solo run
夏ツーリング
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2012.07.15 二日目(後編) 会津若松〜最上・神室ダム 〜日本一周の青年〜
高橋ツトムが描いた、『SIDOOH/士道』の読者にとって。 会津のお山は、特別の意味を持つ。 俺は北海道と栃木のハーフだから、磐梯山への思い入れが強いわけじゃない。 だが、精神構造がとても単純なので、あの物語を読んでからこっち、磐梯山にはフトコロの深い父親のようなイメージを持っている。ちなみに関東の山では妙義山が好きだ。「ワインディングがどう」とかじゃなくて、単純に見た目がカッコイイから。 つーか山はどれも、大きく強く厳しいカンジがして好き。
磐梯山に見とれながら走り、広域農道の文字を見つければ横道へ入り。 これは会津パールラインだったかな? とにかくこの辺は地図も見ないで楽しく迷走してたから、文末のルートマップでは省略してある。
休憩してるときに、磐梯山ゴールドラインを走ろうと思っていた。 なぜなら、無料開放のうわさを聞いていたからだ。 つわけでパールラインから県道64号へ入ってゴールドラインへ向かう。 そのまま登っちゃってもよかったのだが、なんとなく道の駅『ばんだい』へ入った。 すると、単車置き場のところにハンターカブが一台、停まっている。 俺が横へ単車を滑り込ませると、そばにいた男がこくんと会釈してくれた。それがとてもいい笑顔だったので、嬉しくなった俺はヘルメットを取ると、こちらも笑顔でアイサツし話かけた。すると人なつっこく話してくれたので、おっさんはますます嬉しくなる。
「こんちわー! 暑いですねー!」 「どこからいらしたんですか?」 「千葉ですよ。昨日、茨城で野宿して」 「キャンプツーリングですか。そう言えば荷物がたくさんですね」 「これでも減らしたんですよ。つーか、そちらもハコ積んでるじゃないですか」
そんな風に当たり障りない話から入り。 やがて、お互いに楽しい相手だと感じたからだろう(少なくとも俺は感じた)、さらに色んな話をした。彼は26歳で、仕事をやめて日本一周しているそうだ。このときはまだ、走り始めて間もなかったのだが、それでもたくさんの出会いに喜んでいた。 旅先での出会いの楽しさには、俺も大きくうなずくところだ。 Oくん。タンクトップを着ていても、秩父の悪魔とは違って優しい好青年。 話しているうち、すっかり彼を気に入ってしまった俺は、「日本一周の途中ででも、千葉に寄らないか?」と誘う。すると彼は少し困った顔で、「自分、春日部なんですよ」と言いながら笑う。「なはは、それじゃ確かに、柏へ停まるくらいなら家に帰った方が早いね」と俺が苦笑してると。 「いや、でも帰ってきたら柏へ行きます」 と言ってくれた。 そらリップサービスかもしれないけど、それでもこんなセリフは嬉しい。俺はかつて旅先で出会った北海道の大学生ふたりの話をして、「俺の『遊びにおいで』は社交辞令じゃないから、もしその気になったらホントにいつでも遊びにおいでよ」と笑って答えた。
そして彼に、このサイトのことを教える。 「マーマレードスプーンで検索すれば、俺のサイトがトップだから、そこから連絡してよ」 アドレス交換をしてしまうと、なんと言うかそこに義理だとか約束みたいなものが発生してしまうような気がして。そして、それが万が一にも彼を縛るのが嫌だから、マーマレのフォームから連絡をくれるようにと言ったのだ。俺は無駄に押しが強いから、嫌なのに断れなかったから悪い。 そんな風に思ったのである。
嬉しい出会いにゴキゲンのかみさん42歳は、元気よく手を振ってOくんと別れ。 そのままゴールドラインへ向かう。 やはり無料開放中だった、ゴールドラインの入り口。
出会いの嬉しさと、ワインディングを走る嬉しさ、それに景色の美しさと旅の喜び。 いろんな楽しさや喜びをかみ締めながら、ゴールドラインを走り出す。 山間部を抜けるゴールドラインは、曲率とツイスト具合がビューエルにちょうどいい。 攻めると言うよりは、リアタイアに乗っかって踊るイメージで。 木々の間をひらひら縫いながら、磐梯山の山腹を駆け上がってゆく。傾斜の強いところでは、立ち上がりで軽くフロントがリフト。もちろん俺の腕でもマシンのパワーでもなく、短いホイールベースと傾斜のしわざなんだが、それでも『操ってる感』がして、やけに嬉しい。
ゴールドラインを一気に駆け上がり、駆け下りて国道へぶつかる。 小野川湖の南端あたりから、北へ向かう県道2号線へ。
左手に桧原湖の美しい景色を眺めつつ、米沢へ向かってワインディングを進む。
桧原湖を越えてほどなく、道は山間をぬうトリッキーなワインディングになった。 白布峠を越える県道2号線は、別名、西吾妻スカイバレーと言うんだそうだ。
地図によると、「途中の景観がすばらしい」とのコトで、楽しみに登ってゆく。 途中、雲の中に入ったり。
福島側の景観かな? 単車の上からじゃなくて、きちんと降りて撮らないとダメだね。 この場所なら、ガードレールの上に乗って撮ればよかった。
白布峠を越えると、いよいよ山形県に入る。 つっても曲がり道の最中だから、県境なんてビタイチ気にしてないんだけど。 やがて道がまっすぐになり、傾斜も平坦になる。山が終わって市街地に入る予兆だ。その予兆を感じるや否や、すっ飛びモードからのんびりドコドコモードへ、心と身体が自動的に切り替わる。クルマのうしろについて周りを眺めたり、他の考え事へ意識を移したり。 混んでてもイライラしないのは、ひとえにビューエルの秀逸なエンジンテイストのおかげだ。 いや、混んでるのが好きなわけじゃないが。
