solo run
in 大名栗線
2011.04.10 全ての道をわが手に
名栗湖のそばに20キロのフラットダートがある。 ツーリング雑誌の特集で読んだらもう、行きたくて行きたくて仕方ない。山河を乗り越えるような本格オフロードじゃなくて、『フラット(平坦)なダート(未舗装路)』が20キロも続くのだから、コレはもう俺とユリシーズのために用意してあるようなもんだ。 つわけで日曜日、8時過ぎに目を覚ました俺は、サクサク仕度を始める。
プロテクター。 転ぶ気はこれっぱかしもないが、基本的に転倒と本人の意思は関係ないし、怪我をすれば帰ってこられないので、やれることはやっておく。まあ、怪我しなくてもガケから落っことしちゃえば帰って来られないんだけど。ほっとけ。
本来、 オフロードにはリュックの方が、なにかと使い勝手がいいのだが、今回はあえてシートに荷物を置いてみた。なるべくオンロードっぽい状態で走ってみれば、次回、オンロードバイクの人も誘えるかも知れないからね。 ま、わざわざオンロードバイクでダートに行きたがる人が居るかどうかはともかく。
8:30分ころ、意気揚々と出発。 エアクリーナボックスにセットしたETCは問題なく作動して、柏インターから常磐道に乗る。
インターの桜もバッチリ咲いていた。 ところで今回は、気に入ったところをすぐに撮影するために、首からカメラを提げてみた。
停まって取り出す手間が省けるので、こんな風に走行中の写真も撮れる。いくぶん風は強いけど、比較的流れている外環道を120スピード(1/2時速)くらいで流す。ユリシーズのスクリーンはしっかり仕事してくれて、オフロードメットなのにまったく抵抗がない。 160スピードくらいまでは、ぜんぜん問題なしだ。
関越を所沢インターで降りて、国道463号を入間方面へ。 信号待ちで前のクルマから顔を出してる
わんこを激写! とかやってたら、バキっと道を間違えた。
コンビニの駐車場でリルートし、299経由で東飯能へぬける。そこから県道70号に乗ったはいいのだが、ここでまた県道28号への分岐を見逃す。いや、70号でも間違いじゃないのだが、せっかくだから28号経由で南下し、快走路らしい53号を走りたかったのだ。
コメリの駐車場で休憩し、mixiに「道を間違えた」とつぶやいたら、そのまま70号を走る。 やがて道は53号に合流するが、すでに『道の美味しい部分』は終わってしまってるので、「帰りは53号を走ろう」と心に誓いつつ、名栗湖畔を目指す。目指すつーか2,3キロ北上すれば、大名栗林道入り口となる、『大松閣』つー温泉旅館の看板が見える。 旅館の横の、「ここバリバリ私有地じゃんね」的な道を上がること数百メータ。
それっぽくなってきた。 「よーし、それじゃあ行くぞぅ」 と気合を入れていると。
ビシっと通行止め。 「う〜む、そうきたか」
とりあえず戻り、53号の脇で一服つけながら地図を見る。 そりゃ、秩父だけに楽しそうなワインディングもいっぱいあるのだが、せっかく来たのだからフラットダートを走ってみたいじゃないか。とりあえず反対側の入り口まで行ってみて、そこも通行止めだったらワインディングを走ろうと決めた往生際の悪い41歳。 「この辺だと思うんだけどなぁ」 きょろきょろしながら道を探し、それらしきところを曲がってみると。
鳥居観音。どうやらココじゃないらしい。 Uターン切って県道に戻り、またもきょろきょろと探しながら走ってると、
それっぽい入り口を発見。
ずんずん登ってゆくと、こちらは通行止めじゃなさそうだ。
やがて道がダートになる。わくわく感が高まってきた。
坂の途中、ちょっと開けた場所で休憩&気合を入れる。
もうすでにタイアやフェンダーはドロを喰い、携帯は圏外。携帯の電源をオフにして、タバコを吸いながら周りの景色を眺める。明らかにフラットではない山道だが、地図によればフラットダートと書いてあるのは先の話。ここは本来なら、フラットダートを走りぬけた後、下ってくる道だ。 「ま、行けんべよ」 呑気に構えてタバコや地図を仕舞ってると、
