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春ツーリング

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2012.05.02 四日目 出石〜三重

〜四面楚歌・電光石火〜

 

案の定、夜中から降り出した雨は、朝になっても降ったり止んだり。

テント(フライシート)の中で荷造りをし、準備が出来たところでオモテに這い出す。振り分けバッグもアサルトリュックも俺の持ち物は基本的に防水だから、そのまま荷物を単車に積んで、最後にフライシートを片付け、コット(ベッド)といっしょにリアシートへ括(くく)る。

これで出発準備は整った。

 

昨日、名古屋のともっちさんとメールのやり取りをして、今日の琵琶湖宴会は中止になった。

彼らは雨の中、クルマで『もくもくファーム』という場所へ行くと言ってたので、俺も一応、その方向へ動くことにする。なぜ『一応』かつーと、夜の段階では俺も『もくもくファーム』へ行く予定だったのだが、そこで宿泊するのかどうか、訊くのを忘れたからだ。

ともっちさんの家で宴会ということなら、俺は今回、遠慮しようと思っていた。

ともっち邸には、1日からろろちゃんが行ってて、3日にはゴーとムラタが行くといってたので、ここで俺まで押しかけるのはどうかなぁと思ったからだ。これで『もくもくファーム』の話がなければ、今回は山陰をゆくか四国へ渡るかと思ってたくらいなのである。

 

つわけで、まずは『もくもくファーム』のある伊賀へ向けて、ユリシーズを走らせる。

雨の426号を、それでも単車をまたいでるから、それなりに機嫌よく南へ走れば。

 

道はそのまま東へ折れ、

 

ナナメに南東へ向かいつつ、国道9号へ合流する。

 

雨は飽きもせず同じように延々と降り……いや、むしろ勢いは増してきたか?

 

そんな感じでたんたんと走り、426号が9号と合流する福知山あたりだったか。

今日は朝の味噌汁を喰ってないので、なんかテキトーに腹へ入れようとコンビニへ立ち寄った。

……のだが、このコンビニがまた、かなり面白いところだった。

だいたいコンビニエンスストアてのは、どの街でも似たような見た目とレイアウトで、通りがかりの人間が入りやすいように作ってある。それがコンビニのいいところつーかウリなのだから。しかし、確かに見た目やレイアウトは俺の知ってるローソンなのだが、ここは少々違った

 

入った瞬間、店内のざわめきがピタっと止まる。

「なんだ?」と思ってると、ずぐにまたざわざわしだしたので、「気のせいか」と思いながら商品を選んでた。すると店内の会話が、聞くともなくもれ聞こえてくる。やがて新しく入ってきた客が、店内の会話にものすげぇ普通に加わった瞬間、俺は妙な違和感の正体に気づいた。

今、この店の中にいる人間は、俺以外の全員が知り合いなのだ。

店のスタッフも、あっちこっちにいる客も、全員が顔見知りのご近所さんなのである。店内で、俺ひとりだけが異邦人。商品を選んでレジへ持ってゆくと、カウンターのスタッフだけじゃなく、店中の会話が止まる。シーンとした店内に、ピッピッとバーコードリーダーの電子音だけが響く。

不自然な静寂と、俺だけ浮いたような居心地の悪さ。

 

何気なく入ったコンビニで、ここまでアウェイ感を味あわされるとは、夢にも思わなかった。

 

一周まわって面白くなってきちゃった俺は、ぷるぷると笑いを堪えながら店を出る。

「がはは、まいった、ハラ痛てぇ! なんで俺、コンビニで四面楚歌なんだよ」

ひとしきり笑ったら、国道9号に乗って福知山市外へ。

メットの中でケタケタ思い出し笑いしながら走ってると、対向車線にコインランドリーを発見。

まずは最優先事項、洗濯物をやっつけなくちゃならない。

店先の屋根の下にユリシーズを入れたら、洗濯物を持って店内へ。

めずらしい土足禁止のコインランドリーだった。

いちばん小さい洗濯乾燥機に服を放り込んだら、

イスに座って携帯を取り出し、ミクシィにつぶやいたり、ともっちさんに電話を入れたり。

 

ともっちさんと話をして、『もくもくファーム』では宿泊せず、ともっちさん家で宴会になると聞いたので、先に書いたよう、俺は不参加の旨を伝える。それから、「さて、どうしよう。もどって鳥取にでも向かうか」などと考えながら、地図を開いてこの先のことを考えたり。

「そうか。行き先よりまず、今日の天気のチェックをしなくちゃ」

と思って調べてみると、どうやら今日明日はあまり良くないようだ。よくないつーか、今日はこれからアホほど降るようなことが書いてある。そんな中を走っても面白くないし……あ、そうだ。琵琶湖宴会が中止になってヒマだって言ってたから、三重のおーがの家へ行こうか。