これはもう、上山バイパスあたりまで来てるね。このまま10キロも行けば蔵王だ。 この日は寄らなかったけど、心のどこかに残ってたんだろう。 あとで蔵王を走るコトになるが、それはまだ、先の話。
国道13号線をひたすら北上する。 すっかりドコドコモードなので、こんな風に空いていても120スピードくらい。 ビューエルのVツインエンジンってのは、ハーレィと同じレイアウトで一軸だから、こういった道をのんびり流すのが、ドコドコ言ってとても気持ちいい。もちろん他のエンジンを否定するわけじゃなく、要するに半分以上は雰囲気の問題だとも思うけど。 ま、惚れた欲目ってヤツだろうね。
天童市に入ったところで、暑くてへばってきたしタバコが吸いたいと思い、道の駅へ入る。 道の駅『天童温泉』は、駐車場をはみ出したクルマがあふれていた。 温泉に入ろうかと思っていたが、ごった返す人波に心折られて、タバコを吸っただけで走り出す。
天童温泉から15キロほど北上した場所にある、道の駅『むらやま』。 入ったわけじゃなくて、通りがかっただけだ。去年の東北ツーリングの二日目だったか、まだ真っ暗な朝のうちに寄ったのを思い出したら、思わずカメラを構えていただけで、特に意味はない。天童温泉よりも空いてるから、クルマで道の駅へ泊まる人々に好まれる。
と。
いよいよ、空が泣き出した。 あわててコンビニへ飛び込み、カッパを引っ張り出す。 ついでにここで、酒を買い込んだ。 今夏は基本的に、4時を過ぎると酒を買い込むパターン。
湯沢あたりまで行こうと思っていたのだが、雨の中、これ以上がんばるのもバカバカしい。 なので、ポツポツ降ったり止んだりする中、野宿ポイントを物色しながら走る。
これは尾花沢あたり。 ここらはまだしも、新庄を抜けたあたりからは、右手にずーっと奥羽山脈が見えているので、「早いとこ涼しい山の中に入って野宿したいなぁ。酒呑みたいなぁ」などと、うわごとのようにブツブツとつぶやきながら走っていた。まるっきし変人だが、雨が降ったり止んだりして、やたら蒸し暑いのだ。 もうそろそろ、我慢の限界である。
皇国の守護者フリークにはおなじみ真室川あたりで、ダムの文字を見た瞬間。 俺はほとんど無意識に、ダムへ向かっていた。 田舎道を駆け抜けて、神室山のふもとへ切り込んでゆく42歳。 頭の中はもはや、『酒』の文字で埋め尽くされている。
せまい舗装林道を登ってゆくと、目の前にダムが現れた。 神室ダムをながめながら、ゆっくり山道を進む。
ダム湖の周りには駐車場があるものの、どうもピンと来ないので、そのまま奥へ進んでゆく。 と、狭い林道が急に開け、左手に駐車スペースがあった。 「この先にいい場所がなかったら、ここで野宿しよう」 野宿ポイントのリストに加えて、そのまま林道を進んでゆくと、程なく通行止めの看板。
これで今宵の宿は決まった。
少し戻って、さきほどリストに加えた駐車スペースへ。 右手の道は、しばらく行った先で通行止めになってる。
駐車スペースにあった立て札。 「よくわからんが、要するに汚さず綺麗に使えってことだな?」 そう独り言ちた俺は、荷物をといて野宿の仕度をはじめる。 はい、準備完了。さて、呑もうか。
買ってきた酒を呑んでゴキゲンな42歳、ふと、アゴがかゆいのに気づく。 触ってみると、おそらく昨日の北茨城で、ブヨにでも食われたのだろう。 アゴの先端が二ヶ所、平行に並んで噛まれていた。 「あんだよ、アメリカ人のケツアゴみてぇになってんじゃねーか!」 ひとり突っ込みしながら、フルコートをぬって手当ては終わり。
さて、宴会の続きをしよう。 今日はチューハイの500缶が二本と、トリスウイスキーのポケットビン。 ツマミはコンビニの砂肝とかそんなの。
涼しい風に吹かれながら、酒を呑み、緑を愛(め)でる。 とんでもなく気持ちいい。 自然の中を走ったり、ワインディングを駆け抜けたりと、ソロツーリングでは気持ちのいいシーンが多いんだが、それにしてもここの気持ちよさは秀逸だった。ただ座って酒を呑んでいるだけで気分がよく、鳥の声が聞こえてくると、おもわずニンマリとほくそ笑んでしまう。
それからガソリンストーブを引っ張り出して、砂肝に火を入れる。 コンビニのつまみだから、別に焼かなくたって喰えるんだが、まあ、雰囲気だよ。
と、カメラの電池が切れたので、スペア電池を引っ張り出したのだが…… あっはっはっは!! バカじゃないの俺? 別のカメラの電池、持ってきちゃってんじゃん。
というわけでこの先は、携帯で写真を撮ることになった。 「携帯じゃ、走りながら撮れないなぁ。なんか方法を考えないと」 ま、方法もクソも、走りながら撮りたきゃ、携帯を片手で扱うしかないわけだが。
このへんのひと幕は、下の動画におさめてあるので、ヒマなら見てくれれば望外。 二日目 呑んだくれ(04分03秒)
二日目 電池とか(37秒)
やがてとっぷりと陽が暮れてきた。 いいだけ呑んだくれたので、酒はそろそろ終わりにしよう。 紅茶をいれて飲みながら、虫の声に耳を澄ます。 二日目の夜は、こうして静かに暮れていった。
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