻む目盛りに、ニヤケがとまらない。横道にそれては狭いダートをチマチマ走りながら、知らない道を探検。国道に出ればすり抜けながら、風景をミラー越しに放り投げる。 なんでもやれる。ドコでもいける。 いっそこのまま、ユリシーズの上で暮らしたい。
風まかせに気の向くまま、混んでる道を避けてアチコチ走り続け。 気づけば古河の文字。 さすがに寒くなってきたので、進路を南へとり、16号に出たところから一気にぶっ飛ばす。そのまま帰るつもりだったが、柏インターを過ぎたあたりで、またちょこっと寄り道したくなった。十余二の交差点を左に折れて、県道7号に出たところで、コンビニへ。
缶コーヒーを飲みつつ、ユリシーズを眺めて一服。
もう、誰かと比べて遅くてもいい。 誰かと比べてヘタクソでもいい。 向上心がなくなったわけじゃなく、コイツをもっと楽しく乗るためにこそ、速く、上手くなりたい。そのための努力をしてゆこう。そうして、この単車を本当に振り回せるようになったら、その時はたぶん自然に、『俺が乗ったケーロク』より速くなっているだろうから。少なくとも峠道でなら。
俺自身と単車とのありかた。 そんなのがちょっと見えたような気がして、なんだか嬉しくなった俺は。 相棒をまたいでフロントタイアを柏へ向け、上機嫌でアクセルを開けた。
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