solo run

雨の夏ツーリング

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2012.08.12 二日目(前編) 榛名湖〜野麦峠

―太陽がいっぱい―

 

「オラ、いつまで寝てるんだ! 起きろ!」

ドスの効いた声に目を覚ますと、UKTとNNKが俺をのぞき込んでいる。

寝ぼけて混乱したアタマで、「そーか、UKTはもう声変わりしたのか」思いながら起き上がると、声の主はろろちゃんだった。そらドスが効いてるわけだ。いや、起き抜けに聞いたから、セリフの内容は上記のまんまではないかも知れんけどね。

むしろ「かみさん、まだ起きないのかい?」くらいの優しい調子だったかも

 

どうやらチビふたりが開けたらしく、全開になってたテントの入り口から這い出すと。

もうすでに、みんな起床していた。

俺以外の人間は、撤収作業もあらかた終えている。

が、みんなその後が続かない。帰りたくないのだ。

 

起き上がった俺は、のんびり片づけを始める。

荷物を持って土手に上がると、相変わらず例の二台が話しこんでいた。

「それじゃあ僕ぁ、ろろと一緒に帰るわ。ユリシーズも気をつけて」

「ありがとう。俺は気をつけるけど、相棒がアレだからねぇ。まあコケないように祈るしかないよ」

「かみさん、雑な運転するらしいもんねぇ。ご愁傷様」

「もう慣れたけどね。そんじゃ、お互い事故やトラブルなく無事に帰れることを!」

 

失礼なことをほざいてるユリシーズに、ドカっと荷物を積み上げる。

と。

「はい、これ」

eisukeさんがニヤニヤしながら差し出したモノを見て、困惑を超え爆笑してしまう。彼の手には、昨夜、俺が中に枝を落っことした、アルコール缶がぶら下がっていたのだ。15cm×11cm×高さ28cmという、実にアホな大きさの缶が。

みんなが大笑いする中、面白くなってきた俺は、それを単車に積んでみる。

写真右下、ユリシーズの後ろにある銀色の四角い箱が、くだんのアルコール缶だ。

「おぉ、なんや手際よくパッキングすんなぁ。元からそこに積んであったみたいやん」

おーがが感心した声を上げると、マルがニヤニヤしながら。

「まあ、しょっちゅう走り回ってりゃ、いくらヘタでも上手くなるだろ。昔、コイツが荷物を……」

20年来のダチだけに、俺の失敗談にはこと欠かないマルゾー。

 

帰りたくない山賊連中は、誰かが「もう一泊する」と言うのを待ってるフシがある。

しばらく、「どうしようかなぁ」「もう一泊しちゃおうかなぁ」と、けん制しあっていたが、やがて、翌日仕事のろろちゃんが、「このタバコを吸ったら帰る」と宣言した。もっとも、吸い終わってすぐ、「う〜ん、今何時? そうか、じゃあ半になったら帰ろう」と、早速、前言を撤回してたけど。

「ぎゃははは! 人がニートになってゆく構図が、今、かいま見えた!」

みんなで大笑いする中、ようやくろろちゃんが重い腰を上げて、帰っていった。

 

お次はマルゾー。

「帰りたくねーよー!」「マル、帰っちゃうの?」「帰りたくねぇ」「帰らなきゃいいのに」

UKTにイジメられつつ、やがてあきらめ帰路につく、マルゾー・オブ・ジョイトイ。

帰ってしばらくしたら、ミクシィの名前が「marlzo@あにき」になってた。

 

さて、それじゃあ俺もそろそろ出発しよう。

eisukeさん、popoさん、おーが一家にアイサツして走り出す。

榛名湖を眺めながら、風に吹かれつつのんびりと走ること数分。俺は大声を上げながら単車を停める。「やべ。思いっきり忘れてんじゃんよ!」宴会場に上着を忘れたことに気づき、その場でUターン。あわてて引き返すと、おーが一家だけが、まだ残っていた。

