solo run
雨の夏ツーリング
一日目 二日目(前編・後編) 三日目 四日目 (前編・後編)
2012.08.11 一日目 柏〜榛名湖 ―復讐の連鎖―
前回のツーリングを終えてから、考えていたことがある。 『ソロツーリングの改善策』と、さらに『もっと根本的な話』だ。 それらについては、おいおい語ってゆくとして、まずは出発しよう。 携帯のアラームをオフにするところから、俺の二回目の夏休みは始まった。
初日の目的地は榛名湖。 山賊宴会をやってるダチと合流するのだ。 このあいだカブで走ったルートを途中までトレースし、前橋を目指す。 ムシムシと暑い中を、「やっぱユリシーズだとカブよりずっと早いな」などと、当たり前のことに感心しながら進んでゆく。あのとき、クラクション鳴らしたクルマを怒鳴ったあたり、『雷電神社』の看板を見て、「そうそう暑くてもカリカリしちゃだめだ」と自分を戒める。 ちょっと迷ったりしながらも、とっとと進んで国道17号へ。 県道の楽しさより、国道の速さ(早さ)を優先し、先を急ぐ。
途中のコンビニで休憩を入れながら、地図を見ていた俺は、思わず声を上げた。 「ちょ! 近くに『まるか食品』があるじゃねぇか!」 まるか食品とは、俺の好きなペヤングソースやきそばを作った会社であり、いわば恩人だ。 「う〜む、ペヤングの本部がこんなところにあるとは」 ペヤングは都市伝説じゃねぇんだから、そらぁ、どっかにはある。
ソロツーの悪い癖で、思わずふらりとペヤングへ行きそうになりつつ、心を鬼にして先へ進む。 どんよりとした空は、今にも泣き出しそうだ。 混んでて面白くない国道を使って急いだのは、榛名のワインディングを明るいうちに走りたかったからなのに、雨に降られたらダイナシなので、ちょっと焦り気味の42歳。バッシバシ国道をすり抜けて、前橋の街中に入ったところでスローダウン。 『地酒』の看板に引き寄せられて、酒屋の前で休憩がてら酒を買い込む。
さあ、お待ちかねのワインディングまで、あと少しだ。 県道を走ってゆくと、やがて道は曲がりながら登り始める。 「よーし、どうやら間に合ったな。リアタイアも交換したし、さーて曲がるぞう!」 気合を入れて走り始め、最初のカーブをいくつか曲がったところで。
ぽつり。 「うっそだろう? いや待てよ待てって、あと少し! 湖まで待ってくれって!」 ぽつぽつぽつ……ざぁー! お天道さま、俺の祈りはフルシカト。まったく届かなかった。
到着するなり、笑顔で迎えてくれるeisukeさんに向かって。 「ワインディングで降られたんですよ! あと少しだったのにっ! 世界が滅びればいいのにっ!」 「わははははっ! 降られちゃったねぇ。まあ、ゆっくり飲もうよ」 穏やかな笑顔に、こちらの荒れた気持ちもおだやかになる。 やっぱeisukeさんがいるから滅んじゃダメだ。 命びろいしたな、世界。
おーげー、気を取り直して山賊宴会だっ! ざんざん降りの中、荷物をかついで湖畔へ降りてゆくと、三重から参戦したおーがの姿。 思わず、俺の顔がほころぶ。 「おーが、君は実にバカだなぁ」(初期ドラえもんの名ゼリフ) 「うっさいわ! おまえが言うな!」 ろろちゃん、popoさん、おーがの愛息UKTにアイサツしたら、雨の中で荷物をほどく。 それからテント設営なのだが、そのまえに、まずは一杯。 ぬるくなってもおいしく呑めるようにと、ギネスビールを買っておいたのだが、それを見たpopoさんが、「かみさん、冷たいビールあるよ」と、わざわざ冷えたビールをわけてくれた。popoさんのためにも、やっぱ世界の滅亡を願うのはやめにしよう。 ビール造る人、いなくなっちゃ困るしね。
湖畔の土にひとくちおすそ分けしたら、のどを鳴らして半分ほど呑む。 酒が入ったとたん、「雨の湖畔もいいものだ」と思えるから不思議だ。 まあ、そんな気持ちはたいして長く続かなかったんだが、それはさておき。 雨宿りするために、eisukeさんの張ってくれたブルーシートの下へ入る。すると、ろろちゃんがニヤっと苦笑しながら、「かみさーん! コケちゃったよぉ!」と、自分の足を指差した。スネのあたりに、まだ血の流れてる真新しい傷を見て、俺は思わず声を上げる。 「うぉ、怪我してるじゃん! 大丈夫? どこで?」 ろろちゃん、笑いながら、俺が今おりてきた土手を指差し。 「あそこで」 俺は安堵のため息を漏らす。 「ああ、なんだ土手で滑ったのか。よかった。バイクでコケたのかと思った」 いやまあ、転んで怪我をしたんだから、よかったってコトもねぇんだが。
