solo run
夏ツーリング
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2012.07.18 六日目 湯沢〜柏 〜帰宅路560キロ〜
『ウコンと梅』が効いたのだろうか。 それとも昨夜の楽しい時間が、悪酔いから救ってくれたのだろうか。 とにかく、ウォッカ750mlをまるまる一本空けたわりには、比較的サワヤカに目覚める。 出発準備が出来たら、おじさんにアイサツしたいところだが、さすがにまだ早すぎる。 クルマの方へ軽く礼をして、俺は相変わらずバカっ晴れの中を走り出した。
今日は蔵王エコーラインを走ろうと、昨夜のうちに決めていた。 なのでまずは国道を、南へ向かってすっ飛ばす。 朝イチで空いてるところへ、昨日Cと会話した影響もあるんだろう。自然とアクセルは開け気味になり、今回の旅で初めて200スピード越え。のんびりモードの倍近く、レッド寸前までぶん回して、右に左に駆け抜ける。自然に顔が引き締まり、テンションが上がってくる。 とは言え、徹底的に中低速ワインディングスペシャルなビューエルXB。 直線すっ飛ばしてすり抜けしながらガンガン行くスタイルは、最近ほとんどやってないので、50キロほどで疲れてしまう。新庄の少し先くらいで、コンビニを見つけるなり、迷わず飛び込むヘタレ。ワインディングとかドコドコ走りだったら、何時間乗ってても平気なのにね。 コンビニで休憩ついでにトイレと朝メシを済まし、だいぶん元気を取り戻したら。 残り50キロくらいを、同じくハイペースで一気に駆け抜ける。
セルフのスタンドを見つけたが、まだ開店まで少し時間があった。 なのでここで開店を待ちながら休憩&ルーティング。 ミクシィにつぶやいたりタバコ吸ったりしてると、やがてスタンドが開いたので給油。 戦闘準備が整ったところで、いざ、蔵王エコーラインへ。
国道を折れて5キロほど走ったら、いよいよエコーラインが見えてきた。 林間のワインディングを、すっ飛ばしてきたテンションのまま駆け登ってゆく。 昨日、道の駅で話したBMWのひとが、「エコーラインは半分くらい舗装が新しくなってる」と言ってたが、登り始めてしばらくは、普通に古い舗装だった。「なるほど、それじゃあ後半がいい道になってるんだな」と独り言ちながら、やがてそんなことは忘れてしまう。 一台もクルマやバイクのいないワインディングを、かなり全力にちかいペースで登る。 突っ込んで短いホイールベースと立ったキャスターで一気に旋回……というよりは、コーナリング中から立ち上がりにかけてリアを沈ませ、リアタイアの上に乗っかって、リアタイアを曲げるイメージで。脱出しながらフロントがリフト。恐怖はなく、しびれるような快感が身を包む。 何度やっても飽きるコトのない、最高のひとり遊びだ。
と。
頂上に近くなってきたところで、突然、目のまえがぱあっと開けた。 「うっわ、これは気持ちいい!」 思わずうめいて、アクセルを抜く。 すると、おそらく最高所あたりに出たとたん、眼下に真っ白な雲海が広がった。 ユリシーズを停めて、見事な雲海にしばし見とれる。
今回の旅で、イチバン俺の心をつかんだ景色。 奥からコーナーを抜けてきて、停まったところで撮影した。
緑も美しいが、さすがにコレだけ延々と緑ばかり見てると、ちょっと飽きるかな。
景色を堪能したところで、今度は道をより堪能するためにサスペンションを調整。 街乗りセットだとちょっと柔らかかったので、伸び側をシメる。 イキナリ圧側をシメちゃうよりもしっくりくるコトが多いので、俺はまず伸びをいじる。 「よし、こんなもんでいいだろう。それじゃ、くだりもイッパツ気合をいれt……あぁっ!」 エコーラインの美しい山々と雲海にこだまする、42歳の悲鳴。
朝からずーっとぶん回し続けてきたせいだろう。オイルがいいだけモレまくってる。 「これはさすがに怖いな」 ウエスを取り出して軽く拭いてやるが、この段階でかなりテンションダウン。
景色を眺めながら直線を消化して、くだりのワインディングに入る。 と、確かに道の舗装がキレイになっている。 くだりはじめこそテンションダウンしてたが、舗装がよくなったり、脚を固めて曲がりやすくなったのが効いて、だんだん機嫌がよくなってくる。ブレーキリリースからカットインを少しリーンアウト気味に入り、ステップで曲げる。前が確認できたところでリーンウィズへ移行して、内側へ荷重移動。 荷重が内側へかかるや否や、グイグイと曲がってゆくビューエル。 タイアのエッジに乗ってる感が気持ちいい。