「なんや、かみ。どうしたん?」

「忘れ物した。上着、思いっきり置いてきた」

土手の下まで降りてゆくと、忘れ物のECWCS(軍服)が木に引っかかっている。

「おぉ、全然気づかんかった! さすが迷彩やなぁ」

まあ、迷彩ってのは、気づかれないためのガラだからな。

 

改めておーがに別れを告げ、「なんやったら帰りに寄れさ」と、嬉しい言葉をもらって走り出す。

途中の分岐まで来たところで、「そう言えば、こっちはまだ走ってないな」と気づいたので、いつもの裏榛名へは向かわずに、反対方向へ曲がって県道33号へ。この時、なんとなく『今回のツーリングにおける流れ』が決まったっぽい。意識してたわけじゃないけど。

行ったことのある場所でも、走ったことのない道はある。

そーゆーのを拾ってゆこう、って感じで。

県道33号線の、どっかんストレート。

もっとも、こんなのは最初くらいで、あとは基本的にぐねぐね曲がってっけど。

通りがかりにある、黒髪山神社と書かれた鳥居。

緑の中に赤が映える。

 

道が下り始めたら、そこは頭文字Dに出てくる『秋名山』のモデルとなった場所。

マンガには書かれてない減速帯を抜けると、いわゆる五連ヘアピン。勾配のきついUターンチックなカーブを、脳内でマルやムラタと戦いながら下ってゆく。もちろん性能が劣る俺の方が主人公だ。ミゾ落としの代わりに、キレイなドリフトを(脳内で)キメたら、やがて道は平坦になる。

景色を眺めながら、のんびり行こうか。

 

街中を抜けつつ、いつもなら妙義へ向かうところを、県道をつないで国道18号へ。

妙義をやめて18号へ出たのは、昨日おーがが碓氷峠を走ってきたと聞いて、せっかくだから久しぶりに碓氷の旧道を走ってみたくなったから。碓氷峠の旧道ってのは、俺がガキのころ、初めて膝ではなくステップを擦った場所であり、まあ、青春のひとコマを送った場所なのだ。

碓氷峠の旧道とバイパスの分岐あたり。

しばらくクルマと一緒に走り、めがね橋を越え観光客が減ったところで、一気に加速。

記憶の中より荒れている旧道を、ガキの頃を思い出しながら曲がってゆく。

甘酸っぱい思い出……というよりは、恥ずかしくて顔から火が出そうな思い出を反芻しながら、くねくね曲がる道をすっ飛ばしてゆくと、思ったよりずっと早く、旧道を抜けてしまう。「こんなもんだったっけか?」と、軽く拍子抜けしながら、そのまま軽井沢へ。

 

もちろん、夏の軽井沢を抜ける18号線は、思いっきり渋滞だ。

こちら側はまだマシだったが、反対車線はほとんど動いてない。

「避暑地の涼しさじゃなく、クルマの冷房で冷えちゃうだろうな、これじゃ」

苦笑しながら走ってゆくと、やがて渋滞が解消され、道が流れ始めた。

青カンバンに『浅間サンライン』の文字が見える。

一応、広域農道なのだが、これは小諸へ向かうドまっすぐな道なので、『曲がり道愛好家』である俺の心には響かない。なのでサンラインは無視してそのまま18号を走り、佐久から254で西へ抜け、ビーナスラインか松本の方を目指そうと思っていると。

カラカラカラっ!

