solo run

北北東に進路をとれ

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2011.07.19 三日目 奥入瀬〜仏ヶ浦

―自然という名の美しき何か(前編)―

 

三日目の朝は、かゆみとともにやってきた。

「うぉ、くっそ痒いな!」

腕といわず腹といわず、ボリボリ掻きながら起き上がる。どうやら蚊ではなくダニに食われたようだ。腕や腹に、ぽつんぽつんと律儀にふたつづつ並んだ喰い跡が、ヤツラの犯行の特徴である。とは言え「どうぞ」と言わんばかりに、肌をむき出しだったこっちにも、責任の一端はある。

向こうとしても「それじゃ、遠慮なく」ってトコだろう。いや、腹をむき出した覚えはねぇんだけど。

まあ、なんにせよ、起きてしまった事をああだこうだ言っても仕方ない。

「痒いけど、しょうがねぇか」

と、潔(いさぎよ)くあきらめて、顔を洗ったり荷物をまとめたり、出発準備を整える。

 

昨日の夜、呑んだくれならがら地図を見て、アサイチで向かう先は決めていた。

下北半島の北端、大間崎だ。

マグロの一本釣りや恐山(おそれざん)で有名な、本州の最北端である。

 

国道102号を東へ進み、県道をつないで国道4号線へ出る。

相変わらず、朝イチの国道はガラガラで走りやすい。

 

七戸(しちのへ)の街中を抜けて、遠くまで見通しのいい道を走ってゆく。

 

野辺地(のへじ)あたりから、下北半島縦貫道路へ。

下北縦貫道路は元々有料だったが、現在は無料開放されている。この道路は、野辺地の北で終わり、国道279号へ繋がる。『むつはまなすライン』の名がつく279号は、下北半島の西岸を、陸奥湾を望みながら北へ登っている。

 

こんな風に林の中を抜けていくかと思えば、

 

ドカっと開けて左手に陸奥湾を眺めつつ、気持ちよくクルージングできるのだ。

起き抜けからワインディングってのも楽しいけど、こんな風に真っ直ぐな道を、のんびりと風に吹かれるのも悪くない。朝のきれいな空気に、青い空と海が気持ちいい。とは言え、景色のいいところを何日も走ってると、だんだん絶景にも飽きてくるつー贅沢な状況だったりもするんだが。

 

やがて看板に、『よこはま』の文字が見えてきた。

横浜町と言う名前が面白かったので、道の駅『よこはま』の向かいにあるコンビニへ。

写真の右側、背中が写ってる女の子が、えらい可愛い娘だった。

「こらまた東北美人じゃねぇの。俺に一目ぼれして、恋に落ちちゃったら困るなぁ」

くだらんことを妄想しながら、お茶とお稲荷(いなり)さんを持ってレジへ。そして、金を払ってオモテに出ようとした瞬間、「あ、あのう……」と、まさにその妄想のごとく女の子が俺を呼び止める。ドキっとした41歳を見つめながら彼女は、「これ……」と小さなレジ袋を差し出した。

そう。

俺は女の子に見とれて、今、買ったモノをレジへ置いたまま、オモテに出ようとしたのだ。

ちょう恥ずかしい。

お稲荷さんは、甘酸っぱい恋の味がした。

ああ、なんだ。

刻んだ梅が入ってんのか。

ちぇっ。

 

はかない恋の思い出が残る横浜町を出て、俺はさらに北へ向かう。

ハートブレイカーが北を目指すのは、昔から日本の伝統だしね。

ブレイクしたハートを、陸奥湾が優しく慰めてくれるようだ(言いがかりです)。

 

むつ市の市街地、大きな交差点を抜けると、297号は海へ出る。

津軽海峡だ。

そこから『イカの町・大畑』をぬけて、今度は右に海を見ながら走る。

と、霧が出てきた。

晴れていれば津軽海峡越しに北海道を見ながら走れるらしいが、残念ながらこれじゃあムリだ。前後左右、ほとんどクルマのいなくなった道を、白い霧に包まれながら、大間崎を目指してたんたんと走る。コレはコレで幻想的な雰囲気があり、楽しく走れた。

何より、涼しいのが助かる。俺よりユリシーズが。

 

やがて、それっぽいモニュメントが姿を見せる。

本州最北端、大間崎に到着。

 

振り返ると、朝っぱらの早い時間から、みやげ物屋さんが開いてる。

ここのおばちゃんが気さくで、俺が単車を停めたり地図を出したりしてる間も、ずーっと話しかけてくるので、『この辺は青森市あたりとは、天気が全然違う』とか、『いつも風が吹いてて、今日みたいに止んでるのは珍しい』とか、色んなご当地情報を入手できた。