ブルーシートの下で呑んだくれてると、エンジン音が聞こえてくる。 雨の中FTRに乗って、栃木からマルが駆けつけたのだ。 「うをー! びしょ濡れになっちまった」 わめきながらやってきた朋友は、みんなに挨拶もソコソコ、いきなり服を脱ぎ始める。 タダでさえ見苦しい中年男が、ずぶ濡れの状態でタンクトップとパンツになったもんだから、むちゃくちゃ目のやり場に困る。もちろん、悪い意味で。コレが女の子だったら、目をそらしつつもチラ見してしまうだろうが、いかんせんオッサンの半裸じゃ、金をもらったって見たかない。
そこへeisukeさんが近づいてきた。 タンクトップスタイルで並んだ、どう見てもアニキなふたり。 『ホモのスポーツインストラクター』だの、『変質者兄弟』だの、さんざん大笑いしてからかうんだが、マルはもちろん、どこ吹く風。しかも、代わりに何か履くのかと思ったら、変態インストラクターな格好のまんま、どっかりとイスに腰掛ける。 もはやベテランの風格さえ漂わせ始めた、マル@あにき。 と。 アニキはどうやら、獲物を見つけたようだ。 七輪の火を起こそうとがんばってる、犠牲者おーがに近づくと……
マルゾー・オブ・ジョイトイ
全員、笑いすぎて過呼吸になりかけた。
そりゃ、おーがが善人とは言わん。 言わんがしかし、目の前でオッサンの股間、それもインリンばりのM字開脚を見せられなきゃならないほど、極悪人ではないと思う。しかも、子供たちのために起こした七輪の火を、濡れた股間を暖めるために使われるに至っては、悲劇としか言いようがない。 だが、ここでおーがを助けに入るのは、明らかに自殺行為だ。 アニキの情熱がこちらに飛び火しかねないので、おーがは見捨てることにした山賊たち。 「ちょ! おま! やめろ! 股間を見せるな!」 おーがの哀しい悲鳴が、榛名湖の水面(みなも)にこだまする。
いきなりハラが千切れるほど笑ったあと。 マルのFTRを見物しに、土手の上へ上がると。
おーがの愛妻にして、俺の愛人である『飼い主ちゃん』と、愛娘のNNKがクルマから出てきた。 今まで寝ていたNNKは、起きたばかりで、ぽやーっとしてる。
その横では、ろろちゃんのF800Sと、俺のユリシーズが歓談してる。 「ろろさんと一緒に、ロングツーリングの帰りだって?」 「そうだよ。いろんな湖を見ながら、ノンビリ走ってきた」 「いいなぁ。こっちは間違いなく、またアホみたいに曲がり道ばっかり走るんだろうなぁ」 「大丈夫じゃないかな? この先、西はずっと雨みたいだから」 「俺の相棒、雨でも走るよきっと。バカだから。想像力とか洞察力とか常識がねぇんだもん」 そんなもん持ち合わせてたら、単車で野宿なんかしねぇよ。
さて、『アニキを囲む宴』は、早くも絶好調。 ますます強くなる雨音は、会話するのさえ苦労するほどやかましい。嫌になってしまう鬱陶しい雨だが、それさえもネタと思い出にするのが山賊の流儀だ。「雨うぜぇ!」「音がうるせぇ!」と騒ぎ、酔っ払ってバカ話しながら笑って、楽しい時間が過ぎてゆく。 俺はpopoさんのビールや、自分で買ってきたギネスをやっつけ、 さらに、前橋の酒屋で買い込んだ日本酒を、引っ張り出して呑みはじめた。 名前が気に入って買ったんだが、味の方はそこそこ。俺は嫌いじゃないけど、日本酒が好きじゃない人はダメだろう。少なくとも、呑みやすいとは言えない。高い酒じゃないから、興味があるなら呑んでみてもいいだろうけど、苦手な味でも俺に文句言わないように。 かみとキミ達との約束だ。
やがて、少しづつ雨が収まってきた。 その頃にはもう、みんな出来上がってゴキゲンだ。 と、たしかマルだったと思うんだが、「電話をしよう」といい始める。 山賊宴会ではおなじみ、来てない連中への嫌がらせ攻撃だ。
犠牲者は、タツヤ、ユウヒ、よしなし。
