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春ツーリング

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2012.05.05 七日目(後編) 三ケ日〜柏

〜峠よ、永遠なれ〜

 

ここからは、多少のブレはあるものの、基本的にずーっと国道326号を走る。

山間部を抜けるこの国道は、広くなったり狭くなったり、めまぐるしく表情を変えながら。

 

とにかくひたすら、ぐねぐねと曲がり続ける。

後日、グーグルマップでチェックしてみたら、三ケ日から静岡付近で県道に入るまで、延々140キロ、ずーっとワインディングを走り続けていたようだ。今、自宅でこのレポを書きながらも、「なんて幸せだったんだろう」と、いつの間にかココロが静岡まで飛んできそうだ。

一本道で迷う心配もない、ただひたすら曲がった道が140キロ。

好きなやつなら、たまらんだろう(`▽´)

 

ま、そうは言っても実際には、山間部をゆく狭い舗装林道みたいなワインディング。

走りづらいところも結構あるし、ブラインドも多かったりするのだが。

 

そんでも、こんなカンジの走りやすい場所もあったりする。

 

境川ダムを越えたあたりだったか。

国道473とぶつかる辺りで、ちょっと広めの空間に出たので。

 

単車を停めて、ゆっくりと一服。

ガソリンが少々心もとないが、初日、財布を忘れたときに、リザーブで50キロ以上走ることは確かめてあったから、それほど心配はしていない。地図を見た限り、ここから静岡市街まで50キロはないから、ガス欠で動けなくなることはないだろう。

それでも、さんざんワインディングを走ってきたので、さすがにちょっと疲れた。

ここからしばらくは、軽く流しながら森林浴。フィトンチッドを吸い込んで走る。

と。

地図で存在はわかってたが、「さすがに開いてないだろう」と思ってたスタンドが開いてたので、

ここでガスを満タンにする。

後で考えればの話だが、ここでガソリンを入れておいたのは大正解だった。

ユリシーズもお腹いっぱいになったところで、またも326を走り出す。

もうすぐ寸又峡(すまたきょう)が近いからだろう、それなりに観光のクルマが出てきた。

もちろんクルマだけじゃなく、バイクの集団も多く見かける。

高速を降りて473号を北上してきたのだろう、ツーリングバイク集団のひとつに追いつき。

しばらく、そのまま一緒に走る。

だがペースがあまりに遅く、だんだん焦れてきた俺は、見通しのいい場所で一気にゴボウ抜き。すると、今までゆっくり走ってたのが、そうして速度を上げたので、今度はそれがリズムになったようだ。なんとなくイキオイで、次々とツーリング集団やクルマをかわしてゆく。

 

そして、あるスーパースポーツの集団を、信号待ちで抜いた。

 

これが、至福の時間の始まりだった。

信号待ちで一台の軽自動車がとまり、その後ろに集団でいたものだから、俺はてっきりのんびりツーリングの連中だと思っていた。ところが、彼らを抜いたイキオイで山間部に入ったあたりだったろうか、後ろからエンジン音が聞こえてきたのだ。

とたんに心臓がドキンと高鳴って、口元が自然とほころぶ。

「はははっ! なんだ、好きなんじゃん!」

抜いたとき確認した限りでは、ほとんどスーパースポーツだったはずだ。

それが追いかけて来るってんだから、そりゃあ期待するなって方が無理だろう? ミラーにライトが映ったところで、俺もシフトを蹴飛ばして加速する。どるどると猫なで声を出していた愛機は、アクセルを開けた瞬間、どるあーっ! と排気音を高める。

いっきに戦闘速度まで加速したところで、最初のカーヴがやってくる。

 

荷物の重さを考えながら、高速カーヴはアクセルを抜くだけで突っ込み。

立ち上がりは持ち前のトルクを生かす。

次々と現れるさまざまな曲率のカーヴを、ユリシーズと会話しながら駆け抜ける。カンペキな全開走行ではないものの、それなりにハイペースですっ飛ばし、直線に入ってミラーを確認すると……お、キッチリ付いてくるじゃないか。

