solo run
北北東に進路をとれ
2011.07.17 一日目 柏〜喜多方 ―Always on the run―
北へ行こう。高速を使わずに。 これが今回のツーリングテーマだ。はじめは、『被災地を見にゆく』という目的も加えるつもりだったのだが、『現地で写真を撮ったり、被災場所を見物している人間が、住人をイライラさせている』というニュースを知って、被災地へゆくのはやめることにした。 行ってる人がどうとかじゃなく、俺はやめようと思った。 それだけの話。
今回の荷物は、過去もっとも少ないだろうってほど、厳選した。 振り分けバッグには着替えとタオルケット、宿泊セット(洗面用具など)、カッパ(上衣のみ)。 それに、キャンプベッドと予備タンク。 泊まる場所は基本的に『道の駅で野宿』だから、テントもシュラフもなし。経験上、シュラフカバーとタオルケットがあれば、夏の道の駅ならほとんど問題ない。駐車場で寝るにあたってイチバン問題になるのがアリンコなのだが、それも地面と距離のあるベッドにしたので大丈夫。 ストーブなんかの自炊道具を外したので、ずいぶん荷物が軽くなった。 さて、それじゃあ出発しようか。
お昼ごろ、ワクワクしながら走り出す。 下道で北へ向かうなら、国道4号(日光街道)か、国道6号(水戸街道)に乗るのが一般的だ。ウチから近いのは6号だから、まずは水戸街道で北へ向かおうか。16号と6号の交差点はいつもバカみたいに混んでるので、渋滞を避けて裏道を進んでゆく。 夏らしい晴天に、暑いながらも気分よく走ってると、ふと、目にとまる光景。 おぉ、『ナオミポイント』じゃないか。 かつてナオミがXRで突っ込んでホイールを曲げた、『伝説のナオミコーナー』を抜けて6号線へ。北へ向かって走りながら、「あ、そうか。せっかく高速を使わないなら、普段は通らない、常磐道と東北道の間っこを抜けてみよう」と思いついた。 さっそく、国道294号線を左へ折れる。 曲がったら、あとはひたすら北上だ。
下妻あたりに来ると景色が開けて、早くもツーリングらしい開放感。 青と、緑と、アスファルトグレイは、夏ツーリングのトリコロール。
貧乏ランプがついたので、ちょうど見つけたセルフスタンドに入る。 後ろに積んである予備タンクにも給油したら、ジリジリ暑い中を走り出そう。 走り出してすぐ、俺は自分がかつてない安心感に包まれていることに気づいた。ユリシーズはぶん回さなければ、ランプがつくまでに250〜300キロ近く走れるんだが、後ろの予備タンクには、さらに5リッターも入ってる。つまり、『プラス100キロ以上は走れる』のだ。 とてつもない頼もしさと、精神的な安定感。
下妻を抜け、筑西を抜け、宇都宮を抜け。 矢板に差し掛かったころには、『まっすぐのんびり』にちょっと飽きてきた。なので、ワインディングを走ろうと県道30号を入り、八方ヶ原へ向かう。去年の夏、霧降高原へのリハビリツーリングで走ったルートだ。カミナリと初めて走ったワインディングである。 「そーいや、カミナリ元気かなぁ」 神奈川のダチに思いを馳せながら、ワインディングの入り口へ到着。 さーて、それじゃあ、『今夏一発目のワインディング』としゃれこもう。 八方ヶ原を抜けて塩原まで、20キロ弱のツイスティロードを走り出す。 途中、速度を落として写真を撮ったり。
ユリシーズは右に左に、ひらひらと舞い踊る。
ちょっと休憩。開けた場所で、タバコを一本。
タイアをアスファルトにこすり付け、前後のサスを沈ませて、爽快なワインディングラン。
やがて道は県道56号から国道400号へ。 日塩もみじランを横目に、400号を北西へ走って、国道121号線を北へ向かうのだ。
400号、塩那の山間部を、気持ちよく駆け抜けて。
山王トンネルを抜けたあたりだったか。 横川パーキングで休憩。 どっちかって言うと、俺よりユリシーズの休憩。 クソ暑い中での、『ワインディング+下道』ってのは、空冷エンジンにとっては結構キツい状況だ。エンジンを休ませながら一服しつつ、この先のルートを考える。「あ、そう言えばこの先って、POPOさんが言ってた奥只見ルートじゃなかったっけ?」と思い出して地図を確認。 すると、どうやら間違いない。この先にPOPOさんオススメの国道352がある。 それじゃ、そっちに行ってみよう。
と、走り出してすぐに、俺は軽い悲鳴を上げた。 「ウッソだろう。カンベンしてくれよ!」 思い出したようにポツポツと降り出した雨は、すぐ大粒になる。仕方ないので、2キロほど先にある道の駅、『たじま』へ飛び込んだ。たくさんのツーリングライダーが休憩してるわきを抜け、テキトーなところで単車を停めると、カッパの上着を着込む。 「なんで中途半端に上着だけ持ってきてんだよ。下も持って来いよ、俺」 荷物を少しでも減らすことに夢中になって、「どーせ雨なんか降らないだろうけど、いちおう、上くらいは持って行こうか」なんてお気楽に準備してた、昨日の自分を罵りながら、それでもカッパの上着だけ着こんで雨の中を走り出す。 別に急ぐ旅じゃないんだが、北の空が晴れてたので、大丈夫だと思ったのだ。 案の定、走り出してすぐ、行き先の空が青くなる。 ところが、突然の雨と、それに続く『カッパ上着だけ事件』のせいで、国道352号から奥只見のことをすっかり忘れてしまった、かみさん41歳。何の疑いもなく121号を北上し続ける。やがて会津若松の手前あたりで、右手に湖が見えてきた。大川ダム・若郷(わかさと)湖だ。 公園だか休憩所だかの案内があったので、とりあえず入ってみる。 駐車場には、俺以外にクルマが一台だけ。太目のカップルがいちゃいちゃしてた。 見てるだけで 若郷湖。対岸にも公園があるらしく、そっちの公園のが大きいようだ。
