solo run

北北東に進路をとれ

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2011.07.18 二日目 喜多方〜男鹿

―北へ走れ、山の道を(前編)―

 

目を覚ますと、まだ、あたりは暗かった。

電池の残量が少なくなったケータイで確認すると、時刻は朝の4時。三十分もすれば、夜も明けはじめるだろう。もうひと眠りしようかと思ったが、昨日、酔って早く寝たから睡眠は充分。その上、俺は休みの朝つーとムダに早起きする、小学生体質を誇る。

それじゃあ、早めに走りだそうか。

走り出して1キロも行かないところで、「そうだ。暗くて景色が見えないから、音楽でも聴こうかな」と思いつき、路肩に停めてMP3プレイヤを取り出してみると……昨日の夜も、同じことを考えたのだろう。すぐに聴けるよう、わざわざヘッドフォンをシートの上に乗せておいたようだ。

誰がって昨日の俺が。

んで、そんなことはすっかり忘れた今朝。

暗さでそれに気づかないまま走り出したため、ぶら下がったヘッドフォンは、流れるように後輪へ巻き込まれたらしい。片耳のスピーカが千切れ飛んでいた。「ふむ、そうきたか。まぁ仕方あるまい。『昨日の俺』だって、別に悪気があったわけじゃないしな」と、電光石火で自分を許したら。

真っ暗な会津街道を、北へ向かって走ろう。

 

夜の国道は、気持ちいいほどガラガラだ。

米沢市内を抜け、国道13号へ合流。

太平洋も日本海も見ず、ひたすら奥羽山脈の麓(ふもと)を北上する。国道13号は、福島から秋田まで繋がる幹線道路だ。特にこの日は走っているのが早朝だったため、アベレージスピードがバカみたいに高かった。アクセル云々じゃなく、クルマがいなくて信号が少ないから。

なので、下道なのにえらいイキオイで距離を稼げる。

山形へ入っても、空は真っ暗だ。

 

山形市を抜けてしばらく走ると、『天童(てんどう)』の文字が見えてきた。

有名な将棋の郷だ。

日本で生産される将棋の駒の、実に90%は、この街で作られている。いちど、将棋好きのダチと旅行したことがあるのだが、街中が将棋アイテムにあふれていて、下手の横好きながらも将棋の好きな俺には、とても楽しかった覚えがある。

「天童かぁ……寄ってみようかなぁ」

と思いつつも、時刻が早いのでやめておいた。

なんでって考えてもみろ。

朝もやがただよう早朝の街中にたたずんで、歩道の敷石に刻まれた『詰め将棋』(天童市の歩道には、詰め将棋が彫刻されている)を見ながら首をひねってる、野戦服を着て単車に乗った中年……今、想像しただけでも、カンペキに職質の対象だろう。

俺がオマワリなら、その場で緊急確保だ。

 

将棋の町を諦めて、景気よくすっ飛ばしていると、ちょっとのどが渇いた気がする。

「ああ、そうか。昨日の夜、なんだかんだ呑んだもんな」

二日酔いってほどじゃないが、酒のせいで渇いてるんだろう。通りがかった道の駅に入る。

道の駅『むらやま』で、レモンティーとアイスを朝食にしたら、暗い国道をさらに北へ。

 

やがて、東の空が白み始めた。

新庄までの国道は、高速のようなバイパスになり、速度もグイグイ上がる。

 

新庄を抜けると、やがて道は山間部へ。

あたりの景色も、どんどん明るくなってゆく。

 

山の向こうに、ほのかな赤みが差してきたと思ったら。

やがて、朝日が姿を見せた。

とたんに、ぐんぐん気温が上がり始める。今日も暑そうだ。

 

ひょいと入った道の駅『おかち』で、いつの間にか秋田県に入ったことを知る。

東北の地図、持ってないから。

ここの手前、戊辰戦争の古戦場である、雄勝峠(おかちとうげ)が、山形と秋田の県境だ。なんて言ってる俺も、今、このレポを書きながら地図を見て知ったんだけど。俺の場合、歴史は好きだが、城などの場所や正確さにはあまり固執しない。

人とか発想、奇想が好きなのだ。

歴史好きと言うよりは、歴史群像好きであり、戦記好き、軍記好きなのだろう。

話がそれた。

 

雄勝(おかち)を出て、湯沢、横手と抜けると、目の前に奥羽(おうう)の山々が見える。

幻想的な山々を目の前にすると、自然と神聖な気持になる。

はるか昔、人々が山岳を信仰の対象とした理由のカケラくらいは、実感できたような気がした。

そんな穏やかな気分のまま、道の駅『雁の里せんなん』へユリシーズを滑り込ませる。

馬に乗ってるのは、雁太郎(かりたろう)だそうだ。どうでもいいけど。

ここで顔を洗い、メガネをコンタクトにして今後に備える。暑いときはマメにメットを脱いだ方が、頭がボーっとしづらいのだが、メガネのままだとヘルメットの着脱が面倒になるのだ。あと毛髪へのダメージも少ないだろう。知らんけどきっと。

さて、準備ができたら走り出そう。

大曲あたりかな?

やがて道は山間部に入る。

秋田までもう少しって場所なのに、全然、山ン中なんだなぁと思いつつ走ってると。

右手にオフロードコースが見えたので、思わず停まって写真を撮る。

オートランド秋田。

ダイナミックで面白そうなコースだ。この右手や奥にもコースがある。

んで今、レポを書きながら調べても、公式サイトが見当たらない。「なんでだろう?」と思いながら、関連記事を読んで解った。なんとこのコース、無料なんだそうだ。詳しいことは検索すればすぐにわかるから割愛するが、こんな楽しそうなコースを無料開放とは、なんとも豪気な話だ。

秋田市内から20分くらいの場所だよ?

