solo run

中部戦線異状なし

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2011.08.16 四日目 下呂温泉〜名古屋

―曲がり道特捜隊の悲哀(前編)―

 

太陽の光にそっと頬をなでられ、気持ちよく目を覚ます。

今日もいい一日になりそうだ。

 

爆睡してるフラを尻目に、のそのそ起き上がると、写真を撮り始めるかみさん。

 

朝露に濡れる稲穂。

 

玉露。

 

なんか花。

 

そんな風にのんびりしてたら、ようやくフラが起きてきたので、そろって撤収作業を開始する。つっても荷物は積んだままだから、着替えや小物をバッグに仕舞って、キャンプベッドを畳んだら終わりだ。着々と高度&温度を上げてゆく太陽に、今日の暑さを予感しつつ。

「フラ、早くしろ。走り行くぞ」

「いやぁ、やっぱりコンクリの上に寝袋だと、身体が痛いですねぇ」

早いトコ、キャンプベッド買っちまえよ。

 

準備が出来た俺たちは、曲がり道を求めて走り出す。

国道257から256を西へ折れ、まずは白川街道へ。

 

白川街道は、途中から県道62号になり、白川山中を抜けてゆく。

似たような精神構造のアタマの悪いダチとふたりで、アサイチからツイスティロードをすっ飛ばせば、自然と顔がニヤけてくる。俺にとってこの時間というのは、俺の人生の最も濃いエッセンスであり、最もシアワセな瞬間のひとつだ。

俺は上手くもないし、速くもないし、論理的でもなければ、高い経験値もない。

それでも。

臆面もなく、何度でも言おう。

 

俺は単車に乗るために生まれてきたんだ。

 

 

 

加茂あたりで41号に合流。

コレを南(美濃加茂方面)へ折れて、益田街道を下ってゆく。

 

昨夜の二日酔いもなく、絶好調のフラナガン。

 

もちろん俺も、元気いっぱい。飛騨川沿いの41号を、二台並んで駆け抜ける。

やがて市街地に入り、道の駅『ロックガーデンひちそう』で休憩。

「かみさん、地図見せてもらっていいですか」

フラが地図を見てオモシロそうなルートを探す。やがてヤツは、少し戻って中津川とかあっちの方に抜ける道をチョイスした。俺はこのあたりの地理はサッパリなので、もちろんヤツに丸投げ。もしも、俺が前に出ちゃって道を間違えたら、フラが頑張ってリルートするシステムだ。

俺のミスは、フラのミス。

フラのミスは、フラのミス。

なんと言う友情。なんという絆(きずな)。

 

そうと決まれば走り出そう。

上麻生の街中を抜けて41号を北へ戻り、わき道の県道を探しながら走る。この段階で、すでに俺が前に出てるので、『道の見逃し&間違え率』は限りなく100%に近い。フラの心労がこっちまで伝わってくるようだ。もちろん、容赦なくすっ飛ばすけど。

結局、狙ってた道は通行止めだったようだ(俺はもちろん見逃してたから知らない)。

んで、も少し戻ったあたりの県道を東へ折れ、こんだフラが前になって曲がり道を突っ走る。悪魔的な加速ですっ飛んでゆくV−MAXに、負けじと喰らいつくユリシーズ。ビタっとつけてパッシングを狙うのだが、ついてくだけならともかく、抜くとなると厳しい

「見通しのいい左で、大外からぶち抜いてやろう」

などと、朝っぱらからヨコシマな考えで、隙をうかがう41歳。もっとも、そんな都合のいいコーナーは幾つもない。見つけた時には大外から突っ込んでゆくのだが、ガラの大きいV−MAXはナチュラルにスペースをつぶし、なかなか寄せきれない。

突っ込みの速度が甘い、と思うと対向車が来てたり。

「なはは、抜くのはさすがにムリかぁ」

なんつってると、フラが路肩へ単車を寄せた。地図を見て、道を検証するのだろう。

少し広くなった路肩のスペースに、俺もユリシーズを滑り込ませた。

 

