solo run
中部戦線異状なし
2011.08.18 六日目 四日市〜揖斐川町 ―されど我が胸は熱く(前編)―
あけて翌朝。 子供らは休みだが、おーがも飼い主ちゃんも今日は仕事だ(ともっちさんも仕事でした)。 だからって、「とっとと出てけ」つーようなふたりじゃねぇのだが、だからこそ逆に長居したくない。なので目が覚めるとすぐ準備を済ませ、まだ寝てるおーがに、「さんきゅ、またな」とメールをしたら、ユリシーズに荷物を積んでとっとと出発する。 今日はひとつ、行ってみたい場所があった。 おーがん家は何度も何度も来てるのに、機会もなかったわけじゃないのに、タイミングつーか掛け違えつーか、一度も走ったことの無い道がある。今回は、そこを走ってみたかったのだ。国道477号を西行した先にある、その道の名は『鈴鹿スカイライン』。 鈴鹿山脈を越える、20キロ弱のワインディングを、今日こそ走ってみようじゃないか。 朝の心地よい空気の中、鈴鹿スカイラインへ向けてひた走る。 途中にあった道の駅、『菰野(こもの)』で、コーヒーを飲みながら一服。 ほんの数キロで休憩を入れたのは、朝イチからワインディングを走るからだ。身体の動きが悪いのにテンションだけ高いと、冗談みたいに簡単にすっ飛ぶからね。俺の書くバイクやタイア、グッズのインプレは信用できなくても、転んだ話は説得力があるだろう? あと、ガケの話と骨折の話もな。 ほっとけ。
「鈴鹿までわずか〜♪ あと15マイル〜♪」 この時点では引退してなかったあの芸人の、映画のテーマソングを歌いながら。 鈴鹿山脈に向かって、徐々に身体を慣らしてゆく。 やっぱ俺は、鈴鹿サーキットより鈴鹿スカイライン、筑波サーキットより筑波パープルラインが好き。走ったこと無いからレイアウトやツクリの話じゃもちろんなくて、どっちが良い悪いって話でも、安全危険って話でもなくて、純粋に個人的な……なんてんだろう。 まあ、要するに、道は繋がっていて欲しいんだと思う。 よくわかんねーけど。
やがて看板に、温泉じゃなく、『鈴鹿スカイライン』の文字が見え始める。 「どんな道なんだろうなぁ。ワクワクするなぁ」
ドカンと開けた直線の先には、とんがった山が見える。 あの山を越えていくんだなと思ってると…… 『鈴鹿スカイライン 通 行 止』 いやいや、こんな看板は信用できない。きっとこの先では、みんなフツーに走ってるに違いない。 大きくひらけた場所に、看板が三つ。 『大型車はここでUターン』『鈴鹿スカイライン通行止』『○○レストランへは行けます』 肩を落とす俺の身体を、鈴鹿山脈から吹き降ろす爽やかな風が、優しくなでてゆく。
「レストランなんぞ、イチミリも用はねぇんだよっ!」 大人気なく毒づいた41歳は、がっがりを飲み込んでUターンした。そこから国道306までの区間、フラと走ったとき並にすっ飛ばしたことは言うまでもない。国道306号を五キロほど北上すれば、もう一本、山越えのワインディングがあるから、そこを走ってやろう。 そのつもりですっ飛ばしてたのだが。 「あ、暑ぢぃ……なんだこの暑さ。これじゃ琵琶湖とか京都とか、もっと暑ぢぃんじゃね?」 山脈を越えて琵琶湖の方へ出ようと思っていたのだが、暑さにすっかり心を折られる。かといって、朝っぱらから屋内の涼しいトコで休んでるってな選択肢はない。途中で停まり、地図を見て考えた結果、関ヶ原を抜けて北上し、また岐阜の山中へ行こうと決めた。 長野や岐阜の山の涼しさに、俺は絶大な信頼を置いているのである。
国道306号を北へ走ってゆくと、別名の交差点から、 道は国道365号、『巡見街道』になる。 マップルに、『幕府の巡検使が、各地を視察する際に通ったのが、街道の名の由来』と書いてあったのも、ちょっと走ってみたくなった理由のひとつだったりする。もちろん当時の風景が残ってるとは思わないけど、やっぱそういうのは走ってみたいんだよ。 マニアじゃないけど、歴史ミーハーだから俺。