「けけけ、楽しいなぁ。あんたらもきっと、メットん中で笑ってるよな?」

ミラー越しにそう語りかけながら、俺はさらに気合を入れる。呼応するように道の曲率もハードになり、スーパースポーツよりも、少しばかりこっちに分がありそうな気配だ。マージンは充分取りつつも、それなりの気合で突っ込み、曲がり、立ち上がる。

何度か繰り返してからミラーを見ると、最後の一台だけはピタリと付いてくる。

どうやら高速カーヴよりも、ツイスティな方がお得意のようだ。

「車種はなんだろう? 古いファイアブレードかな? でも、それにしては直線が遅いような」

そこで嫌な予感がアタマをよぎる。

「まさか、400か?」

 

そう思ってエンジン音に耳を澄ますと、やはり1000クラスにしては甲高いような。

「う〜む、400か。地元だからってのはあるだろうけど、それにしても速いな」

そう思いながら、ここまでツイスティな道になれば、パワーより軽さだ。知らない道を走るマージンを考えれば、これ以上、地元の人間とやりあうのは危険だろう。そう思った俺は、右手を上げて後ろのバイクに道を譲った。道を知ってる人間に先導してもらおうと考えたのだ。

俺が譲ったスペースを、後ろのバイクは甲高いエンジン音を響かせて抜いてゆく。

その姿を見送った瞬間、俺の背中に戦慄が走った。

「まてまてまてっ! ウッソだろう?」

そのバイクのナンバーには、緑色の枠がなかったのだ。

そう、それは往年の名車、CBR250RRだった。

 

バイクは排気量じゃない。どんなバイクだって、そのバイクなりの楽しさがある。

そんなことは充分承知だ。そして充分承知の上で、俺と同じ病気の人間ならわかってもらえると思う。いくら狭い峠では小さいほうが有利だとは言え。いくら道を知ってる方が有利だとは言え。なんぼなんでも250ccのバイクに蹴散らされたんじゃ、あまりに悔しすぎるのだ。

狭い峠ならではだろう。

直線速度ではそれほど変わらない250と1200の二台は、ならんで峠を駆け登る。

そして前をゆくCBRが最初のコーナリングをしたとき、またも背中がぞくっとした。

「やっべ、こいつ速いぞ」

Rの美しさとも違う。ゴーのキレとも違う。ナリさんの豪快さとも違う。はじめて見るのになんだか懐かしいような、キレのあるコーナリングを見ながら、俺も食いついて突っ込んでゆく。破綻するほどではないが、もちろん、俺としてはほとんどギリギリの突っ込みだ。

それでもツッコミからコーナリングまでは、わずかに向こうの方が速い。

「くっそ、こいつホントにブレーキかけてんのか?」

こちらはトルクを生かした立ち上がりで追いつき、向こうより高いアイポイントで先を読みながら、なんとか付いてゆくのがやっとだ。クルマをかわすスムーズな走りは、CBRの乗り手が長く乗ってるだろうコトを連想させる。かなりキツいペースだが、とんでもなく楽しい。

 

峠を駆け上った頂上付近で、大き目のギャップを拾った。

いつもよりずっと攻め込んでいるから、そのぶん反動も大きい。ギャップでぶるるんと暴れたユリシーズが、外側の側溝に向かって飛んでゆくのを、なんとかコントロールして復帰。一瞬、口から心臓が飛び出す。それでもCBRの背中を追いかけて、アクセルを開け続ける。

リアシートの荷物がジャマだ。

それを言い訳にするつもりはないけど、こんなに楽しい相手なら、できれば荷物なしで走りたかったというのが、正直な気持ちだ。くっそ、こっからは下りか。パワーを使える登りでギリギリだった相手に、くだりで付いていけるだろうか? いや、とにかく飛ばないように自分のペースで走れ。

引っ張られそうになるたびに、何度も自分にいい聞かせて。

CBRの強烈なツッコミに戦慄しながら、でも、口元はニヤニヤと笑いながら、俺はマイペースを守ってクソ狭いくだりの峠をすっ飛ばす。いつもよりさらに後ろ乗りになって、リアの荷物と自分の身体の重量を、なるべく同じ場所に集めるようにして走る。