ここで休憩しながらミクシィを見てると。 TKさんまで、「奥只見は面白いですよ」と書いてる。なんだか悔しくなって、「戻って奥只見へ向かおうか」とも思ったのだが、この段階で夕方の五時前。そろそろ陽も暮れてくるだろうし、なにより、地図を見てるうち思いついてしまったのだ。 「とりあえず、今日のうちにツーリングマップル関東の区域から出よう」 つー目標を。 意味のない行為だと思うかもしれないが、いや実際、あんまし意味はないんだが、実は今回、関東の地図しか持ってきてなかった。なぜなら、昔フラナガンにあげちゃってからこっち、東北の地図を買ってなかったからだ。つまりマップル関東の区域を出ると、俺には地図がない。 それがなんとなく面白そうだっただけ。
若郷湖を後にして、また121号を北上してゆく。 太陽はもうすぐ、山の向こうへ隠れそうだ。
会津若松の街中に入ると、とたんに進みが悪くなる。 ユリシーズがブンブンとファンを回しながら、股の下で「暑いっす」とアピールしてる。 「くそう、人の脚に熱風を吹き付けやがって。お前はアレか。自分さえよければいいのか?」 信号待ちのたびにユリシーズとケンカしながら、なんとか市内を抜けて。 喜多方の南くれぇかな? 今にも沈まんばかりの太陽に背中を押されつつ。
向こうに見えるのは、飯盛山だろうか。 最後のひとっ走りをしながらも、気分はすでにアルコール。行く手に、道の駅『喜多の郷』の看板が見えたので、「今夜はそこでいいか」と、手前のコンビニで酒を買い込んで道の駅まで行ってみると、なにやらやけに混雑してる。人が居なくなるまで待つのも鬱陶しいので、そのまま先へ。
と。
カラン、カラカランッ! トンネルを走ってるとき、突然、金属音が鳴り響いた。 今、このトンネルの中を走ってるのは、対向車線も含めて俺だけ。俺オンリー。ならばこの『カランカラン音』は、俺が何かを落っことした音に違いない。単車を停めて荷物を確認すると、どうやら、よしなしにもらったキャンプベッドを入れる袋の口が開いている。 いや、もともとこの袋は生地が硬すぎて、カンペキには締まらないのだが、 「ま、大丈夫だろ」 と、何の根拠もなく決め付け、対策せずに出発したのである。 先ほどの、『カッパ上着だけ騒動』に続いて、前日のテキトーな自分を呪いつつ、「あーも、めんどくせぇなぁ!」と逆切れしながら、とぼとぼと歩いて戻ってみると、道の端に鉄パイプが転がってる。もちろん、落っこちたキャンプベッドの部品だ。 「後続車がいなくてよかった」 胸をなでおろしながら拾い上げて、さらに周辺をチェックするが、他には見当たらない。 とりあえずトンネルを抜けた先の駐車スペースへ。 ここで部品を点検してみると、当たり前のように一本足りない。 「ぎゃはははっ! なんだよ。すでにどっかで一本、落としてきちゃったんか、俺。バっカでぇ」 一周まわって楽しくなっちゃった俺は、そのままのノリで、駐車スペースを今夜の宿に決める。 金属製のベンチとテーブルがあるから、一泊するには充分だ。 ま、充分じゃなかったとしても、すでに『これ以上バイクに乗るガッツ』の持ち合わせはないけど。 荷物は解かず、必要なものだけ取り出して、さっさと野宿の準備。 山間部だけに、これはゼッタイ欠かせない。 野宿のたびにイロイロと試してみたけど、なんだかんだ、蚊取り線香は最強だ。風が吹いたら煙は飛ばされちゃうけど、風が吹いたときってのは蚊も飛びづらいので、そんなに刺されることはない……と、この時は考えていた。 買ってきたカップ入りの氷塊に、チューハイをドボドボと注ぎ込んだら。 今宵の宴を始めよう。 いつもの道の駅よりは蚊が多いだろうと、線香を前後からダブル点火して、鉄壁の防御。 んで翌朝、どうもかゆいと思ったら、結局、いいだけ喰われてたんだけど。 イッコも鉄壁じゃない。
半日、喜多方まで下道を250キロほど走り、若干、お疲れ気味の41歳。
夏の夜。愛機を眺めながら、野外で酒を呑む。 コレに比する美酒は、なかなかあるもんじゃない。 風に吹かれて酔いながら、ふと見上げれば。 月齢15日。真円を描く、満月の光。 「ああ、俺はまた、夏のツーリングに出られたんだな」 感謝とともに、口元が自然とほころぶ。
初日の夜は、こうして更けていった。
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