地図を見て理解はしてたけど、巡見街道はビタイチ曲がってない。 こんな風に山の中を、どっかーんと直線が続く。 横道も信号もあんまし無い上に、タイミングなのかいつもなのかは知らないけど、クルマがあんま走ってないので、アベレージスピードが上がりやすい。ケーロクとかハヤブサだったら、あるいはフラと走ってタイアを使い切ってなかったら、きっとアレだったろう。 どっこいこちらは、普段でも200スピードちょぼちょぼの、しかもタイアの終わったユリシーズ。 出しても120スピード前後で、のんびりと気持ちよく流しながら走る。 「街中を抜けると、さすがに暑さが少し和らぐなぁ……って、なんだこれ?」 エンジン警告灯が、ガッツリ点灯してる。 「うっわ、なんだよ怖ぇなぁ……でも、エンジンは絶好調だけどなぁ」 思いながら関ヶ原のあたりでコンビニに入り、お茶を飲みながらミクシィでつぶやいたりしつつ、今後の対策を考える。つっても走れないわけじゃないし、携帯でちょこちょこっと軽く検索したところ、この警告灯はちょっとしたことでも点灯(つ)くようだ。 そんじゃま、だましだまし行ってみようか(イチミリも解決になってません)。 いや、ホントはも少し慎重に行こうと思っていたのだが、ちょうどこのタイミングで、 広域農道とか書いてあるんだから仕方ないだろう? もっとも、この広域農道は、ほんのちょっとで終わってしまった。 なので、国道365号に戻って少し進み、今度はもう少し先にあるこの道の続き、反対側を国道に沿って走る広域農道に入った。そんなにツイストしてるわけじゃないが、国道に比べると一般車やトラックが少なくて走りやすい。 「気持ちいいじゃないの〜♪」 走ってると道端に、『泉神社湧水』の文字が見えた。 水曜どうでしょうの最新作を見てからこっち、にわか湧水(ゆうすい=わきみず)好きになってる、かみさん41歳。迷うことなくわき道へ入って、そのまま看板頼りに湧水を目指す。「ここは村道なんだから、すっ飛ばしたりあぜ道に入ったりすんな」的な看板を横目に、ゆっくり走り。 それっぽいところに到着した。 えらい緑の池だったが、コレが湧水なのかどうかは定かでない。 泉神社湧水という名前だったから、 この神社の境内の奥にあったのかもしれない。 なんでハッキリしないかつーと、もう、この段階で暑くて暑くて、降りて歩く気になれなかったのだ。「湧水なんてどうでもいいから、とっとと山の中の涼しいところを走ろう」的な思いが、俺の脳内を駆け巡る。心の声に逆らわないのは、かみとエンジェルダスト一族の家訓。
村道を戻って広域農道に乗るとすぐ、警告灯がさらに増えた。 あんま嬉しくないカラフル。ガソリン警告灯だ。
国道365号に戻ったところで、タイミングよくガソリンスタンドを発見したので飛び込み、とりあえずオレンジの警告灯だけは消した。ケツの予備タンに5リッター積んでるから、平気っちゃ平気なんだけど、これから山に入る予定だからね。
越前に向かうドまっすぐな道を、警告灯と減ったタイアを気にしながら走ってゆく。 つっても景色のよさに、しばらく走れば警告灯とか忘れちゃうんだけど。
琵琶湖の北端、木之本(きのもと)あたりで、国道303号線を捕まえる。 山の中をガッチリ抜けてゆく、涼しい山岳ワインディングだ。
「ちょっと登ると、とたんに涼しくなるなぁ。やっぱ夏は山だな」 得意のヒトリゴトで脳内会話しながら、滋賀県を出て岐阜県へ。 20〜30キロ走ったところで、道の駅があったので、そこへ入る。
道の駅、『夜叉が池の里さかうち』は、ダチョウコロッケ定食がオススメだそうだ。 喰ってねぇけど。
一服しながら新しい携帯を取り出すと、なにやらアップデートがどうこう言ってる。 タバコ吸ったりコーヒー飲んだりしながら、アップデートが終わるまでしばらく待ったのだが、どうにも終わる気配が無いので、シガーソケットに繋いでタンクバッグに放り込み、勝手に続きをしてもらうことする。んで地図を眺めてると、どうやら国道303号は岐阜の街中に向かっている。 「冗談じゃねぇ、クソ暑い街中なんぞ走れるか」 つわけで、ここからちょっと行った先の分岐で、国道417を北へ向かうことになる。 ところが、この国道471号がまた、えらいクセモノだった。揖斐川(いびがわ)町つー町とは名ばかりの思いっきり山ン中で、突然、ブツンと途切れているのだ。そしてそこから先には国道どころか、県道もそれ以下の道もない。 あるのは、地図上にかろうじて薄い線で描かれた、いいだけ曲がってる林道だ。
しかもご丁寧に、『気象状況によって通行止となることが多い』などと書かれてる。 「山間を抜けるせまっ苦しい林道を、警告灯が点灯(つ)きっ放しのバイク、しかも、『俺が整備したアメリカ製のバイク』で走る……う〜む、どうやら本日ただいま、ここが、今回の正念場のようだ。ま、イッパツ行けるところまで行ってみようか」 気合を入れなおした俺は、ユリシーズをまたいで走り出した。 いやまあ、地図に載ってるんだから、そう大騒ぎする話でもねぇんだけど。
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