おーがに電話をして、「今日、おめーんち行く」と告げる。

今日の予定が決まったので、あとは洗濯が終わるのを待つだけ。

……のはずだった……

 

一時間ほどたって、そろそろ洗濯と乾燥が終わるころ。

クルマに乗ったおばさんがひとり、洗濯物を抱えて店内に入ってきた。いや、その前にも何人かが訪れては乾燥機に洗濯物を入れて帰ってたのだが、このおばさんは、そのへんの有象無象とはモノが違った。洗濯物を放り込んだあと、彼女はイスに腰掛けたのだった。

そう、敵は『ここで待つ』姿勢を見せたのである。

「うお、マジかよ。このひと、ここで終わるまで待つつもりか?」

思った瞬間ブザーが鳴って、ちょうど俺の洗濯が終わった

 

ことさらゆっくりと洗濯物をたたみながら、俺のアタマはフル回転する。

「俺は今、『全裸にカッパだけ』という、超薄着の状態だ。このまま雨の中を走ったら風邪をひく。しかし、ここで着替えるためには、少なくとも一度フルチンになる必要がある。こんな密閉空間でチンコ出した段階で、『悲鳴→通報→逮捕』と、流れるようにコトが進むのは明白だ」

そんなマヌケな事件は、是非とも避けたい。

しかし、俺から動くことは出来ない。とりあえず今の段階では、俺にまったく不審なところはない。上下にカッパを着込んでるのも、単車が停めてあるからおかしくないだろう。カッパの下が全裸と言う、ナチュラルボーン犯罪者な格好だとは、さすがに彼女もわかるまい。

だとしたら今は待つ時だ。

すっかり洗濯物をたたみ終えてしまった俺は、外を見ながらため息をつき、「はぁ、もう少し弱まるまで待つかなぁ」などとつぶやきながら、小芝居を繰り広げる。 俺のハリウッド級の演技に、おばさんはまったく不審さを感じていないようだ。

そのまましばらく、ふたりのあいだには、ごうんごうんという洗濯機の動く音だけが響く。

俺はあえて話しかけもせず、携帯をいじったり自然な演技を続けながら。

ひたすら時を待った。

 

やがて、その時がやってくる。

『密閉空間に奇妙な男とふたり』という状況に、緊張を和らげるためだろう。

彼女が立ち上がって外へ出た

チャンスだ!

おばさんが自分のクルマの方へ歩いてゆく、その背中を見つめながら、俺はすばやくカッパの下を脱ぐと、重ねて用意してあったパンツとズボンを同時に履く。その所業、まさに電光石火。このとき俺は間違いなく、人生で最も早くパンツとズボンを履いた

そして次の瞬間、おばさんはクルマのドアを閉めて、こちらへ戻ってきた。

間一髪だ。

そして、店内に入ったおばさんが、俺に背中を向けた一瞬に、上半身も着替える。

まあ、俺の方も背中を向けて着替えてたから、これは見られても問題なかっただろうが。

やり遂げた満足感を胸に、俺は残りの荷物をゆっくりと片付けると、

「行くか」

短くつぶやいて、コインランドリーという名の戦場を後にした。

 

緊張から解放された俺は、ほうっと大きくため息をついて走り出す。

精神的な戦の疲れが出たのだろう、もはやすり抜けする気力もなく、延々と9号線を走って。

京都縦貫自動車道の起点、沓掛あたりだったろうか、さすがに道が混み始める。

そして京都市内に入り、国道が9号から1号へ名前を変えたあたりから、カンペキな大渋滞

さすがにコレに付き合うほどの気力はないので、すり抜けをはじめる。

東京都内ほどではないにしても、さすがの大都市。

アホかってくれぇの渋滞を、久しぶりの『都会走り』で駆け抜け。

無事、渋滞を脱出する。

と簡単に書いてはいるが、実際はかなり時間を食った上に、疲労もたまった。

このころには雨がざんざん降りになっていて、とても走りを楽しむ状態じゃない。

遠回りなのは承知の上で、ひたすら国道1号線を走る。

雨と風は時を追うごとにイキオイを増し、もはや台風状態だ。こんな天気で野宿はさすがに無理だっただろう。おーが家に泊めてもらう算段をしておいて大正解だった。 なんて思いつつ、甲賀を抜け、亀山を抜け、ほうほうの体で四日市にたどり着いたころには。