しばらく地図見ていたフラが、やがて大きくうなずく。

ルートが決まったようなので、俺もタバコを灰皿につっこんで、セルを回した。

んがきょ……ん。

「……ち、またか。フラごめん、ちっと待ってて。バッテリ端子が緩んだ」

朝から路肩で店を開くも、工具入れの中に10ミリのメガネレンチがない。

「あっれ、トーミリ入れ忘れてら。スパナじゃトルクかけたくねぇし、フラ持ってねぇ?」

フラにメガネを借りてプラス端子を締め込み、キーオンしてセルを回すと、ごぎょぎょぎょっばるん! 無事にエンジンがかかった。こうしてみると、前回のロングの時、ひとりでこのトラブルを経験していたのは、かえって良かったかもしれない。

こんなところで車体引取りを待つんじゃ、いくらフラでも可哀想だ。

フラのV−MAXはもちろん、俺が乗ってっちゃうワケだし。

 

降ろした荷物を積みなおし、改めて走り出す。

国道257と363の重複区間だから、恵那山の西側あたりだろうか。

そこから、曲がり具合はいいけど少し混んでる国道を南へ下り。

道の駅『どんぐりの里いなぶ』へ到着。

「なはは。ここって、フラと初めて会った時に来た場所じゃんか」※第21回でっかいもん倶楽部

懐かしい思い出の場所に、思わず頬がゆるむ。

 

フラがトイレに行ったスキを見て、よし、ナンパするぞ!

俺はチェックしていた人物のそばへ行くと、にこやかに話しかけた。

「写真、撮らせてもらっていいですか?」

「あ、はい、どうぞ」

09モデルのビューエルXB12R。

俺のユリシーズより、さらに50mmも短い(!)ホイールベースの車体に、新型のZTL2ブレーキ(8ポッドキャリパー)を履いた、ビューエルのスポーツモデルだ。初めて見た時、「アッパーカウルだけとか正直ナシだな」なんて思ってたのに、気づけばイチバン乗ってみたい一台。

「これって09ですか?」

「ええ、09です」

「やーでも、ビューエルってほんっと面白いっすねぇ」

「あはは。ええ、面白いですねぇ」

細身の優しげなライダーは、俺の言葉に対して気さくに答えてくれた。そこからは当然、ビューエル談義に花を咲かせ、「ユリシーズはどうです?」「かなり面白いです。見た目より曲がりますよ」言いながら、今度は俺のユリシーズの前まで行って話しこむ。

 

んで戻ってみると、年配の男性がふたり、彼のXB12Rを見ながら話していた。

戻った俺たちも一緒になって、今日会ったばかりの、年齢もまちまちなオトコ四人が、旧知のように語り合う。俺とXB12Rのライダーは熱くなって(俺だけか)、ビューエルを褒めちぎり、トライアル車に乗る年配のおふたりは、それを笑って聞いている。

トイレから戻ったフラも交えて、しばらくダベった。

なんかこういうの久しぶりだなぁ。

 

さてそれじゃあ走ろうかと立ち上がり、俺たちは愛機をまたぐ。

12Rの青年がおどけて手を振ってくれる姿に、こちらも手を振り返したら、こんだ茶臼山に向かって国道をちょっと戻る。地元のフラが一緒なんだから、素直について行きゃいいのに、調子に乗って前に出るかみさん。カンバンに『茶臼山』の文字が見えたので、

「ほれみろ、俺だってやれる子なんだよ!」

わめきながら、うねうね節操なく曲がり始めた、荒れ気味のワインディングを駆け上がる。あとで聞いたらフラとしては、こっちじゃなく別ルートで上がる予定だったようだ。残念ながら、かみさん、あんまやれる子じゃなかったっぽい(今さらです)。

 

上に行くほど曲率が増えてゆく印象のワインディングを、ひらひら登るユリシーズ。

フラはさすがにデカイ車体をもてあますのか、時々見えなくなるが、それほど離れることもなく、すぐに追いついてくる。馬鹿でかい新型V−MAXを、クソ狭い舗装林道みてぇなワインディングでおっぷり回してる姿は、なかなかカッコイイ。

