solo run

北北東に進路をとれ

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2011.07.21 五日目 二本松〜柏

―回帰―

 

シュラフカバーとタオルケットに包まって目を覚ますと。

雨はまだ、しとしとと降り続いていた。

まあ、あとは帰るだけだし、のんびりと仕度して、雨が止んでから走り出せばいいだろう。

昨日、一緒に呑んだくれた野良猫も、そんな感じの表情をしてる。

 

二度寝を決め込もうと、ベンチにごろっと転がったら。

ツバメがとまってる。何してんだと思ったら、この脇に巣があって、ヒナがぴいぴい鳴いてた。

ツバメを眺めつつ、半覚半睡で一時間ほど、うとうとする。

 

目を覚ますと雨はだいぶん弱まっていた。

とは言え、このまま晴れるかどうかはわからない。「コンビニで安カッパでも買いこんで着てけば、こんくれぇなぁイケるかな」つわけで、携帯用の安カッパを買って着込み、その上から上着だけ持ってるモンベルのカッパを着た 。つーか、カッパは上下そろってないとダメだ、ホント。

上はまだ、こんな状態だからいいけど。

 

下がね。なんつーかね。ま、いいけどね。

 

SAモドキの道の駅『安達』には、朝からやってるスタンドもある。

そこで最後の給油をし、あとは柏を目指して走るだけ。

国道4号線を南下して、郡山(こおりやま)市街で国道118号に入り、水戸へ向かう。

118号を南へ南へ走れば、いつの間にか見慣れた茨城県。

 

奥久慈のあたりかな。

 

118号は北茨城キャンプでよく走るから、あちこち見覚えがある。

「う〜ん、なんか帰ってきた気がするなぁ。つーかこのへんは福島とあんま変わんねーな」

雨もすっかり上がったので、途中のコンビニでカッパを脱ぎ、風を浴びながら走り出す。雲は多いがすっかりドライ路面で走りやすい。エンジンの方もあれ以降、トラブルはない。強いて言えばフロントブレーキをかけるとコツコツする手応えが、数日前より酷くはなってる。

だけど、強くかければブレーキは効くし、走れないわけじゃない。

「ちょっと蒸してきたけど、道路が乾いてるのは嬉しいな。昨日の夕方から雨でずっとチンタラしか走れなかったし、最後に一発、気持ちよくすっ飛ばしたいなぁ……うん、やっぱ、このまま真っ直ぐ帰るんじゃ芸がない。ワインディング走ってから帰ろう」

と決まれば、ここから行く道はただひとつ。

ホームとも言うべき(最近はそこまで走ってないけど)ビーフラインだ。

 

慣れたワインディングを、緩急つけながらすっ飛ばしてゆく。

普段は道ばかり見ているビーフラインだが。

こうしてロングツーリングの続きとして走ると、また違った印象になるのが面白い。そら有名どころのワインディングと比べたらアレだが、景色も程よく変化して飽きさせないし、道もヒドイってほど荒れてるわけじゃないし、「こうして見ると、いいルートだよな」とつぶやいてみたり。

改めてビーフラインを見直した。

 

見慣れてるのに新鮮に見えるビーフラインを、気持ちよくすっ飛ばす。

「へぇ、こんな景色もあったのか」なんて新しい発見(?)に、ニヤニヤしながら。

 

ビーフもそろそろ走りきろうかと言うころには、当然、行く先は決まっていた。

 

久しぶりに、筑波山を走ろう。

フラワーパークを目指して走れば。

 

道は見慣れた茨城の山間風景を通りぬけ。

 

やがて、筑波山が見えてくる。

『ロングツーリングの続き』と言う位置づけで走ってるなら、ルートは当然、例の道だ。

ツーリングマップルの『快走路表示』にモノ申したい、県道42号線を登ってゆく。

登板の角度は急だし、幅はご覧の通り。道はコンクリの網目で、濡れたらかなりすべる。なんでココが快走路表示されてるのか未だに疑問だが、合法的に筑波山を登るには、ここから頂上まで登ったあと筑波西面をくだる、この県道42号しかないのだ。

あとの道は全て、終日二輪通行止めだから。

20〜30年前のバイクブームで、死亡事故が多発した時の名残だ。

 

頂上についたら、そのまま42号を下る。

ここも昼間走るなら合法。

 

筑波山神社の前を通るので、日曜日なんかだと、観光客が多くて走りづらい道なんだが、今日はさすがにガラガラで走りやすい。「おぉ、この道って荒れてたんだなぁ。おや、ココってクルマがいねぇ時にすっ飛ばすと、結構、難しいカーブなんだな」など、ブツクサつぶやきながら。

筑波山を一気に駆け下りる。

 

降りたらそのまま、新しく出来たショートカット、県道214を通って。

国道408から県道19号と、いつもの下道筑波ルートを、柏へ向かって走る。

 

と、19号沿いの町並みの変化に、あらためて感心したり。

ここってほんの数年前まで、手前のスタンドしかなかったんだよな。

いつの間にかビルが建って、あっという間に都市化しちゃったけど。

「俺が今回いいだけ走ってきた東北の道も、こんな風にいずれ都市化していくんだろうか。そこに住むヒトにとっては都合がいいだろうし、旅行者のこっちが言うのは傲慢な話だけど、それでも、あのまんま残っててくれた方が嬉しいなぁ」

らちもないことを思いながら、俺はユリシーズの前輪を柏へと向けた。

 

今回、高速道路を使わないで走ったことは、本当にいい経験になった。

距離や速度をトロフィーと考えることもなくなった今の俺には、景色の変化が多彩で刺激的なのに加え、面白い出会い(ヒトだけじゃなく)も多く、『身の丈にあった旅』が出来た気がする。なにより、ひょいと行く先を変えられる気軽さは魅力だ。

そのぶん、レポートで走ったルートを追うのは大変だが、それもまた楽しい。

 

旅の相棒であるユリシーズも、今回の楽しさの一因だったろう。

ドコドコのんびり走ってても楽しいし、ワインディングを見つけたら即座に戦闘態勢に入れるフレキシブルさもいい。早帰りの要因になったトラブルだって、こうしてレポをまとめていれば、いい思い出だと断言できる。ま、あの時はホンキで売ろうと思ったけどね(`▽´)

とにかく、この旅は景色や出来事だけじゃなく、走りそのものを楽しめた。

それを証明するのに、言葉は要らない。

いいだけ削れたブーツが、『俺が楽しんできた証明』だ。

このブーツにしたって、今までなら新しいのを買ってただろう。

だけど、ユリシーズを『一年かけて直し直し乗ってきた経験』は、俺に別の選択肢を選ばせた。

削れたって、穴が開いてるわけじゃないなら、直して使えばいい。

 

こいつだって、俺と一緒にずっと走ってきた相棒なんだから。

 

モノや機械を擬人化するのは、実はあまり好きじゃない。

だけど、このビューエル・ユリシーズって単車に関してだけは、ただの機械だと思えない何かがある。出会いから俺がぶち壊し、そのあともトラブりまくり。それでも、何とか生きて走ってこれたのは、この単車の、悪く言えば大雑把、よく言えば懐の深いツクリのおかげじゃないかと思ってる。

この先、いつまで乗るかはわからない。

だけど、乗れる間は。

コイツと仲良く楽しく走っていこうと思う。

 

さて、八月はどこを走ろうか。

 

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