お仲間が降りてくる。 会釈して手を挙げ、挨拶を交わしたら、こちらも走り出そう。
砂利道だが、シマってるので見た目よりは走りやすいダートを登ってゆくと。
明らかに落石&崩落の現場。 「地震の被害だろうなぁ」 写真を撮りながらつぶやいて、さらに先を登ってゆく。
時々こんな風に崩れ落ちているが、まあナントカ走れる。
この辺はぜんぜん楽勝。
曇り空が惜しいところだが、眺めは悪くない。
ただし、気温は明らかに下がってきている。
ガレっとした場所ではさすがに停まりたくない(完全に止まると、再出発に神経を使う)ので、開けた場所で写真を撮るからあまり写ってないが、写真以外の場所はもう少し荒れている。この段階で、mioちゃん&ロケットスリーに声かけなかったことを後悔……もとい、胸をなでおろす。 「さすがにロケットじゃあシンドいだろうし、かと言ってセローじゃ逆に置いてかれちゃうしな」 独り言ちて笑ったら、走り出そうか。
フラットなダートをガンガン進んでゆくと、やがて舗装路に出た。
下りは通行止め。まあ通行できたって、ここで下るわきゃねぇんだけど。 穴だらけ砂利だらけで一般的には『荒れた』と言われるだろう、しかし今の俺にはこの上なく快適な舗装林道をえっちらおっちら登ってゆくと、ダートとの分岐で、WRに乗った青年が休憩していた。横にユリシーズを停めると、ちらりとこちらを見る。
軽く会釈してエンジンを切ると。 ふゅいーん! ビューエルの十八番、パーコレーション防止の電動ファンがぶん回り、エンジンを切っても静寂は訪れない。仕方ないからファンが止まるまで、地図を見たりタバコに火をつけたりしつつ時間をつぶし、ファンが止まって静かになったところで話しかけてみる。 「寒いっすねー」 「寒いですねぇ」 標高が上がるにしたがって気温が下がり、ココまで来る間にかなり冷え込んでいた。そのせいなのかそれとも花粉なのかは知らないが、青年は鼻をすすりながら笑顔を返してくれた。そしてユリシーズを見つつ分岐のダート側を指差して、「こっち行くんですか?」と聞く。 もちろん両方行くつもりだったが、明らかに「大丈夫か、これで?」みたいな顔をしてたので 「いやぁ、バイクがコレですからねぇ。とりあえず舗装路の方を行きます」 「う〜ん、ユリシーズなら大丈夫かもしれないけど……」 と、思わぬ反応が返ってきた。(お、ユリシーズを知ってるんだ。うれしいなぁ。でも、ごめんね。実はコレ、脚がロード用のパチもんユリシーズなんだよ)などと内心で思ってると、青年は舗装路の先を指しながら 「この先は通行止めになってると思いますよ。戻った方がいいかも」 「地震の影響ですかね。すぐに通行止めになっちゃいます?」 「いや、ある程度は行けると思いますけど」 「わかりました、んじゃ、行けるところまで行ってみます」 相変わらず『人の忠告まったく聞かないっぷり』を発揮して、タバコを灰皿に押し込む41歳。 手を上げて挨拶を交わすと、ドコドコと舗装林道を登りだした。
走り出してすぐ、忠告を聞かなかった代償が現れる。
「うわ、霧が出てきたなぁ」 言ってる間にみるみる濃くなってきた霧は、俺の全身を濡らしてゆく。
ダブルレンズで曇り知らずのゴーグルも、中途半端にぬれてしまって前が見づらい。なのでゴーグルを外して素目で霧の先を探りながら、たんたんと進んでゆく。濡れて滑りやすい路面も、さっきまでのダートに比べればサーキットみたいなもんだ。 「ガードレールがねぇとこは気をつけないとなぁ……って、あぁ! っぶねぇ!」
突然、溶け残った雪が現れた。調子に乗ってると、飛びかねない。
気を引き締めて、慎重に走り出す。
巨大な落石。 ガードレールのひん曲がりっぷりがシビれる。 走ってる最中にコレが落っこちてきたら、一発で彼岸まで連れてってもらえるに違いない。
霧はますます濃くなり。 やがて、分岐に出た。 真っ直ぐはダート、舗装路は右へ曲がっているが通行止め。 当然、ダートをガンガン進んでゆくと