エコーラインを下りきったら、ようやくドコドコのんびりモードへ。 MADMAXファンならご存知、トゥーカッター温泉。
ふもとのコンビニで、休憩がてらユリシーズのオイルをしっかりぬぐう。 綺麗なったところで、おじさんがひとり話しかけてきた。 「どこから?」「どこまで?」「これ何CC?」つーお決まりのやり取りから、おじさんが自転車乗りだという話になり、さらにスキーも大好きで、今日もこれからスキーへ行くのだという。軽く聞き流しかけて、思わずおじさんを二度見し、大きな声で聞き返した? 「スキー? これから? 蔵王で? 七月なのに、まだ雪あるんすか?」 「あるよ。ほとんどアイスバーンだけど。2、300メータ滑ったら、スキーかついで登るんだ」 「それはそれは……好きなんですねぇ」 さっきまでちょっと鬱陶しかったおじさんが、急に魅力的に思えてきた。 現金なもんだ。
おじさんがコンビニへ姿を消したら、地図を見ながらこの先を考えるのだが。 先ほどの盛大なオイル漏れに、気持ちが帰宅の方向へ傾いた。そのつもりで地図を見ていると、地図に書いてある国道の名前になにやら見覚えがある。国道349号だ。蔵王のふもとから始まるこの道は、えんえんと南下して茨城の水戸まで繋がる。 そしてなにより4号や13号と違って、全線ほとんどがワインディングなのだ。 ワインディングメインのソロツーリングのシメとしては、もっともふさわしい道だろう。 「よし、349を走り倒して、柏へ帰ろう」 蔵王から柏まで350キロオーバーのワインディング三昧が決定した。
まずは阿武隈川ぞいに出て、土手沿いの道を走ってゆく。 「なんか利根川の土手沿いと似てるなぁ」 おなじ川沿い土手下の道なら、そら似てるに決まってる。道の空きっぷりも似たようなもんで、たまに混んできたなと思うと、軽トラやおばさんがゆっくり走ってて詰まってるだけ。見通しのいい場所でゴボウ抜きにできるので、それほど鬱陶しくもない。 角田の街中を抜けるのが、暑くてちょっと疲れたが、おおむね順調に進んでゆく。
やがて、もっかい阿武隈川に合流。
川沿いの道は景色がいいので、漫然と流してるだけでも気持ちがいい。
ときどきキレイだなと思ったところで停まり、写真を撮ったりタバコを吸ったり。
阿武隈川は広くなったり狭くなったりしながら、国道沿いを併走する。
コレは富野あたりの、阿武隈川に掛かる橋から撮った写真だ。 川幅が広く流れもおだやかで、眺めてるだけで心が広くなるような気がする。 もちろん、気がするだけ。
やがて阿武隈川や宮城とはお別れ、ここからは福島県だ。 道は街中から、やがて山間部へと入ってゆく。右に左にツイストし始め、俺のやる気も加速する。福島の山々を、まるで縫うように走るワインディングは、どっかんストレートや、ユリシーズだとトップエンド振り切ってしまいそうな高速カーブが多く、嫌でもアベレージが上がってゆく。 アベレージが上がれば神経を使うので、疲れはするものの距離も稼げる。 そして、このあとも船引を越えていわきあたりまでは、とにかく左右より上下、ビーフライン前半のスケールを大きくしたような、アップダウンの多いレイアウト。トラックもそれなりに多く、楽しいのと疲れるのの割合が五分五分くらいの、ちょっと我慢の時間だ。
オイルもれエンジンでバカ開けするのも、そろそろ飽きてきたころ。 二本松のあたり、道の駅『ふくしま東和』で休憩。 いくら山間部とは言え、この天気だ。停まるとさすがに暑い。 熱中症にならないよう、水分をしっかり補給したら、白黒パンダをやり過ごしてから走り出す。
その後もそれなりのワインディングで、楽しいと言えば楽しいが、しんどいと言えばしんどい。 「う〜む、やっぱりもう少し思いっきり曲がっててくれた方が楽しいなぁ」 文句を言っても状況がよくなるわけじゃないから、不平はそのくらいにして、たんたんと距離を稼いでゆく。先ほどの道の駅から、かれこれ50キロくらいはそんな感じで走ってたのだが、いわきに差し掛かったあたりから、俄然、道の様子が変わってくる。 カーブの曲率が上がり、面白くなってきたのだ。 「なはは、自分でも現金だとは思うけど、とたんに元気が出るなぁ」 リーンウィズ、リーンイン、リーンアウト。さっきまでの、『高速コーナーのブレーキを舐めつつ曲がりながらコーナリング抵抗で減速してゆくカンジ』から、ある程度ブレーキをしっかり使い、積極的に荷重移動を大きくして、くるんと曲がる走りへシフトする。 やっぱりビューエルは、こういうのが楽しい。