タツヤは羨ましさを隠せず、「うっさい! みんな死んじゃえ!」と騒ぐのだが、そんな対応をすれば大喜びしてエスカレートするのが山賊たち。小学生並みのメンタリティしか持ってないダメ人間どもは、ゲラッゲラ笑いながら、次々にタツヤをからかう。 電話を切るころ、すでにタツヤは青息吐息だった。 ま、近いのに来ないのが悪いんだよ、タツヤ。
ユウヒは、『羨ましがれば図に乗る』という山賊の傾向をよく知っているから、バカを刺激しないように極めてたんたんと、おだやかに接して最小限の被害で済まそうとする。だが、山賊だけならともかく今回は、残念ながら相手が悪かった。なんたっておーが一家が居るのだ。 もちろん、おーがなんぞにやられるユウヒではないが、問題はその娘NNKの方。 「ますたぁ(NNKはユウヒをこう呼ぶ)、なんでこないの?」 小さな声で寂しそうにつぶやく幼女。 「……なんでこないの?」 おそらく電話の向こうで困ってるだろうユウヒの姿が想像できて、も、全員大爆笑。
よしなしは、先のふたりに比べて山賊の扱いに慣れている。 なんたって普段は加害者の陣営なんだから、なにをどうすれば被害が少ないか、よくわかってるのだ。誰がどれだけあおろうと、徹底的にスルーして普通に話し、三人の中ではもっとも最小限に被害をとどめて電話を切った。 まあ、あの男はホンキで猟銃の免許を取りにいってるから、山賊も腰が引けたのだろう。 そのうち猪ハンターから昇格して、山賊ハンターになるかもね。
そしてマルとおーがは、ふたりともニヤニヤしながら。 「これが嫌だったから、雨でも来たんだ」 「いっやー、ホント来て正解やったわ。こんなんゼッタイ堪えられん」 まあ、次回は必ず報復されるだろう。 まさに復讐の連鎖。
さて、諸君。 夜遅くなったと言う事は、俺の時間がやってきたということだ。 「ぃよぅ〜し、UKT! やるぞぅ! 燃やすぞぅ!」 「わかったっ!」 書類上は親子ほど歳のはなれた、しかし、精神的には同級生のふたりが、瞳をらんらんと輝かせて立ち上がる。すると、それを見た前橋のグリズリーeisukeさんが、ニッコリ笑いながら、「ほい、これ」と焚き火台を差し出した。相変わらず、我々を甘やかすひとだ。 焚き木を組んで、同じくeisukeさんのくれた着火剤で火をつける。 燃え上がる炎に、歓喜の声を上げる俺とUKT。 メイワクそうに苦笑いする、山賊の面々。
UKTが木の枝に火をつけようとして、うまく行かないのを見た俺は、eisukeさんの持ってきた燃焼用アルコールの缶を引っ張り出して、その口から枝を突っ込む。「ほら、UKT。こうやって枝にアルコールをしみこませれば、バッチリ燃え上が……あぁっ!」こだまする俺の悲鳴。 酔っ払いかみさん、アルコール缶の中に、枝を落っことしてしまった。 「しまった! 枝を落っことしちゃった」 あわてて取ろうとするんだが、缶の入り口が小さいのと酔っ払ってるのとで、うまく行かない。 「かみ、どーするの?」 UKTに聞かれたので、こういうときの対処の仕方を教えてやることにする。 「とりあえず、eisukeさんに謝ろう。悪いことしちゃったら、ごまかしちゃいけないんだ」 ちょっと聞くと『イイコト言ってるっぽい』が、火遊びをしてるおっさんの言うことだから説得力に欠けること夥(おびただ)しい。つーかそこで反省する前に、反省すべき点は星の数ほどある。「eisukeさん、ごめんなさい。缶の中に枝を落っことしちゃいました」するとeisukeさん、ニッコリ笑って。 「いいよ、いいよ。どうせその缶は、かみさんに持って帰ってもらうつもりだったから」 「は? はあ……」 半笑いで固まるかみさん。ニコニコ笑うeisukeさん。展開が理解できないUKT。 このときは冗談だと思ったんだけどなぁ。
いいだけ騒いで呑んだくれたあとは。 eisukeさんが用意してくれたパイナップルを食ったりしながら、まったりした時間。 自分の酒を呑み尽くした俺は、popoさんの酒をわけてもらって(強奪して)、さらに呑む。飯を食ったり、酒を呑んだり、バカ話したり、ちょっと真面目な話をしたり。涼しい湖畔の風に吹かれながら、楽しい夜はゆっくりと更けていった。 雨に少し泣かされた、初日の出来事だ。
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