股の下で妙なサウンドが響き、右足あたりで変な振動が出る。

「うっわ、なんだ? またトラブルか?」

と驚きながら下を見ると、自作のヒートガードが暴れていた。

 

通りがかりのコンビニへ入り、まずはチェック。

ビューエルさんお得意の振動で、赤丸の部分からボルトが抜け、矢印のようにズレている。

「バネワッシャかましてやったのに、ダメだったか。やっぱロックタイトも必要だったな」

 

とは言えビューエルさん的に、こんなのトラブルとは言わない

ちゃっちゃと荷物を降ろして工具を引っ張り出す。

さすがにネジの持ち合わせはないので、とりあえず部品をすべて外した。

外してみたら、「やっぱこっちのがいいか」と思ったので、ヒートガードはもう付けないかも。

どうせ盗まれるような人気車じゃねぇから、最近バイクカバーしてないし。

元々、「カバーが溶けないように」と付けたガードだからね。

 

修理ついでに給水と一服をすまし、国道を西へ向かっていると。

前を走るトラックが、まるで酔っ払ってるように、ふらふらと挙動不審だ。

「なんだろう、酔っ払いかな? それとも居眠りかな?」

と思いながら何気なく、後ろに書かれたドライバーの名前を見て、すべて納得がいった。

そらぁ挙動不審だわ。

大阪の弟の名前をみて大爆笑したら、暑さでヤラれてた気分が少しよくなった。

んで、予定通り254を抜け、ビーナスの方へゆく渋滞の列に心を折られ。

松本から上高地を目指すことにする。

何が面白くないのか、お天道さんがカンカンジリジリと俺を灼(や)く。

この段階ではまだ、お天道さんのありがたさをビタイチ理解してなかった俺は、天を仰いでヘルメット越しに「暑いよ! なんでそんなムキになって照ってんだよ!」と、文句を言っていた。たぶん、お天道さんはそれが気に入らなくて、この先ずっと隠れてしまったんだろう。

この時の自分を、助走つけて殴りつけてやりたい。

 

国道254は山間部を抜けてゆく。

とは言え、標高が足りないのか、このあたりはまだまだ暑い。

国道254の上田あたりは、途中に三才山トンネルという有料道路を挟むので、普段はいつも、その南にある県道を通っている。だが、今回は『いつも通らない道』を通る流れが出来てたので、「正直、5キロで400円はクソ高いなあ」と思いつつ、通ってみる。

そしてそのまま、2キロ100円の松本トンネルも走った。

確かに山間のワインディングをゆくよりずっと早いけど、まあ、ここは一回で充分かな。

 

んで158号を目指してると、途中で青カンバンに『上高地』の文字。

「あれ? こんなとこにショートカットあったっけ?」

思いつつも曲がってみると、ショートカットつーか松本の街中を避けられる道だった。

距離的にはいくぶん長いんだけど、さすがに松本市街よりは空いてるので、スムーズに158へ連絡できる。地図を見ただけだと、「これっぽち避けても、混雑は変わらないだろう」と思ってしまいそうだが、実際には時間的にも精神的にも、かなりショートカットできた。

ま、だからこそ青カンバンに書いてあるんだろうけど。

 

国道入りっぱなのコンビニで休憩しつつ、酒を買い込む。

まだ時間的には早いだろうって? ビールがぬるくなっちゃうだろうって?

いや、これこそ冒頭で述べた、『ソロツーリングの改善策』の一環なのだ。

ま、詳しくはこの日の夜のシーンで書く。

 

つわけで、いつものように158号を西行しつつ、梓湖のところから南へ折れて。

いつでもゼッタイに涼しい、野麦街道へ入る。

つーか山間部に入ったあたりから、もうすでに涼しかったんだけど。

野麦峠を越える県道39号線めざして、まずは26号線を南下。

と、いつもスルーしてる看板が目に留まった。

単車を寄せて停めると、一服しながら地図を見る。

カンバンには『野麦街道』と書いてあるのだが、ちょっと見た感じ地図にそれっぽい道がない。いや、あるにはあるんだが、『新』とついてる以上バイパス的な道だろうと思い込んでたので、なかなか見つけられなかったのだ。実際は、ちょっと寄り道するってだけ。

東名高速の、右ルートと左ルートみたいな感じだ。

 

後編へ続く

 

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