土産は買わなかったけど。

見たまんま判りやすいマグロのモニュメントと、おそらく一本釣りを表現してるのだろうが、今ひとつ言いたいことが伝わってこない腕のモニュメント。わかりやすく釣り竿を持たせるわけには行かなかったのだろうか。それとも何か他に、隠された意味あいでもあるんだろうか。

屈筋の発達した前腕の彫刻を眺めつつ、海の方へ歩いてゆく。

北海道どころか、かろうじて1キロ向こうの弁天島を見るのがやっと。

土産物屋のおばちゃんが言ったとおり、青森市あたりとは違う天気に、「さっきまではバシっと晴れてたのになぁ」と残念に思いながら、すわって一服。どんよりとした色の海は、それでもなんだか俺を落ち着かせてくれる。くわえタバコでぼーっと海を見てたら、一時間ほどたってた。

ばさばさっ!

音がした方を見ると、かもめが一羽こっちを見てる。

「悪りぃな、食い物は持ってないんだよ。タバコはさすがに吸わないだろう?」

なんとなく話しかけると、こっちを見て小首をかしげ、次の瞬間には俺に興味を失ったように、かもめは翼を開いて飛び去っていった。「つれないねぇ」苦笑しつつ、また海を眺める。眺めながら、俺はずいぶんと迷っていた。もちろん、ココで悩むコトと言えばひとつしかない。

北海道に渡るや否や。

好きで走ってる一人旅。どこへ行こうと自由だし、なんの制約もない。つまり、北海道へ行くか行かないかを、論理的に決めることは出来ないわけだ。あくまで感性とかイキオイとか、そんなんで決めればいいだけなので、逆に「どーしよっかなぁ」となるのである。

結局、北海道へは行かず南へ下ろうと決める。

この先の出来事を鑑(かんが)みるに、この選択は正解だった。

 

大間崎を回って、そのまま下北半島の西岸を走る。

なぜか、とたんに晴れ上がる空。

どうしても俺に北海道を見せたくなかったんだろうか?

とは言えUターンしない(?)かみさん。そのまま国道338号『海峡ライン』を南下。

目指すは仏ヶ浦、つーかその周辺のワインディングだ。

 

仏ヶ浦あたりの国道338号、気持ちよく曲がってるだろう?

 

こういう場所も、もちろん気持ち良い。

だけど、朝っぱらから真っ直ぐ系の道ばかりだったので、そろそろグネグネ曲がりたい。

海が左にあるってことは、これは停まって振り返って撮った写真かな。

このときはきっと、確固たる理由があって撮ってるんだろうけど、何百枚も撮ってるうちに、なんで撮ったか忘れちゃってる写真も多いんだよね。いやまあ、単独で見れば、もちろんきれいな風景なんだけど、残念ながらこっちはもう絶景慣れしちゃってるからなぁ。

贅沢な話だ。

こういう海岸はとっても好き。

能登の東岸とか岩だらけの岸壁って、なんだかソソられる何かがあるよね。

岩って、そこに在(あ)るだけで、すげぇ存在感あるでしょ?

それが、たまんないんだ(ちょっとナニ言ってるかわかりません)。

 

やがて、待望のワインディングがやってくる。

上の画面に見える全ての道が、海岸から一本で繋がってるステキワインディング。

「にゃはは、真っ直ぐもいいけど、やっぱ曲がり道だよねー♪」

気持ちよく曲がってると、ふいに道路を黒い影がよぎる。

おサルの親子だった。

「やっべ、子猿ちょうカワエエ……」

しばらく停まって眺めていたら、不穏な空気を感じたのか、母猿は子猿を連れて逃げてった。

逃げられちゃっちゃ仕方ないので、さらにワインディングを駆け抜ける。

仏ヶ浦展望台に到着。

展望台つっても、ちょっと大きめな野ざらしの足場があるだけなんだけど。

展望台から見た風景。

アップにすると。

この岸壁はいいねぇ。ソソられるねぇ。

なんて思ってたらハーレィが二台、駐車場に入ってきた。

ユリシーズのケツを眺めてるので、ナンだろうと思ってると、乗ってたおじさんがやってきて。

「柏のどこから?」

「(ああ、ナンバーを見てたのか)柏駅のそばですよ」

「俺は野田からなんだ。今日、高速で来たんだよ」

「なはは、そら奇遇ですね。こんな最北端で、ご近所さんに会えるとは」

思わぬご近所物語に、しばし歓談する。もうひと方は人見知りされるようで、挨拶したら会釈を返してくれたが、それっきり話題には乗ってこなかった。と、俺を気に入ってくれたらしい野田の方が、「同じ民宿へ行かないか?」と誘ってくださる。

ありがたい申し出だが、「俺は野宿が好きなんで」と、辞退させていただいた。

 

旅先で出会った人と、宿で呑んだくれるのも、きっと楽しいだろう。

でも、俺はやっぱり、自由気ままに走りたい。

 

三日目(中篇)に続く

 

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