また雪。しかも今度は『溶け残り』なんてレヴェルじゃなく、ばっちり先まで続いてる。 それでも、かみさん41歳気分は探検家、往生際悪く単車を降りて先をチェックしてみたのだが、どうやらこの先はしばらく雪道が続きそうだ。さすがに、ひとり入り込んだ先で転倒ってのは避けたいので、仕方なく戻ることにした。 さっきWRの青年と出会った分岐で、ダートの方に行ってみよう。
Uターン切って戻ってゆくと、途中でWR君とその仲間にすれ違う。 挨拶をして彼らは雪のダートへ、俺は戻って乾いたダートへ。
さっきWR青年と話をしたトコロにある分岐を、ダートへ向かって下り始める。 あとで確認したら、こっちが『最初に通行止めでUターンした入り口』へ続く道だった
入りっぱなからしばらくは、『比較的』走りやすい砂利道が続く。 「コレなら楽勝だぜー」わめきながら進んでゆくと、ちょっと視界が開けた。
切り立ったガケ。 なかなかニッポン離れした雰囲気のある岩だ。 停まって見渡してみると、
こんなカンジ。 足元がおぼつかないから、走ってるときより停まってる時の方が景色は見やすい。 そのままずんずん進んでゆくと。
明らかに砂利のサイズが大きくなる。 しゃぶしゃぶ食べ放題で、だんだん切り方が大雑把になってくるシステムと同じだ(違います)。
ここは若干マディで、リアタイアがいいだけ滑った。 一回、フルカウンター切った。ビビったけど面白かった。
山崩れ防止や、水源を確保するための保安林だが、遊歩道があって観光も兼ねてるらしい。
基本、こういうフラットなところでしか写真を撮れない。 落石で道が埋まりかけてたり、完全に埋まってちょっとセクションチックになってるところもあったのだが、そんなところをユリシーズで通るときは、呑気に写真なんぞ撮ってる余裕はないのだ。一気に抜けてコケそうになったりしつつ、何とか踏みとどまって冷や汗を拭う。 その繰り返し。 フラットなうちはいいが、アップダウンになって道幅が狭まってくると、とにかく無転倒でクリアすることしか頭になくなる。しかも、この日は対向車(もちろんオフロードバイクだ)がやたら多くて、すれ違いに難儀する部分も結構あった。俺が引き返した通行止めを、越えて来てるようだ。 「どっちからのルートが楽なんだろうな」 などと考えながら、対向車に手を上げてアイサツしつつ、すれ違ってゆく。 ほとんどがオフ車で、一台だけモンキーかなんか小さいのがいた。そのむちゃくちゃ低い車高や、俺のといい勝負のロードタイアを見ながら、「ちっこいのだと、この先はしんどいんじゃねーかなぁ」と心配になる。 もっとも、そのぶんオモシロそうではあるけど。
ガレガレのアップダウンを乗り越えてゆくと、やがて道が平坦になってきた。 と、目の前が開けて駐車場が現れる。
向こう側の出口まで、あと少しだ。
すっかり泥まみれになりつつ、「どうだ、意外とヤルだろ?」とでも言いたそうなユリシーズ。 一服つけながら車体周りを観察してみると。
リア周りのドロハネが半端ない。 タバコを灰にしたら、さて、最後まで転ばないように走ろうか。
この辺からは、かなりフラットになるので、きた道よりはずっと走りやすい。 アップダウンこそあるもののフラットな道を、 ハナウタ交じりですっ飛ばしつつ、見通しのいいコーナーでケツを流したりして遊ぶ。一緒にガレガレやドロドロを越えすっかり身体になじんだユリシーズは、重量をものともせず小気味良くコントロールできる。 アスファルト上のハイスピードとは、また違った充実感だ。
下ってくる途中で霧もすっかり晴れ、美しい景色が堪能できる。 やがて、荒れてるながらも舗装された道へ出たら。
最初に引き返した、『大松閣』わきの入り口へ出た。 「おぉ、なんとか転ばずに越えられたな」 満足に、思わず笑みがこぼれる。
湧き水っぽいトコでゴーグルを洗い、それからもう一度、来た道を振り返る。 「おっかなかったけど、楽しかったな」 ゴキゲンで旅館の脇を抜けたら、目の前は県道53号線。 ツーリングマップルには、『快走路』表示されてる道だ。ダートランはおなか一杯になるまで堪能できたことだし、さーて、それじゃあ今度はアスファルトの上を走ろう。