正直、ちょっと秋田に住みたくなった。

美人も多いしね(`▽´)b

 

そして、そのオートランドのハス向かいに、これまた、かみさん好みの逸品

イケてる廃墟。

潰れたパチンコ屋かゲーセンらしいが、なかなかの佇(たたず)まいだ。

なにより、この建物の横にあった看板に、俺は一発でやられてしまった。

て。

ネーミングセンスと、それに恥じないチープさには、もはや脱帽するしかない。

ま、帽子はないから脱ヘルメットして、おもしろ館の前で一服。

ついでにストレッチして筋肉をほぐしたら、さあ秋田へ向けて走り出そう。

 

うん、ごめん。

ちょっとココ走ってみていいかな? なんか面白そうな匂いがするから。

おもしろ館のそばだけに。

つわけで、俺の曲がり道センサーに引っかかった、出羽グリーンロードを走ってみる。

入りっぱなから、滑走路みてぇにド真っ直ぐな道。

超、役立たずな曲がり道センサー。

SSやメガスポだったら、ついつい開けちゃいたくなるところだが、200ちょぼちょぼのユリシーズで開け倒したところでタカが知れてるし、あんまし楽しくない。直線は八割程度で流し、道が曲がり始めるのを待って気持ちよく走るのがいいだろう。

と、お待ちかね。

道がツイストし始めた。なので当然、これ以降の写真はない

上の写真は山と山の間なので民家が見えるが、基本的には山間部を抜ける、走りやすい中高速ワインディング。場所によってはセンターラインもあるし、道も比較的キレイだった。ただ曲率が低めなので、アベレージスピードが高く、当然、対向車も飛ばしてる。

そのマージンだけしっかり取れば、すっ飛ばし系には楽しい道だ。

 

広域農道をドンツキまで行って戻ってきたら。

またも、『国道13号のんびり旅』に、気持をシフト。

国道7号に入ったところで。

奇妙な銀色のドームが見えてきた(秋田市立体育館)。

コレには見覚えがあるなと思ってたら、青看板に『男鹿(おが)』の文字。

「おお、男鹿半島か! よーし、今年はキッチリ一周してやろう」

つわけで、国道7号から101号へ折れ、男鹿半島へ入ってゆく。

入ってすぐの道の駅、『てんのう』でトイレ休憩。

2006年に来た時には、存在しなかった建物もあった。そうか、あれからもう五年も経つのか。昔、オッサンたちが言ってた、「歳とると時間の経つのが早いぞ」って言葉が、俺も実感できる歳になったってことなんだろう。もっとも、それがどうしたって話ではあるが。

俺は俺。

昔も今も、単車が好きなただのバカ。

それでいい。

 

『てんのう』でトイレを済ませ、ミクシィにつぶやいたら、101を西へ。

途中、工事渋滞してて、このカエルにイラっときたから撮ってみた。

そんで帰ってきてから、こっちでも結構、このカエルを見かけることに気づいた。ツーリングのときより、自宅の近くや通勤路の方が、周りを見てないんだね、俺。見てないつーか意識の死角に入ってたんだろう。その死角に、自由に入れる能力があったらいいのにね。

おもに税○署とか相手に。

 

やがて工事渋滞を抜けると、左手に日本海が見えてきた。

写真で見ると、キレイで爽快だが、実際はクソ暑くてそれどころじゃない。

「前回はこの暑さに負けて、『寒風山』て文字の涼しそうっぷりに食いついたんだっけ」

五年前を思い出しながら、国道101をすっ飛ばす。

今回は、ここから県道59号に入り、そのまま男鹿半島の南岸、西岸を回って、前回とは反対から入道崎に入る(下図参照)つもりだった。ところが、目の前に現れたのは、UMAハンターである俺を魅了する、強烈な誘惑だった(そんな設定、誰も覚えてません)。

『なまはげライン』の文字に誘われ、結局、今回も101からなまはげへ。

久しぶりのなまはげラインは、ロケットスリーで走ったイメージより、高速コーナーの多い道だった。ま、装備重量400キロ近い怪物マシンと、半分の重さのワインディングマシンじゃ、同じ道を走ってもイメージに差が出るのは仕方ないだろう。

eisukeさんとか、クルーザでヤるヒトは楽しめる道だと思う。

「おぉ! 久しぶりだなぁ、なまはげぇ!」

なまはげ直売所。

持ち帰り用の『生(いき)なまはげ』は、飼育用のケージと、一週間分のエサがセットで三万円。しかも先着100名までしか買えないから、早朝から長蛇の列ができる。てな、くだらない妄想を膨らませつつ直売所のわきを抜け、そのまま入道崎を目指す。

 

山間部を走ってるときは雲が多かったが。

 

海岸線に出るあたりから、雲が徐々に晴れてゆき。

 

やがて、目の覚めるような青空が広がる。

「そうだ、前回も入道崎ではバカみてぇに晴れたんだっけ」

 

青い空と海。白い雲と緑。そしてアスファルトグレイ。

「くっそー、たまらん!」

ヘルメットの中は、もう、今にも崩れ落ちそうなニヤニヤ顔だ。

 

二日目(中篇)に続く

 

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