防水だったはずのiconブーツの中は、いいだけ浸水してびっちゃびちゃ言っていた。

ここでおーがに連絡をいれ、迎えに来てもらう。

やつは最近引っ越したので、俺はまだ新しい家を知らないのだ。

 

雨に打たれて震えながら、湿気ったタバコに火をつけていると、見覚えのあるハイエース。

ドアをあけて出てきたのは、長年のダチおーがと、その愛息にして俺のダチでもあるUKTだ。UKTは、コンビニに向かって歩きながら、ふとこちらを見た 。そしてその瞬間、ニヤっと笑って「おう、かみ!」と手を上げる。俺もにやりと笑い返し、「おう、UKT久しぶり! デカくなったな」と返した。

すると彼の父親であるおーがが、目をひん剥いて驚いてる。

 

「おう、おーが元気か……ってどうした?」

「ぎゃはははっ! お前らなんなん?」

「あ? なにが?」

「俺、UKTを驚かそうと思って、お前が来てるコト言うてないんさ。おやつでも買いに行くかって寄って、そこで「かみが居る!」ってビックリさせよ思ったんに、なんでおまえらフツーにアイサツしとるん! まるで待ち合わせしてたみたいやんか」

「ぎゃははは、知るか! 俺はおめーがUKTに言ってるんだと思ってたよ」

 

笑いながら二人でUKTを見ると、当の本人はシレっとした顔で笑ってる。

その顔を見て、俺はなんだか嬉しくなってしまい、UKTのアタマをガシガシやりながら、「おうUKT、好きなもん買っていいぞ。普段、父ちゃん母ちゃんと来たときはダメだけど、かみと来たときは 、何でも好きなものを買え。俺が許す!」とニッコニコ。

相変わらずの、『ダメなおじいちゃん』状態だ。

 

コンビニで酒や食い物を買い込み、おーがの新しい家に向かった。

濡れまくってて家に入るのもひと苦労だったが、タオルや雑巾を貸してもらって養生し、無事、おーがの家の居間に座り込む。それからUKTがやってるゲームを眺めたりしつつ軽く呑んでると、おーがの愛妻にして俺の愛人でもある、飼い主ちゃんが帰ってきた。

久しぶりの挨拶をして、軽くバカ話をしてると、愛娘のNNKも幼稚園から帰ってくる。

最初の数分ほどは俺のことを忘れていたようで、いぶかしげな表情だったが、しばらくすると思い出してくれたのか、いつものように懐っこくなった。ま、くっついて来てくれるのはありがたいが、なんつっても幼女なので、俺としては何となく照れくさくて居心地がわるい。

ま、あと二三年もすれば、近寄ってもくれなくなるんだろうけどね。

 

んで、こっちはもう、やつが赤ん坊の時からの付き合い。

昔はバイク大好きだったUKTも、今ではゲームと『爆丸』が好きなフツーの小学生。

俺のことは相変わらずダチと認めてくれているようで、「かみ、『爆丸』やろうぜ! 俺の貸してあげるから!」とか、「かみ、それなに?」と、いろいろ構ってくれるのが嬉しい。UKTは男だから、まあ、いずれは単車なり歴史なり酒なりといった付き合いもできる……といいなぁ。

 

そして、おーがの嫁にして俺の愛人、飼い主ちゃん。

昔、ロンツーに出るとき、「飼い主ちゃん、ツーリングでそっち行くんだけど、泊めてもらえる?」と宿泊をお願いしたところ、ノータイムで、「聞く意味がわからん。はよ来い」と言う、最高にステキな返事をしてくれたときから、俺は彼女のとりこなのだ。

むちゃくちゃオットコマエの女だが、酔っておーがに懐いてるときはカワイイ。

 

かれこれ12年来のダチ、おーが。

バカで、アホで、気が短くて、飽きっぽいくせにムダに凝り性な空手屋。ネット上ではじめて会ったときは、「コイツとは合わねぇな」と思っていたのに、リアルで初めて会った15分後には、肩を組んで呑んだくれ、お互いゲラッゲラ笑っていた。

実に気持ちのいいキチガイだ。

 

昨年の夏っきり久しぶりの、おーが一家と過ごす時間は、もちろん最高に楽しかった。

子供たちが寝たあとも、呑んだくれながら(主に俺が)延々と話し込む。昔の話、最近の話。仕事の話、遊びの話。確定申告の話に、格闘技の話。呑んだくれた俺と飼い主ちゃんは、柔道談義にアツくなって組み合ったり、まあ、いつものカオスだ。

結局、朝の4時ころまでだったか、延々と呑んだくれてバカ話してた。

 

雨の中を走り倒した疲れも、ダチの顔を見た瞬間ふっ飛んだ、四日目の話。

 

つづく

 

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