走り出してしばらくは、タイアやサスに付いた泥を落とす意味で、速度を押さえつつ。
クルマに追いついたところで、首から提げたカメラを使ってみたり。 もっとも、そんな風に走ってられるのも、道が狭いうちだけだ。やがて道幅が広がり、くねくねとうねり始めたらもうダメ。大人しくなんて絶対ムリ。落っこちないようにカメラを仕舞う。あのダートで落ちなかったんだから大丈夫な気もするが、念のためだ。 準備が出来たら、アクセルオン。 先ほどまでは、「硬すぎ、ストロークなさ過ぎ」と不満の多かったサスペンションも、舗装路に出れば水を得た魚。増えてきたツーリングライダーをパスしながら、軽快にすっ飛んでゆく。途中、からんできた単車もあったが、こっちはダート後の舗装路だ。 「やっべ、転ぶ気がしねぇ」 カチっとしたサスの手応えを楽しみながら、ばんばんミラーの点にしてゆく。 「ダート走れて舗装路ではコレか。まるでラリーバイクだな。どこまで万能なんだおめぇ」 ゲッタゲタ笑いながら、ステップやブーツの底を擦りつつ曲がってゆく。テキトーにダラダラバンクさせたんじゃ機嫌が悪くなる脚は、入力だけきちんとしてやれば薄気味悪いくらい曲がる。曲がってる途中で身体をインに入れたり、S字は股下で切り返したり、やりたい放題。 ダートのときと違って風が当たるので、エンジンの調子もいい。 見通しのいいとこは突っ込んでリリースでスカッと曲げる。ブラインドは上体を起こしてリーンアウトにしてやれば、股の下で車体がくるりとコーナー出口を向く。SSが絡んでくれば若干ケツを入れつつハイスピードで曲がり、モタード系のクイックな軽い単車なら、直線の立ち上がりでごぼう抜き。 このまま、ずーっと走り続けたい。
とは言え、今日は夕方から、ろろちゃんが遊びに来る。 あんましいつまでも遊んでられないので、青梅のあたりから高速の入り口を目指す。看板どおりに走ってるにもかかわらず迷ったが、なんとか入間インターから圏央道に乗って、アクセルオン。ヘルメットがオフロード用なのだが、それでも160スピードくらいは楽勝だった。 「つっても風が強いし、思ったより疲れてるっぽいから、おとなしく帰ろう」 結局、120〜40スピードくらいで巡航する。 関越で一度、元気なベンツ相手に180スピードくらいまで出してみたが、さすがに風の巻き込みが鬱陶しく、直安も不安定だった。やはりロードメットで200上限くらいが、まあ無理なく楽しめるラインのようだ。 混んできた関越をすり抜け、外環、常磐と走って16号へ出る。 そのまま帰らずに、近所の洗車場へ。
泥をキレイに落として、乾くのを待ちながら携帯を取り出すと、着信があった。 「もしもし、ろろちゃん? どうしたの?」 「早く来すぎだよ、俺」 「ぎゃははは、もう着いたんだ。んじゃ帰るよ」 「いいよーゆっくり走ってきて」 「いや、もう家のそばまで帰ってるから」
つわけで、濡れたユリシーズにまたがり帰路へ。 自宅に到着して、ろろちゃんのBMWを写真に収めたら、
俺は朋友の待つ家の中へ、意気揚々と歩き出した。
「ユリシーズはオフ車じゃない」 などとよく言われるし、実際、バリバリのオフロードは厳しいだろう。だけど、今回走ってみて、思ったよりもずっとやれることがわかった。いや、フラットダートでやれることは検証済みだったが、今回は期せずして『フラットダートより、もう少し厳しいオフロード』を試すことができた。 ある程度のガレやアップダウンも、厚いトルクと低い重心で、割合あっさり越えられる。 まさにコンセプトどおり、『舗装路が切れた先まで旅を続け』られる単車だ。 そしてそれは、これからの俺の単車ライフに、最も必要な能力なのだ。
単車に乗って遠くまで出かける。 気の向くままに走り、未舗装の林道くらいなら難なく越えてゆく。 なのに、ワインディングでは充分以上にスポーツも楽しめる
ほかに必要なのは、ガソリンと休暇だけだね。
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