コレはなかなかいい考えだったようで、思ったよりはずっとハイペースで走れた。

それでもCBRとの差は少しづつ開いてゆき。

 

やがて、カーヴの向こうへ姿を消した。

 

そこでスイッチの切れた俺は、ペースを八割程度に戻して峠を下る。

すると少し行った先で、CBRが停まって休憩していた。もちろん、迷うことなくその横へユリシーズを滑り込ませる。そしてエンジンを切り、ヘルメットを外すか外さないかくらいのところで、俺とタメかちっと上くらいに見えるCBRの相手が、待ちきれないように声をかけてきた。

「いやー! 速いねー!」

ヘルメットを脱ぎながらその言葉を聞いた瞬間、俺は今日三度目の、背中の震えを感じる。速い相手に速いと言ってもらえる(たとえリップサービスだとしてもだ)のは、やはり嬉しいものだ。ゾクソクしてくるのを感じながら、満面の笑みで首を振る。

 

「いやいや、カンペキにぶっちぎられました。速いですねぇ」

「だって、道、知らないんだろう? それにこんな荷物満載で」

「それを言ったら、そちらは250じゃないですか。いっやーめちゃめちゃ速かったですよ」

 

とまあ、くすぐったくなる褒めあいは、お互いそのくらいにして。

俺とCBRのヒトは数年来のダチのように笑いあった。

「いやー、久しぶりに楽しかった。やっぱしバイクはこうじゃないとね?」

と言いながら、しわの深い顔をくしゃっとゆがめて、彼は嬉しそうに笑う。

 

「それにしても、あいつら遅せぇな。こんなに差がつくか」

「みなさん、お友だちなんですか?」

「そう。けっこう速いのもいるんだけど、さすがにこういう狭いところはね」

「ですねぇ。いやまあ、そのCBRに関しては、乗り手がおかしいとは思いますけど」

「あはは、いやいや、俺は年に数回くらいだけど走ってて、この道を知ってるからさ。それにしても、やっぱビューエルは速いね。俺の知り合いにもいるんだけど、やっぱ りそいつも峠だと速いよ。トルクがあるから、立ち上がりがいいよね」

「思ったよりずっと面白くて、すっかりハマってます」

 

なんて会話しながら笑ってると、やがて彼の友人達も追いついてきた。

背中を見せてる白いTシャツのヒトが、CBRの乗り手。

 

CBRさんは、この集団のアタマだったようだ。

その彼が笑ってるので、他の人たちも集まってきて、笑いながら話しかけてくれる。こちらも、これ以上ないほど満面の笑みで答えた。もちろん愛想笑いなんかじゃない。単車が好きで、峠道が好きで、曲がるのが好きな連中と話すとき、俺は自然に笑い顔になってしまうのだ。

ケーナナに乗ってるヒトに、俺も前はケーロクに乗ってたんだと話す。

そこからしばらく、単車やタイア、ブレーキの話に花を咲かせた。今日初めて会った、しかも道で行きあっただけの連中と、初対面の挨拶もソコソコに、ダチと話すように気を負わず話せるんだから、単車ってのはやっぱ最高に楽しいよね。

「ここからだと、少しだけ富士山が見えるんですよ」

「え、そうなんですか? あ、ホントだ。あれ富士山か」

言いながらカメラを構えるものの、

遠くにアタマだけちょこんと見える富士山より、手前のCBR250RRのが気になる

「CBRさんが追いかけていった時は、『ああ、おもちゃを見つけたな』と思ったんだけどなぁ」

ひとりがそんな風に笑いながら話してくれる。

要するにこのCBRさんは普段からこうやって、いろんなヒトに挑んでは遊んでるのだ。そんで、荷物満載のクセに信号待ちで脇から抜いてった俺を見て、『いっちょぶち抜いてやるか』ってな感じで追い始めたと言うことらしい。まあ、俺の周りでもありそうな話である。