「なはは、ほんとアイツぁV−MAXが好きなんだなぁ」

ミラーに写る姿にニヤニヤしながら、茶臼山を登りきった。

地元の走りポイントらしく、駐車場には単車がたくさん並んでいた。

ここでジュースを飲んだりタバコを吸って一服しながら、景色を眺めたりバカ話したり。

夏は水遊び、冬はスキーと、ここいらの遊びスポットらしく、家族連れもたくさん来てた。

ジュースを買って戻ってくると、V−MAXにヒトが集まってたので、さっきのXB12Rの彼との会話を思い出しながら、にこやかに「こんちわ」とアイサツする。しかし相手は、「あ、こんにちわ」つったきり、すぐに離れてしまった。きっとフラが怪しすぎるのが原因だろう。

と、そのフラが突然、大声を上げる。

 

「か、かみさん大変です! 携帯がありません」

「なにぃ? マジでか? 落っことしたんけ?」

「たぶん。昨日、野宿した下呂の駐車場あたりかも……」

「ぎゃははははっ! アレだ。俺に雨ばっか喰らわせてるから、天罰が当たったんだ」

「うっわー、携帯なくすとか、マジへこむなぁ」

「とりあえず、明日からの仕事に必要なら、こんなトコで曲がり道を走ってる場合じゃねぇやな。街へ降りてって、とっとと新しいの買った方が良かんべ。それとも下呂まで探しに戻るか? もちろん俺ぁぜってー付き合わねぇけど」

「い、いや、取りには行きませんよ。買います。あーあ、金ないのになぁ」

「う〜ん……よしわかった! ともっちさんトコへ行こう! おめーは名古屋で携帯を買え」

「……そーっすねぇ……」

「おし、決まりだな。んじゃ今、ともっちさんに電話すっから……あ、もしもし、ともっちさん。お忙しいところすみません。あのですね、今日なんですが、そちらに泊め……ぎゃはははっ! オッケー早っ! ありがとうございます! 今、茶臼山なんで、二三時間でお伺いします」

 

つわけで、急遽ともっちさん家に向かうことになる。

準備をして単車をまたぎ。

「さて行こう!」

きゅるるがしゅ!

…………。

「ごめんフラ、五分待って」

またも、バッテリ端子の接触不良。ねじ切るのが怖くて、限界まで締め切れないのだ。

つーか荷物降ろすのが、ウルトラ手早くなってしまった。

端子をシメてエンジンをかけ、茶臼山を下ってゆく。するとT字路でフラが、明らかにカンバンと反対へ進むので、「逆じゃねぇの?」つーと、いいから黙ってついて来いと言わんばかりに、ニヤっと笑って走ってゆく。この段階で俺は、フラの考えがなんとなくわかった。

「なはは、ヤロウ。せっかく来たからひと通り走って帰る魂胆だな?」

基本的に俺と同じ思考回路なので、予測がたやすい。

フラのうしろに続いて、気持ちのいいワインディングをすっ飛ばしてゆく。途中、やけに警官が出現してるポイントもあったが、山間のツイスティな荒道だったり、短いながらも広くてキレイな道だったりと、変化に富んだ面白いコースだった。

 

山を登ったところで、駐車場へはいる。

「いや、どうせなら、かみさんにも走ってもらおうと思いまして。よく走る道なんですよ」

フラのホームコースのひとつなんだそうだ。

ホームコースという言葉に、昔、フラとビーフラインを走った時のことを思い出しながら、「へぇ、ここが、フラのホームコースか」などと、少し感慨深くなったり。もっとも、そんなセンチメンタルフィーリングも、奥の天狗がだいなしにしてくれちゃってるけど。

なんでドルーマンスリーブ着てんだよ天狗。

 

二日間、曲がった道ばっか走らされた、ユリシーズ&V−MAX。

俺のタイアのショルダーは、このへんでほとんど終わった。もっとも、フラと分かれたら、後はのんびり走るだけだから問題ないけど。メッツラーのロードテックZ6インタラクト、Z8インタラクトと履いてきたけど、スリップサインが出る寸前まで(ちょっと出ても)、安定したグリップでよく走ってくれた。