途中で道の駅『ふるどの』へ入った。 旧い地図には載ってなかったから、わりと新しい道の駅のようだ。
やけに手の込んだベンチで、一服しながら地図を眺める。 とは言えひたすら349号を南下するだけだから、途中に何があるとか、これから先の道は面白そうか? とか、そんな程度の『軽い確認』だけだ。もっとも、地図上の『南北の高さ』で言えば、このあたりはもう、白川とか那須とかわらない。 気分的には、ほとんど帰り着いたと言っていい……と、このときは思っていた。
ところがどっこい349号線は、むしろここからが本番だったのだ。
山あいを抜け、稜線を走り、山村の中を抜ける。 先ほどの高速ワインディングとは違った、せまっくるしいツイスティな舗装林道や田舎道。 山に入ればブラインドの多い森の中をUターンチックなツイストロードが縫っている。稜線に乗れば景色は雄大で美しいが落石や落ち葉、山汁とフルコースだ。そして人が住んでいる山村部では、当然、アホな速度は出せない。 進む速度はがくんと落ちたが、楽しさは増えたので、総体的な負担は少ない。
「こりゃしかし、まるでラリーだな。走っても走ってもツイストが途切れないじゃないか。ムラタやフラが関東に来る時は、是非ともこのコースで出迎えてやることにしよう。一泊の野宿なら荷物もそんなに要らないし、『帰りはバイクに乗りたくない』ってくらい走らせてやる」 名古屋と大阪の兄弟に向かって、いわれのない非難を浴びせながら走る。 要するに、さすがに曲がり道好きの俺もしんどくなってくるほど、延々と曲がってきたのだ。
登って下って、曲がって曲がって。 いよいよお腹いっぱい、体力の限界。 俺もバイクもヘロヘロだってころになって、ようやく北茨城の街中へ出る。 それにしても、停まるとうだるように暑い。 ここ数日、それなりに暑いとは言え基本的には涼しい東北を走ってきたので、関東に入ってからの蒸し暑さは、だいぶん身体にきびしい。ミクシィで関東の暑さをつぶやいたら、あとはいつもの慣れたコース。さすがに混んできた茨城をおとなしく南下。 やがて国道461とぶつかったところで、長いこと遊んでくれた349とはお別れだ。 いやぁ、実にタフな道だった。 充分に体力を蓄えたら、もう一回、今度は南から北へ走るのもいいかもね。
461の林道区間を走ってると、なんだか家に帰ってきた気がする。 「ははは、なんだろ。全然しんどくないな」 まあ、これ以上にハードな林道を、数時間ぶっ通しで延々と走ってきたんだから、あたりまえっちゃアタリマエだが。とにかくいつもの酷道が、めちゃめちゃ優しく感じる。知ってる道ってのは楽だね。ほとんど頭を使わずに、半分無意識で北茨城ルートをたどり。 グリーンふるさとラインの入り口、国道118号沿いのコンビニへ入る。
「やっぱし、オイル漏れがひどくなってるな。さすがにコレは、帰ったら修理しよう」 下道を延々2000キロ、ずっと付き合ってくれた相棒を眺めながら独り言ちたら。 今夏のロングツーリング第一弾は、これにて終了。
ひとり旅、野宿旅、スポーツライド、景色を眺める走り、そして旅先での出会い。 今回も色んなことを堪能できた、実に楽しい旅だった。 旅先を走りながら、少しづつ余計なモノがはがれてゆく感覚。しがらみやトラブルをすべて忘れ、真っ白になって単車をあやつる至福の時間。山の中で星を眺めながら酒を呑み、でっかい空と山と湖、自然を抱きしめる胸のすくような夜。そして出会った優しい、あるいは楽しい人々。
六日間で起こった、すべてのことに感謝を。 そして次回もまた、ステキな時間が過ごせることを祈りつつ。 今回はこのへんで、筆をおこう。
思い出に浸りながら、酒盃を傾けるために。 さあて、八月も走るぞ!
夏ツーリング・了 文責/かみ
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