「そしたら思ったより速いから、ヤベ、コイツ結構速いじゃん、って途中から本気になっちゃってさ」

言いながらまったく悪びれず、けたけたと笑う。

こっちはこっちで、アレが本気だったと聞いて、ちょっと胸をなでおろしたり。

「知らない道であんだけツッコめるんだから、たいしたもんだよ」

そんな言葉も、とんでもないコーナリングを見た後だけに、揶揄とは思わず素直に喜べる。

つってもまあ、アレ以上は無理ですけどね。

 

最高に楽しいひと時を過ごしたあと。

CBRさんに近所の楽しそうなワインディングを教わってから、俺は地図を仕舞って単車をまたいだ。

「面白かったよ、ありがとう! 気をつけてなー!」

「こちらこそ! またどっかで会ったときは、ぜひ!」

挨拶を交わして走り出した俺は、そこから先ずっと、ヘルメットの中でにやけっぱなしだった。

国道326号をニヤケながら駆け下り、静岡市街へ入る少し手前で、県道を左へ折れる。

この県道29号を北上してゆくコースが、CBRさんに教わった道なのだ。

29号を北上しながらも、気づけば「いやー! 楽しかったなぁ!」などと思い出し笑い。

つーかもう、正直ワインディングとか野宿とかどうでもよくなって来ていた。

どっちかっつーと早く帰って、スキモノたちに今日の話を伝えたい。

そんな風に思ってるせいもあったのだろう。

何度か道を間違えて(正確にはまちがってなかったのだが)、県道29号を見失う。

そのうち、「もういいや、帰ろう」という気になったので、あとは看板の指示するままに走り。

 

新静岡入り口から新東名に乗って、のんびりと柏を目指した。

 

新東名は元々140キロ設計だったとのことで、確かに広くて走りやすい。

新しいから道もいいし、車線が広いからすり抜けも楽だ。

「でも、真っ直ぐすぎてつまらんな。雨の日とかだったらいいかも知れん」

などと感想を独り言ちながら走ってると、目のまえに富士山が見えた。

「おぉ、富士山キレーだなぁ! ありがとう、富士山! かみは無事に帰ってきました!」

まあ、富士山は別に俺の帰りなんぞ待ってないだろうけど。

 

ウワサどおりSAやPAに入る渋滞はあったものの。

走行車線そのものはまるっきしガラガラで、御殿場まではほとんど渋滞らしい渋滞にもあわずに走れた。そして御殿場から東名に入った瞬間、道の悪さと狭さに驚かされる。さすがにこうして、同じ日に両方走って比べれば、その違いは一目瞭然だ。

「う〜む、さすがに東名御殿場からは渋滞か。まあ、仕方ないだろう」

早々にあきらめてテキトーモードで走りぬけ、いつものように大井松田あたりから気合が入る。

「なはは、ここのツイストは、あいかわらず楽しいな」

と走りつつも、浮かんでくるのはCBRの背中。なにやら恋でもしてるかのようだ。

 

東名の渋滞をなんとかぬけて、首都高速に入った頃には、太陽も姿を隠し。

渋谷線からは月の姿が見える。

 

大橋ジャンクションからC2に乗って、トンネルを抜ければ、家まではもうすぐ。

「家に帰ったら、さっそくレポを書き始めよう」

こうして、今回の春ツーリングは、最高の幕切れを迎えたのだった。

 

気ままに走り出し、あちこちの知ってる道、知らない道をたくさん走った。

大雨を食らったり、ダチと朝まで話したり、いつもの顔や久しぶりの顔と湖畔で呑んだくれた。

そして最後の最後には、最高に楽しい出会いもあった。

 

相方に、ダチに、単車に、道に、そのほかのすべてに感謝したくなる、楽しい旅だった。

 

みんなありがとう。

そして、次の機会にもまた、よろしくね。

さあ、次のロングは夏。

今度はどこを走ろう。

どんな出会いがあるんだろう。

 

今から楽しみで仕方ない。

 

春ツーリング・了

文責/かみ

 

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