穏やかでクセのない、高次元でバランスしたいいタイアだったと思う。

ドライグリップは峠レヴェル(つーか俺レヴェル)なら必要充分だし、ウエットスタビリティに至っては異常と言ってもいいくらい。ライフは8000キロくらいだが、これは俺の乗り方が悪いかも。ちなみに帰ってきてから交換したタイアは、ミシュランのパイロットロード3。

すっかりツーリングタイア党の俺には、これも楽しみなタイアだ。

 

さて、それじゃあ名古屋のともっち邸まで突っ走ろうか。

とっとと携帯を買わなきゃならないフラにつきあって、今回は久しぶりに『高速の封印』を解く。いや、別に今までも、そんなムキになって乗らなかったわけじゃないんだけど、ユリシーズだと出しても150スピード(1/2時速)巡航とかだから、なんか高速使う気になれないんだよね。

下道でドコまででもいける(身体への負担が少ない)ことは、前回、よくわかったし。

つわけで高速に乗……フラのETCが反応しない

「あんだおめ。そのETC、もうぶっ壊れたんけ」

「いや、カードが深く刺さってなかっただけ……だと思うんですけどねぇ」

首をかしげながら高速に乗ったフラと一緒に、ちょっと走って最初のパーキングに入る。

「もーね、バカだバカだと思ったけど、おめーのバカは俺を圧倒するよ」

「あ、かみさんカブですよ、カブ。ほら」

「あ、ホントだ。いいなぁ。ちょっと話しかけてこよう……こんちわ」

「こんちは」

高速といってもココは、何十円だか払えば原付でも乗れる

正確には高速道路じゃなくて、有料道路とか自動車道路とかそんなんなんだろう。

んで、このカブ乗りの方としばらく話し込む。カブで、『なんか遠いところ』から来たらしい。地名を聞き逃したので俺はわからないけど、フラが驚いてたからきっと遠くのはず。オフ車にも乗ってるそうで、林道とかケモの話をして笑いあった。

あと、俺とフラの掛け合いを聞いて笑ってた。

「あ、そうだ。ともっちさんに連絡しなきゃ……もしもし、今……フラ、ここどこだ?」

現在地を伝え、ともっちさんの「待ってるよ」の言葉に励まされたら。

さあもうひと頑張りしよう。

 

電話を切って走り出すと、フラは相変わらずひらひら楽しそうにすっ飛んでゆく。

が、こないだムラタやタカシと走った時とは、マシンが違うわけで。新型V−MAXの高速走行は、旧型を三台乗り継いだ俺から言わせてもらえれば、まったくV−MAXらしくない。200スピードで路面に張り付くようなレーンチェンジとか、V−MAXとは認めないよ俺ぁ。

フラとふたりアベ150スピードくらいで、楽しく踊りながら高速を抜けてゆき。

やがて出口のゲートが見えてきた。

と、フラのバカ、わざわざETC専用レーンに入っていきやがる。「あのバカ、さっきのトラブルの原因がカードじゃなかったら、いったいどうする気なん……ほれみろ、引っかかった。あーあ、後ろがあっという間に渋滞(ETCレーンがひとつしかないで入り口だった)じゃねぇか」

さっきひらひらとぶち抜いてきたクルマが、どんどん後ろへ溜まってゆく。

モメんのヤなので、ぶろんぶろん! とアクセルをレーシングして、『怒ってるっぽいアピール』をする。面白いもんで、ETCでモタモタしてるのを見るとイラっとする人間が、その横で怒ってる人間が別にいると、「そんな怒ることでもないじゃん」と冷静になったりするのだ。

初歩の心理学である(シレっと嘘をつくのはやめましょう)。

 

バカフラがようやく料金を払い終わったので、下道を走りだした。

すると、なにやらポツポツ降ってくる。

「あーも、またかこのバカ! てめ、覚えてろよな!」

「いやーもーカンベンしてください」

携帯なくしたり、ETCが壊れたりで、いい加減へこんでるフラだが、ここで容赦してしまっては彼のためにならない(要出典)。曇ってるのに暑いのも、湿気が多くてイラつくのも、雨が降ってきたのも全部フラのせいにして罵詈雑言を浴びせながら、ともっちさん家まで走る。

ようやくともっち家に到着した。

後編へ続く

 

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